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1-2 典明お兄ちゃんの記憶

*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!

目次  前書き&注意点   前の話(1-1-④ 悪霊の街、スタンド使いの挨拶④)


──のりあきおにいちゃん、だいすきッ!
──ありがとう、涼子ちゃん。僕も好きだよ。
──わたし、おおきくなったら、のりあきおにいちゃんとケッコンするのッ!──えっ、結婚?
──しらないの? おんなのこは、16さいになったらケッコンできるのよ。
 いとこどうしだってできるんだから!
──……よく知ってるね。
──ケッコンシキは、かぼちゃのばしゃにのってはとをとばすの!あとゴンドラにものるのよ!
──ハハハッ、女の子ってすごいな。
──わらわないのッ!シンケンなのよ!
──これはこれは、失礼いたしました、milady. 貴女様にふさわしい男になるべく精進いたします。
──きっとよ!ヤクソクしたからね!
──はいはい……わかったよ。



幼い日に結婚の約束をした、
だいすきなダイスキな、
大好きだった典明お兄ちゃんは、
今、
冷たい墓の下にいる。


卒業したばかりの高校の制服を着て通学鞄を持った花京院涼子は、
”花京院典明之墓”と彫られた墓石を見つめた。

花京院の家は古い。
伝えられる話では、始まりは平安の昔に遡るという。
京の中枢での権力闘争に敗北し、処刑され抹消された一族がいた。
その家の幼い姉弟が難を逃れ、細い縁を頼ってここ東北の地へ辿り着き、隠れ暮らした。
亡き親兄弟親類縁者の霊を弔う為、姉姫が寺を開き、その寺院が花京院と呼ばれるようになった。そして姉姫は、この地に流れ着いた余所者と結ばれ、代々その子孫と寺院・花京院がのちの世に受けつがれていった。
一時は、城下町から近隣の農村まで広大な敷地をもち、民草の冠婚葬祭から萬相談、揉め事の仲裁、病のものを癒し、孤児や寡婦を養い、地域住民を支え慕われていたという。

しかし、幕末から明治維新の動乱の中、廃仏毀釈の煽りをうけ、寺院・花京院は廃寺となった。土地は没収分割され、一部は霊苑に、また分家に分かれていき、売り買いされて縮小した。寺の跡地はS市に地名交差点名としてその名前を残している。
S市に隣接した現在の杜王町の部分は残され、霊苑隣に代々の花京院本家分家の墓地と、その隣に新たな屋敷を現した。住職でなくなった一族は、寺に伝わる珍しく貴重な宝物骨董品芸術品と、地域周辺とのネットワークから、国内海外と物品を売買する貿易会社を起こした。
そして、明治大正昭和の激動の時代を経て、平成の現在まで、地方の名家旧家・花京院家として存続している。

元々寺であったこともあり、花京院の家にはいくつかのしきたりがあった。
一族を統率する当主が決められ、一族は皆当主に従った。基本的には前の当主の長男が当主になったが、例外もあったという。当主の妻子以外は分家となり、本家を支える役割を担った。
元々他からこの地にやってきた一族の結束は固かったが、地元民との交流を常に意識し、積極的に地元と婚姻を結んで血縁を作っていった。そのため、杜王町には花京院の血を引くものが増えていった。

現在の当主は、花京院龍典。貿易会社桜洋商事社長である。
花京院典明はその長男で、将来は家の当主と社長を継ぐ予定だった。
涼子は、龍典の弟の娘の分家筋であり、小さい頃に子会社のある京都に移り住んでいた。
家の仕事の関係で家族で海外に行くことが多く、両親が英語を家で流すので、幼い涼子も英語に慣れ親しんで育った。

花京院の家は、毎年年末年始に一族皆杜王町の本家に集まるのがしきたりだった。長い休みには親族で集まって旅行に行くことも多く、涼子はよく杜王町の本家に出入りしていて、9歳上の従兄弟に懐いていた。

懐いていたと言われるが、涼子は本当に彼が好きだった。
本家に行くたびに挨拶もそこそこに、従兄弟のいる離れの自室に駆け込んだ。典明はいつもゲームをしていて、「やあ、涼子ちゃん、いらっしゃい。よくきたね」と微笑んで迎えてくれた。
涼子のわがままに付き合って、庭で一緒に遊んでくれた。
優しかった。
爽やかな笑顔が大好きだった。

スラリとした長身。一部の前髪だけ伸ばした赤茶色の髪、切れ長の瞳。
いつだって穏やかで冷静で、取り乱すことはほとんどなく、とても頭が良くて物知りで、でも物静かで控えめで。
学業優秀で親の手伝い家の手伝いもこなし、年上に敬意を払い、年下を上手に導き、女性にレディーファーストの高校生は、さすが本家の跡取りだ、今後も花京院家は安泰だと、親戚皆に褒め称えられていた。

きっとそうなっていたのだろう、あんなことがなければ。


花京院典明は、1988年夏の家族旅行からの帰国後失踪し、翌1989年1月死亡した。
家族旅行先だったエジプトカイロで1人、現地の大規模な事故に巻き込まれて死亡していたのを収容されたのだと言う。


典明お兄ちゃんが家出をした後、家中大混乱になった。
警察にも連絡されたが、一人で今後の人生を考えたい、そのうち帰ってくるから探さないでほしいと書かれた書き置きが残され、身の回りのものがきちんと整頓され、貯金と必要なものだけ持ち去られていた状況から、恵まれた家の跡取り息子が将来に悩んで家出したと判断され、事件性はないものとされた。
もちろん皆必死で探した。
でも、見つからなかった。
そして、遠い異国の地で遺体となって発見され、無言の帰国をしたのだった。

みな驚き、嘆き悲しんだ。
でもきっと警察の言う通り、周囲にはわからない悩みの末、思春期の家出の結果の不幸な事故だったと思われた。


でも。

私だけが、違う、と知っていた。
あの男のせい。
エジプトで出会ったDIOというあの恐ろしい男のせいなんだと。


あの夏のエジプトへの家族旅行。

毎年夏には、父の兄弟家族が集まって親戚で旅行するのが恒例行事になっていた。貿易関係の会社のため、海外へいくことも多く、夏の旅行は半分は仕事も兼ねて、珍しい国へいくことが多かったが、この年は旅行代理店の勧めでエジプトに決まった。
カイロについて、男女に分かれ、女性陣は観光や買い物を楽しんでいた。
涼子も母の手をしっかり握って一緒に街を歩いていた。
はずだったのに。

気がつくと涼子の側に母はおらず、周りは見知らぬ異国の大人の男の人ばかりになっていた。
大きな体、こわい髭、知らない言葉。
じろりと睨まれて、慌ててべつの道へ。また次の通りへ。
歩いても走っても、母も伯母さんたちも見つからず、泣きそうになりながら歩き、ついに歩き疲れて店の軒先にしゃがみこんだ。
知らない国で迷子になって、もうお家に帰れないかもしれない。お母さんにもお父さんにも典明お兄ちゃんにも会えないかもしれない。
不安で押しつぶされそうになりながら、涙をこぼし、通りを行きかうエジプトの人々を見ていた。
ふと影が落ちて上をみると、真っ白な鳥が上空をゆっくり旋回していた。
お空を飛べたらお家に帰れるのに、そう思った。
青い空は赤く夕暮れに変わり始めていた。

どれくらい経っただろう。

「涼子ちゃん!」

典明お兄ちゃんだ。いつも綺麗に整えている前髪を乱し、息を切らしながら涼子のところに駆け寄ってきた。涼子は泣きながら抱きついた。
「はぐれたって聞いて皆で探していたんだ……よかった……。いこう、叔母さんたちがあっちで待ってる」
隠れん坊しても、いつも典明お兄ちゃんはすぐ見つけてくれる。今日も典明お兄ちゃんが見つけてくれた。やっぱり典明お兄ちゃんは涼子の特別なんだ。
嬉しくて嬉しくてすっかり笑顔になった涼子に、典明はいつもの様に微笑みかけると、しっかりと手を引いて、暗くなった街を歩きだした。

が、涼子に合わせてゆっくり歩いていた歩行が徐々に早くなり、握る手が強くなっていく。
「典明お兄ちゃん?」
典明は見上げると見たこともない硬い表情をしていた。
小走りから駆け足になり、スピードに追いつけなくなった涼子を抱いて、走り出した。
「のりあ……」
「黙って。しっかり捕まって」
低い鋭い声で典明がいい、涼子は捕まりながら、また不安に胸がドキドキしていった。
典明お兄ちゃんがきてもう安心だと思ったのに。こんな怖い顔怖い声の典明お兄ちゃんは初めて、どうしたんだろう。
同じようなカイロの街並みを走り続け、十字路であちこちを確認しては、また走ってを繰り返して、立ち止まった。道端に塀や木材が鉄材が置かれ積み重なっているのを見た典明は、上がった息を整えて、重なった鉄材の下の小さなスペースに涼子を入れた。
「ここでじっとしているんだ……絶対に顔を出すんじゃあない」
そして涼子を守るように背を向けて立った。

「──Your family’s visit to this town, your wandering here tonight―mere trifles, all designed to bring you to me.」

男の声が聞こえた。綺麗な英語だった。

鉄材越し、典明の背中越しに見ると、典明の向かいに男が立っていた。
アラジンのような尖った靴、膝のところでハートの留め具がついたゆったりとした黄色いズボン、上半身は腹筋がはっきりわかるピッタリとした黒の上にボレロのような黄色い上着をはおって、手首と足首に何連もの輪っかをつけていた。
180近い典明よりさらに背が高く逞しい肉体をしており、顔は影になって見えなかったが、月の光を浴びて綺麗な黄金色の髪が光った。

いつやってきたのかわからなかった。
その男の登場で、典明の緊張が一気に高まったがのが背中越しでもわかり、涼子は鉄材の下で何も言えずに震えていた。

「ゲロを吐くくらい怖がらなくてもいいじゃあないか」
近くなった声にふと見ると、典明のすぐ横に男が立っていた。いつの間に移動したのか全くわからなかった。
静かな物言いの男の声は、静かで優しく、もっと聞いていたいような妖しい魅力があって、とても恐ろしかった。

典明は汗びっしょりかいて──動けなかった。

「安心しろ安心しろよ、花京院。」

男の影がザワザワと大きくなった。

「友達になろう」

次の瞬間、典明は、叫び声をあげて、額を抑えて地面に突っ伏し、転げ回った。

典明お兄ちゃん、典明お兄ちゃん!
声にならない叫び声をあげながら、涼子はのたうち回る典明をじっと見ているしかなかった。

闇を切り裂くように続いていた叫び声がきえ、典明は四つん這いになりながら息を整え始めた。

「さあ、手を。花京院典明」
と男が屈んで典明に手を差し伸べた。
真っ黒な長い爪の伸びた白い手を。

顔を上げた典明は、額を切ったのか顔に一筋血を流していた。
しかし、それを気にする様子もなく、うっとりと男を見つめ、恍惚という表情を浮かながら、
「DIO様……」
と答えた。
男の手を典明が取ると、男はゆっくりと典明を引き起こした。

立ち上がった典明は手を離して姿勢を正すと、執事が主人にするように、左手を体の前に回し右手を後ろに回して、男に礼をした。
「私は貴方の忠実なる僕。全ては御心のままに、DIO様。」

男は満足したようにうなづくと、「私は君の力を必要としている。期待しているよ、花京院」といい、礼をする典明に背を向けて去っていた。


涼子はただ黙って見ていた。何が起こったのかわからなかった。

男が立ち去るまで礼をしながら見送った典明は、涼子の方を見るとにこやかに微笑んだ。
「やあ、涼子ちゃん。お待たせ」

背中がゾクゾクした。
何?何なの?
いつもの典明お兄ちゃんの優しい笑顔なのに、
違う。
典明お兄ちゃんじゃあない。

青ざめる涼子を鉄材の下から引き出すと、「いこう、叔母さんたちがあっちで待ってる」と、何事もなかったように涼子の手を引いて歩き出した。

今のは何だったの?
あの男は何者なの?
DIOって?

疑問がぐるぐると頭の中いっぱいになったのに、何も言えなかった。
典明お兄ちゃんは穏やかな笑顔で涼子に何も言わせなかった。

涼子は典明に連れられて家族に合流し、子供の迷子は旅行の1アクシデントで終わった。何もなかったようにエジプト旅行は再開されて何もなかったように終わり、皆で帰国した。

帰国して、典明は行方不明になり、そして──


きっとあのDIOという男が関係しているんだ。
あいつが典明お兄ちゃんをエジプトに連れていったんだ。
そう思ったけど、誰にも言えなかった。
言えば結果は変わっていたかもしれないのに。
でも、誰にも言えないと思わせるほどに恐ろしかった。あの時の典明お兄ちゃんも、DIOという男も。


そうやって典明お兄ちゃんを失ったことは、涼子の大きな傷となった。
悲しみ後悔喪失感。

典明お兄ちゃんの髪型。
典明お兄ちゃんのイヤリングの片方。
典明お兄ちゃんの姿勢表情話し方。


そういったものを記憶から繋ぎ合わせて再生し、まるで花京院典明のように振る舞うことで、傷を埋めようとした。
そしてこの10年生きてきた。
彼の不出来な模造品として。


「あの時、私はどうしたらよかったの?
どうしたら典明お兄ちゃんを喪わずにすんだの?」

墓石にといかけるが答えはなかった。
冷たい風が墓地を吹き抜けていった。


この10年、何百、何千、何万回と答えのない問いを繰り返しただろう。


左手を持ち上げて大きな腕時計を見た。
墓地に来てからもう1時間以上過ぎている。
家に戻ろうと振り返った時、地面を影が横切った。
見上げると白い鳥が涼子の頭上を通り過ぎていった。


(あの鳥!)


あの時、エジプトで見た鳥──に見えた。


まさか、そんなはずはない。
10年も経って、しかもエジプトと日本でこんなに遠く離れているのに。


頭では打ち消すものの、足が勝手に鳥を追いかけていた。

鳥を追って墓地から出て、道を走っていった。

「……見失っちゃった。」

当然か、と戻ろうとすると、地面に何か落ちているのを見た。


落とし物か、と近づくと、分厚くしっかりした古い本のようだった。
ページが開いて上を向いたままになっていて、落ちたというより、置いたようだった。


開いたページを覗くと文字ではなくて、絵がコマわりで書かれていて、漫画のようだった。

(大きな漫画本……)

ふと涼子が覗くと、そこに文字が浮かび上がった──ように見えた。

《DIO》

涼子は、その漫画本を拾い上げた。


次の話(1-3-① 砕けぬダイヤ①)  
目次  前の話(1-1-④ 悪霊の街、スタンド使いの挨拶④)

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