即興小噺『角煮』の出来栄えはいかに? カセットテープの記憶と「らくごのご」👘Last Update: 2026.05.22🍵
先週末、お墓参りの帰りに実家に寄ったときのことです。
玄関で実兄が待っていて、開口一番「これ、出てきた」と古いカセットテープを差し出してきました。掃除をしていたら出てきたとのこと。
「らくごのご」
テープの背に、そう書いてありました。
最初、なんのことか分からなかった。しばらく眺めていて、ああ、と思い出した。
小学生の頃、テレビの前にラジカセを置いて録音したテープだ。
「らくごのご」。
義兄と、夢中になって見ていた番組でした。
義兄のことは、このnoteでも書きました。
私に映画や文学の面白さを教え、海外という世界への扉を最初に開けてくれた人。
子供の頃の私にとって、義兄はどこか「別の世界の住人」のように見えていました。話すことが面白く、知っていることが豊かで、何より一緒にいると、時間が経つのを忘れました。
そんな義兄と、よくやっていた遊びがあります。
「らくごのご」という番組がありました。
桂ざこばさんと笑福亭鶴瓶さんが出ていた番組で、お題の言葉をいくつかもらって、その言葉が全部出てくる小噺を即興で作るというものです。たしか言葉は三つ。バラバラな単語を渡されて、それを一本の噺に仕立てる。しかもオチまでつける。
これが、難しいようで、やってみると止まらない。
義兄と、テレビを見ながら「俺ならこうする」「それよりこっちの方が面白い」と競い合うように小噺を作りました。
食卓でも、移動中でも、思い出したように「お題を出せ」と言い合って。
勝ち負けがあるわけでもない。採点されるわけでもない。ただ、言葉を転がして、オチを探して、笑い合う。それだけの遊びでした。
でも、夢中になりました。
バラバラな素材を渡されて、瞬時に一本の筋を通す。その快感は、パズルとも違う、なんとも言えない面白さがありました。渡された言葉が、思いがけない角度で繋がった瞬間の、あの感覚。義兄が膝を叩いて笑ってくれた時の、あの感覚。
テープを手に、しばらくぼんやりしていました。
家に帰って、ふとやってみたくなりました。妻にお題を出してもらって。
お題は「将棋」「冷蔵庫」「おばあさん」の三つです。
小噺『角煮』
ええ、親の背中を見て子は育つなんて申しますが、こちらの親父さんはちと情けない。プロの将棋指しを夢見たもののあっさり挫折しまして、今じゃ新橋の駅前で細々と「賭け将棋」なんぞをやって小銭を稼いでいる。女房にはとうの昔に逃げられまして、残されたのは幼い息子と、自分の母親……つまりおばあさんの三人暮らしでございます。
万年金欠のこの一家ですが、たまに親父が勝って帰ってくると、おばあさんが奮発して豚の「角煮」を作ってくれる。これが家族の何よりのご馳走でして。ただ、そこはそれ。もったいないとばかりに、おばあさんはその旨味たっぷりの煮汁をタッパーに入れ、冷蔵庫の奥に大事にしまっておく。次の日からは、その汁で大根や人参を煮た「角煮の残り香」のようなおかずばかりが続くわけでございます。
ある日のこと、育ち盛りの息子がとうとうごね始めました。「毎日毎日野菜ばっかりで嫌だ!僕は本物の角煮が食べたいよ!」困ったおばあさんですが、なんとか孫を笑わせようと台所でコトコト。
「さあ、お待ちどお。お前の大好きな角煮だよ」出されたお椀を覗き込んで、息子はがっかり。「なんだ、またいつもの野菜……ん?」
箸でつつくと、野菜に紛れてコロンと硬いものが。よくよく見りゃあ、親父の商売道具である将棋の『角』の駒が煮込まれてるじゃありませんか。
「おばあちゃん!これ、将棋の駒だよ!」
するとおばあさん、ニヤリと笑って、「ああ、お前が食べたいって言うからね。正真正銘の『角・煮』だよ」
これにはしかめっ面だった息子も、思わず吹き出して笑顔になってしまったという。
――お後がよろしいようで。
義兄がいたら膝を打ってくれただろうか、などと思いながら、しばらくにやにやしていました。
この遊び、一人でやるのも悪くないのですが、やはり誰かにお題をもらってやる方が断然面白い。義兄とやっていた頃のように。
もしよければ、コメント欄にお題を三つ投げてみてください。名詞なら何でも構いません。時代も場所もジャンルも問いません。気が向いた時に、小噺にして返します。
オチは保証しません。外れることもあります。でも、必死に考えます。義兄と遊んでいた頃のように、言葉の中に隠れている筋を、一生懸命探します。
気軽に投げてみてください。一緒に遊びましょう。
🎁 皆さんからいただいたお題で作った小噺を、ここに書き足していきます。
👘お題①:「note」「パンダ」「アフロ」/🐼ひろさん。
小噺『湯けむりミステリー』
ええ~、毎度馬鹿馬鹿しいお笑いを一席。
最近はSNSなんてぇ便利なものがございまして、誰もが気軽に自分の文章を世に出せる時代になりました。
こちらの長屋のクマさんも、いっちょ前に「note」ってぇところに毎晩せっせと小説やらエッセイなんかを書き込んでる。
自分の顔の代わりに出すアイコンには、どういうわけか愛嬌のある「パンダ」の絵を設定しまして、すっかり人気作家気取りでございます。
今日も今日とて、机に向かって唸っている。
「うーん、うーん……ダメだ、ミステリーのいいトリックが浮かばねぇ。『名探偵シリーズ』の続編を書かなきゃいけねってのに……」
ウンウン唸りながら、両手で頭をガシガシとかきむしるもんですから、ただでさえモジャモジャの髪の毛が、ボワッと膨れ上がっちまった。
そこへ女房がやってきまして。
「お前さん、さっきから何やってるんだい? 髪の毛なんか爆発して、立派なアフロヘアーになっちまってるよ。あんまり根を詰めると体に毒だ。たまには気分転換でもしたらどうだい?」
「うるせえな、今いいところなんだ!……いや待てよ。気分転換……そうか! 密室のトリック、水を使う手があった! おい女房、でかしたぞ! 俺は天才かもしれない! お前のおかげで閃いた!」
「そうかい、そりゃあ良かったねぇ。でも、水を使うって……お前さん、さっきから何か忘れてないかい?」
「忘れてる? なんだい、せっかくの名推理に水を差すなよ」
「だからその水だよ。さっきから裏ですごい水の音がしてるんだけど」
「音……? はっ! しまった! トリックどころじゃねえ! あ!風呂(アフロ)の栓を閉め忘れて、お湯が漏れ出てる!」
――お後がよろしいようで。
🐼ひろさんのnoteはこちら
👘お題②:「お灸」「ダンゴムシ」「漫才」/🍃盆緑さん。
小噺『団子無視(だんごむし)』
ええ~、毎度馬鹿馬鹿しいお笑いを一席。
時は昭和の初め頃。
世間じゃあ活動写真だ、カフェーだなんてぇハイカラなものがもてはやされまして、長屋にもポツポツと「ラジオ」なんて魔法の箱が置かれるようになった時代でございます。
このラジオから流れてきて、当時の子どもたちをすっかり夢中にさせたのが、横山エンタツ・花菱アチャコの漫才でございました。
さて、こちらの長屋の悪ガキ、太郎坊もすっかりこれにかぶれちまって、家の中で真似事ばかりしております。
「おい、じいちゃん! オイラと漫才やろうよ! じいちゃんがボケで、オイラがツッコミな!」
ところがこのお爺さん、明治生まれのへんこつな頑固者。
新しいお笑いなんぞにはこれっぽっちも興味がねえ。縁側でお茶をすすりながら、近所で買ってきた甘い串団子をモグモグやるばかりで、孫の言うことなんざ完全にスルーでございます。
「なんだよ、じいちゃん。人がせっかく相方に誘ってやってるのに。団子食いながら無視するなんて……そんなのただのダンゴムシじゃねえか!」
「……なんだと? このガキ、親に向かって……いや、じいちゃんに向かって虫ケラ呼ばわりとはいい度胸だ。最近調子に乗っているようだから、いっちょここらで、キツいお仕置きをしてやらなきゃならねえな!」
お爺さん、怒って戸棚から持ってきたのが、昔ながらの「もぐさ」でございます。太郎坊をうつ伏せにひん剥くと、背中のツボにこんもりと乗せて、線香でチリチリ……。
「痛てててて! じいちゃん、ごめん! 冗談だよ、熱い、熱いってば!」
「どうだ、これに懲りたら二度とじいちゃんを虫呼ばわりするんじゃねえぞ」
「熱い、熱い……ああっ!……
おっ!きゅ〜(お灸)……」
バタンキューと、太郎坊がひっくり返ったところで。
――お後がよろしいようで。
🍃盆緑さんのnoteはこちら
👘お題③:「絵本」「双子」「妄想」/👩🏻まきさん。
小噺『出世の蓋(しゅっせのふた)』
ええ~、毎度馬鹿馬鹿しいお笑いを一席。
時は文化文政(ぶんかぶんせい)の頃。
両国広小路なんかに行きますと、見世物小屋や芝居小屋がずらりと並んでおりまして、そりゃあ大変な賑わいでございます。
そこのとある芝居小屋を裏で仕切っております、太夫元(たゆうもと)……今で言う「芸能マネージャー」の万木(まき)の姐御。今日も今日とて、見習い役者のひろ太郎を捕まえて小言を言っております。
「おい、ひろ太郎。お前さん、明日はいよいよ大舞台の端役(はやく)をもらったっていうのに、なんだいそのニヤニヤした面は」
「いやぁ、姐さん。明日、あっしが舞台に出て見得でも切ろうもんなら、江戸中の娘っ子が放っておきませんよ。大入り満員でおひねりが雨あられと飛んできて、あっという間に千両役者だ! 稼いだ金で日本橋に御殿を建てて、姐さんには大判小判の山を……」
「はいはい、もう、そうそう(妄想)! お前さんのその景気のいいホラ話には、付き合いきれないよ。それより、明日の準備はできてるんだろうねぇ? 楽屋の連中に配る、弁当のお重箱だよ」
「へい、そいつは抜かりなく! しっかり中身を詰めて、重箱の蓋、五(双子)個、ピカピカに磨いて並べておきました!」
「えっ、ほん(絵本)とうかい?……って、お前さん、馬鹿だねぇ~! 落ち着いて考えてみろってんだ。明日の出演者は全員で『六人』いるんだよ。重箱が六つあるのに蓋が五つじゃあ、一つ中身が丸見えじゃ~ないか!」
「へえ、実はその中身が丸見えのやつが、あっしの弁当でして」
「どうして自分のだけ蓋をしないんだい。埃がかぶっちまうだろう」
「へえ、あっしは明日から千両役者になる大スターですから。これからの出世に『蓋(頭打ち)』がねえんでございます」
――お後がよろしいようで。
👩🏻まきさんのnoteはこちら
👘お題④:「シーサー」「北海道」「とんこつラーメン」/🏝️シーサー太郎さん
小噺『肉体の麺…ご(にくたいのめん…ご)』
ええ~、懲りもせず、本日もくだらないお笑いを一席申し上げます。
時は戦後。焦土と化した沖縄は那覇の闇市が舞台でございます。
生きるか死ぬかのギリギリの時代、ギラギラした太陽の下で、女たちが己のシマ(縄張り)を守るためにバチバチと火花を散らしておりました。
今日の見せ場は、流れ者の女と、地元の闇市を仕切る女の「口上(こうじょう)合戦」でございます。
まずは、北から流れてきた女が、見得を切るように声を張り上げた。
「お控えなすって……生まれは北の最果て、北海道。流氷の海で産湯を使い、木彫りの熊を相棒に育った『北海のお銀』たぁアタイのことでぇ! さあさあ、そこをどきな!」
これに対して、行く手を阻むように立ち塞がった女。
真っ赤な口紅を引き直すと、鼻でふっと笑って仁王立ちになります。
「はん、北の田舎モンが南のド真ん中でデカいツラァするんじゃないよ。アタイの生まれは九州・博多。豚の骨を三日三晩煮込んだ、とんこつスープの産湯に浸かり、明太子をおしゃぶり代わりにして育った女。人呼んで『博多のとん子』と発(はっ)します!」
さあ、見事な口上に、周りを取り囲んでいた野次馬も「おぉっ!」とどよめく。一触即発、お銀が懐のドスに手ぇかけるか。ジリジリと間合いを詰めて、ドスの効いた声で凄みだした。
「なんだと! よくもほざいたね……! おい、とん子! ちょいと、面ぁ(つらぁ)……」
面ぁ貸せッ! と言うのかと思いきや。
この博多のとん子姐さん、地獄の底から這い上がってきたような恐ろしい目つきで、お銀をギロッ!と睨みつけた。
そのあまりの凄みと殺気に、お銀ァすっかり震え上がっちまいまして、思わず言葉を飲み込んだ。
「……お、おい、とん子! 面ぁ(つらぁ)……面(メン)ご、メンご! 今のナシ! 冗談だよ~! 許してちょんまげ!」
(とんこ・つらぁ・メンご = とんこつラーメン!)
あっさりと昭和のギャグで平謝り。周りの連中もドッとずっこける。
とん子は呆れたようにため息をつきまして。
「……なんだい、拍子抜けだねぇ。あんなに威勢よく吠えてたってのに、アタイに睨まれた途端、屋根の上のシーサーみてぇに固まって石になっちまったじゃねえか」
「当たり前だよ! だってアンタの睨みが、あまりにも恐ろシーサー!」
――お後がよろしいようで。
🏝️シーサー太郎さんのnoteはこちら
👘お題⑤:「フクロウ」「旅」「鈴」/🦉須川元介さん
小噺:『大江戸ユニコーン』
ええ~、本日も馬鹿馬鹿しいお笑いを一席、お付き合い願います。
時は元禄の御代(みよ)、ところはお江戸日本橋へとお運びを願います。
行き交う人々で活気に満ちた大通り。立ち並ぶ大店(おおだな)の奥座敷では、今で言う「エンジェル投資家」の大旦那が、どっかとあぐらをかいてキセルを吹かしております。
そこへ、一旗揚げようってぇ血の気の多い長屋の八っつぁんが、新しい商いの図面……いわゆる「事業計画書」を鼻息荒く持ち込んできた。
「旦那! あっしが考えた新しい商売、諸国の宿やら駕籠(かご)やらをあっという間に手配する『早馬(はやうま)手形』ってぇ仕組みで! こいつぁ画期的な商いで、間違いなく天下をとりますぜ! 目指すは西洋のバケモノ、額に角の生えた馬……ユニコーン天下のおおだなでさぁ!」
八っつぁんが身振り手振りを交えて熱弁を振るうのを聞きながら、大旦那はふぅーっと紫煙を吐き出す。そして、冷ややかな視線を八っつぁんに向けた。
「……お前さん、横文字だか何だか知らねえが、またおかしな夢物語を持ち込んできたね。だいたい、お前さんが立ち上げたその屋号はなんだい。『梟(ふくろう)屋』? 梟は知恵の象徴ってぇから、夜も寝ないで知恵を絞るってことかい?」
旦那の問いかけに、八っつぁんは胸を張り、ニヤリと笑ってトンデモないことを言い出した。
「とんでもねえ! フクロウは『不苦労』! 汗水たらさず、苦労しないでガッポリ大儲けしようってぇ、あっしの気高いベンチャー魂で!」
「呆れたね。そんな甘い了見で商いが長続きするかい」
「甘かぁねえ! お客が手形を買うたびに、手代が首から下げた『鈴』をチャリンと鳴らす! 鈴が鳴るたびに、あっしの懐に銭が『鈴なり』ってぇ寸法で!」
さあ、これを聞いた大旦那。ピシャリとキセルを灰吹(はいふき)に叩きつけた。
パーン!という鋭い音が座敷に響き渡り、空気がピンと張り詰める。
「べらぼうめ! 楽して儲けよう(不苦労)だの、銭が鈴なりだの、お前さんの頭ん中はお花畑か! そんな寝言を並べてるようじゃ、一文たりとも金主(きんしゅ)にはなれねえよ!」
先ほどまでの威勢はどこへやら。一喝された八っつぁんは、顔面蒼白。額からは滝のように汗が流れ落ちる。
「そ、そんなぁ! 旦那に金主になってもらうのだけが頼みの綱なんで! これじゃあ明日から食い上げだ! ああっ、嫌な汗が出てきやがった……!」
震える八っつぁんをギロリと睨みつけ、大旦那は商いというものの本質を、ドスの効いた声で叩きつけた。
「商いってのはな、そんなに甘いモンじゃねえ! 銭を出してくれと頭を下げて回る【たび(旅)】に断られて、己の至らなさを知るんだ。
いいか、汗水たらして一生懸命に、お客のためになる働きをして初めて、懐に銭が回ってくる。そういう真っ当な苦労のことをな、本当の【ふくろう(福労・フクロウ)】ってえんだ!」
「ひぃっ、お説教が骨身に沁みる! すっかり冷や汗かいちまいました……」
「いいから、表へ出て風に当たって、【すず(涼・鈴)】んできな!」
――お後がよろしいようで。
🦉須川元介さんのnoteはこちら
🔔Bell
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