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2-1-① 血の継承、絡みつく荊①

*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!

目次  前書き&注意点  前の話(幕間1 炎の追憶)


仗助と花京院典明の幽霊は、屋根を伝って移動を繰り返し、東方家の屋根に到着した。
三角の大きな屋根の2階建ての洋風の家で、ガレージもついている。家の前に道路が通っているが塀はなく、隣の家とも離れていて、広々とした印象の郊外の一軒家である。
もう日がほとんど落ちており、街灯もあるがパラパラでぼんやりと暗く、人通りもまばらだ。

屋根の上から自宅を見下ろした仗助は、2階の南東の隅の部屋が自分の部屋だと典明につげた。幽霊と緑のスタンドは、仗助が示した部屋へ窓からスルリと入っていった。
ふとどうやって自分が屋根から降りるか考えた仗助だったが、スタンドを使ってなんとか地面まで降りて行った。
くるりと回って南側の玄関にたどり着くと、丁度祖父の良平が自転車で帰ってくるところだった。

「おー、じーちゃん、おかえりー」
「……ああ、仗助、今帰ったんか」

良平はやや疲れた様子に見え、心あたりのある仗助はドアを開けた。

良平が2階に行って着替えて1階に戻ってきて、早めの夕飯になった。今夜は2人の夕食だった。
一人息子が中学を卒業しようやく子離れできたと、仗助の母で良平の娘の朋子は、大学時代の友人たちと16年ぶりに出掛けた。
良平も仗助も快く送り出した。仗助には卒業&入学祝いのゲームが待っているからだったが。

2人で冷蔵庫から朋子の作り置きのおかずや出来合いのものを適当に並べていると、良平は日本酒の冷えた瓶を取り出した。
夜勤明けはブランデーと決めている良平だが、憂さ晴らしをしたいときは日本酒を飲む。
仗助ができたばかりの制服姿で夕飯の席に着くのも、その制服の改造に何も言わないところも見て、仗助はお猪口を良平に渡し、酌をした。
良平は礼を言って日本酒をちびちびと飲み始め、つまみをつまみ始めた。

静かな夕食になった。
いつもは朋子がうるさいくらいに話し続けている。近所のナントカさん家の子がどーしたとか、スーパーの卵のパックがいくらだったとか喋り続け、仗助の学校の話をふってきて、うるさく言われた仗助が面倒くさそうな返事をしたり、言い返したりだ。良平はもっぱら聞き役で間に入ってなだめたりしている。
良平が夜勤や急な勤務でいない夜はあるが、朋子がいない夜はまれだ。この前の職場の飲み会ぐらいだろうか。

ホル・ホースやボインゴの話を聞かれ、適当に返していると、ある程度酒が回ってきた良平が、「仮頼宿が逮捕になった」と話始めた。

体に巻きついたシートをバーナーで温めて気球のように飛んでいた仮頼宿は、警察に通報され、地面に降りてきたところを確保されたが、錯乱しておりバーナーを振り回して暴れたため、緊急逮捕になったんだそうだ。
原因の仗助は内心ギクリとしながら聞いていたが、自分や鸚鵡やスタンドの話はさすがにしなかったらしく、やはり内心ホッとした。

「アイツもなあ」とため息をついて、ふと思い出したようで、
「龍典の姪御さんを篤の診療所に連れてったんだって?」と話を振ってきた。

「ああ……」と返事をして気がついた。2階への階段の入り口横に緑のスタンド・ハイエロファントグリーンが腕組みをして壁に持たれるように立っていた。スタンドだけ下ろしてきたらしい。良平は見えないのだからもっと近くに来たり歩き回ってもいいのだが、家族の夕食に一応遠慮しているのだろうか。
「”たつのり”って、じーちゃんのダチの?」
「おう、篤から電話があってな、仗助のヤツわかっとらんみたいじゃぞって」
いつも母や自分の話題ばかりで、祖父の交友関係や昔の話には注意を払っていなかったことに気づいた。実際はしていたのに、年寄りは昔の話ばかり、と仗助がろくに耳を傾けていなかったのかもしれない。

良平と茂庭医院院長・篤、そして”たつのり”こと花京院龍典は幼い頃からの昔馴染みだそうだ。
「あそこはもともと代々お寺さんでなあ」と花京院の話を祖父は始め、仗助は酒を注いで続きを促した。

3代前もよくわからない東方家と異なり、花京院家は千年もの長きにわたりこの地につづく旧家かつ名家で、桜の館はその本家、龍典は一族の現在の当主だった。
千年前の平安時代、京での権力争いに敗れた貴族の幼い姉弟が、わずかな縁を頼ってこの地へと辿り着いたと言われている。
その姉姫が、どこのものともわからない流れものと結ばれ、両親や親類縁者を弔うために開いた寺院が、花京院の始まりという。
「京からいらした花のように美しい姫君が開いた寺院だから、花京院とな」
姫が結ばれた流れものの男は、赤い髪をしていた。さらに、不思議な神通力を持っており、霊験あらたかな僧侶となった。そのため、花京院の家のものは少し色の薄い髪のものが多く、また隔世遺伝で数代に一度赤い髪のものが生まれるらしい。
一方、一緒にたどり着いた弟君は、自らの不遇に対し異議申し立てをし、再度京都へ登ることを夢見ていたが、ついに叶わなかったという。その子孫が現在の仮頼宿家に繋がっているのだそうだ。

「花京院は昔々それは広い土地と田畑を有してたんじゃ。ほら、S市の駅からちょっとこっちにきたところに、”花京院”て交差点と郵便局があるじゃろ。あの辺から霊園から今の本家までずーっとなあ」
「……知らねーよ、S市の郵便局なんてよお」
こないだまで中学生だった仗助は、友人とS市の駅近くに遊びに行ったことはあったが、そこまで詳しくは知らない。

昔の話には、困ったことがあると和尚さんに聞きにいくシーンがあるが、実際にも昔の日本では寺が教育施設や公共団体、福祉団体の代わりをしていた地域があった。花京院の寺でも、病人や孤児や寡婦を引き取ったり、地域の揉め事の仲介をしたり、冠婚葬祭を取り行ったりと、幅広く地域の民草の面倒を見て慕われていた。
一方、弟の家の仮頼宿の方は高貴な生まれから血族結婚を繰り返して周囲と馴染もうとせず、なんとか村八分にならずにすんでいたが、代を経るごとに貧しい生活になっていった。

しかし、明治維新の廃仏毀釈により花京院は廃寺となり、敷地も大部分が没収されたり、岸辺や高砂といった分家として独立して減って現在の範囲になった。本家は寺に伝わる物品や宝物をもとに事業を始め、現在は貿易会社となっているそうだ。
「元々お寺さんだったから、今でもあそこの家の男は、本名は音読みになってるんだ。通り名が訓読みでな。”たつのり”は本当はリュウテンっていうらしい。まあ今じゃあ誰も呼ばんがな。
でも、先代のご当主の頃は音読みだった。双子でな、戦中戦後の間、孤児やらなんやらたくさん家に泊めて世話をしてくださった。わしも大変世話になったよ。”リュウシュウ様ウンショウ様”って仏様みたいにみんなに慕われて……寛大で豪快な方々だった。」
すると典明は、テンメイになるのだろうか。

良平は酒が回ってきたようで、だいぶ口が滑らかになってきた。仗助は酌を注ぐ。

「……龍典には息子さんがいた。一人息子でな、典明くんって……」
きた、と仗助は思い、ちらっとハイエロファントグリーンを見た。スタンドは変わりなく腕を組んだまま緑にゆらめいている。
「お前、小さい頃会ってるんだぞ」
「え?マジかよ、覚えてねーよ」
幽霊の言っていたことは本当だったらしい。
「まあ保育園だったからなあ、覚えてないか」
良平はお猪口を見つめた。

「とても頭が良くてな、家の手伝いもする大人しいいい子だったんだが……なんでか友達ができなくてなあ、龍典も奥さんの明子さんも気を揉んでたんだが……」

典明少年が小学校2年の時、誘拐事件にあった。下校中1人で帰っていたところを連れ去られた。
「名家の跡取りだったから、金目当てか、それとも……美人のお母さん似で小さい頃は女の子みたいじゃったからな……」
仗助はまたスタンドに目をやった。
目撃証言があったため、すぐさま警察や地域の大人たちが総出であちこち探し、ある男の家で良平が発見した。なぜか誘拐犯が血まみれの瀕死の状態になって訳のわからないことを言っていた。子供は無事だったが、ショックを受けたのか頑なに黙ったままだった。
「なんであんな傷だらけになったのかわからなかったんだが……家でヤクも発見されたから、それでおかしくなって自傷行為をしたんじゃあないかって結論になった。誘拐されてそんな様子を目の前で見せられたらショックを受けるよなあ」
仗助は、さっき戦ったスタンドのエメラルドの宝石の攻撃を思いだしていた。

典明少年はその後、しばらく家に閉じこもってしまった。
事件の報告がてら見舞いに訪れた良平は、当時中学生だった朋子を連れて行った。女子がいた方が少しは和むだろうと思ったのだ。
朋子は、「典明くんは可愛いからきっと似合うし、桜の館だし、お守りに」とさくらんぼのイヤリングを持って行った。良平は「男の子相手にそんなもの」内心いぶかしく思ったが、典明少年はそれを気に入り、はにかみながら受け取ってくれた。
それ以来彼は、そのイヤリングをよく身につけるようになった。
(あれか!……幽霊を呼び寄せたあのさくらんぼのイヤリング……元はお袋のやったものだったのかよ……)
また、良平は先代から護身術を何か習わせたいと言われ、典明少年に空手の道場を紹介したと言う。
「空手道場に通って、当身ができるぐらい強くなったって言ってたなあ」
と昔を懐かしんで嬉しそうに話をしていた良平だったが、
「死んじまったんじゃよ、典明くん。10年前に。17歳で」と急にしんみりしてしまった。仗助は酔いのテンポについていけなくなりつつあった。

その年の夏、花京院家は毎年恒例の家族旅行でエジプトに出かけた。典明は帰ってきてから家出をして行方不明となり、その翌年の1月にエジプトで遺体で発見されたのだそうだ。
「どうして一人でエジプトにいったのか……あんなところで事故に遭って亡くなるなんて……」と冷酒の小さな瓶が空き、仗助は3本目を冷蔵庫から持ってきて、ついだ。
当時は大騒動になった。仗助が高熱で倒れていた時期と丁度重なっており、良平はそれほど花京院家に行けたわけではなかったが、それでも仕事の合間に行方を探したりしていたそうだ。
たった1人の跡取り息子をわけもわからず亡くした両親の悲しみは深く、一時は生活もままならない状態となっていたという。
「……ここ、2、3年だな、ようやく少し落ち着いてきて、龍典ともたまに飲みに行けるようになったのは」

「だから、仮頼宿も可哀想なやつなんだよ」
唐突に話が仮頼宿に戻った。だいぶ酔いが回ってきたらしい。
「あいつも7つの時にお母さんが出て行って、それを苦にしたお父さんが自殺しちまってな……、引き取り手もなく一時花京院家で預かった。その後、戦争で行方不明になってたお祖父さんが突然戻ってきたんだ。一緒に住むことにはなったが……こちらも病がちで、10年前に書き置きを残してどっかいっちまって……あいつはそれから1人になっちまって……」

酔い潰れて寝てしまった祖父を、仗助はスタンドで2階の自室に運んで寝かせた。

食べ終わった後の食器を片付け、
「おれ、風呂入ってくるわ」
とスタンドに声をかけると、緑のスタンドはするすると2階に戻って行った。

仗助は脱衣所で制服を脱ぎ、ハンガーにかけながら考えた。

誘拐事件で犯人を半殺しにしたのは、あのエメラルドスプラッシュという攻撃だろう。
犯人にも誰にも見えない、7歳の子供の必死の反撃。

最初、傍にピンク色の子供のような存在が現れた時、
4つの仗助は、自分が悪霊に取り憑かれたのかと思って、ひどく怯えた。
母にも祖父にも話したが、二人には見えなかった。
高熱が続いた後だったから、「脳に異常がでて幻覚を見たのかも」と心配されてしまった。
その晩、ベッドで寝ていると、食べたかった冷蔵庫のプリンが、枕元にそっと現れた。
隣には、ピンクの子供のような”悪霊”がいて、プリンをじっと見ていた。
「……食べたいの?」
仗助が聞くと、”悪霊”は仗助の中に戻っていった。
その瞬間、仗助の胸が暖かくなった。
これは、悪霊なんかじゃあない。味方なのだと悟った。
それから、自分の思う通りに動かせるようになっていった。
悪霊ならぬ、守護霊として。

あいつもそうだったんだろうか。



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