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3-2-② 始まりの石と石②

*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!

目次  前書き&注意点  前の話(3-2-① 始まりの石と石①)


ホル・ホースは車の助手席の仗助に、
「仗助。おめえ、自分がスタンド使いになった理由は聞いたのか?」
と尋ねた。
仗助はちらっと横の典明に目を向けると、いやあ……と笑うような表情で首を傾げた。
「……おめえにとっちゃあ気に食わねえ話かもしんねえが、これから会う吸血鬼にも絡んでくる話でな……」
「あー、そんな気ー使わなくっていいっスよ、どーぞ進めちゃってください」
仗助がしっしと手を振った。

ホル・ホースは今度はジョースターの血統の歴史を語った。

DIO──100年以上前のディオ・ブランドーのいたイギリスの貴族の一族・ジョースター家。
吸血鬼になったディオによって父を殺され家を失ったジョナサン・ジョースターは、波紋の師匠から波紋を取得する。元々素質があったジョナサンは強い波紋の戦士となり、一度はディオとディオの作ったゾンビたち一団を倒すことに成功した。
しかし、ディオは首だけとなっても生き残り、生き残った手下のゾンビを使って、客船で新婚旅行中のジョナサン・ジョースターを襲撃。相打ちとなって二人を乗せた船は海に沈没した。
ジョナサンの新妻は沈む客船から、他の乗客の赤子を連れて生き延び、のちにジョセフの父を出産した。生き延びた赤子は波紋使いとなり、ジョセフの父と出会って結婚し、ジョセフが誕生した。
一方ディオは、ジョナサンの首から下の肉体を奪って海の底で生き延びた。
14年前、船が海底から引き上げられると、吸血鬼ディオ・ブランドーはDIOとなり、イギリスからエジプトに移って手下を集め、世界を手に入れようと暗躍を始めた。
そして、その過程でスタンド使いを作る矢でスタンド使いになった。

「矢?」
運転席で黙って聞いていた典明が振り返った。

「そう弓矢だ。正確にはその矢の矢尻に使われた石だな」
「……矢で射抜かれた人間や動物は大抵死ぬのです。でもごくたまに生き残るのがいるのです。」
ボインゴが続けた。
「その生き残った奴がスタンド使いになる。DIOは生き残ってたのか、吸血鬼だから死ななかったのかは不明だが、とにかく矢によってスタンド使いになった。」

ザ・ワールド。
黄色く輝く悪霊。
10年経って思い出しても恐ろしいDIOのスタンド。

「スタンド使いは……スタンド使いも、石で生まれるのか?」
典明がホル・ホースに聞く。
「それが難しいところなんだがよ。オレやボインゴ、お前みたいな生まれつきのスタンド使いと、矢に射抜かれてスタンド使いになるやつに別れるって話なんだよ」

SPW財団の創始者は世界的な大富豪だったロバート・E・O・スピードワゴン氏で、イギリスから単身アメリカに渡った氏が、石油を発掘して得た莫大な富を、医療や自然動物保護など人類の発展のために捧げる目的で設立された。
氏はイギリスにいた時ジョナサン・ジョースターと親しく交流し、ジョナサン亡き後もその妻子、孫と交流、援助を惜しまず、ジョースター一族をサポートするように財団に言い遺したのだそうだ。
10年前にジョセフが、ジョナサンの体を乗っ取ったDIOを退治に行った時も、医療物資さまざまな面で援助を惜しまなかった。

「財団の人たちには、本当にお世話になったし、申し訳ないことをした」
と典明が遠くを見ながら少し悲しげに続けた。

DIOが消えた後も、財団は吸血鬼にスタンドについて極秘に研究を続け、スタンドの関係者の発見、監視、援助等を行なってきた。
そして財団の研究者は、こういったスタンド関係者の違いに、名前をつけた。生まれながらのスタンド使いはナチュラル、弓矢などにより途中でスタンド使いになったものはアウェイク、スタンドが見えるだけの人間はマイルド、高熱を起こしたものはシビア、スタンドが見えないものはノーマル、といった感じだ。

「あいつら自分が発見したみたいにいうんだよなあ」
呆れたような口調でホル・ホースは続ける。

財団の研究によると、ホル・ホースたちナチュラルと呼ばれるスタンド使いは、遠い昔から一定数存在していたと推測された。生まれつきスタンドを持ち、スタンドの名前も覚えているスタンド使いたちで、タロットカードの名前のスタンドか、エジプトの神の名前のスタンドとなっている。
元々マイルドと呼ばれる人間はナチュラルより多くの数がいて、霊感の強い人間などとされていた。
ナチュラルの血縁親戚に発熱を起こしたりして死亡するものが多く、これが実はシビアだった、と現在の研究では考えられている。
長年それらの数は限られていて、いなくなりもしなければ増えもしなかった。

しかし、14年前に弓矢が発見され、そこからアウェイクが増えていった。

スタンド使いを生み出す弓矢は、長らく遺跡に埋められていたことがわかっている。それをDIOの手下になったエンヤ婆という老婆が手に入れDIOを矢でいったのだ。

そこまで聞いて、ボインゴは、手をぎゅっと握りしめた。
それは実は、ボインゴのスタンド・トト神の予言によるものなのだ。

《エンヤ婆は、イタリアにいって、ナーゾから弓矢を買い取れ!
 弓矢で人を射ると新たなスタンド使いが生まれるよー
 でも大抵死んじゃうから気をつけてねッ!》

《エンヤ婆は、イギリスにいって、DIOを迎えろ!
 弓矢で射ると世界を手にいれることができるよ-
 でも太陽に当てると消えちゃうから気をつけてねッ!》

ボインゴは、自分の予言がDIOをスタンド使いにした、と言おうかいうまいか逡巡した。
3人とも話すホル・ホースに注意を向けていて、ボインゴの方は見ていない。
仗助、隣の涼子、そして──花京院典明。

口を開きかけたボインゴはつぐんだ。
ボインゴのスタンドの預言した弓矢。その弓矢から現れたスタンドが、結果的に花京院典明を殺したのだ。
なんと言っていいかわからなかったし、何も言えなかった。

トト神は最初から法皇を、花京院典明を殺すつもりだったのだろうか。

さらにホル・ホースは、財団の職員から最近聞いたという情報を話した。

「これはまだほんっとうに研究段階らしいんだがよ、どうもその矢から、特殊なウイルスが発見されたらしい」
「ウイルス?」
「ウイルスって、ばい菌とかのっスか?」
涼子と仗助がきょとんとした表情になった。
「ウイルスというとインフルエンザウイルスなどか?細菌より小さい存在で病原体になるという……」
典明も怪訝な顔になった。
「ウイルスでスタンド使いになるって、オレたちビョーキってことっスか?」
仗助は少し嫌そうな表情をした。
「……ウイルスは種類によっては宿主の行動を左右するものがいると、本で読んだことがあるんだが」
典明も険しい顔になる。

「まあまあ、待て待て。それに仗助。おめえの場合はちょっと違う」
ホル・ホースが両手を上下に動かして、仗助を宥めるような仕草をした。

「まずウイルスは病気の元になるんだが、生き物に取り込まれて、その生き物を進化させることがあるらしい。SPW財団の連中によると、この石から発見されたウイルス──連中はSウイルスって呼んでたが、そのウイルスは特性を持った人間に働きかけて、その人間をスタンド使いに進化させるんだそうだ。」
「進化……スタンド使いに……」
涼子が荷物置き場の鸚鵡をちらっと振り返った。

「もっというと、その人間の魂を進化させるんじゃあないか、と財団の研究者の連中は言っているらしい」
「魂か……研究者の見解にしては非科学的だな」
典明がいうと、ユーレイに言われたくねえな、とホル・ホースが返した。
「理由もあるぜ。」とボインゴを指差して続けた。
「1つは、スタンド使いになるやつは、兄弟とか親子とか血縁でなることが多い。最初は遺伝かと思われたが、1人アウェイクになると、そいつの親子兄弟も間をおかずにアウェイクになったりシビアになったりする現象が確認されたんだそうだ。離れて暮らしていても、だ。これは肉体の反応では説明がつかない。」
今度は仗助を指さして、
「お前がそうだ仗助。ジョナサン・ジョースターの肉体を持ったDIOがスタンド使いになり、呼応してその孫に当たるジョセフ・ジョースターがスタンド使いになった。さらに、その娘、孫、息子ととスタンド使いになったり、なりきれずに高熱状態になったりした。DIOが消えたからお前は助かったスタンド使いになった」
そいつらに感謝しろよ、とホル・ホースは、典明を指差し、仗助と典明はちらっと互いを見合った。
「ついでにいうと、ジョースターの一族っつーのは、肉体の繋がりが強いらしい。ある程度の距離だとどこにいるかわかるんだとか」
そんなもんっスかねえ、と今度は仗助が鼻白んだ。

「もう1つは、スタンドが成長するってことだ。肉体に合わせて成長するっつーのはあるんだが、ある瞬間に変化することがスタンドにはある。これは肉体の成長じゃあちょっと説明がつかない話だ。何よりスタンドは精神、心が形になったものだからな。」
戦いの最中に時を止められるようになったスタンドもあるらしいぜ、とホル・ホースがつけたし、典明がふっと笑った。

が、ボインゴの胸から不安は消えなかった。
スタンドの正体が、ウイルスなら……このトト神の予言は、預言の主は、神の正体は、ウイルスの意思なのだろうか。

「ってことは、おれのスタンドは、弓矢からアウェイクして新しくできたスタンドってことスね。で、皆さんのスタンドは、生まれつきのナチュラル。」
ホル・ホースの長い話を聞いた仗助が、ざっくりとまとめた。
「そういうことだな。」
ホル・ホースがうなづいた。
「じゃあ、昔っからナチュラルのスタンドがいたってことは、兄貴のエンペラーや、典明くんのハイエロファントも、昔もいたってこと……っスかね?」
「へ?」
ホル・ホースが聞き返した。
「だってその財団さんの話だと、遠い昔から一定数いて、タロットカードやエジプトの神様の名前だったらしいんスよね」
「オレたちのスタンドが昔もいたか、か? そこまではよくわかんねえなあ。あちこちの時代にあちこちにスタンド使いっぽい能力を持った人間がいたっつーのは調査で確認できたみてーで、能力もタロットカードの連中や9栄神に似てたらしいんだがなあ……そもそもスタンドは見える人間が少ねえし、形も能力も人それぞれだからなあ。……なんでそんなこと気になるんだ?」
ホル・ホースが仗助に聞きくと、
「逆かと思ったんス」
と仗助は答えた。
「逆?」
「いや、皆さんのスタンドが、タロットやエジプトの神様の暗示って話っスけど、元々スタンドが先にあって、それがタロットやエジプトの神様になったんじゃあないかなって」
「……それは面白いな、仗助くん」
典明が仗助を見た。
「昔々のスタンド使いや、スタンドが見える人たちが、スタンドを暗示や神だと思って伝え、それが後の世にタロットやエジプトの神々になったいうことか」
「まあ、話的には面白いし、ロマンがあるけどよお」
ホル・ホースは右手に自分のスタンド・エンペラーを出現させた。
「昔々に銃はねえだろう?」
それもそうっスね、と笑って仗助は前を向いた。

トト神が昔から繰り返しいるのなら、ウイルスは繰り返し預言をしているのかもしれない。
トト神を通して。

車は長いトンネルを出た。
窓の外を見ると、山々は真っ白な雪をかぶっており、間近で見る雪山にボインゴは見惚れていた。
あの雪はデパートで食べたアイスのように冷たいんだろうか。
思い出すと少し気持ちが楽になった。

高速の降口の案内が出てきて、仗助はあぐらの上に地図を広げ、典明と今後の道のりをやり取りし始めた。
乗った時と同じように料金所の手前で典明と涼子が入れ替わって料金を支払うと、また入れ替わった。
幽霊の運転する車は、田んぼや畑の間を進んでいった。

ボインゴは、デパートで買った旅行本の1冊を開いた。
カラフルな表紙に『れれべY県 ’98~’99』と書かれたその本には、山や神社、食べ物の写真が賑やかに並び、《Y県を旅しよう!》とポップな文字が踊っていた。目をチカチカさせながらパラパラとページをめくっていくと、霧がかった緑の山と紹介文にたどり着いた。

◎嶺冥山──火山の地熱がもたらす、静寂の山旅
標高約1,800メートル。東北にそびえる活火山で、古くより修験の霊場として「冥き者の山」と呼ばれる。
6合目の霧水湖(きりみずこ)は、湖畔の東屋と遊歩道が整備されており、通年で薄靄が漂う幻想的な場所。湖はかつて修験者の水行場だったと伝えられる。
それより上は、戦前から立ち入り禁止区域に指定されている。
嶺冥山は活火山地帯に属し、山体の熱で冬でも中腹までは積雪が少なく、自然散策スポットとして人気があるが、霧が出やすいため視界には注意が必要。
5合目には駐車場(普通車30台)、足湯、簡易トイレ、自動販売機が設置されている(売店なし)。
アクセス:
・東北自動車道「冷川口IC」から林道経由で約90分(未舗装区間あり)
・JR冷川駅 → 路線バス(季節運行、運行本数少)
・冬季はスタッドレスタイヤ必須。通行状況は町役場に確認を。
*1999年現在、案内パンフレットは役場観光課へ郵送またはFAXで請求。ホームページは準備中

ボインゴが本を閉じると、車内の会話が耳に入った。
地図を見ながら仗助が「あー次、2つ目の信号、右」などと典明にナビをしている。

ずっと荷物置き場で静かにうずくまり眠っているかと思われた鸚鵡が、車内をパタパタと飛んで涼子の肩にとまった。
涼子が鸚鵡の羽を撫でると、鸚鵡は嬉しそうに顔を涼子にすり寄せた。

ふと思いついたように涼子が仗助に声をかけた。
「そういえば、仗助くん」
「なんスか、先輩」
ポテチをつまみながら仗助が振り返った。
「仗助くんのスタンドは名前はないの?」
と涼子が聞いた。
「えーいやあ、ない……っスね。つーかおれ、今まで周りにスタンド使いっていなかったし、スタンドって名前も聞いたことなかったから、つける必要がなかったっつーか……その鸚鵡のスタンドはなんでしたっけ?」
「イシス女神よ」
涼子の声に呼応して、鸚鵡の背後に鳥のような形が浮かび上がった。
映画のフィルムが巻かれたリールが折り重なった羽根が鳥の形を作り、伸びたパイプのような足の間にパイプのような尾が伸びていた。
「どーも」となぜか仗助はスタンドに頭を下げた。
「ちなみにこの鸚鵡の名前は、サルジュっていうの」
「サルジュ?……ペット・サウンズじゃあなくて……」
ボインゴが鸚鵡にみせられた記憶でそう呼ばれていたと思って聞いた。
「それは、DIOがつけた名前よ。その前にこの子の飼い主のマリクさんは、別の名前をつけていたの。それがサルジュ。雪のように真っ白だからって」
アラビア語で雪とか氷の意味だと、ボインゴは思い出した。
「ちなみに女の子よ、このこ」
「へー、そいつは失礼したなあーサルジュさんよお」
とホル・ホースがボインゴ越しに手を伸ばすと、キイと鸚鵡・サルジュは嫌がるような仕草をした。

涼子は仗助に向き直ると、「あなたのスタンド名前をつけてあげましょうか?」と言った。
「え?ええ??」
目を見開いて仗助は驚いた。感情豊かな仗助だが、こんなふうに驚くのは珍しい。

「だって、スタンドだと呼びにくいでしょう?スタンドたくさんいるし」
「ああ、そりゃあいいな。ハートくんとかどうだ?ハート型だしよお」
「……確かに。スタンドは、精神の具現化だから、名前があったほうが意識しやすいし、コントロールもしやすくなりそうだ。治療ができるからセラピスト、とか……」
「そうねえ、仗助くんのスタンドだから、リーゼントパープル、なんてどうかしら?」
めいめい勝手に名前をつけ始め、ちょ、ちょっと待ってくださいっスよ、と仗助は慌てた。
「ま、まだ昨日スタンドって知ったばっかりなんスからッ! もうちょっと考える!つーか自分でつける!」
とストップをかけられ、「そうかー」と少し残念そうに3人は答えた。

やれやれだぜ、と誰かの口癖を思い出しながらボインゴは窓の外に目を向けた。

道の両側に山々が連なっていた。
道のいく先に見えていた、霧けぶる山が徐々に大きくなってきた。

目的地の嶺冥山だ。



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