3-4-① 日本の山、エジプトの呼吸①
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
(……ここ、どこ? なんでこんなとこにいるのかしら?)
涼子は、今、暗い木々の間に自分がいるのを不思議に思っていた。
(……この服、薙刀の稽古着?なんでこんな大きいの?大きすぎじゃあないの?)
きている服はブカブカで、大きなピンクのコートは暖かいが、裾を引きずってしまっている。足元がちょっと斜めで、歩くと転んじゃいそうだ。
隣には知らない男の子がやはりブカブカの服でうずくまっている。
知らない子だ。涼子より小さい。幼稚園児だろう。
さっきまで目の前に、金髪で青い目の大きな大きな外国人がいた。
怖い顔で知らない言葉で何か言ってきて、とっても怖かった。
そうしたら、隣の男の子が石を投げて追い払ってくれた。
いなくなってよかった。
自分より小さいのにすごいな、と涼子は思った。
暗い山の中で知らない男の子と2人きり。
本当なら怖くて仕方ないはずなのに、不思議と涼子は怖くなかった。
典明お兄ちゃんがすぐ戻るって言っていたからだ。
(典明お兄ちゃんがきてくれるから、大丈夫。それまで待ってるの)
典明お兄ちゃんは涼子の大好きな大好きな従兄弟のお兄ちゃんだ。
本家に遊びに行った時、あの広い家でかくれんぼしても、いつもすぐに見つけてくれた。
涼子が木に登って落ちて頭を怪我した時も、あっという間にお医者さんに連れてってくれた。
典明お兄ちゃんはとっても頼りになる。
それに涼子にとっても優しい。
前涼子の家に泊まりにきてくれた時、涼子が頑張って作ったオムレツ、美味しいって言って全部食べてくれた。ちょっと、いやだいぶ焦げてたけど。
お返しにって典明お兄ちゃんが作ってくれたパンケーキは、ふわふわでとっても美味しかった。
(あと9年したら涼子も16歳になるから、そうしたら典明お兄ちゃんと結婚するのよ)
こんな状況でも、涼子は典明お兄ちゃんのことを思うと笑顔になった。
とはいえ、服がブカブカで変な感じがするし、歩けないのは困る。
見ると涼子はリュックを背負っていた。大きくて重いリュックだ。
(典明お兄ちゃんが戻ってくる前に身だしなみを整えないとだわ。)
涼子は土の上にリュックを下ろすと、ブカブカの服を引き上げたり締め直したりした。
長い袴は胸まで引き上げてくるくると巻いて紐で縛り直した。ブカブカのブーツは紐をしっかり閉め、道着の袖も捲った。これでなんとか少しは歩けそうだ。
灯がついたままの懐中電灯を手にとって、隣でうずくまっている男の子を照らす。
黒い髪に丸い顔。もう一度見てもまだ幼い幼稚園児だ。
「ねえ、そこのあなた」
涼子は男の子に話しかけた。
「お名前は?歳はいくつ?どこからきたの?」
男の子はちょっとムッとしたようだった。
「そっちこそ……だれ?」
逆に聞き返された。
「わたし?わたしは涼子よ。花京院涼子」
「カキョーイン、リョーコ?」
「そうよ、難しい字なの」
涼子は自分の名前が漢字で書けるようになった。典明お兄ちゃんはすごいねって褒めてくれたのだ。
「知ってる!カキョーインリョーコ、ぼく知ってる!」
首を捻っていた男の子はいきなり笑顔になって言った。
「うそよ、あなたにあったの初めてだもの。知らないわ」
「知ってる!初めてだけど知ってるもん!」
意味がわからない。
「……それで名前は?あなたのな・ま・え」
「ジョースケ、仗助だよ。」
「歳は?」
「5さい」
と右腕をあげた服がブカブカで袖から手が出ていない。おそらくは右手でパーを見せたのだろう。
「あなたもブカブカじゃあないの。おねえさんがきちんとしてあげるわ。」
と、涼子はランプを地面に置くと、仗助が一番上に来ていたブカブカのダウンの前を開き、中の服を見た。
「おねえさんいないよ。ぼく一人っ子だもん」
「わたし7さいよ。わたしの方がおねえさんなの」
涼子はさっき自分にしたようにブカブカで引きずっていた仗助のズボンの裾や袖をまくってやり、ベルトをぎゅうぎゅうにしめた。さらにブーツの紐もぎゅうぎゅうにしめる。これで少しは歩けるだろう。
「はい、できた」
仗助は手足を動かして、自分の服を見下ろすと、
「ありがとー、りょーこちゃん」
と言った。
仗助は不意にしゃがんで何かを拾い上げると、
「あげる」
と涼子の手に渡した。
落ちていたどんぐりだった。
いらないわ、と言おうとした涼子だったが、仗助がニコニコしながら涼子を見ていたので、黙って受け取り、
「それでじょうすけくんは、どこからきたの?」
と聞いた。
「ぼく、もりおーちょー!」
と元気に答えた。
杜王町なら花京院本家のある町だ。するとここは、本家から見える小さな山の中だろうか。
(杜王町ならすぐに典明お兄ちゃんが来てくれるわ)
涼子は再び安心した。
するとバサバサと音がして、白い大きな鳥が頭上から降りてきた。
「わッ!」
仗助がびっくりして後ずさった。
白い鳥は、クワクワと言いつつ、2人を見ながらゆっくりと地面を歩いて行ったり来たりした。
(この子、確かサルジュ……)
涼子は家で鳥を飼っていないのに、この鳥を知っていると思った。
いやむしろこの鳥と自分が繋がっているという感覚を抱いていた。
(なんでかしら。でも、わかる。この鳥、私とつながってる……!)
仗助は急に降りてきた鳥に少しびっくりしていたが、鳥が襲ってくる様子がないのを見ると「トリートリーどんぐりー」と拾ったどんぐりを鳥のクチバシに当てて遊び始めた。
白い鳥、サルジュは少し迷惑がっている。涼子にはそれが伝わってきた。
「じょうすけくん。その子はどんぐり食べないわ」
「そーなのー」
と、どんぐりを押し付けるのをやめた仗助は、
「のどかわいたージュース」
と言い出した。
「ジュ、ジュース?」
困った涼子だったが先ほどおろしたリュックを思い出した。
開けてみると飲みかけのペットボトルが2本入っている。
仗助にオレンジ色のペットボトルを渡すとごぐごくと飲み始めた。
「オレンジー」
やれやれ、と思いながら、涼子も1本ペットボトルを取り出して、2人で並んで座って飲み物を飲んだ。
「おいしーね、りょーこちゃん」
「そーねー」
その様子を白い鳥が行ったり来たりしながら見つめていたが、突然羽をばたつかせ、
キュウアアアアアアアアーー
と木の方に鳴き始めた。
*
2人で並んで座ってジュースを飲んでいると、美味しいオレンジの匂いに、何かが腐ったような匂いが混じってきた。
すると、ガサガサと音がして、黒い人影が木の間から現れた。
大人の人、にしては、さっきの外国人より大きい。黒いボロボロのマントを身にまとっているが、そこから飛び出た手足がやけに長い。
(な……何この人……人?お化け?)
驚いた涼子はペットボトルを落とした。
黒いお化けは涼子と仗助に気付き、こっちに顔を向けた。
真っ白な顔に大きな赤い目。横にさけるように大きな口をしていた。
「なんだ……ガキ……?」
くぐもった声が出た口からは、長い牙が突き出した。
(お化け!お化けええええ)
涼子は身をすくめたまま固まっていた。
「こんなのでも……腹の足し……」
とお化けは、長い爪の伸びた手を涼子に伸ばしてきた。
(お化けに食べられる、やだあーーー、助けて、典明お兄ちゃんッ……)
涼子は目をとじて顔を覆った。
が、食べられず、ぽこんと音がした。
涼子が目を開けると、隣にいた仗助が涼子の前に立っていた。
「あっちいけ、お化け!あっちいけ!」
持っていたペットボトルをお化けに投げつけたようだった。
さらに、仗助は石やどんぐりを拾って両手で、ポイポイとお化けに投げつけて行った。
「あっちいけ、あっちいけ!あっちいけ~ーッ!」
(……じょーすけくん)
涼子は目の前の仗助のブカブカのダウンの小さな背中を見た。
「……ガキ」
化け物は仗助を蹴り飛ばした。仗助は吹っ飛んだ。
「じょーすけくん!」
「う……ゲホ、グホッ……がッ!」
地面で咳き込んでいる仗助を、化け物は長い爪の飛び出た足で、さらに蹴り飛ばして踏みつけた。
「クソガキ……シネ……」
「じょーすけくん、じょーすけくんッ!」
(どうしよう、どうしよう……わたしを助けてくれたのに……じょーすけくん、死んじゃう、死んじゃう!)
泣きそうになりながら涼子には見ているしかできなかった。
その時地面で羽をばたつかせていた白い鳥が、飛び上がってお化けの顔に襲いかかった。
「ナン……ダ……トリ……クソ……」
お化けは振り払おうとするが、鳥はあちこち飛び回って、化け物の目を狙って突こうとし、離れてまた突つつくを繰り返していた。お化けは鳥をなかなか振り払えず、鳥を追い払いながら歩き始め、仗助から離れていった。
キューイ、キューイ、と鳥が涼子の方を見て鳴いた。
(わかる、あの鳥、わたしにいってる、じょうすけくんの耳をふさげって……わたしにいってる!)
涼子は仗助のそばに走り、両手で仗助の耳をふさいだ。
すると、鳥の後ろにさらに大きな別の鳥のような形をしたものが浮かび上がり、
白い鳥が、
キイイイイイイイイーーー
と鳴いた。
涼子の中に映像が流れてきた。
見たことない町中を車が道をそれて走り、4人の背の高い男たちを薙ぎ倒した。
同時に、目の前の化け物が、吹っ飛んだ。
映像の中の男たちと同じように、車に薙ぎ倒されたように。
(なに?今の……化け物も飛ばされて……)
化け物は倒れて動かない。
白い鳥は今度は涼子の前に飛んで来て空中で、バサバサと羽を動かしながら、キュイキュイと鳴いた。
(逃げようって言ってる!今のうちにって!)
「じょーすけくん!」
涼子は倒れている仗助を引き起こし、抱えるようにして歩き始めた。
白い鳥が小さな鳴き声を立てながら飛び始め、涼子は仗助を連れてその後を追った。
飛んでいく鳥を追って木の間の坂を登っていくと、大きな岩がみえ、さらにその横にそれより小さな岩が寄りかかるようにそびえていた。
白い鳥はその小さな岩の横でクルクルと回転してとび、キュイキュイと鳴いていた。
(あそこにいけってこと?)
涼子が仗助を引きずるように連れていくと、岩は立てかけるようになっていて、後ろに隙間ができていた。子供ならなんとか入れるぐらいの大きさだ。
(ここなら隠れられる!)
涼子は仗助と岩の影に滑るように潜り込んだ。
ぜいぜい、はあはあ……と荒い息を整えたながら、
「……だいじょうぶ? じょーすけくん……」
と傍の仗助を見た。
涼子の夜に目が慣れてきて、満月の明かりに照らされた仗助の姿が見えた。ブカブカのダウンは土に草まみれ、仗助の顔は目の上に口元が切れて血が流れて、両手で腹を押さえ顔をしかめている。
「……うん……」
と口では言いつつもあちこちが痛いようで、話すのも辛いようだ。
仗助の小さな体を涼子はさすった。この小さな男の子が、さっきあの怖いお化けから涼子を助けたのだ。典明お兄ちゃんじゃあなくて、じょーすけくんが……
「……ありがと……じょーすけくん……」
涼子は仗助の小さな体をそっと抱きしめた。
「りょーこちゃん……先輩?」
仗助の小さな体はむくむくと大きくなり髪は前に突出し、
「イテッ」
岩に頭をぶつけた。
「じょ、仗助くん?……いたっ」
みると涼子も元に戻りやはり岩に頭をぶつけている。
子供がなんとか入れる程度の岩の隙間で、仗助と涼子はぎゅうぎゅうになっていた。
「いやー戻れたっスねえ、先輩」
「と、とりあえず外に……」
二人で絡み合うような体制で外に出て顔を見合わせると、仗助は月明かりでもわかるほど赤い顔をしていた。
「ふ、服直すから、向こう向いてて」
と涼子にあらぬ方を指さされ、仗助はくるりと後ろを向いた。
