3-1-② ボインゴは山へ遠足に②
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
目次 前書き&注意点 前の話(3-1-① ボインゴは山へ遠足に①)
声をかけてきた男は、どうやら店員のようだった
真ん中分けの前髪に、残りをバックに撫で付けた髪型。整った顔立ちをしていた。
薄い紫のスーツにストライプの入った淡いグリーンのシャツ。そして、首から奇妙な柄の紺色のネクタイがぶら下がっている。
胸に付けた名札には、このデパートの亀のマークとともに、名前が書かれていた。
「吉良」──と。
「あの……店員、さん?」
ボインゴがモジモジと答えると、吉良という店員は柔らかな微笑みを浮かべてうなづくと、
「よろしければご案内いたします」
と丁寧に答えた。
吉良はボインゴの話を聞くと、「かしこまりました。マフラーと手袋は当階の小物コーナーに、ブーツは紳士靴コーナーにございます。旅行案内のご本は、上階、5階の書籍売り場にございます。先に当階の小物コーナーと紳士靴コーナーをご案内いたしまして、その後エレベーターで5階にご移動いただくかたちでよろしいでしょうか?」と表情を変えずスラスラと答えた。
ボインゴがうなづくと、「こちらでございます」と少し先に立って案内した。
ボインゴが黄色と茶色の縞のマフラーに薄いオレンジの手袋、茶色の暖かそうなブーツを購入して綺麗に包んでもらった。買ったものが入った紙袋をボインゴが手に下げると、吉良はエレベーターの前に案内した。
「5階の書籍売り場は、エレベーターを降りてすぐ左手にございます。ごゆっくりお選びくださいませ。……行ってらっしゃいませ」
閉まる扉の前で、吉良は穏やかに微笑んだまま会釈をした。
ボインゴは、ゾッとした。
吉良のおかげでスムーズに買い物ができたのに。
変なところは全くない普通の接客だったのに。
あの微笑みで背筋が凍るような感覚を受けたのだった。
考えてもわからないまま、ボインゴは5階に到着した。
書籍売り場には、小説から漫画から雑誌まで、品揃えが多かった。
エプロンを付けた女の店員はボインゴを見つけてやってくると、あまり人の話を聞かずに捲し立てた。
「え? Y県? 旅行? これから? まだ寒いのによく行くわねえ、あんた。雪が降ってるよ、あっちは。旅行の本? どう見ても外人さんじゃあないかあ、日本語読めるんかい? 漢字難しいよ? なんの本持ってんの、それは? 自分の本? あー確かにうちじゃあ売ってない本だわねえ、珍しいわあー」
店員が勝手に選んで旅行本を3冊も買わされてしまったが、なぜかボインゴはホッとした。
漫画本を抱え、左手にしっかりした紙袋を2つ下げながらエスカレーターに乗った。
なんとなくエレベーターには乗りたくなかった。
1階に降りて入ってきた入り口の方向を探していると、
「いやーこの町にきてからというもの、この見た目のせいか、会う人間みーんなに避けられちまって凹んでたんだが、あんたみたいな親切な女もいたんだなあ。親切で、しかも美しい!パーフェクト!!オレの女神様だぜ~」
と聞き覚えのある声がした。
声の方向に行くと、ホル・ホースがアイスを手に、アイス屋の若い女性店員と話をしていた。
店員は引き攣った営業スマイルで「……あ、りがとうございます」と言っている。
すっかり元気になった様子に、またホッとしたボインゴは、彼に近づいていった。
よう、と手を挙げたホル・ホースは、
「いやー名残惜しいんだがよー、連れと用事があるもんでなあ。終わったら必ず来るぜ、ベイビー」
とオーバーな別れを店員に告げ、ボインゴのところへやってきて「買えたか?」と聞いた。
ボインゴがうなづくと、ホル・ホースは紙袋2つをボインゴから受け取り、自分が持っていたアイスを渡した。
日本のアイスは美味しかった。
デパートを出て、昨日、ホル・ホースと仗助が大立ち回りをした駅前東口広場に着いた。昨日に続き天気は穏やかに晴れ、青い空が広がっている。
地方の住宅地の最寄駅前という光景は、昨日と変わらない。
ただ、今日は、ところどころに警官の姿が目立ち、パトカーが巡回する音も聞こえた。昨日の事件が関係しているのだろうか。
東口から、地下通路を抜けて、西口に渡り、霊園の横の道を道沿いに北に向かった。
通りの先に、花京院家の長く続く塀が見えた。塀の内側から桜の木が、枝を空に向かって伸ばしていた。
霊園の北隣は、別区画の小さな墓地になっていた。
しっかりとした木に囲まれたその墓地は、多くの墓や地蔵が立ち並んでおり、古い墓は形が崩れてほとんど原型を保っていなかった。
墓の大部分に、「花京院家之墓」と彫られており、歴代花京院家一族が葬られた専用墓地のようだった。
道から眺めていたボインゴは、専用墓地の入り口近くに建てられた、一番新しい墓石に目をとめた。
「花京院典明之墓」
と彫られていた。
専用墓地と花京院家の間は平らな土が広がっていて、ところどころに木が生えていた。
その中の木の1本に寄りかかるように、墓の主・花京院典明の幽霊が、腕組みをして立っていた。前髪の一部だけ長く伸ばした赤茶色の髪に、いつもの裾を長くした緑色の学生服。
幽霊は多分着替えないのだろう。
横で話をしていたらしい仗助が、ボインゴとホル・ホースを振りかえると、
「兄貴~! ボインゴさ~ん! お疲れっス!」
と笑顔で手を振った。
こちらは今日は、昨夜より時間をかけてセットしたらしいカチカチのリーゼントに、出来立ての改造制服の上に水色のダウンを着て紫のブーツを履いている。昨日散々走り回り、怪我までしたというのに元気そうだ。機嫌も良さそうで、これから吸血鬼退治に行くとは思えないほど、楽しそうである。
「おーう」とホル・ホースは軽く手を上げて挨拶し、ボインゴも「……うん」と答えた。
花京院典明の方は、腕を解いて二人をみると、軽くうなづいた。
昨日仗助には自分のスタンド・トト神の名前と能力について話をしている。典明にも伝わっているだろうし、ボインゴがエジプト9栄神の一人と察しているだろうが、彼は何も言わなかった。
このスペースが今日の待ち合わせで、花京院家の駐車スペースなのだそうだ。
2人暮らしにはずいぶん広いと思うが、親戚などがやってきて停めるのに使うこともあるらしい。
今はシルバーのセダンが1台止まっていた。
そこへ、緑のランドクルーザーが道から曲がって駐車スペースへ入ってきた。
運転席に花京院涼子が乗っているのが見える。
「あー先輩きた……」
と見ている4人の前を走り過ぎたランクルは──そのまま塀に激突した。
