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3-2-① 始まりの石と石①

*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!

目次  前書き&注意点  前の話(3-1-③ ボインゴは山へ遠足に③)


幽霊の運転する車は、高速道路を順調に進んでいた。
見える山は白いが、暖房が効いた車内は暖かく、ボインゴも仗助も涼子もダウンやコートをを脱いでいる。
お茶を一口飲んだホル・ホースは、後ろの荷物置き場に目をやった。
そこには、乾燥ニンニクのブレスレッドが置いてあった。涼子が首に下げていたのだが、ボインゴが「……臭い」といい、外して後ろに置いたのだった。
お菓子や飲み物のいろいろな匂いが車内に満ちていて、幸い今はニンニクの匂いは気にならない。

「そんで嬢ちゃん、あのニンニクの話だがよお」
「ええ」
「せっかく用意してもらって悪いが……これからいく吸血鬼のやつらにニンニクは効かねえんだ」
「そ、そうなの?」
ホル・ホースの言葉に涼子は少し驚いた様子だった。
「十字架も効かねえ」
ボインゴ越しに涼子の十字架のペンダントを指差してホル・ホースが続けた。
「そうなんスか? 吸血鬼っつったら、十字架に杭打ち、だっけ? そんで血を吸う代わりにトマトジュースとか飲んでんでしょう?」
助手席から振り返った仗助が混ぜ返すとホル・ホースは目を丸くした。
「おいおいおい! なんだあ、その呑気な吸血鬼はよお! 日本じゃあどうゆうふうに伝わってんだ? てか、仗助に話さなかったのか、花京院よ?」
「日本では漫画やアニメに出てくる吸血鬼のイメージが強い。……それに昨夜は色々忙しかった」
花京院典明が前を向いたまましれっとした様子で答えた。横で仗助が「へへへ……」とニヤニヤしている。

ったく、とホル・ホースは舌打ちをすると、
「これから倒しに行く相手がどんな奴らか知らねえんじゃあ話になんねえだろ。嬢ちゃんも仗助もよく聞いとけよ。いいか? 日本じゃあどう伝わってんのか知らねえが、元々の死体から起き上がる”伝承の吸血鬼”と、”これからオレたちが倒しにいく吸血鬼”は、似ているが、別物だ」
と吸血鬼の説明を始めた。

元々の東欧地方の伝承とそこから派生した文学の吸血鬼には、細かい差異が多く存在する。それでも共通認識として広まっているのは、口の牙で人間から血を吸い、夜だけ活動し棺桶から蘇る不死の化け物という像だ。年を取らず若いままで生き続け、傷を負っても再生する。倒し方としては、十字架やニンニク、聖水を使い、心臓に杭を打ち込む、炎で燃やしたり首を切断したり、朝日を浴びると灰にする、などいくつかの手段が語られている。
ホル・ホースは伝承の吸血鬼について、意外に詳しく、スラスラと語っていった。

「だが、DIOたち──これからオレたちが倒しにいく吸血鬼たちには、そんなやり方は効かねえ。倒せる方法は2つだけ、本当は3つあるがオレたちにできるのは2つだけだ。1つは太陽の光に当てる。これが一番確実だ。灰になって消滅して跡形も残らねえ。だが、これは相手も知ってることだからなあ、のこのこお天道様の下に出てくるやつはいねえ。昔は紫外線を照射する機械があったらしいがな……だから、オレたちがとるのは、もう1つの方法になる。」
ホル・ホースは、自分の人差し指をこめかみにあて、
「脳みそをぐちゃぐちゃに破壊する」
と続けた。
ボインゴの隣の涼子が息を呑んだ。助手席から後ろを向いていた仗助も真顔になった。
ホル・ホースは続ける。
「そうすると吸血鬼は活動を停止する。あとは朝日を待って灰になるのを待つ、っていう流れだ。──10年前、DIOはこの方法で倒された。」
運転席の花京院典明も、ちらっとこちらを振り返った。
黙ったままの車内に、もっとも、とホル・ホースがさらに続けた。「正確には脳みそを全部ぐちゃぐちゃにするわけじゃあねえらしい。10年前までは全部ぶっ潰す必要があると信じられていたらしいが、その後の研究結果で全部破壊しなくてもいいと判明したらしい」
ホル・ホースは、こめかみの指を頭の後ろに滑らせ、
「ここ……えっと、brain stem……」
「「脳幹」」
典明とボインゴの声が重なった。
「そう、そのノーカンが破壊されれば吸血鬼は活動を停止するらしいぜ」
「研究結果というのはどこのだ?」
典明が尋ねた。
「お前さんもよく知ってるSPW財団のさ」
「なぜ、ホル・ホースがその研究結果を知っている?」
重ねて聞かれるとホル・ホースはニヤリと笑って、「あそこの職員さんと”親しく”させてもらっているからさ」と答え、典明は鼻白んだ。

先ほどまでむしろ楽しげに吸血鬼について話していた仗助と涼子だったが、その話を聞いて黙ってしまっていた。ファンタジーの吸血鬼と、実際に血肉を持った存在が繋がっていなかったようだ。
仗助も涼子も人を殺したことや人殺しを見たことはなさそうだな、とボインゴは思った。日本には昨日来たばかりだが、どこも明るく清潔で、一部チンピラはいたもののボインゴの生まれ故郷やエジプトの裏通りに比べれば、安全で法律が行き届いているようだった。
実際にDIOに相対していれば、漫画に出てくる吸血鬼のような呑気なことは言っていられない──ボインゴは現実の吸血鬼の恐ろしさを10年前身をもって経験していた。

「……オレのエンペラーと、ハイエロファントグリーンの触手があれば、脳幹を潰して回るのはそれほど難しいこっちゃねえ。やめるか?」
二人の顔色を見たホル・ホースが二人に聞いた。
「いやいや!そんな、行く行く。行くっスよ、兄貴!ここまできてさあ!」
「あの人たちは杜王町を狙っているって言ったもの!なんとしてでもやめさせないと!」
仗助も涼子も即座に答えた。
ホル・ホースは肩をすくめて運転席の典明を見た。
「……連中の話では複数の吸血鬼が山に隠れ住んでいるようだ。太陽を克服すれば町に吸血鬼が溢れかえってしまうだろう」
典明は厳しい表情で答え、ホル・ホースも同意した。
「まあ、そういうことったな。……10年前、DIOは4年間で100人近い人間の血を吸って殺した。ヘーキンすりゃあ、月2人だ。吸血鬼が10人いりゃあ月20人、100人なら月200人、になるな。」
「そんな……」
涼子が眉を顰めてつぶやいた。
「しかも厄介なことに、血を吸って殺すだけじゃあなくて、血を与えて連中の仲間を作ることもできるらしい。そいつはゾンビになって、ゾンビが人間を襲ってまたゾンビを作ることもできる……倍倍ゲームだな。100年以上前には町1つ吸血鬼のものになりそうになったらしいぜ」
「ゾンビが襲ってくる町かよ……『ゾンビハザード』じゃああるまいし……」
仗助も恐怖しているが、いまいちファンタジーから離れきれていないようだ。
「吸血鬼に血を吸われると吸血鬼になるんじゃあなかったかしら?」
涼子がボインゴ越しにホル・ホースを見て聞いた。
「ああ、フツーはそうだよな。でも、奴らは違うんだ」
ホル・ホースは口に加えた棒を手に持って涼子と仗助の方を指し示した。
「石仮面、ってのを被ると人間が吸血鬼になるらしい」

「「「石仮面?」」」
仗助と涼子とボインゴの声が重なった。
「……聞いたような気がする。それは……」
典明が手を口元に当てて思い出す仕草をした。

「石仮面ってのは、まあそのまま石でできた仮面なんだとよ」
ホル・ホースはさらに石仮面について説明を始めた。

石の仮面は、南米で発掘発見され、当初は古の儀式の道具と推測された。その後イギリスの貴族の手に渡り考古学的に研究されていた。
しかし、その石仮面に人間の血液がかかると、仮面の縁から鋭い針が飛び出して、仮面を被った人間の頭に食い込む仕掛けが施されていた。針が脳に食い込んだ人間は死なず、吸血鬼に変化する。
当時イギリス貴族の家にいたディオ・ブランドー、のちのDIOは、この仕組みから吸血鬼に生まれ変わり、100年以上20歳の外見のまま存在したのだ。人の生き血をすすりながら。

高速道路のトンネルに入り、車の中が真っ暗になった。

「石仮面はSPW財団が探していて見つけちゃあ破壊してる。この100年でだいぶ壊したらしい。だが、石仮面が全部でいくつあってそのうちいくつ破壊できたかなんて、わからねえから、まだどこかに残ってる可能性はある。……吸血鬼にしてもそうだ。今回の吸血鬼が吸血鬼なのか、それとも正確にはゾンビなのかはわからんが、100年前10年前にDIOが作ったゾンビだか吸血鬼だかが、隠れて生き延びてても不思議じゃあねえ。石仮面がある限り、吸血鬼は生まれるし、吸血鬼がいる限りゾンビは生まれるだろうよ」
「そっスか……」
ホル・ホースの現実的だが楽観的とは言い難い推測に、仗助は考え込んだ様子だった。

車の中を重い沈黙が支配した。
トンネル内の照明が断続的に車内をオレンジに照らした。

「ここにあるCDかけてもいいか?」
と仗助はダッシュボードからCDケースを取り出し、典明に聞くと、返事を待たずにCDをスロットに差し込んだ。

ギターの音が車内に流れ始めた。静かで繊細に奏でられる弦の響きが、重なって広がっていった。
男の歌声が溶け込むように加わる。刹那げに。
ボインゴは聞いたことのある曲だった。確か以前兄が借りてきたビデオの、映画の主題歌だ。

「……これ」
と典明が呟くと
「そう。おじさまが聞いてらっしゃるの。……典明が好きだったって」
涼子が答えた。
「そうだね。僕の好きな……僕の知らない曲だ。」
典明は呟くようにいうと、涼子を振り返って続けた。
「でも、いい曲だ」

ボインゴも流れる曲に耳を傾けた。
英語の曲だが、ボインゴはスタンド能力の影響であらゆる言語が理解できた。

…男はカードを配る 勝利も名声も金もいらない
…見つめるのはカードに映る運命
…その向こうに答えがあると信じ
…求め、ぶつかり、愛しあう……
…探すのは自分の“心のかたち”
…静かに誰にも気づかれず戦う
…声を上げず愛と真実を賭けて
…誰が知っているだろう 彼が見ている世界を
…奥深く 沈黙の中 ただ真実だけを

「……父さん」
典明が独り言のように呟くのが微かに聞こえた。

「いい歌だよなあ。これ、確か映画の主題歌だったよな」
仗助が誰にいうともなく話すと、
「あーいい話だったよな、あの殺し屋」
とホル・ホースも見ていたようだった。
「女の子可愛かったスよねー」
違う感想の仗助にホル・ホースがたたみかける。
「なんだ、仗助。オメーああいう子が好みか?」
「いやー好みつーかななんつーかそうゆーんじゃあねえっスけど……」
「なんだよ。自分の好みはハッキリしといたほうがいいぜ」
「いやあ……まあ……一生懸命頑張ってる姿が、なんつーかほろっとくるっつーか」
「そういう好みか、よくわかったよ」
なぜか横で典明が納得した。
「なんだよ!そういうお前はどういう好みなんだよ!」
と仗助が少し赤くなって言い返すと、
「……君には教えたくない」
と典明はそっぽを向いた。
「なんでだよ!」
と仗助はいい、ホル・ホースは腕組みをしてニヤニヤし始めた。

「そういえば、仗助君。君は波紋は使えないのか?」と典明は仗助に聞いた。
誤魔化すために話を変えたのかとボインゴは思ったが、典明の顔つきは真面目だった。
「波紋?」
と仗助が聞き返すと、ボインゴの横のホル・ホースが腕組みを解いてやや前のめりになった。
「波紋っていやあ、確か吸血鬼を倒すもう1つの方法だろ? なんかトーヨーの流れを汲んだ特殊な格闘技だかなんかだとか。波紋使いの生まれで何年も修行をしないと使えるようになんねえって話だぞ。なんで仗助が使えるんだ?」
「彼は、ジョセフ・ジョースターさんの息子だ」
と典明がいった。

「え……」
「な……」
ホル・ホースとボインゴは絶句した。

「ジョセフ・ジョースターって、典明お兄ちゃんと一緒にDIOを倒しにいった?」
涼子が尋ねた。DIOの元にいた鸚鵡と記憶を共有して知ったようだ。
「ああ。ジョースターさんが波紋を使ってDIOの肉の芽を焼き切るのを見たことがある。彼の話では、お祖父さんとお母さんが波紋使いで、生まれつきある程度波紋が使えたらしい。その後修行でさらに強力に扱えるようになったといっていた。波紋には吸血鬼を倒す他に傷を治す効力もあるんだそうだ。仗助君のスタンド能力は傷を治すことのできるものだし、もしかしたらと思ったんだが」
「なーよ、そンなの」
黙って聞いていた仗助は両手を頭の後ろに回してややぶっきらぼうに答えた。
「……そうか」
「別にひつよーねーんじゃあねーか?スタンドがあれば十分だろ?」
仗助は真っ暗なトンネルしか見えない窓を見ながら続けた。

「ちょ……ちょっと待て、仗助。……お前……ジョセフ・ジョースターの……」
加えていた棒をポトリと落としたホル・ホースが驚きながら仗助に聞くと、
「あーそうらしいっスよ。まーオレはあったこともないしー?向こうもオレのこと知らないしー?なんか隠し子とかってことになるらしいっスよー」
どうでもよさそうな口調で仗助が答えた。
「……マジか……」
棒を拾うことも忘れたホル・ホースが呟き、
「そうか……だから10年前に熱で寝込んで、ノーマルからシビア、アウェイクに……」とブツブツと独り言を続けた。

ボインゴも、仗助がジョセフ・ジョースターの息子と聞いて驚いたが、納得した。イギリス系アメリカ人のジョセフと黒髪日本人でリーゼントに制服の仗助。どこが似ているとはいえないのだが、体格やスタイル、やや軽い口調に、明るい雰囲気は、似ていると感じたのだ。

仗助とホル・ホースのやり取りを黙って聞いていた典明は「そうか」とだけ続けた。
昨夜から今朝の様子を見ると、仗助と典明は親しくなったようにボインゴには見えたが、”父親”が絡むと違うようだ。自分が生まれてから会ったこともない父、そしてその父と旅をした幽霊が横にいる。どんな気分なのかボインゴには想像がつかなかった。

「波紋で怪我を治すことができるの?」
と涼子が典明に尋ねた。
「ああ、なんでも波紋は、”特殊な呼吸法により血液の流れを生命エネルギーに変える”んだそうだ。そのエネルギーによって、骨折ぐらいなら治すことができると聞いた。」
「だから、必要ねえって。」
と仗助が自分のスタンドを表出させた。
「そんな面倒な修行しなくても、おれのスタンドならどんな怪我でも一瞬で治せるんだからさあ~そんな心配いらないっスよ、先輩」
スタンドが力こぶを作る動作をし、仗助は笑顔になったが、涼子に向けた仗助の目は笑っていないかった。
「そ、そうね……」
と涼子も少し笑って話を切り上げた。

「なるほどなあ」と俯いて考え込んでいたホル・ホースが顔をあげた。



次の話(3-2-② 始まりの石と石②)  
目次  前の話(3-1-③ ボインゴは山へ遠足に③)

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