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1-6 黄昏時、町は黄金色に

*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!

目次  前書き&注意点  前の話(1-5-② 蘇る法皇②)


奇妙な一行は、茂庭医院にたどり着いた。

”本日午後休診”の札が下げられたドアをスタンドの手で開けると、
「センセー、篤センセー、いるんだろー。ちょっと診てくれよー」
と涼子を抱きあげた仗助が医院の中へ声をかけた。涼子の上には鸚鵡が乗ったままだ。

薄い緑のソファーが並んだ待合室には誰もおらず、受付にもカーテンが閉まっていたが、横の診察室のドアが内側から開き、白髪まじりのツンツンとがった髪にメガネをかけ、引きずりそうな長い白衣を着た、痩せた小柄な男が出てきた。
「なんじゃ、仗助ー、休診だっていってるじゃろう」
とめんどくさそうな声をあげたが、仗助の腕の花京院涼子を見ると、診察室のドアを大きく開けて、診察台に横にするように顎をしゃくった。

ホル・ホースとボインゴが続いた。花京院典明は庭の植え込みに身を潜めたようだったが、室内には緑の触手が伸びてするすると入ってきた。あの触手で状況を把握することもできるらしい。便利なもんだと仗助は思った。

今誰もいないのに……とぶつぶつ言いながら、茂庭医院院長は、カルテの用紙を1枚デスクに置いて診察道具を取り出し、経緯を仗助たちに確認しながらテキパキと涼子の血圧をはかり、ペンライトを当てて診察し始めた。
そして、聴診するときは仗助たちは追い出された。触手もするすると出てきた。
待合室の大きな古時計がボーンとなると、「いいぞ」と中から声があり、またゾロゾロと入っていった。

「特に異常なさそうじゃな。なんかショックなことでもあったのか……時期に目覚めるじゃろう」と医者は言うと、奥のドアから出ていって少し立って古いカルテを持って戻ってきて、デスクの椅子に座った。グレーの古い椅子はキイキイと不満そうな高い音を立てた。ちなみに鸚鵡は空気を読んだのかベッドの頭の方の出窓にちょんと乗っている。
「珍しい客を連れてきたもんだなあ、仗助」
涼子に、ホル・ホースにボインゴ、鸚鵡を見て、仗助にいった。再びするりと入ってきたハイエロファントグリーンの触手は篤医師には見えない。
「悪いっすねえー」と悪びれもせずいう仗助に、ふんっと不満そうに見返し、涼子を見て「分家のお嬢ちゃんかい、大きくなったもんだ」と言った。
「なんだ、センセー知ってんの?」
と仗助が聞くと、
「なんだ、仗助、知らんのか?」
と逆に聞き返された。

「知らんのかって……」
「”たつのり”は聞いたことあるじゃろう? わしと良平のなじみの」
「あー、じいちゃんのダチだろ? センセーと3人でよく飲みにいってる、ガキの頃からの付き合いだっつー」
「”たつのり”は花京院龍典だ。で、この子は龍典の姪で、分家の涼子嬢ちゃんだ。」
「花京院……」
院長は隣の部屋から湯呑みのセットを持ってくると、ポットからお湯を注き、苦い茶を仗助たちに順番に渡した。
仗助は回転いすに座ってくるくる回しながら飲み、ホル・ホースは壁に寄りかかって立ったまま、ボインゴは診察ベッドの端に尻だけ載せて飲み始めた。

院長は窓の方を指さして、「ここからもうちょっといったところに、塀の内側を桜がぐるっと囲んどるお屋敷があるじゃろう。あそこが花京院の本家の屋敷だ」
「え?! あの馬鹿でかい木の向こう? あの木の建物って町の保存施設かなんかじゃあなかっのかよ?!」と仗助は驚いた。
そこには大きな塀に囲まれた建物があり、通称”桜の館”と呼ばれていた。古く美しい桜が塀に沿って並んでおり、春になると勝手に道端で花見をする輩が出るほどだ。桜やのびのびと育った樹木の向こうに大きな古い建物が見え隠れしていた。仗助はてっきり、公共施設か保存されている昔の家か何かと思っていた。
「木は保存樹木だが一応個人宅じゃよ。手入れが大変だとぼやいとるがな」
仗助は祖父から親しい友人の”たつのり”という名前は時々聞いていたが、名字までは覚えていなかった。ここの院長も篤あつしと呼んでいるし、こうやって受診に来ていなければ名字は知らなかっただろう。そもそも仗助は、祖父の友人にそこまで注意を払っていなかった。

医師は古いカルテに今書いた内容を貼り付けると、その前の部分をパラパラとめくっていた。
「もう12年も前だなあ、この前、この子を診たのは」と医師は後頭部の髪で隠れた部分を指さして「そんときの古ーい傷を確認したから間違いない。それにお母さんによくにとる。」
「傷?」
仗助が聞くと、
「あいつの兄弟は遠くに住んでて分家扱いなんだが、よくこっちに泊まりにきてた。涼子嬢ちゃんが5歳の時に、本家の庭の木に木登りして落っこちてうちに運ばれたんだ。小さい頃はおてんばな女の子だったからなあ」
「まじかよ……」
「へーやるじゃあねえか」とホル・ホースもニヤリと笑った。

カルテを見ながら遠くを見るような顔をして篤は続けた。
「あいつの息子の典明くん……あの時は中学生だったか……いつも穏やかで冷静なあの子が、嬢ちゃんを抱えて血相変えて飛んできてなあ。
『先生ッ!涼子ちゃんが木から落ちて頭を切ったんですッ!すぐみてくださいッ!!』
って……」
老医師はそう言って茶を飲んだ。懐かしそうな悲しそうな顔だった。

3人はぎくりとしてハイエロファントグリーンの触手を見た。緑のスタンドの一部は変わらずゆらゆらとゆらめいている。
気づかない篤院長は立ち上がって涼子の顔を覗き込むと、涼子の瞼がピクピクと動き、ゆっくりと目を開けた。

「おー、起きた起きた」
「あー先輩ー、大丈夫っすか?」
「気分はどうだい、嬢ちゃんよお」
3人は花京院涼子を見下ろして口々に声をかけた。
それを見た鸚鵡も、キョキョと嬉しそうに鳴いて、ベッド柵に飛び移り、涼子を覗き込んだ。

涼子はしばらくぼんやりした様子で両手の甲で目を擦っていたが、むくりを頭を上げて医者を見た。肩に鸚鵡が停まった。
「あの……」
「わしは見ての通り医者だよ。名前は言えるかい」
「花京院……涼子です。ご迷惑をおかけしました」
「久しぶりだのう、分家のお嬢さん。覚えてないかもしれんが、12年前にお前さんにはあっとる」と篤は自分の後頭部を指差した。
あっ、と手を口元に当てた涼子は、少し顔に赤みが戻ったようだった。
「立てそうかい?難しいなら……」
「大丈夫です。ありがとうございました」

立ち上がった涼子は、カバンから漫画本を出してホル・ホースの前にいき「この度はすみませんでした」と丁寧に頭を下げて、漫画本を差し出した。
ホル・ホースは驚いた様子だったが、「なあに、いいってことよ、嬢ちゃん」と照れたような表情になって漫画本を受け取った。
顔を上げた涼子は「よかったらこの後ウチにいらっしゃいませんか?」というと、自分の肩に停まった鸚鵡を指して、
「この子の相談もさせていただきたいです、私に懐いてしまったようなので。……心ばかりですがお詫びもさせていただきます」
と笑みを浮かべてホル・ホースにいった。
横から茂庭院長が「ああ、そうしてくれるとありがたいなあ。まだ起きたばっかりじゃし、また倒れないように送ってやってくれや。本家に電話は入れとくからさ」と、ホル・ホースが答える前に決めてしまった。
ホル・ホースは、涼子と鸚鵡を見て、一瞬緑の触手に目を向けたが、「ならば、エスコートさせていただきましょう、お嬢様」と右手を胸の前に当てて丁寧な礼で答えた。

涼子の張り付いたような笑顔を見た仗助が「あ、じゃあおれも」と腰を上げかけたが、
「お前はダメじゃ!」と医者がガシッと右肩を掴んだ。
「いっ……ちょっと、センセー……」
「わしの目が誤魔化せると思うのかッ! なんじゃこのいい加減な手当はあッ!」
と仗助の制服を手早く脱がし始めた。
「何すんだよおッ、ちょっとオ!」
「肩に腕に足にッ!あちこち怪我ばっかりじゃあないかッ! なんで服は綺麗なのに中に怪我しとるんだお前はッ! こんないい加減で傷が悪化したらどうするんじゃあ!」
と有無を言わせぬ剣幕で、仗助がホテルでもらって巻いていたガーゼと包帯をあっという間に引っ張り剥がした。
「いいかッ!!いくらお前が若くて傷の治りが早いとはいえ、人間の傷は一瞬では治らんのじゃぞッ!きちんと手当をせんといかんのじゃッ!!」
「……ま、まあフツーはそうかも知んねーけどよお……」
指を突きつけて説教を始めた小さな医者に、仗助も負けた様子だった。

「……まあ……後で連絡するから番号教えろや」とホル・ホースは仗助にいい、ボインゴに「オメーはどうする?」と確認した。が、ボインゴは首をフルフルを左右に振った。
内気すぎるボインゴにとって、知らない日本人の家に行くのはハードルが高そうだと考えたホル・ホースが、ボインゴにトト神を渡しながら「じゃあ、ホテルで待ってろ。迷うなよ」というと、ボインゴはポケットから地図を取り出してみせた。交番でもらったんだそうだ。

「あーー、じゃあ、仗助は治療してもらったら一旦家に帰るってよー」とホル・ホースが窓の方に向けていうと、緑の触手が微かにゆれた。
ホル・ホースは仗助から番号のメモを受け取ると、「世話になったな、センセー。よく見てもらえよー仗助、後で連絡するからさ」と涼子のカバンを持ちエスコートして診療所から出ていった。
その後ボインゴも、「ボク……ホテルに……」と漫画本を抱えて出ていった。

あちこち消毒されて包帯を巻かれた仗助は、制服を着ると、「じゃあ、センセーどうもー」と診療所の玄関を出た。
外は日が落ち始め夕暮れになっていた。

横の植え込みに花京院典明の幽霊が腕組みをして立っており、横で彼の緑のスタンドが畳んだシートを手に持っていた。
立っていたというのが幽霊にとって適切なのかどうかはわからなかったし、そもそもこのスタンドから生み出された存在がなんなのかもわからない。
しっかり目の前に見えるのに、影もなく、触ろうとすると通り過ぎてしまう存在。
10年前に死んだ少年の外見と記憶を持ち、スタンドを出して使う存在。
ホル・ホースの対応を見ると、その死んだ少年と同じ性格をしているようだ。
人間の形をしていて人間の記憶を持ち、その人間の人格を持って動いて会話をする。ならば人間として扱うのが適当だろう、と仗助は判断した。

「……とりあえず、おれん家で待ってろってことみてーだぜ」
仗助が花京院典明に声をかけると、腕を解いてうなづいた。

幽霊を連れて帰宅、となるが、どうしたものか、と仗助は考えた。
篤の話では、この幽霊はこの辺が地元で、覚えているものも多いだろう。すると10年前に死んだ人間がそのままの形でウロウロしては騒ぎになってしまう。
家に着いてしまえば2階の自分の部屋に入れて隠してしまえる。ただ、仗助の家は駅から東へまっすぐにいったところで、駅の西側の茂庭医院からはそれなりの距離だ。
シートを被ったまま歩いてもバスやタクシーに乗っても、鉢かつぎ姫では目立ってしまうだろう。

うんうん唸っている仗助に典明がどうしたのか尋ねた。
「いやあ……どうやってうちまで帰るかなーっと思ってよ」と自分を見て答えた仗助を見て、彼の悩みを察したようだった。
すると持っていたシートを畳んで医院のブロック塀の隅に置くと、
「上から行こう」
といった。

「上?上って……えええええーーー?」
緑の触手が胴に絡まったと思ったら、医院の屋根にポーンと放り投げられていた。
ハイエロファントグリーンと花京院も屋根に上がり、「ここから屋根づたいに君の家までいく」といって、また触手を伸ばして3軒先の家の屋根に絡ませ、触手を縮ませて自分と仗助を飛び移らせた。
「いいいいいいいーーー?!!」
「静かにッ! 黄昏時で見えにくいし、人間頭上にはあまり注意を払わないが、騒げば気付かれるッ」
花京院は人差し指を自分の口に当て、仗助に鋭い口調でいった。
「おッ……おう……」
思わず仗助が口元を覆うと、またヒューっと体ごと持って行かれて、風を切り、気づくと3軒先の屋根にいた。
「行くぞ」

ピョーンピョーンと、屋根から屋根へ飛び移っていく自分たちに、仗助はしばらく呆気に取られていた。触手が胴に絡まって花京院の背中に背負われているような体勢で、空を見ながら移動していく。着地の時に屋根に仗助の足がつく様子はなく、着地の時もスタンドが衝撃がないよう間に入ってくれていた。
「あ、おれん家、わかんのか? 東の方なんだけどよ」と前を見る花京院の背中に尋ねた。
「わかる。いったことがある」
「えッ?!! マジッ?」
「ああ……僕は君を知ってる、会ったこともある……君は覚えていないだろうけど……」
良平の友人の子供なら知っているのだろうが、仗助は覚えていなかった。
しかし、10年前に死んだ人間だったと思い出した。自分は保育園児だ。覚えている方が難しいだろう。
すぐ目の前にいる、高校生にしか見えない学ランの少年が、遠くにも近くにも感じた。

電車の通るタイミングで線路を飛び越え、駅前通りから住宅地に入っていく。
屋根の上から見る駅も家々も、普段見慣れた風景が、上から見ると全く変わって見える。
遠くの山々へ沈んでいく夕日が赤い光をさし、家から電柱から長い影が伸びていった。
上には360度広がる青い空に浮かぶ白い雲が、刻々と青から紫、赤そして黒へ色を変えていく。
まるで空中を飛んでいるようだった。

「すっげーーーーえッ!」
仗助は素直に感動していた。
「お前さあ、いっつも、こんなふーにスタンドで移動してたのか?」
「たまにだ。たまに移動して、いた」
前を見ながら花京院は声だけで答えた。
「いいなあー、このスタンド、すげえじゃんッ! こんな色々できてよお! てか、おれの杜王町ってこんな町だっただなー」
仗助は周囲の風景を見渡し、笑顔で彼のスタンドを褒め称えた。

幽霊の頬が夕日に照らされ赤く染まっていた。


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