【建築のタネ】軒の特性
軒の特性
─「軒」がつくる、目に見えない境界─
No.007 #日本建築_bn
建物に近づくと変化する空間認識 。日本の空間構成に隠された秘密とは?
■ 軒が持つ特性
日本建築に多く見られる「軒」には、視覚的・空間的に興味深い特性があります。建物に近づくにつれ、軒先のラインと視線が交わるポイントが生まれ、そこに見えない境界が現れます。
これは どういうことかというと…
軒下の雨に濡れない範囲に入ると、直感的に「建物の内側に入った」と感じますが、実際に建物の内部空間を認識するのは、軒先よりもう少し手前の地点です。
下記の図で言う赤い人のいる箇所(移動後)です。


この微妙な違いが、空間の奥行きをつくり出しています。
とはいえ、この図の場合は屋根の厚みを考慮していませんし、「壁の上部が開いている」など、いくつかの条件を満たす意図した設計が必要です。
しかし、この手法を使えば、軒先が道路側の境界線だとしても、この軒の角度次第では、道路にいる人にまで、建物の影響を与えることができます。
■ 軒を活かしたデザイン
現代建築においても、軒の特性を意識したデザインが数多く見られます。特に隈研吾氏の建築では、軒の持つ特性を巧みに取り入れたデザインが特徴的です。
例えば、
・シャープな軒先 で境界を繊細に演出
・軒裏の意匠 を強調することで空間の印象を変化
・壁の上部を開く ことで、軒裏への切り替わりを意識させる
・ライティングで軒裏を照らし、奥行きを強調 …など
こうした手法により、軒が単なる日差しや雨よけではなく、空間を豊かにする要素として機能しているのです。

写真: とちぎ文化情報ナビ HPより
奥への空間の抜けが室内外の境界を曖昧にしている
■ 歴史的な視点からの考察
軒の空間的な役割について深く理解したい場合、鹿島出版会『日本建築空間史―中心と奥』(安原盛彦 著)が参考になります。
今ほど紹介した内容はこの書籍の中の「軒下内包空間」「軒下内包領域」として、目線および音の観点から語られています。
この書籍では、日本建築の空間構成の奥深さや、軒が生み出す視覚的効果について詳しく解説されています。

空間そのものの特性に深く切り込んで深い部分まで解説している書籍は希少ですので、非常に示唆に富んだ1冊です。これを機会にぜひ読んでみてください。
■つづく
この「軒」に関するトピックスはここから数本続きます。お楽しみに!
