3-3-① 暴力の嵐①
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
目次 前書き&注意点 前の話(3-2-② 始まりの石と石②)
まだ芽吹く前の落葉樹に、青々とした常緑樹が混在し、さまざまな太さの木の幹が、茶色く白く不揃いに伸びていた。
生い茂る木々によって、登り始めた月の光はところどころで遮られてしまい、あたりは暗く、木々の輪郭がシルエットとなって確認できる程度だ。
斜面となっている地面は落ち葉が積もって柔らかく、ところどころにわずかに雪が残っているため、滑りやすくなっている。
そんな木の間から、黒い影が姿を現し、こちらに襲いかかる。
「ハイエロファントグリーンッ!」
緑色の紐状となったスタンドが地面を走り、木の幹を這い上って、槍のように突き出して、背後から影を貫き、貫かれた影はその場に倒れる。
木の隙間から注ぐ月光によってあらわになったその影は、人の形をしていながら人ではなかった。長すぎる手足に伸びた爪、見開いた赤い目に、口からは牙がのぞく。
吸血鬼の作り出したゾンビ──その姿はいやでも、かつての自分の敵を思い出させた。
自分が屈し、自分を操り、最終的には自分の命を絶ったあの男を。
過去の記憶に意識が向きそうになる自分を、首を振って退ける。
(今は今の敵を倒すことに集中しなくては……!)
花京院典明は再び襲ってきた影に自分のスタンドを向かわせた。
嶺冥山に到着し、5合目の駐車場で涼子の準備したおにぎりなどをとって少し休憩した後、一行は山に入った。まだまだ寒い冬山に人の姿はなかったが、典明たちにとっては都合が良かった。
登って6号目には霧水湖が、その名の通り霧の中で静かな水面をたたえていた。湖のそばで日が暮れ、持ってきたライトを頼りに登っていった。
目的は、花京院家から盗まれた宝石──アクリドル水晶の奪還と、杜王町からの吸血鬼たちの排除である。
花京院家の所蔵品の1つである美しい水晶は、典明も知らない名前と秘密を持っていた。”アクリドルの水晶”という名前で、それを満月の下で使って儀式を行うと、吸血鬼に太陽を克服させる。しかも吸血鬼たちは、太陽を克服したら杜王町を襲うつもりらしい。
日本の杜王町の花京院家にまで吸血鬼が姿を現し、しかも自分の父母にまで危害を加えたことを、典明は許せなかった。
10年前、操られていたとはいえ出奔しそのまま死亡したことで、自分は父母を深く傷つけてしまったのだ。
なぜ死んでから10年も経った今、自分が幽霊として現世に蘇ったのかはわからなかった。
しかし、今はなんとしても、両親を吸血鬼から守ろうと花京院典明は決意していた。
アクリドルの水晶を持ち去った人ならざる賊から、この山に潜伏する仲間たちに、典明たちの情報は伝わっていたようだ。
湖が見えない距離まで木々生い茂る山に入り込んだところで、吸血鬼だかゾンビだかが、何体も襲いかかってきた。
しかしこちらも、吸血鬼やゾンビは延髄を破壊すればいいと言う、SPW財団の研究結果を共有していた。
そして、吸血鬼もゾンビもスタンド使いではなく、スタンド使いでないものにスタンドは見えない。
見えないように隠れてあるいは網を張っての攻撃は、花京院典明のスタンド・ハイエロファントグリーンの得意技だった。
ハイエロファントの緑の触手は触れるものが手に取るようにわかる。その触手を山の地面に木の枝に張り巡らせて結界を張れば、やってくる敵が暗闇でも感知できた。
蜘蛛の巣に引っかかった蛾を潰すように、触手の一撃で仕留めていく。
「くらいやがれ、エンペラー!」
少し離れたところで、ホル・ホースが右手の銃からあちこちに弾丸を放っていた。
ホル・ホースのスタンド・エンペラーから放たれた銃弾はあちこちでたらめな方向に飛んでいったように見えたが、木々をすり抜け、空中でくるりと曲がって、確実に吸血鬼の後頭部に命中した。
「なるほど銃弾もスタンドだから、軌道を曲げて脳幹を直接破壊できるのか」
典明はエンペラーの特性を思い出した。これなら、対吸血鬼とは相性がよさそうだ。
「へへッ エンペラー久しぶりの戦場復帰ってやつだぜ。人を殺すなと言わちゃあいるが、ゾンビを殺すなとは言われてねえからな」
ホル・ホースが得意げに銃を構えた。
襲ってくる影たちは人の形をしながら異様に手や足が長かったり、ものによっては翼が生えていたり動物のような4本足で、うめき声ぐらいで会話はできず、知能は低いようだった。
そこからホル・ホースは、これらは吸血鬼ではなく、吸血鬼の作り出したゾンビだろうと予想した。
「ま、また、来たあーーッ!」
「こっちよ、仗助くんッ!」
「ドララララーーーーッ!」
「あ、お……起き上がってきた!」
「しつけーなあッ!ドラーーーーーッ!!」
リュックを背負って懐中電灯とほとんど杖がわりの薙刀を持った涼子と、ナップザックと日本刀を背負ってサンバイザーの上にライトをつけたボインゴを、仗助が自分のスタンドで吸血鬼たちから守っている。
イシス女神のスタンド能力で夜目が利く鸚鵡・サルジュが、時折キーキーと鳴いた。襲ってくる敵を知らせるように、頭上を飛び回っている。
吸血鬼もゾンビも延髄を完全に破壊すれば活動を停止する。逆にいえば延髄を完全に破壊できなければいくら傷つけても死なず、傷は治って復活して動き始める。
仗助のスタンドは近距離型で強力なパワーを持ち、次々とゾンビたちを殴って吹っ飛ばしているが、立ち上がってまた襲ってくるものも多いようだ。
あのパワーを持ってすれば頭全部を完全に潰せそうなものだが、そうできないのはスタンド能力というより特性の問題だろう。
仗助のスタンドはパワーもあるが、壊れたものや怪我を治すのが主力の能力のようだ。そしてスタンドは持ち主の精神が反映されたものであることから、仗助は人を傷つけ倒すよりも、治し助ける人間なのだろう。あんな見た目にも関わらず、幼い時のまま優しい心根の少年に育ったのだ。
だいぶ人間から離れているとはいえ、人の形をとって動く相手をぐちゃぐちゃに破壊するのは、仗助の深層心理がブレーキをかけてしまうのだろう。
結局腕力で遠くまで吹っ飛ばすことにしたようだ。
次々とゾンビたちが夜空に飛び舞っていった。
「ったくッ!次から次へとしつけーなッ!」
ゾンビたちを大量に空に吹っ飛ばしながら、仗助がぼやいた。
そんな仗助の様子を、後ろで心配そうに見ていた涼子だったが、ふと思い立ったように「待って、私も戦うわ!」と薙刀を敵に突きつけた。
仗助が驚いて振り返り、
「いや、そんな薙刀なんて無理っスよ! あぶねーからおれの後ろに……」
となだめようとしたが、
「薙刀じゃあないの」
と涼子はニヤリと笑った。
空中を飛んでいたサルジュが涼子の前にサアーっと降り立ち、その背後に、映画のフィルムが巻かれたリールが折り重なった鳥のスタンド・イシス女神が現れた。
ギョッとしたホル・ホースが、「ま、まて……」と制止する前に、
キイイイイイイイイーーー
と鸚鵡の鳴き声が響いた。
「えらァァァいねェェェェェ!!」
「えらァァァいねェェェェェ!!」
「えらァァァいねェェェェェ!!」
という声があちこちから聞こえた後、その場にいた人々が次々と吹っ飛び、涼子とサルジュを残して次々と倒れた。
ゾンビたちも、仗助もボインゴもホル・ホースもである。
一瞬呆気に取られた典明だったが、倒れたゾンビたちをハイエロファントの触手で次々に仕留めていった。
あらかたゾンビを倒した後、典明は涼子に近づいて尋ねた。
「何をしたんだ、今?」
聞かれた涼子は笑顔になって、どこか嬉しげに自慢げに語った。
「サルジュのスタンド能力よ。この子は自分が体験した記憶を、相手に再現して体験させることができるの。鳴き声を聞かせると効果を発揮するのよ」
典明も鳴き声を聞いたが、何も体験しなかった。典明が幽霊だからということか。肉体の脳に働きかけるスタンド能力なのかもしれない。しかしそれをいうと涼子が悲しみそうなので黙って聞いていた。
「今の記憶はね」
と言いかけた涼子の肩にガシッと手が置かれた。
「おい……」
涼子の肩に手を置いたホル・ホースがよろよろと立ち上がった。
「おいおいおいおいッ! 勘弁してくれよ、嬢ちゃんよおッ!! そのイシス女神は、オレたちも巻き込んでんじゃあねえかよおッ!!」
典明が下を見ると、ボインゴと仗助が地面に座り込んでいる。まだぼんやりした表情だ。
「……シルバーチャリオッツにスタープラチナ……オラオラにホラホラでボコボコにされて吹っ飛ばされて……痛かった……怖かった……死ぬかと思った……」
「……すげえパワー……早えし鋭いし……あんなスタンドもいるんだな……」
相手に再現して体験させる、感覚と動作を強制的に再現させるスタンドということのようだ。発言内容から推測すると、ポルナレフと承太郎と戦った敵の記憶を再現されたらしい。
同じ感覚と動作を体験しても、それに対する感情感想は個人差があるようだが。
ホル・ホースが涼子に顔を近づけてさらに捲し立てた。
「精神的ショックでオレたちまで殺す気かよおッ!」
「ご……ごめんなさいッ。あの、サルジュの鳴き声が聞こえなければスタンド能力は効果が出ないから……イシス女神がでたら耳を塞いでもらえれば……」
「俺のスタンドは右手にやどるんだよ!」
とホル・ホースは自分のスタンドの銃を右手に現した。
「手で耳塞いでてどうやって戦うんだよッ!!」
「え……それは、その……練習すれば、能力の対象者を絞ることができるから……」
「嬢ちゃんは、もうそいつは使うんじゃあねえ! オレたちが戦うからよおッ!」
ホル・ホースは涼子に指を突きつけてすごい剣幕で捲し立て、涼子はしゅんとなってうなづいた。
「ごめんなさい……」
「ったくッ」
イシス女神のスタンド能力は相当強力なもののようだ。
体験できないのが残念だ、と典明は思った。
お詫びなのか機嫌直しか、涼子がリュックから飲み物を出して3人に手渡し、それぞれのどを潤した。
仗助は遠くに倒れたままのゾンビたちを見ていた。
「どうした、仗助くん」
典明が声をかけると、うーん……とすっきりしない返事をした。
「……君のスタンド能力は強力なパワーだ。もしピンポイントで脳幹の攻撃が難しいようなら、さっきみたいに遠くに飛ばしてくれれば十分だが。」
「いや、そーゆうんじゃあなくってよー」
と吸血鬼たちを見たまま続けた。
「こいつら人間に治せねえかなって思ってさあ」
「人間に?」
典明が驚いて聞き返し、仗助が答えた。
「さっきの話だと、元人間だった連中が、石仮面だの吸血鬼に血を入れられただのでこうなったって話だったろ? だからおれのスタンドで人間に戻せねえかと思ってさ。入れられた血を抜き出すとかでさあ」
吸血鬼に襲われる最中、典明は吸血鬼を倒すことだけを考えていた。
なのに、仗助は吸血鬼を救うことを考えていたのだという。
典明は仗助を見つめた。
「何言ってんだあ?仗助。相手はもう人間じゃあねえ、人間を襲って食い殺す吸血鬼に、ゾンビなんだぜ。そんなこと考えてたら、こっちがやられちまうぞ。」
お茶を飲んでいたホル・ホースが、呆れた様子で仗助にいった。
「ぶっ倒せばいいのさ。お前はボインゴと嬢ちゃんを守りゃあいい。近づく奴は全部吹っ飛ばせ!!」
「まあ、そう……スよねー」
頭をかきながら仗助もホル・ホースを見返した。
「仗助君……」
典明が言いかけた時、地面に張り巡らされた触手の結界がゾワっと反応した。何かが侵入してくる。何か異様なものが。
「なッ」
真っ暗な山の地面に、さらに黒い”影”が広がった。
