2-2 日本家屋のバチカン
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
目次 前書き&注意点 前の話(2-1-② 血の継承、絡みつく荊②)
「ここよ」
涼子が指さしたのは長い塀の途切れた大きな門だった。
まだ蕾の桜の木が塀の上に沿ってずっと顔を覗かせていた。
”花京院”と木に墨で書かれた表札の横を押して入っていく。
以前日本に来た時にテレビで見た時代劇の家がこんな感じだった、とホル・ホースは思った。
門からもさらに距離があった。それまでの庭には、常緑樹が鬱蒼と茂り、落葉樹は春に向けて芽を膨らませ始め、地面には白や紫や黄色の冬に咲く花が色を添え、ちょっとした森か植物園のようだった。
梅の花は咲き誇り、芳しい香りを漂わせている。
石の敷き詰められた道を歩いていくと木々の間に建物が見えた。横に長く右側は瓦の屋根に木の日本風の建物で左側は漆喰に煉瓦の洋風の建物がつながっている家だった。
「涼子ちゃん!」
着物の女が左側の建物のドアから出てきて、こちらに駆け寄ってきた。
薄い灰色に白で松や竹が染められた着物を着た女だ。
色白で黒髪を後ろに束ねていた。
その顔を見て、ホル・ホースは驚いた。花京院と瓜二つだったからだ。
よく見えれば鼻と口が小ぶりになっていたが、花京院を女にして歳を取らせたらこんな感じだろうと思われた。
黒曜石のような黒い瞳に切れ長の目の長い睫毛が影を落とし、心配そうな表情には、未亡人のような憂いと哀愁をたたえ、なんとも言えない翳りが漂っていて、ホル・ホースは見惚れた。
(あー……
あの花京院の母親だー
あの花京院の母親かー
あの花京院の母親でなきゃあなあー)
「涼子ちゃん!」
花京院の声がして、ホル・ホースはギクリとした。
「な、なんだおめえ、ついてくんなって……」
声のする方に慌てて言い訳のような非難をしようとすると、
薄い茶色混じりの白髪の男性が現れて、
「篤から連絡があって驚いたよ、倒れたんだって?」
と、花京院の声で涼子に話かけた。
(こいつは……あいつの親父かッ!)
花京院典明の父親は全く息子と同じ声をしていた。
背は少し花京院より少し低いが、息子によくにたスラリとした体型をしていた。落ち着いた知的な雰囲気と大きめの口が息子に似ている。
いや息子が父に似たというのが正しいだろう。
父も息子も優しい声音だが、受ける印象は異なっていた。
知的だが冷たく突き放すような印象を受ける息子に対し、父の方は優しげで温かみがあり、包容力を感じ、聞いた相手がリラックスしていくようだった。
もっとも、ホル・ホースが生きている花京院典明に会ったのは戦場で、互いに殺し殺されの敵同士だった。最初に会った時、ホル・ホースは彼の仲間を1人撃ち殺し(結果は未遂だったが)、もう1人も殺そうとしているところだったし、2回目には彼らの車を盗んで逃げていくところだったのだから、あたたかい対応など無理というものだろう。
体型と声は父親に、顔は母親に似た息子だったのだ。
なにより2人のまとう控えめだか品のある空気は、10年前に息子の典明がまとっていたものだった。
花京院典明は確かに、この2人から生まれ、この2人を遺して逝ったのだ。
「墓参りに行ったにしては遅いからどこへ行ったのかって心配していたのよ」
「ごめんなさい、伯父さま伯母さま」
涼子は頭を下げた。それに安心した様子になった2人は、ホル・ホールに目を向け、「こちらが涼子ちゃんが世話になった外国の方だね」と涼子に確認した。
花京院典明の父親は、慣れた様子でホル・ホースに右手を差し出すと、
「この家の主人の花京院龍典です。この子の伯父になります。ようこそお越しいただきました」
と穏やかな笑みを浮かべ挨拶した。花京院典明と同じ声で。
*
案内されたのは洋風の応接室だった。
天井から吊り下げられたクラシカルなペンダントライトが暖かな光で部屋を包み、肘掛けのあるふかふかのソファーに腰掛けると、暖炉に火が入れられ、茶を振る舞われた。
そして改めて涼子の対応に丁寧に礼を言われた。
「本当にありがとうございました。弟の大事な娘で私たちにとっても大切な姪ですので。」
ホル・ホースが鸚鵡を追ってエジプトから来たこと、さらにその鸚鵡は老婆の持ち主で、元々は彼女の一人息子の忘れ形見であることを説明すると、花京院の母はとても同情してくれた。
「涼子ちゃん、鸚鵡返して差し上げたら? お困りのようですし」
その鸚鵡は、涼子の肩と部屋のソファーをいったりきたりしている。
「ええ、その件のご相談もあってこちらにお招きしたんです、叔母さま。この子私にすっかり懐いてしまったんです」
「なら、ゆっくりお話しされるといい。ホル・ホースさん、よろしければ夕食をご一緒にいかがでしょうか。内内の食事なのでお口に合うかわかりませんが」
隣の洋風の食堂で食べた涼子の短大の合格祝いという夕飯は、ホル・ホースの知らない料理ばかりだったが、とてもうまかった。チョップスティックに苦労していると、フォークとスプーンを用意してくれた。
この花京院の家は古くはヘイアンエラまで遡るという。ホル・ホースにはピンと来なかったがとにかく歴史があって金持ちだということはわかった。2人とも地味だが品のいい服を着ている。
龍典は、貿易関係の仕事をしていて海外に行くことが多いそうで、あちこちフラフラしているホル・ホースとは話があった。
話し上手な主人に美しい妻、うまい手料理、そして地元のホーヨーという上手い酒も飲み、ホル・ホースはいい気分になっていた。
しっかりデザートまで平らげたホル・ホースに、家の中を見せたいと涼子がいい、案内されることになった。
「何もない家ですが」
日本人の謙遜という文化はホル・ホースにはよくわからない。
洋風の建物には、食堂に書斎、応接室とクラシカルで重厚だが居心地の良さそうな洋室がならび、壁にも廊下にも洋画がかけられていた。そのまま進んだ奥の日本風の建物では、畳の和室が並び、欄間には綺麗な植物の木の彫刻がされ、床の間には水墨画というのだろうか日本画が下り横に植物が生けられ、廊下には高そうな壺が置かれていた。
広い家だ。
だが、二人で住むには広すぎるだろう。
日本風の建物の突き当たりから渡り廊下になり、小さな別の建物に続いていた。
「あそこは以前茶室だったところを改築したの」
と鸚鵡を肩に乗せた涼子が先立って進み、ホル・ホースは睡蓮の浮かぶ池を見ながら後に続いた。
*
涼子がドアを開けてくれ、ホル・ホースが入ると、そこは広めの洋風の一室だった。
ベッドに学習机、たくさんの本や雑誌の入った本棚、テレビにゲーム機がついていた。
(ここは子供部屋?……あッ!)
チェストの上には、たくさんの写真が飾られていた。
入学式、卒業式、運動会、海に山に美術館に水族館、親戚と一緒の多数の外国にいった海外旅行……その中に赤茶色の髪の少年が、徐々に大きくなって青年になっていく姿が映っていた。
どの写真でも、楽しそうな微笑みを同じように浮かべていたが、こういう写真では、むっつりしていると目立つし、かといって大口を開けても目立つ、周囲に合わせた笑顔が一番目立たない、そうわかって浮かべた笑顔に見えた。
綺麗に掃除された部屋は、10年前花京院典明が使っていた時そのままに保たれているのだろう。突然一人息子を亡くした親の、行き場のない悲しみと愛情が、部屋の中にぽっかりと浮かんでいた。
壁には緑の見覚えのある学生服がかけられている。
「伯母さまが作り直したの。典明お兄ちゃんの服は荼毘に付したから、全く同じに……。典明が、気に入っていた制服だったからって……」
涼子が言い終える前に、
クワッと肩の鸚鵡が哭いた。
真っ暗な空中にホル・ホースは浮いていた。
いや、高い鉄塔の上に立っていた。
下に見えるのは、カイロの街並みだ。
(こいつは、鸚鵡のスタンド、イシス女神だかの能力ッ! 操ってるのは……)
今までの経験では、このスタンド能力では、眼球の上のコンタクトに映写機で映像を写したように、記憶の風景は実際の風景の上に二重写に写っていた。
だが、今は現実にいるはずの部屋が全く見えない。
乾いた空気に砂混じりの風が吹くのを感じ、街の混乱の声が遠くに聞こえ、完全に10年前のカイロに戻っていた。
そして目の前には同じように空中にDIOがいて、少し不自然な体型でこちらに目を向けていた。
緑の細い紐のようなものに周囲を囲まれている。
──「触れれば発射される『ハイエロファント』の『結界』はッ! すでにおまえの周り半径20m! おまえの動きも『ザ・ワールド』の動きも手に取るように探知できる!
ホル・ホースは指を突きつけて言った。いや、言わされた。
過去の花京院典明の動作と発言を再現させられていた。
(10年前の花京院とDIOの戦いッ! この後は……)
ホル・ホースが、いや、10年前の花京院典明が、ハイエロファントグリーンの結界の中のDIOに対し、必殺技を宣言する。
──「くらえッ!DIOッ!半径20m エメラルド・スプラッシュをーーーーッ!」
緑の宝石の攻撃が、四方八方からDIOを襲う。
しかし、目の前にいるDIOは、不敵に笑って答えた。
──「マヌケが……知るがいい……『ザ・ワールド』の真の能力は……まさに! 『世界を支配する』能力だということを!」
次の瞬間、ホル・ホースは、正面から腹部にものすごい衝撃を受け吹っ飛ばされ、硬いものに叩きつけられた。
(が……)
痛みだか熱さだかわからない衝撃が腹から背中から全身に広がっていく。
食道に気管に血が盛り上がり、口から溢れて流れだす。苦しい。
心臓は早鐘のように打ち鳴らされ、鼓動と息以外の感覚が次第に痺れて消えていく。
それでも、背中から冷たい水が流れ込んできて、自分の服に、肌に染み込んでいくのがわかる。
動けない。
苦しくてたまらないのに、体は動かせない。声も出ない。
視界が──霞んでいく。
(やばい……やばい……やばいやばいやばい……
死ぬ……)
すると視界が二重写になり、自分を見下ろしている花京院涼子が写った。
ホル・ホースは床に座り込んでおり、それも今気づいた。
「痛いでしょう?苦しいでしょう?
典明お兄ちゃんは……もっと痛くて苦しみながら死んでいったのよッ!!」
見下ろす涼子の目は、自分が殺したターゲットの仲間に、何度も向けられた目だった。
(復讐者の目だ。悲しみと憎しみに突き動かされた復讐者の目だ)
男なら返り討ちだし、女なら口説いていた。
だが、これは。
「ねえ、ホル・ホース、あなたDIOの配下だったのよね。
なら、知ってるんでしょう……教えて。
どうして、DIOとジョースターって人たちは戦ってたの?
どうして、典明お兄ちゃんはあの人たちに同行したの?
どうして……
どうして、典明お兄ちゃんは私たちのところへ帰ってこなかったのッ!!」
涼子の両目から涙が溢れる。
ゴボゴボッとホル・ホースの口から大量の血液が吐き出ていく。
苦しい苦しい痛い苦しい辛いやめてくれ
(あいつ……この状況であのエメラルドスプラッシュを打ったのか……)
「……あんたみたいなかわいい嬢ちゃんに殺されるのなら……悪くねえ最期だ……オレの人生を思えばな……だが……」
ホル・ホースは涼子を見上げ途切れ途切れに続けた。
「……その質問は、本人に、してやれや……」
「本人?本人って?!!」
涼子はカッとしてホル・ホースに指を突きつけて怒鳴った。
「本人には聞けないからあんたに代わりに聞いているんじゃあないの!!!」
洋風家屋の方から悲鳴が聞こえた。
