音楽の不思議 舞い上がる若者の記録
彼女と出会ったのは留学先だった。
僕は勝手に遠距離恋愛みたいなものだと思っていた。
留学時代の話はこちら↓
仕事終わりに彼女から連絡が来ていると、今日は大吉だなとか、朝のテレビの占いみたいに夜の運勢チェックをしていたのかもしれない。
ある日、仕事の休憩中に勝負のメールを送った。
「今度遊びに行くから京都観光付き合ってよ」
仕事終わりに携帯を見ると返信が来ていた。
“別に良いけど”
“私ら地元であんま観光とか行かないからよく分かんないよ”
“買い物とかはよくするけど笑”
僕は別に観光がメインじゃない。
その返事が聞きたかったんや。
当時の僕は、職場でその話を同僚や先輩に少し自慢していた気がする。
ただ、ここで油断すると大変なことになる。
もうみんなに「京都行く」と発表してしまっていたからだ。
女心と秋の空。
これは何度も喰らってきている。
前日までドキドキしながら、リスケされないように仕事より計画的な準備をしてた気がする笑
なんとか当日まで辿り着き、とりあえず面子は保たれた気がしていた。
僕はこの日のために、良い雰囲気で過ごせそうな曲を詰めたMDを用意していた。
ライトブルーの香水を振り、最大限のおしゃれをして京都へ車を走らせた。
車内ではお気に入りのミックスCDを流しながら、恥ずかしいくらいテンションが上がっていた気がする。
京都駅で待っていると、なかなか彼女が来ない。
まさか京都着いてからリスケか……?
少し震えながら待っていると電話が鳴った。
「どこおんの?」
「え、あの黒い車だよ」
「なんで車で来とんの?」
「京都、車向いてないよ」
「バスとかで行くからコインパーキング停めていこ」
早速、僕のプレイリスト計画は崩壊していた。
その後は普通にウィンドウショッピングをして、ランチを食べて、留学時代の話をした。
「僕以外とは連絡取ってないの?」
そう聞くと、
「だって君がメールしてくるから返してるだけやし」
みたいなことを普通に言われた。
ほんじゃあせっかく京都来たなら清水さん行く?
「おー、やっと観光っぽい!」
心の声が漏れていたかもしれない。
地元の人に案内してもらう京都は、なんだか少し特別だった。
「へー、そんな裏道あるんや」
とか感心しながら歩いていた。
清水寺でお参りをして、良い感じのカフェで少しまったりしたあと、彼女が、
「そういえば良いとこ連れてったる」
と言った。
少し細い道を進んでいくと、急に開けた場所へ出た。
「ここって何?」
そこは、京都の盆地感がすごく分かる場所だった。
「祇園祭あるやん?」
「大文字って色々文字あるんだけど、ここからだと全部見えるんだよ」
夕暮れの京都は少し綺麗すぎた。
僕はこのあと、良い感じのお店でディナーでもして、紳士的に駅まで送って、スマートに帰宅して、職場で自慢するつもりだった。
でも現実は厳しい。
「あーやば」
「私、ピアノの習い事あるからもう帰らないかんわ」
「ごめんけど、1人で帰ってくれる?」
「駅までのバス停までは連れてくから」
僕は人生でも最大級に喰らっていた。
バスの中では完全に呆然としていて、駅に着いても駐車場の場所が少し曖昧になるくらいにはダメージを受けていた。
なんとか車に乗り込む。
明日も休みだった僕は、高速で真っ直ぐ帰る気にはなれなかった。
あんなに楽しみだった車内で、今日のために用意したわけじゃないMDを流しながら、ずっと失恋ソングを聴いていた。
後日、仕事へ行くとみんな普通に爆笑していた。
「調子乗ってるからだよ」
泣きっ面に蜂みたいに、何故か罵声まで浴びせられた。
彼女とは、あれ以来メールもしていない。
もちろん、その後何かが始まることもなかった。
でも今でもたまに思い出す。
「あの出来事って何だったんですかね」
そう言ってる若い頃の彼を、今の僕が隣で慰めている。
あの日、車の中で流れていたのは、
クリスタルケイのMotherlandだった。
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