ドラッカー学会は何を研究してきたのか?
「河童の目線で人世を読み解く」市井カッパ(仮名)です。
「すべての組織と人間関係の悩みを祓い癒し、自然態で生きる人を増やす」をミッションに社会学的視点から文章を書いております。
御覧いただき、ありがとうございます。
さて、以前に下記のような宣言をさせていただきました。
ドラッカーマップを作り始める前に、まずは先人たちがどのようなことを考え、取り組みを知ることも大事かな、と思って、まずは、ドラッカー学会という学会の学会誌に着目しました。
上のサイトの「研究年報」というところに掲載されているものなのですが、現時点では会員向けだけに公開されているものでもあり、今回は、ドラッカー学会の正式な許可を得ることができましたので、記事化したものを公開します。
もともと、学会誌に掲載する研究レポートとして書いたものなので、やや文章が固いですが、一応の整理として、ご覧いただけますと幸いです。
ドラッカー学会は何を研究してきたのか?
ドラッカー学会の発行する研究年報『文明とマネジメント』 は、「研究と実践」のための総合メディアとして、ドラッカー学会が任意団体の時代である2007年に1号が発刊されて以来、より継続して刊行されている。現在のホームページには、「ドラッカーの二大関心を冠する会の機関誌であり、世界で唯一の専門誌」と定義され、「関連論文・論考を中心に、知的アウトプットを公表する場として、会の基幹の役割を担ってきました。同時に、大会関連の情報、講演録、研究グループ活動の情報などを広く会員と共有するための総合メディアでもあります。研究者と実務家を架橋する広範な知的世界構築の推進役を果たしています。」と説明されている。
バックナンバーを見ていると、当初は大会報告や講演録などのコンテンツの割合が多くなっているようだが、当初より「研究論文および研究ノート」といったカテゴリの記事も掲載されており、大会報告や講演録の方は掲載されなくなっているが、後者は現在まで継続している。
この小論は、これまでドラッカー学会が研究年報『文明とマネジメント』が「研究」してきたことは何か、ということを問うものである。現在の「『文明とマネジメント』投稿規定および編集規定」には、「論文」の項目の説明として「ドラッカーの知的業績に関する理論的研究ないしその実務面の応用に関する文」とある。この記述を入り口として、実際にはどういう研究が行われてきたのであろうか。この疑問に答えることで、ドラッカー学会の研究分野の確立と貢献を明らかにすることが、この文章の趣旨である。
とはいえ、その方法論も分類も未知である。そこで、まずは準備として、過去19号の「研究論文および研究ノート」のタイトルの入った表を作成した。結果、合計で190本が掲載されていることがわかった。しかし、そのうち1本は理由がわからないが号数をまたいで重複掲載となっており、さらに、文中にも引用にもドラッカー及び関連事項の記載がなく、ドラッカー研究とは関係のある内容とは言えない分類不能なものが3本あったため、こちらは分析から外している。また、こういう学会誌には珍しく、連載のような形で掲載されたものもある(同じ号に掲載されているものもある)。これは、おそらくこの学会誌の文字数制限(論文で1万5000字以内、レポートで7000字以内)の影響ではないかと推察されるため、数字を合わせるためにそれぞれカウントすることとした。この表に基づき、実際に投稿された文章を読みながら、リサーチクエスチョンへの答えを見出していくこととする。
WEBツールによる分析
ちなみに準備段階として、まずはタイトルのみの表を入力し、テキストマイニングしてみたものがこの図である。

「ドラッカー」という文字がやはり目立つ。また、ドラッカーの著作のタイトルも散見されるが、この分析結果だけでは何かの片寄りを示しているとは言えず、何らかの全体傾向をつかむことは難しそうである。
続いて、ChatGPTを用いて分析してみる。ChatGPTに「添付の論文集のタイトルリストから内容を類推して分類分けができますか?」と表ととともに入力したところ、下記の回答が返ってきた。
アップロードされたファイルには、タイトルリストが含まれているようです。このリストを基に分類分けを行うことができます。タイトルの内容を解析して、適切なテーマやカテゴリに基づいて分類を試みます。以下の手順で進めます:
1.タイトル全体を確認。
2.主題やキーワードに基づき、適切なカテゴリを推定。
3.分類結果を出力。
まず、全データを確認してどのようなテーマが含まれているかを把握します。
タイトルを確認したところ、多くが「ドラッカー」や「経営学」、「非営利組織」などに関連するテーマを扱っているようです。また、いくつかのタイトルは歴史、経済学、社会学的な観点も含んでいるようです。
次のようなカテゴリに分類することが可能と思われます:
1.ドラッカー関連: ドラッカーの思想、理論、影響に関する内容。
2.経営・マネジメント: 経営学や企業運営に関するテーマ。
3.歴史・思想: 歴史的背景や思想に焦点を当てた内容。
4.社会問題・非営利組織: 社会的課題や非営利組織に関する内容。
5.マーケティングと経済学: マーケティング理論や経済学的視点。
以上の分析も参考にしつつ、以下、実際に創刊号から読んでいきながら分類軸を作っていくこととする。
Vol.1 (2007年)からの分析
最初の学会誌のメインのコンテンツは、第2回大会報告となっている。巻頭には「開会挨拶」としてドラッカー学会代表 上田惇生先生の挨拶と思われる口語体の文章が掲載されている。その中で、上田先生は「それぞれ のドラッカー」「皆さんのドラッカー学会です.と言うよりは,皆さんがドラッカー学会です.」という言葉を使っており、何らかの「正しい」「絶対的な」「唯一の」ドラッカー解釈を望むというよりは、学会員それぞれが独自の解釈でドラッカーを活用し、その活用していることを表明していって欲しい、という願いのようなものを感じる。結果として、この最初の学会誌もバラエティに富んだ内容となっている。
後半には、第1回大会 報告論文・要旨も掲載されている。その間に何本かの「研究論文および研究ノート」が掲載されている。下記は、本文中に研究内容が示されたものを抜き書きしたものである。(なお、今回はあくまでも中身だけを分析するために、筆者名や肩書は省略している。)
内容を見ていくと、先のChatGPTの分類でいうと、「1.ドラッカー関連: ドラッカーの思想、理論、影響に関する内容」が多いように見えるが、細かく見ていくと、いろいろなパターンが見えてくる。冒頭の「J. ワットとアダム・スミス」はドラッカーのキーコンセプトのひとつでもある「起業家精神」という言葉について語り、ドラッカーにつなげていく、という内容であるが、こういうパターンは全体から見ると珍しい。他の文章は、ドラッカーがどのような影響・印象を与えているか、というものと、ドラッカーの言葉はこんな風に使えそうだ、というツールとしてのドラッカー活用のものが多いという印象である。

Vol.2 (2008年)からの分析

この号の研究論文・レポートの冒頭に抄訳がつくようになったようであり、分析にはこの抄訳を活用することにする。しかし、すべてについているわけではなく、このあたりの統一は課題だったのかもしれない。この表では抄訳がついているものはそれを採用し、ついていないものは内容から引用し、それも難しいものは作成した。次の表は、抄訳が掲載されていなかったものについて、筆者が本文から抽出したり、もしくは作成したりしたものである。この文章の文字制限の関係もあり、これ以外のものは、実際に学会誌原本を参照されたい。
掲載本数は17本と増えた。うち2本は海外の方の文章の翻訳、1本は遺稿の再掲載である。この翻訳と遺稿はドラッカーの思想史を考察したり俯瞰するような内容になっている(ドラッカーの歴史)。そのほか、ドラッカーと他の思想家を比較するような内容のもの(ドラッカーの比較)というものと、ドラッカーがどのような影響・印象を与えているか(ドラッカーの影響)、ドラッカーの言葉はこんな風に使えそうだ、というツールとしてのドラッカー活用のもの(ドラッカーの活用)も一定数ある。
以上の分析から、Vol.1とVol.2について、それぞれの本数の分布を表にしたものが下記である。

なお、分類に関しては、抄訳の文章にこだわることなく、本文を読み、その文章の筆者の意図に近いであろうものを選んだ。
Vol.3 (2009年)からの分析
Vol.3からは抄訳が英語になったため、整理段階ではAI翻訳したものを使用したが、最終的には本文を読んで判断した。なお、この号から抄訳が必ず着いており、編集方針の明確化と進化が確認できる。
この号で特徴的だと感じたのは、研究に対する研究、つまりはメタ研究の文章が2本掲載されていることである。これは新しいカテゴリと考えるべきであろう。従って、5つ目のカテゴリとして「(ドラッカー研究の)メタ研究」を設定する。

号が進むにつれ、研究カテゴリが増えていくというのは、研究が発展していると見ることができるだろう。なお、「〇〇がドラッカーの思想に影響を与えた」とき、その言及が単独の場合には「比較」に、複数であり、ドラッカーの思想形成の流れを追うものである場合には「歴史」としてカウントした。また、ドラッカー思想が単独であれ、複数であれ、人物や組織に影響を与えたものは「影響」として数えている。
以下、同様にこの分類に従い、Vol.19までに掲載された研究論文・研究レポートを分類したものが下記の表である。

続いてこの表から読み取れるものを整理していきたい。
190の研究から見るドラッカー研究とは何か?
まず、特徴的なものは、「ドラッカーの活用」に関するものが多く、全体の6割以上を占めている、ということだ。よく考えればこれは当たり前のことで、ドラッカーの著作や思想、コンセプトやツールを活用した、ということはいわば、誰にでもできることである。先に上田先生の言葉を引用した際に述べたが、「学会員それぞれが独自の解釈でドラッカーを活用し、その活用していることを表明していって欲しい、という願い」に呼応してのことでもあり、これはこれで素晴らしいことのように思える。この研究分野をここでは仮に、「応用ドラッカー研究」と定義する。
応用研究があるなら基礎研究もあるだろう。ドラッカーの著作や資料を読み解き、ドラッカーの思考をトレースして表現したい、とするのが「ドラッカーの歴史」であろう。このとき気をつけたいことは、歴史というのは唯一、絶対のものではない。歴史とはあくまでも後世の人による解釈であり、ひとつの物語に過ぎない。そこで語られることに一定の正当性のあるストーリーがあったとしても、別の解釈もあればストーリーもある。歴史研究の有用性は、それが真実であるか、が問題になるのではなく、その研究成果が後世の人にとって有用か、で測られる。そういう意味では、この「ドラッカーの歴史」研究というのもネタが尽きない研究カテゴリであり、まだまだ発展の余地はあるように思われる。個人的にはこの分野は、決してドラッカー本人にすら解釈の固定はできない、という意味も含んで、「ドラッカー考古学研究」と呼びたい。
続いて多かったのが「ドラッカーの比較」であった。これは「比較ドラッカー研究」という言葉を当てたい。これはドラッカーと他の思想家や著述者を比較する、という研究方法であり、言語学や人類学の手法に近しいものがある。比較することによってドラッカーの「ドラッカー性」が際立って見えてくることだろう。この研究は特に、ドラッカー以外の人物や思想の研究者によって記述されると様々な発見がありそうなカテゴリである。単に比較するだけであるので同時代でなくても構わないだろう。そういう意味で、数を伸ばしたのではないかと思われる。
次に意外に少ないと思ったものが「ドラッカーの影響」に関するものである。ドラッカーの著作はかなりの販売数であるため、誰がドラッカーの影響を受け、誰が受けていないのか、という話はエビデンスを持って語りにくいのかもしれない。ドラッカーの使い出したマネジメント用語も一般化してしまうと、そこまで含んでドラッカーの影響かどうか、ということは言いにくい。用語がドラッカーの意図に反して使われてしまった場合にはどう考えるのか、など、この分野の研究は、実はドラッカー学会としては重要なテーマである可能性もある。現在の広告代理店などは、インフルエンサーの影響力の研究なども行っているかもしれないが、まだまだこの分野の研究理論が整備されているとは思えない。手法としては文化人類学や民俗学的なアプローチになるかと思われるが、そう考えると、先の「比較ドラッカー研究」の中の一分野として定義した方が良いかもしれない。すなわち、ドラッカーの影響があった人や組織と、影響がなかった人や組織を比較することにより、影響を浮かび上がらせる、という方法論である。例えば、Vol.6に掲載された「ピーター・F・ドラッカーに学んだ三人のコーチング・マスターのコーチング原理と彼らのエグゼクティブの実践に対する意義」である。内容的には、この文章の筆者は、マーシャル・ゴールドスミスとジェームス・フラハティとスティーブン・R・コヴィーがドラッカーの弟子であり影響を受けたと主張しているが、著者が引用元としている文献を当たってみたが、マーシャル・ゴールドスミスについては確かにドラッカー財団の理事も務めており影響を受けたことは確認できたが、スティーブン・R・コヴィーに関してはマネジメント思想の一覧の一人として書籍に名前が確認できるだけで、確かに影響を受けているという証拠は見つからなかった。このため、この分類では「比較」の文章とした。このように影響を直接的に証明するよりも、思想を比較することによって影響を浮かび上がらせた方が、研究としては取り組みやすいのではないかと思われる。
最後にメタ研究であるが、そもそもこの文章自体がこの分野である。「ドラッカー研究についての研究」ということで、これはつまり、ドラッカー研究そのものを振り返る、ということになる。ドラッカー本人も繰り返し著作の中で、振り返り、フォードバックを得ることの重要性を語っており、これは研究という分野であれば、まず執筆時には査読者の存在、そして、発刊された後であれば、今回のように定期的にメタ研究が行われることが求められるだろう。そういう意味では、数は少ないものの、定期的にメタ研究が掲載されていることは、このドラッカー学会の健全性を物語っていると言えなくもないかもしれない。
ところで、このフィードバックに関して、研究論文・レポートを読んで感じたことは、健全な批判の少なさである。ドラッカー、マズロー、マグレガーがお互いの著書を引用しつつ、自分の考えは違う、と批判していた様子は、ドラッカーの『マネジメント』に「マズローの批判」の章があることからも見て取れる。健全な批判は対立を生むものではなく、むしろせっかくこれだけの質の研究成果が発表されながら、それが「無視」されている方がもったいないし、それこそ研究者間の「分断」を疑ってしまう。引用や批評はいわば研究者同士の対話であり、それにより研究成果も高まるものでもあるため、この文章をきっかけに過去の研究成果に対する言及が行われ、発展的な研究が行われることも、今後の課題ではないかと感じた。
研究カテゴリ別執筆方法の提案
一方で、執筆者の固定化という問題も発生しているように感じた。その一因として、どんなテーマをどんな風に書けばいいのかわからない、ということもあるように思った。自由に何でも書いてよい、と言われて書けるのは、書きなれた人だけである。従って、この論の最後に、先ほど整理したカテゴリ別に、このようなアプローチで書いてはどうか、という提案をして、この文章を締めくくりたいと思う。
① 応用ドラッカー研究
最も書きやすいと思われるのが、このカテゴリである。岩崎夏海さんの著書に『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』があるが、これを読み替えて、「〇〇である自分がドラッカーの〇〇を読んだら、こうなった」ということを書けば良いので、これは誰でも書けると言っても過言ではない。テキストは世に出た瞬間に、筆者のものではなく、読者のものである。偉い先生が何をどう言おうが、成果が出せたなら、それはドラッカーの新しい可能性の開くものになるかもしれない。ただ、実践レポートとの区別があいまいではあるので、もし、何らかの法則やパターンを見出せない場合には実践レポートにし、ある程度、成功パターンとして再現可能であることを説明できるのなら研究レポートとすればよいと思えば、執筆のハードルは下がるかもしれない。
② 比較ドラッカー研究
何か自分が詳しかったり興味があったりするものと、ドラッカーの著作や言説を比較する、というものである。対象は何でもよい。例えば自社の社長がすばらしいと思うのであれば、その社長とドラッカーとを比較するだけでも立派な比較研究であるし、駄目な社長であると思えば、どこが違うのか、を比較すれば良い。駄目な方はそれだけでは世に出せないが、もし、ドラッカーの言説に基づいて改善したのなら、これは上の応用ドラッカー研究になる。まずは比較から入って応用に、というルートも考えられる。実在の人物である必要もない。漫画やアニメ、ドラマや映画の主人公の行動・思想と比較する、というのも、現状はあまりないようであるが、何かしらの意義ある研究になるだろう。
③ ドラッカー考古学研究
考古学、という名前をつけたのは、「歴史」とすると政治性を帯びてしまい、正しさを求めてしまいそうになるためにハードルが上がると考えたためである。例えば、仁徳天皇陵と呼ばれる大仙陵古墳であるが、実際に発掘してそこに仁徳天皇の墓である痕跡が発見されている訳ではない。日本では天皇墓の可能性がある場合、すべて宮内庁管轄となり、発掘が許可されないからだ。考古学の場合、考察のためのすべての材料が手に入ることなど、ほぼほぼありえない。そこで想像力をたくましくして、何とかつじつまの合うストーリーを考える、ということになる。それを胡散臭い、と感じるのか、ロマンがある、と考えるのかは人ぞれぞれであるが、多様性のない歴史観は政治の支配の道具になりやすいのも事実である。ドラッカーという巨人が何を考え、何をしようとしたのか、ということは、そう簡単に答えが出るものではないだろう。しかし、膨大な著作や資料という手掛かりはある。そこにまだ発見されていない真実があるかもしれない。小さな真実でもそれを掘り起こし、仮説を立てて発表する。それがこの分野であると思うのだが、いかがだろうか?
以上、ここまで「ドラッカー学会は何を研究してきたのか?」という、これもどちらかと言うと発掘したものにストーリーを当てる、という考古学的な手法で分析してきた。結論として、4つのカテゴリに分けられる、という仮説を得た。この文章にも批判をいただき、よりよい研究とは何か、研究の成果とは何か、という観点から、ドラッカー学会による研究が発展していくことを願って、この文書の結語としたい。
参考文献
ドラッカー学会『文明とマネジメント』Vol.1~19(2007~2022)
P,F,ドラッカー『マネジメント』(ダイヤモンド社)
現場からは以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
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