1-3-⑤ 砕けぬダイヤ⑤
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
ホル・ホースと仗助は、線路下の地下道の自販機の傍にいた。
仗助はジュースを、ホル・ホースは緑茶を飲んでいた。
ホル・ホースは日本の緑茶が嫌いではなかった。微妙に濁った緑色の液体を飲むと、なんとなく気持ちがリラックスできる気がした。
ホル・ホースは立ったままだが、仗助は地面にしゃがみこんでいる。日本スタイルのトイレでそういう姿勢をとるのは知っているが、外でしゃがむときもそういう姿勢なのだろうか。
情報を共有しつつ、状況を整理してみる。
「さっきも言った通り、スタンドは1人1体。それぞれ決まった形をして能力を持ってる。
オレのスタンドは銃の形で、スタンドの弾を撃って自由に動かせる能力、おめえのスタンドが人の形で、物や人を治せる能力って感じにな。」
緑茶の缶を振りながらホル・ホースは続けた。
「最初にお前に会った時の暴走車の運転手、あいつも鸚鵡のスタンドに操られていたらしい。
その後、派出所でオレが1回、その後、さっきのケーキ屋の姉ちゃん達と、計3回、鸚鵡のスタンド能力を経験した。そこから整理するとだな……」
グラグラしないのか不思議なしゃがみ方のまま、仗助はホル・ホースを見上げた。
「まず、スタンドの形は、鳥の形をしている。生き物の鳥っていうより、映画のフィルムをまいた丸い束が集まって鳥の形を造っている感じだ。
そして、そいつの能力は『記憶のスタンド』。
もっといやあ『記憶を映像のように見せて、その中の1人の人間の感覚や動きを体験させ、強制的に再現させるスタンド』だ。」
「『記憶のスタンド』……」
仗助がジュースの缶を持ったまま、眉をひそめた。
「……結構えげつねえ能力っすね」
さらにホル・ホースは、鸚鵡のスタンドの能力のルールを推測していった。
ホル・ホースが鸚鵡のスタンドに操られる直前、本体の鳴き声が聞こえた。
よって、鸚鵡本体が発した声を聞いた者が、声と共に伸びてくるフィルム状の記憶を挿入され、その記憶を体験し、行動まで再現させられるようだ。
ただ、
「記憶をただ見せるんじゃあなかった。感覚も言葉も動きも、全部再現させられるんだ。タイムスリップしてそいつの中に入って、追体験する感じだ」
しかし、再現している対象の、気持ちや考え──感情や思考は入ってこなかった。「感覚や体感だけ経験させて、行動は再現させない、そういう選択ができるのかもわからねえな」
3回目の時、ホル・ホースは鸚鵡の声を聞いたが記憶は再現されなかった。
よって、声が聞こえた人間の中から、特定の人物を選んで記憶を挿入することもできるのだろう。
記憶のストックは最低でも10年前からで、鸚鵡を操っている犯人は鸚鵡の持っている記憶を状況に応じて使い分けている。
能力をかけられた人間の解除方法は、外部から衝撃を与えられたり気を失うと解除されるようだ。
「外部からって……兄貴は一度鸚鵡の能力から自力で逃げたんすよね」
「まあ……な」
仗助に確認されて答えつつ、ホル・ホースは、その時のことを思い出していた。
キラキラと煌めいた翠の宝石のイメージ……
「それがなぜなのか、ようわからんのよ」
「はあ~ じゃあ、攻撃受ける前に鸚鵡をなんとかしなきゃあならんってことっすか」
仗助がジュースを飲み干しながら答えた。
「そういうこったな」とホル・ホースは、飲み終えた缶を自動販売機の横のゴミ箱に入れ、その後に仗助も立ち上がって同様にした。
線路の東西をまっすぐに結ぶ地下道は、ブロックとタイルで床と壁と天井が覆われ、天井にライトが埋め込まれている。
上を電車が通るためか、やや天井が低めな印象はあるが、横幅は広い。
買い物中の主婦や仕事中のサラリーマン、春休みを楽しむ若者などが行き交っているが、通路のため店や人が入るスペースなどはない。
天井と床をつなぐ柱が、約10メートルごとの規則正しく立っており、他には自動販売機とその横に置いてあるゴミ箱ぐらいだった。
仗助とホル・ホースは、その自動販売機の横に立って話を続けた。
「とりあえず地下道なら鸚鵡にも簡単には見つからねえだろう。仮に見つかっても、空に逃げられないし木や建物に隠れないような動きが制限される場所に、ノコノコ入っちゃ来ねえはずだ」
「で? その後は?」
「今から考えるんだよ、そいつをよお!!」
「いいけどよお、連れのボインゴサンでしたっけ? 探さんでいいんすか?」
聞かれたホル・ホースは、
(ボインゴの予言は信じちゃあいるが、いつ予言が出るかよめないし戦闘中に確認してる時間はねえ。ボインゴ自身は戦闘能力はゼロだ。
標的にされている今、あいつがいたら返って足手纏いだ。
ここはこのまま仗助に寄りかかった方が得策だぜ)
と一瞬考えた後、
「今、オレたちと合流すればあいつが危険だからよ」
と仗助に答えた。
「まあ……そりゃそうっすよねえ」と仗助も合わせた。
ホル・ホースは、「鸚鵡に他人を使われない場所で迎え撃つ」と、開けた場所を探して杜王町の地図を広げた。
仗助は、「自分たちも操られる可能性がある」と、二手に分かれて囮を作る案を出した。
ふたつの作戦を組み合わせ、駅の西の霊園を目的地とし、時間差で向かうこととした。
西口側の地下道の出口に2人が向かおうとした時。
向かう西口方面から人々がこっちに向かって走ってきた。
必死の形相で何かに追われるように走っている。
彼らの目は、白目も黒目もなく、映画のフィルムの映写のように、白黒が上から下にぐるぐると回転している。
走ってくる人数はどんどん増えて地下道を横幅いっぱいに埋め尽くした。
その群れの後方で、数人が宙に飛ばされ、天井や壁に激突した。
さっきの暴走車に吹き飛ばされた人間と、同じだった。
あちこちから叫び声が聞こえる。
「逃げろーーーッ!」
「車だーーーッ!」
「歩道に車がーーーーッ!!」
「いやああーーーーッ助けてーーーッ!」
(アラビア語! 車に追われて撥ねられてる! こいつらは、この記憶は……ッ!)
ホル・ホースは理解した。
「な、なんだあ? みんなどうしたんだ? なんかあったのか?」
まだ状況が掴めていない仗助に「やばい!走れ!」とホル・ホースは叫び、逆方向に向かって走り出した。
大人も子供も女も男も、地下道いっぱいに広がった人たちが、全速力でホル・ホースたちに向かって走ってくる。マラソン大会のスタートに立ち向かうようなもので、いくら仗助やホル・ホースが恵まれた体格だろうと、ぶつかれば互いに無傷では済まない。
「何すか、これはあ!?」ついて走ってくる仗助に、
「もう鸚鵡のスタンド攻撃が始まってやがるッ! 今度はさっきの逆だッ! あいつらは今、暴走車に追われて逃げる歩行者の記憶を、追体験されてるんだッ!!」次々に人が空中に撥ねられ、走る人の上に人がぶつかる。
地面に倒れた人を逃げる人が踏みつけ、踏まれた人の手足は曲がり血が吹き出る。そこからは記憶の再現ではなく、現実なのだ。
さらに能力が効いていない通行人が巻き込まれ、叫び声をあげて逃げ惑い、走るものに突き飛ばされ、倒れて同じように踏みつけられる。
マラソン大会から、スタンド使いによる一般人の蹂躙に変わっていく。
「くッ……」
それを見た仗助の表情が歪んだ。
「まずいぜ仗助! 相手に丸見えなこの直線ッ そしてこの人混みッ!! 行動を制限されちまったのは……オレたちの方だ!!!」
走るホル・ホースの横を何かが飛んでいって、前を走るランドセルの小学生にぶつかった。
いや、首に何かが刺さった。
ボウガンの矢だった。
「ボッ、ボウガンだとぉー!!?」
「これは幻覚じゃあねえッ! 本物の矢だ!!!」
小学生が首から血を流して倒れた。
「野郎ッ!!!」
仗助が自分のスタンドを出し、小学生から矢を抜いて小学生を治す。
「一体どこから──」
周囲を探ろうとした仗助の右肩に、後ろからボウガンの矢が突き刺し血が流れた。
「人の後ろからコソコソと……いい身分じゃあねえかッ!」
仗助のスタンドが仗助から矢を引き抜く。
「そのままそこでくつろいでなッ!」
仗助はくるりと後ろを向くと走り出した。
「今からオレがぶっ飛ばしにいってやっからよおおおおおおおおーーーーッ!!!」
仗助はそのまま走る人の流れに逆走し、走って突っ込んでいった。
スタンドで人を殴り飛ばし、モーゼのように道を開いていく。
が、スタンド能力で人の怪我は治り、飛ばされ踏みつけられた他の怪我人の怪我も治していく。
(ッ! 無茶苦茶なやつだ)
仗助に飛んできたボウガンの矢を、スタンドの拳が弾き飛ばした。
ならばと、仗助の周囲の逃げる人の背に次々と矢が刺さる。
仗助は、その矢を抜いては治し、矢の出元に向かって走っていく。
「てめえ……いい加減に……ッ!」
仗助の額にボウガンの矢が──突き刺さった瞬間、スタンドがその矢を握っていた。
「絶対え、ぶん殴るうううううううッ!!」
さらに、ヒートアップした仗助が走りつづけた。
仗助が人を左右にかき分け開かれた地下道の真ん中に、ホル・ホースは立ち尽くしていた。
また自分の手が震えるのを感じる。
さっきと違って鸚鵡のスタンドからフィルムは突き刺さっていないし、暴走車の映像も見えない。
自分には、鸚鵡のスタンド能力は効いていない。
なのに、なぜ、恐怖を感じるのか。
(──「歩道が広いではないか……」)
人々が逃げ惑う暴走車の後ろに乗っているのは──。
「へへ……もう10年も経ってるっつーのに、まだ負けて屈した恐怖を忘れられねえって。」
ホル・ホースはまた震える右手でエンペラーを構えた。
「そんなの格好悪すぎるじゃあねえかッ!
もうあいつは死んで灰になってるんだッ、何を亡霊にびびってやがるんだ、オレはよおッ!」
震えが止まり狙いが定まった。
「新しく書き換えるんだよおッ 勝利の記憶でよおッ!!」
エンペラーの銃弾が発射され、走る仗助の両脇をすり抜ける。
仗助のスタンドで人々が両側にどかされていった。
皆が同じように走り続ける中、柱の影に隠れて立ち、ボウガンの弓矢を首の高さに構えている男の姿は、ホル・ホースによく見えた。
エンペラーの銃弾が、男のボウガンについているスコープと、男の右の耳たぶを撃ち抜いた。
その後ろから、白い羽を撒き散らして鸚鵡が飛び立った。
「あれはッ」
「鸚鵡!!!」
ボウガンを抱えた男が、鸚鵡の後を追うように地下道の出口に向かって走り去り消えた。
「待ちやがれ!」
仗助が、男のいた柱のそばに辿り着いてしゃがみ込み、ホル・ホースがその後に到着したが、すでに鸚鵡も男も、影も形も見えなかった。
「くそッ!!! 鸚鵡と犯人、どちらも逃げられちまったか……!!」
悔しがるホル・ホースに、しゃがんでいた仗助は、
「……いや、兄貴のおかげでまだ追えますよ」と答えた。
「どういうこった?」
ホル・ホースの問いに、仗助は床に落ちたスコープの破片と白い鳥の羽を、
「やつらの残した遺留品を」
スタンドの拳で殴りつけた。
すると、ボウガンの破片と、鳥の羽が、それぞれ空中に浮かび、飛び始めた。
「おれは犯人の野郎を追うッ! 兄貴は鸚鵡をッ!!」
と、仗助は空中を飛んでいくスコープの破片を追って走り始めた。
「は!? おッおい仗助!!」
見たことない光景にホル・ホースは混乱した。空中をふわふわと鳥の羽が動いていくのだ。
「こ、これも、あいつのスタンド能力か……治す能力の応用ってやつかあ?
何かわからんが、行くしかねえッ」
ホル・ホースも動いていく羽の後を走って追跡を始めた。
ふわふわと浮いて飛んでいく鳥の羽は、地下道から出口を出ていった。
追うホル・ホースの息は上がっていく。
「くそっオレはもう若くねえんだぞ」
そのまま道通りに走って、霊園の横を通り過ぎると、飛んでいく羽の向きが変わり、その先に白い鸚鵡がいて、羽が本体に戻ろうとしていた。
「いやがった!」
鸚鵡は川に向かって飛び、ホル・ホースは橋の上で、銃を構えて鸚鵡に狙いをつけた。
──息子が殺されてこの10年、あの子が儂の子供だったんだよッ
依頼人の泣き顔が浮かんだ。
「……これ以上鸚鵡を野放しにすれば人死にが出るかもしれねえ……
『我が子』が人殺しになるなんてのは、あんたも望むところじゃあねえだろう?」
鸚鵡から目をそらし、俯いたホル・ホースは引き金を引いた。
「悪いな婆さん」
鸚鵡に銃弾が当たる瞬間、クエ、と鳴き声がした。
橋から川を見下ろすと、鳥の黄色い足が水面にその周囲に血が広がっていくのが見えた。
「……女との約束を破っちまうってのは、心に嫌な気分が残っちまうもんだぜ、全く……」
ホル・ホースは帽子を深く被り、知らない土地の知らない川から離れていった。
*
植え込みに隠れた男は、撃たれた右耳をハンカチでぐるぐると固定して、血が溢れないようにした。撃たれていないはずの左耳の耳たぶにも絆創膏が貼ってあった。
(あいつらを撃った時の感覚……最高だった。
鳥だの猫だの色々撃ってきたが、やっぱり人間を狩るのが最高だぜ。
そして狩りは頭脳戦。作戦を仕掛けて罠をはって仕留めるものだ。)
道に点々と血痕が道を作っている。ヘンデルとグレーテルの道標のようだった。
道の真ん中に続いていた道標は、途中でカーブして道端の家の植え込みに続いてた。
しかし、その血痕の先の植え込みに男はいない。
血をこぼしながら一度植え込みに入り、ハンカチで血が溢れないようにして、その反対の植え込みに移動し、潜んでいた。
「血痕を追ってこい!その先にオレはいない!
何を打ち返してきたのか知らねえが、この怪我のお礼をしてやる!
優位に立ったつもりでオレの前に現れたその時ッ お前のアホ面にこの弓をブチ込んでやるぜえ!!」
ボウガンの弓を構え直した瞬間、何かが空中に現れ、壊れたスコープが見る間に元の姿へと復元されていった。
「なっ……なんだこれは……?」
後ろに影が差し、さっき向かってきた学生服の男の声がした。
「あんたのボウガンの破片を”治した”」
男が振り向くと、
「優位に立ったオレの顔をお前が目にしたその時──」
仗助はニヤリと笑った後で真顔になり、
「お前のアホ面にこいつを叩き込んでやるよッ! だったなあッ!」
「ドラララララララララララララララララーーーーーッ!!」
スタンドのラッシュが叩き込まれ、男は植え込みをぶち抜いて吹っ飛び、そのまま街路樹に叩きつけられて止まった。
仗助は、落ちた身分証を拾って、中身を確認し、
「ええっと? 清原幸司……大学生かよ」
ポイっと放り投げた。
「ゾッとするぜ、テメーみたいな奴がこの杜王町にいたかと思うとよお」
気がつくと清原は、街路樹に後ろでに括られていた。変形した自分のボウガンで。
「なっ……なんで??」
「仗助!!」
そこへ良平が自転車から飛び降りてやってきた。
「町中探したんじゃぞ!」
「じいちゃん……グレートなタイミングだぜ」
仗助は清原を指さしていった。
「現行犯だ、そいつを逮捕してくれ」
「何?」
「罪状はな──
『人様に向かって尖った矢を発射してきた罪』だぜッ!」
