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2-1-② 血の継承、絡みつく荊②

*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!


目次  前書き&注意点  前の話(2-1-① 血の継承、絡みつく荊①)


花京院典明は、仗助の部屋の窓辺に寄りかかるように佇んでいた。

仗助の部屋は、たくさんのCDがラックに縦に積まれ、壁には、紫の服でバイクに跨るプリンスのポスターが貼られていた。音楽やファッションやゲームの雑誌が置いてあったが、本はほとんどなかった。年齢相応の少年の部屋と思われたが、それが平均的なのかどうか、自分以外の同年代の男子の部屋に行ったことのなかった典明には判断できなかった。
学習机の上には、中学の卒業式に撮った写真がたくさん置いてあった。
男女の区別なく多くの友人とピースしたり戯けたりしながら写っている。仗助はきっと友達が多く人気者だったのだろう、と典明は思った。

典明は自分のスタンド・ハイエロファントグリーンを今度は部屋の外に出して、街の様子を見に行かせた。

自宅から少し離れているとはいえ、この辺りも何度も通った覚えのある通りだった。
S市の住宅地として人口増加中の杜王町だったが、典明の記憶と異なっていた。昔ながらの家はほとんどなくなり、空き地や畑も見かけなくなり、建売の家がところかしこに建てられた新興住宅地に様変わりしていた。
あちこちスタンドを這わせていると、1人のサラリーマンが帰宅する様子を見た。同級生の荒巻雄一の10年たった姿だった。また逆方向の家の庭では、同じく同級生の上杉由美子だったと思しき女性が、幼児をおぶりあやしていた。

戻ってきた東方家の居間のカレンダーには、平成11年という見知らぬ年号が書かれていた。
花京院が日本を発ったのは昭和63年。年が明けて昭和64年になっていたはずだった。
(……年号が……年号が変わっている……)

10年経っていることを認めざるを得なかった。

ハイエロファントグリーンを手元に戻し見つめた。
緑に輝く自分の分身は死後もついてきてくれたらしい。

物心着く頃には、このハイエロファントグリーンが他人に見えないと理解していた。
母が「典明の緑の友達ね」と話を合わせるのを見て、家族の前では出さないようになった。
恵まれた環境に生まれ育った自覚はあるし、両親も親戚も慈しみ育ててくれた。感謝している。
それでも、自分のこの半身をわかって欲しかった。誰もわかってくれないのかと悲しかった。どうして自分だけ違うのだろうと思っていた。

誘拐された時は恐ろしかった。怖くて怖くてたまらなくて、襲ってくる男に初めてのエメラルドスプラッシュを投げつけ、人を傷つけてしまった。

──な、なんだッ……なんなんだ……痛えッ!あっちいけ、化け物ッ!!!

その時から、決してハイエロファントグリーンを人に気づかせないと、さくらんぼのイヤリングに誓った。するとハイエロファントグリーンは、何かに潜りたがるようになった。

一方で、どこかに見えるひとがいるのではないか、という期待を捨て去ることもできなかった。
矛盾していると自分でも思っていたが、ハイエロファントグリーンを気づかせないようにしながら、ハイエロファントグリーンが見える人をさがした。
だから記憶力の良い花京院は、初めて会った人に一度だけハイエロファントグリーンを見せた。見えなかった人間には、二度と見せなかった。初対面の人に一度だけ。

小さい頃から家の仕事の関係もあって、海外旅行に行くことが多く、典明は海外旅行に行くのが好きだった。遠くの国になら、このハイエロファントグリーンが見える人がいるかもしれない。英語も勉強して問題なく会話できるようになった。
遠くの国、遠くの土地、初めての人。
もっと遠くに行けば──

ハイエロファントグリーンは、どんどん遠くまで伸びるようになった。

でも誰も見えなかった。

彼らと、いや、あのDIOと出会うまでは、誰も。

頭を振って、ハイエロファントグリーンを体内に戻した。

ふと仗助のことを思い出した。

典明が仗助と会ったのは、エジプトに家族旅行にいく少し前だった。
良平さんに公園で偶然会い、話をしていたら、孫の幼稚園児が駆け寄っていた。
あの時確かに仗助は、ハイエロファントグリーンを認識していなかった。
あの後からスタンドを発現したということなのだろうか。

トントンと階段を上がる音がして、部屋のドアが開いた。
典明はそちらに顔を向け、入ってきた人物を見たが、認識するのに時間がかかった。
顎の近くまで伸びた前髪に、Tシャツのがっしりした男は、一瞬知らない人のようなよく知っている人のような錯覚を覚えた。
が、髪を洗って下ろした仗助だった。

「ああ、暇させて悪かったな」
と花京院に言いながら大きな手で髪をかきあげた。
同様に大きな足をみると、きっとまだ身長は伸びていくのだろう。同じ高さの花京院を追い越して。

花京院の視線を知ってか知らずか、仗助はクローゼットを開けて後ろを向いた。

顕になった左後ろの首に、星型のアザがあった。

花京院は目を見張った。

(この星型のアザッ! 承太郎に、ジョースターさんに、ホリィさんにもあったッ! DIOにもだッ! ジョースターの血統に浮かぶという星型のアザッ!!! 
では、では……)

仗助が生まれる頃に噂になっていた。東方さんの朋子ちゃんが、外国人と子供を作って腹ボテで帰ってきたよ、と口さがない大人たちは話し、小学生だった花京院の耳にも入ってきて、父は心を痛めていた。

「じょ……仗助君ッ!」
花京院が驚いた声で呼びかけ、仗助が振り返った。
クッキリと弧を描く釣り上がった眉に少し生意気そうな瞳。つんとした鼻。少し尖り気味の厚ぼったい唇。がっしりとした筋肉質な体型。
(似ているッ! 髪を下ろしてこうしてみると……体格は少し小さいが、むしろ承太郎より……)

「仗助君、君のお祖父さんは東方良平さん、お母さんは娘の朋子さん……では、お父さんは……」
向こうを向いて制服を掛け直しながら仗助は答えた。
「……ジョセフ・ジョースターっていうアメリカ人らしいぜ」
(ッ!)
「やっぱりッ! そっくりじゃあないかッ! 君は、ジョースターさんに……」
「まあ、会ったことねえけどなあ、ジョセフ・ジョースターなんて」
とクローゼットの扉を閉めながら仗助が答えた。
驚いた花京院に、振り向いた仗助は笑いかけた。
しかし笑っているのは口元だけで目元は挑戦的に花京院を睨みつけていた。そんな相手を挑発するような表情も、ピンチこそ笑うジョセフに似ていて、花京院典明は言葉を失った。

「なんか不動産王とかなんとかいって、ジョシダイセーだったお袋と子供だけ作って、アメリカ帰って、俺が生まれたことも知らねえでさあ。アメリカ帰ってからは全然お袋と会ってねえ。連絡もこねえ。お袋がどうしてるか調べたりもしねえッ! 金持ちなんだろう? その気になりゃあ、すぐ調べられるはずなんだろう? 遊びだったんだよ!お袋とはよおッ!!」
最初は半分ふざけたような口調が、徐々に怒りを帯びてきた。話しながら思うところが出てきて感情が昂ってきたのだろう。典明は黙って聞いていた。
「シングルマザーってやつでよお、色々言われたぜ、お袋はッ! じいさんもそんな娘がいては出世できないってさあッ!!」
長い髪を振り乱して荒ぶる様子は、彼が50歳若かったらこうだったろうと思わせた。
「あんなやつッ! あんなやつ、父親でもなんでもねえッ! 知らねえよ!」

投げやりな怒りを表し、吐き捨てるように言葉を続ける仗助にジョセフを重ねながら、典明は静かに思い出していた。

ジョセフからも承太郎からも、旅の間仗助のことは話に出ていない。一人娘のホリィというのみだった。しかし、成長過程で発現した仗助のスタンド能力に星のアザから、仗助がジョセフの子供というのもまた間違いなさそうだった。
花京院にとってジョセフは、頼りになる大人であり、娘思いの父親であり、かけがえのない仲間だった。
しかし、目の前の少年にとっては、会いたくても会えず知らず、自分たちのことを考えもしなかった、男なのだ。
ジョセフは間違ったのだろうか。

ジョセフたちと典明がともに旅をしてから、10年の歳月が流れているらしい。
しかし、典明の体感ではほんの数時間前だった。
花京院典明が17歳の人生の最期に想ったのは、ジョセフ・ジョースターに自分のメッセージが伝わり、共に旅した仲間たちが生き残ることだった。
そして、最期に耳にしたのは──

「で? あんたジョセフ・ジョースターの何? 知り合いな訳?」
仗助は典明を挑発してきた。悲しい笑みを浮かべて。
「ジョースターさんは──」
「金持ち同士のお友達ってわけ? 海外によくいく花京院家のよお」

──花京……院……

典明は同じ高さの仗助の目をまっすぐ見つめて言い返した。

「僕の最期を看取った人だ」

心地よいとは言えない沈黙が仗助の部屋を支配した。

ぷいと顔を逸らした仗助はベッドに潜り、頭から布団を被った。
「……寝る」
「……おやすみ」

仗助の部屋はとても静かだった。
被った布団の下で、仗助はモゾモゾと体を動かしていた。
いつもならこんな早くにベッドに入りはしないし、部屋に幽霊がいては眠れない。

典明は部屋の窓辺に寄りかかるように立ち、遠い目をして物思いに耽っているようだった。本体のそばに立つハイエロファントグリーンは、たくさんの触手を広げていた。
窓から月の光が差し込み、幽霊の体を通り抜けていく。メロンのような緑のスタンドの体から伸びる触手は月の光を部屋の中に広げ、まるで空に浮かんでいるような、海の底にいるような、あの世とこの世の間のような幻想的な光景を映し出していた。

自分の部屋なのに自分の部屋でない光景を布団の隙間から覗き見ながら、その原因である幽霊について仗助は思った。

この幽霊は、自分が死人だと判明し、ホル・ホースに同行するように言われてから、文句を言うことも質問することもなく、ただ静かに仗助についてきた。
先ほどジョセフ・ジョースターについて聞いたぐらいだ。

10年ぶりに意識が戻ったのなら色々聞いて回ったりしないのだろうか。
そもそも涼子と再会を喜んだり、一緒に実家に戻って両親に会いたいと思わないのだろうか。
両親は死んだ息子が帰ってきたら喜ぶだろうに。

しかし、少し考えて、その後はどうなるのか、とも思った。
この幽霊はずっとそのまま存在するのだろうか、それともいずれ消え去ってしまうのだろうか。
このまま幽霊として存在するのなら、学校にも行けないし、食事も取れない、友人と遊びにも行けないまま毎日を家でこもって過ごすことになってしまう。
もし消え去ってしまうのなら、再び死の恐怖、自分の存在が消え去る恐怖と向き合わなければならない。肉親と再開するのならその肉親にも、再びの永遠の別れを味合わせることになるのだろう。

「なんつーか、悪かったな」
布団を被ったまま仗助がいった。
気配がない典明はこっちを見ているのかどうかもわからないが、そのまま続ける。
「その、魂だけ引っ張り出した感じになっちまって。体も一緒に戻せなくってよ。」

気配はないが息を飲む微かな音がした。
「そんな……ことは、ない」
典明が答えた。

「あの時……エジプトで死んだ僕が、その後を……彼らの無事を知ることができた。こうして杜王町に戻ってきて、大きくなった涼子ちゃんを見ることもできた。……そんなことはないよ。」
仗助の方を振り返って行った。
「ありがとう、仗助君」

仗助は返事の代わりに布団の中でモゾモゾと動いた。

静寂を破り、下の階の電話が鳴った。



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