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3-9-① 超春満月①

*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!

目次  前書き&注意点  前の話(3-8-④ 黒の囁き④)


「あ……」

仗助の前からジョセフが消えた。
代わりに目の前に映るのは、月明かりのみの暗い空、雪がおおう木々。
元の嶺冥山に戻っていた。

「典明お兄ちゃん、典明お兄ちゃん!!」
声のする方に振り向くと、あたりの地面は攻撃を受けた後のゾンビの肉体、その残骸で埋め尽くされていた。
その残骸の中で、緑の幽霊・花京院典明が膝をついていて、傍に肩にサルジュを止めた涼子が付き添っている。
典明はさっき仗助が見た時よりもだいぶ姿が薄くなっていた。
「おいッ!」
仗助は駆け寄って自分のスタンドを現し典明を治そうとした。が、何も変わらなかった。
やはり、イシス女神が持っていた生前の花京院典明の記憶がないと、この幽霊の治療はできないらしい。

「だい……じょうぶ……だ……。エネルギーを一気に使いすぎた。……少し休めば……」
大きく息を吐いて、残り少ない力をかき集めるように典明は答えた。
ゾンビを一掃するのに無理をしたのだろう、幽霊として存在することも難しくなってきているようだった。
しかし、その視線から力は失われておらず、強い意志を持って真っ直ぐに見据えていた。
「……まだ……戦える……」

典明の見据える視線の先には、一樹と大仁がいた。
2人揃って雪の上に這いつくばっていて、胸から下は攻撃を受けた後でぐちゃぐちゃに破壊されていた。
胸から頭は無事で、大仁は雪の上を両手で這いずっている。首の周囲を庇ったのだろう。破壊された下半身に、足や脇腹の肉がウニョウニョと動いて集まって行っている。
同様に一樹にも下半身の肉片が集まって行っていたが、本体は雪の上でのたうち回っていて、横に石仮面が落ちていた。
「い、痛いッ……痛い、お祖父様、体が……ちぎれて……痛い、痛いーーーッ!」
人間なら死んでる傷だが、吸血鬼は延髄をやられない限り死なない、死ねない。治るにも一瞬というわけにはいかないようで、一樹は痛みに苦しみのたうち回っていた。
仗助は自分のスタンドを一樹に向けたが、どうしたら良いのかわからなかった。治してやるのか、それとも……

「ったく、ずっと楽しく笑い続けるっつーのも限度があるな。笑い死になんてごめんだぜ」
ホル・ホースが肩を回しながら仗助の横に歩いてきた。
ボインゴの方は、疲れた、と少し離れた地面に座り込んでいる。

ぐるりと周囲のゾンビの残骸を見わたしたホル・ホースは、右手に銃のスタンド・エンペラーを現し、雪の上でうごめく大仁に狙いをつけた。
「お前らの負けだ。さっさと、水晶とやらを出しな。」
「お助けを!お助けくださいーー!!ヘーールプーーーーッ!!」
と大声で助けを求める大仁は、ホル・ホースとは逆の方向の、研究所に手を伸ばした。
集まってきた肉片が尻から大腿部を形成し始める。
「ちッ」
ホル・ホースがエンペラーの弾丸を放った。
「ひいッ!」

しかし、弾丸は、上から飛んできた黄色い粘液に絡め取られ、雪の上に着弾した。

「な……?」

粘液が飛んできた先、黒い研究所の建物の上に、人影が現れた。

長いウェーブのかかった黒髪の男だった。
雪の残る冬山の頂近くに関わらず、男は上半身裸で筋肉の盛り上がった逞しい肉体を晒していた。下半身はおそらくは上をはいだ僧服だろう。
首から肩にかけて粘液状の黄色い塊がヌメヌメと動いている。が、首に傷もマフラーもなかった。

「……ス……タンド……せ……いし……んのかた……ち……すばらしい……」
首を傾げながらこちらを見下ろして、カタコトの日本語を話す男は、発言内容に比べて全く表情が変わらなかった。

「ああ、わが主よッ! このものらを打ち滅ぼしたまえーーッ!」
膝ができて四つん這いになった大仁が、男に向かって拝むように言った。

研究所の上に現れた男を見て、ホル・ホースは目を見開き、英語で怒鳴った。
「Rubber Soul! That is Rubber Soul!! Where the hell have you been hiding?!”」
それを聞いた典明が立ち上がり、ホル・ホースに問いかけた。
「ラバーソール?! そいつのスタンドは、もしかしてッ!」
「ああ、”節制”のカード、イエローテンパランスの本体だ」
ホル・ホースの返事に典明は険しい顔になって、ラバーソールと呼ばれた男を睨んだ。
「……また10年前の敵ってやつか?」
仗助が、自分の横に移動してきた典明にきくと、
「ああ。僕は直接戦ったわけではないから聞いた話だが……強い。強敵だ」
キッパリと典明が答えた。

無表情だったラバーソールは、ホル・ホースの呼びかけに顔を向け、急にガタガタと体を震わせると、汗を流し、恐怖の表情を浮かべた。
「A…aah…Hol Horse…! H-Help me…please…」
「What the hell are you talking about, Rubber Soul?!
Don’t tell me you’re working for the goddamn vampires again?!」
ホル・ホースが怪訝な顔で聞き返すと、ラバーソールはさらに震えながら答えた。
「No... no, you’ve got it wrong…
……はも……ん……のつぎは……スタン……ド……
He’s inside me... he’s still in there...
も・う……げんし……じん・とは……よべ……ない……
please... help me... help me…
にん……げん……のしんか、すさまじい……」
震えながら英語で言ったり、無表情になって辿々しい日本語になったりと、表情も発言も行ったり来たりしていた。
何かおかしい、と英語のわからない仗助も感じた。
ボインゴも近づいてきて「Rubber Soul?」と声をかけた。やはり何か変だと感じているようだ。

皆が無言で見つめる中、
ラバーソールの腹から、
足が飛び出した。

「Heeeeeeelllpppp meeeeeee―――‼︎」

絶叫する口から腕がニョキニョキと生え始め、ラバーソールの声はぐもって聞こえなくなった。

「「ッ!!!」」

胸から胴体が出て腕と足が繋がり、ラバーソールの体から、別の半身が突き出して出てくる。
歯磨き粉のチューブから押し出されるように、するするうねうねとラバーソールの体から出てきた体は、男の体だった。ラバーソールよりもさらに鍛え挙げられた逞しい肉体。白い肌は白を通り過ぎて灰色を帯びて大理石のような光沢を放っていた。
そして、ラバーソールの頭から、別の頭がむりむりと出てきた。
長い赤い髪。髪の毛の生え際には2本の角が生えている。赤い瞳がこちらを見据えた。
ラバーソールからでてきた男は建物の上に立つと、くっついていたラバーソールの肉体が今度は男の体にするすると吸収されていってなくなってしまった。
ラバーソールのきていた僧服は、そのまま出てきた男の下半身を覆った。

内側から裏返るように、ラバーソールは赤い髪の男に入れ替わられた。
その場にいた全員が言葉もなく、ただ見ていた。

「……Rubber……Soul……」

「ち……がう……。その男は、もう食べた」
ゆっくりした日本語は少し流暢になっていた。

「ありがとうございます、サンタナ様!」
体が戻った大仁がその場に土下座をした。
サンタナと呼ばれた赤い髪の男が大仁を見下ろした。
「もう日本語を覚えられたとは、さすがでございます! どうか、儀式を邪魔するこのものたちを始末してくださいませ!」
「始末……」
サンタナは仗助たちを見下ろして腕を組み考える仕草をした。
「なぜ……?」
「な、なぜって、我らの敵でございますよ? 儂と孫をこのような姿にしたのが、奴等でございます!」
「強い……強いスタンド使い……もったいない……」
「へ?」

大仁と言い合うサンタナにエンペラーを向けながら、ホル・ホースはゆっくりと後ずさって典明の横にきた。
「おい……サンタナって聞いたことあるぜ、SPW財団のやつに……確か……」
「僕もジョースターさんに聞いたことがある。確か50年前の戦いの相手……柱の男の1人ッ!」
幽霊の典明が冷や汗をかいていた。
「「「柱の……男?」」」
残りの3人が聞き返すと、なぜか大仁が得意げに答えた。
「そうとも!このお方こそ、食物連鎖の頂点!吸血鬼を生み出し喰らう闇の一族!柱の男の最後の生き残り!サンタナ様だ!!」

典明が続ける。
「今から50、いや60年前、ジョセフ・ジョースターさんは仲間たちと4人の柱の男を波紋で戦い倒したんだ。吸血鬼を生み出す石仮面を作ったのが柱の男……人間とは別の進化を遂げた、吸血鬼を食う生き物だ」
さらにホル・ホースが続けた。
「食うっつっても口からむしゃむしゃ食うんじゃあねえ。体の表面から吸収するんだとよ。連中は太陽の光に弱くて紫外線で石になり、波紋で死ぬ。3人は消えて、残ったサンタナっつー最後の柱の男は、SPW財団で管理されていたが、戦後のどさくさで消失したとか聞いてたんだが……」
「儂が助け出したのだーーッ!! 野蛮に実験を繰り返すSPW財団からなあーーッ!!」
大仁がさらに得意げに割り込んでから、仗助を指差した。

「こやつが、東方仗助!残り3人の柱の男を葬り、あなた様を石にした張本人、ジョセフ・ジョースターの息子にございます!」
「いッ!」
いきなりチクられた仗助はびびった。が、仗助が何かしたというわけでもない。
「またかよ!さっきっからなんなんだよ、ジョセフ・ジョースターってやつはよおッ!!ろくなことしてねえじゃあねえか!」
「……オメーの父親だよ、仗助……」

サンタナはくるりと顔ごと仗助に視線を向けた。
視線を逸さぬまま建物からふわりと飛び降り、無言でこちらに向かってきた。

一気に緊張が走り、仗助は自分のスタンドを表し、典明もハイエロファントグリーンを出現させて構えた。

仗助の手前で立ち止まったサンタナは首を傾げて仗助を見て、仗助のスタンドを、エンペラーにハイエロファントグリーンを見た。

「なるほど、スタンド……やはり素晴らしい……。」
再び仗助を見ると口を横ににーーっと引いた。笑ったらしい。
「俺は、ジョセフ・ジョースター恨んで、いない。むしろ、感謝、している。カーズは俺を騙していた……俺の父と母を、一族を殺した……。人間を、食べ物で原始人と侮った、俺は、間違っていた……」
仗助に右手を差し出していった。
「仲間に、なれ。ジョセフ・ジョースターの息子……お前は俺の仲間に相応しい……」

「え……?」
仗助は自分より背の高く逞しいサンタナを見上げた。先ほどのジョセフと同じぐらいの身長体格だろうか。
赤い瞳は真っ直ぐに自分を見つめている。
「あー……勧誘してもらうのは嬉しいんすけど……」
するとサンタナはチラリと地面に目をやり、左腕をびよーーーんと後方に伸ばして落ちていた石仮面を掴んだ。
「いッ!」
サンタナは、伸ばした左腕をびよーーんと縮ませて人間の長さに戻すと、手元に掴んだ石仮面を仗助に突き出した。石仮面の裏面が仗助の鼻先に迫る。

「石仮面……これで吸血鬼になれ……そして、俺の仲間に……」
と、被せようとするサンタナに、
「いやいやいやいやいやッ!」
仗助は慌ててスタンドの腕で石仮面を跳ね除けると、飛び退いた。
「すぐすむ……これで……不老不死になれる……お前も……」
「いやッ、フローフシとか、キョーミないんで、おれ!」
仗助はさらに距離をとり、大声で叫んだ。
「父親って、あったことねーし!別に、今おれ、ジジイとおふくろと暮らして、困ってねーんで!」
「キョーミ……ない……」
「ねえ!」
キッパリと仗助が返すと、サンタナは、仗助を見て、持っていた石仮面を見て、また仗助を見て
「そう……か……」
と答えた。

するとサンタナは空を見上げ、
「時間だ」
と呟くと、左手に石仮面を持ったまま、また建物の上に軽々と飛び移った。

屋根の上で立ち止まり、自らの右脇に右手をズブリと肘まで差し入れ、引き抜いた。
その手には、丸く澄んだ水晶玉があった。
淡く白い光を放ち、夜の闇で眩しく輝いていた。

「あれは、アクリドルの水晶?!」
典明が叫び、腕時計に目をやる。
「時間……満月だッ!」
涼子とホル・ホースも慌てて腕時計を確認した。
午後10時45分──
今夜の月が、満ちる時間だ。

サンタナは右手に持ったアクリドルの水晶を、満月へと掲げた。

空の真円を描いた月が、
その縁からゆっくりとピンク色に染まっていった。


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