3-5-① 1人の女、2人の男①
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
目次 前書き&注意点 前の話(3-4-② 日本の山、エジプトの呼吸②)
(どこなんだここは……なんでオレたちはこんなところにいるんだ?)
ホル・ホースは気づいたら、全く見覚えのない景色の中にボインゴといた。
ホル・ホースは今、他のスタンド使いの連中と、エジプトでDIOの手下の1人として働いている。現在はDIOを倒そうと向かってきているジョースター一行の撃退が主な仕事だった。仲間は次から次へと倒され、連中はついにエジプトに上陸した。陣営には焦りが出始め、ホル・ホースにも圧力がかけられていた。次失敗すれば命はない。
だから同様の立場で予言のスタンド・トト神を持つボインゴをパートナーにし、再度ジョースター一行のところに行こう、と考えた。
そう考えた。そこまでは覚えている。
しかし今の自分の周りの景色を見ると、エジプトにこんな場所はない。ユーカリだの、ナツメヤシだのの代わりに、ブナやミズナラが生え、東アジアの北の方という印象だ。
しかも、寒い。よく見れば足元に少し雪が残っているところがある。じめっとした冷えた空気が体にのしかかるようで、エジプトの暑く乾いた空気とは全然違う。
自分の服装を見ると、黄色いウールポンチョをきている。寒いところへ行く時はいつもこの格好なので、寒いところへ行く準備を自分でしてここへやってきたのだろう。
一緒のボインゴも同様にオレンジのダウンを着ているが、なぜか体に全く合わない大きさでブカブカだった。小さな手に大きな懐中電灯を握っていて、さらに背中にはおそらく漫画本が入っているナップザックと、見たことのない刀を背負っていた。どこかから盗んできたのだろうか。
ケニー・Gのスタンド能力にでもはめられたのかと思ったが、そんなことをする理由がない。それに寒いところに行く格好をしている人間に、わざわざ寒い場所の幻覚を見せる男ではなかった。
そして、自分は、何かを忘れている、という確信があった。
いや、忘れさせられている。
スタンド攻撃か、と思い立った。
ジョースター一行にこんなスタンドを持っているものはいないはずだが、新しく犬が仲間に入ったと聞いているので、そいつの能力の可能性もある。
そうなれば、のこのこ攻撃を受け続けているわけにもいかない。
今いるところは、木が生い茂り、足元は柔らかく湿った土が斜めになっていて、道もほとんどない山の中のようだった。
まずは見晴らしのいいところまで移動して、現状を把握し、対策を立てる必要がある。
トト神もこんな暗さでは見えない。平らなひらけたところまで移動して、明かりを確保する必要がある。
「おい、ボインゴ。その背中のナップザック、中身見せな」
声をかけるがボインゴはぼんやりしている。
「おいッ!ボ・イ・ン・ゴ!」
耳元で大きな声で言うと、ボインゴはハッとしたようにこっちを振り向いた。
「あ……ホル・ホース。なんか、変です。……ここどこなのか……服も大きいし……」
「ああ、なんか変だ。だから、まずはもっと平らなところに移動するぞ。そこで周りを見てどこかわかるかも知んねえし、トト神を読みゃあどうすればいいかわかんだろ。こんな真っ暗で斜めの土の上じゃあ、何もできねえ。お前そんなかにコンパスとか持ってねえか?」
ボインゴは木に寄りかかるようにフラフラと立ち上がると、ナップザックを渡してきた。中には、トト神の漫画本に、飲み物、タオルなどが入っていたが、地図やコンパスはなかった。
さっきまでは暗さと現状把握に精一杯で、気づかなかったが、そばにもう2人座り込んでいた。子供だ。黒髪の男のガキに、やや茶色がかった髪の女のガキ。黄色い肌は東洋人のようだ。やはり暖かそうな服装を纏っていたがブカブカで、ボインゴと同じようにぼんやりしている。
「おい、ガキども、どうした。なんか見たか? 知ってるか?」
と英語で声をかけたがわからなかったらしく、ホル・ホースを見ると怯えた様子になり、男の方は立ち上がって喚き始めた。東洋系の言葉のようだが、知らない言語だった。
チッと、ホル・ホースは舌打ちした。ガキは苦手だ。
それを見ると、今度は男のガキが石を投げ始めた。当たりはしないし大した威力でもないが、相手をする気は失せた。
敵のスタンド能力に巻き込まれたのかもしれないが、こっちもボインゴ1人でガキは十分だったし、状況的にそこまで余裕はない。ホル・ホースがスタンド使いを倒せば状況も変わるだろう。
「行くぞ」とナップザックを背負うと、ボインゴを連れて山道を歩き始めた。
*
後ろからついてきたボインゴは、ブーツまでブカブカな上、山の斜面に足を取られてほとんど進まなかった。
チッと再び舌打ちしたホル・ホースはボインゴのそばまで戻ると、「ほらよ」と背中を見せ、ボインゴをおぶった。
ボインゴの握る懐中電灯で少し先を照らし、あとは月明かりが頼りだった。
指先が急に浮いたので慌てて足を引く。よくよく先を見ると崖になっている。沢になっているようだ。
「あぶねえ……」
崖から離れると、今度は右方向に動いて行った。沢沿いのせいか少し木々が少なくなっている。
よく見ると、木の隙間に月の光の照らされた大きな岩が見えた。
(岩か……あの上なら周りが見えるか。無理でも岩の周りなら少しは平らになっているかもしれねえ。あそこを目指して行ってみるか)
南東に進路を変え、あたりに注意しながら岩に向かって進み始める。
途中で蛇が目の前を横切り、ホル・ホースは身をすくめた。
周囲に注意を配りつつ、ぶつ切りになった記憶に想いを巡らせた。
──「それで……といったのはおまえのことだよ ホル・ホース」
──「おまえはいつわたしのために奴らを倒しに行ってくれるのだ……?ホル・ホース」
──「今度こそジョースターどもを殺してきてくれよ わたしのために」
──「さもなくばわたしがおまえを殺すぞ!」
そうDIOに脅されたのが、昨日……だったと思う。
頭に来てDIOの頭を吹っ飛ばそうとした──のに、あの吸血鬼は自分の後ろに立っていたのだ。
今の感じは、あの感じに少し似ているといえば似ている。
そう、そうだ、あの後。
ホル・ホースはあいつを病院へ連れて行ったのだ。
DIOの周りにはいつも女たちが群がっている。
マライヤもミドラーも、みんなDIOに夢中だ。
あの男は群がる女どもを、次々と食っていった。
文字通り、女を“喰らう”のだ。首筋に牙を突き立てて。
肉体を愉しみ尽くし、飽きれば血を啜って殺す。
部下であるスタンド使いたちには手を出さなかったが、それ以外の女たちは、ただの家畜――あるいは食糧だった。
特に、自分の子を孕んだ女は、例外なく殺していた。
中には、妊娠がわかった途端、逃げ出す者もいた。
DIOに屈服させられ汗を拭いながら部屋から下がると、あいつが廊下に倒れていた。
首に2つの穴が空いて、そこから血が流れていた。
広がった金の髪に、真っ白な顔、虚になった蒼い目。
──貴方の目は綺麗ね。空の碧だわ。
──なら、オメーの目は、海の蒼じゃあねえか。あの地中海の青だ。
そう言い合った蒼い目が。
慌てて駆け寄って抱き起こして──
それから──
*
木々の間から目指す岩が見えてきた。
岩の周囲はぐるりと木が生えておらず、常緑樹落葉樹両方の葉が降り積もり、暗い緑と茶色のまだらな絨毯が広がっていた。
ずしり、と背中が重くなった。
「あ……」
ホル・ホースは思い出した。
DIOは消えた。もう10年も前になる。
今ホル・ホースはしがない探偵だ。
鸚鵡を探しにボインゴと日本の杜王町に来て、今ここ夜の嶺冥山で吸血鬼退治中だ。
幽霊の花京院典明と、鸚鵡と同期した従姉妹の涼子、さらに地元のスタンド使いで”あの”ジョセフ・ジョースターの隠し子だという東方仗助と一緒に。
そこで、アレッシーの体を奪ったという吸血鬼に、セト神の攻撃を受けた。 10年分若がっていて記憶までぶっ飛んでいた……どうやら今戻ったらしい。
多分花京院が、あのゲオルグとかいう吸血鬼を倒したんだろう。
「……戻った」
背中のボインゴがつぶやいた。
「なら、降りろッ! 9つのガキならまだしも、19の男を背負う趣味はねえッ! 重くってしょーがねえッ!」
ホル・ホースは戻ったボインゴを放り投げた。
「とりあえず、予定通りあの岩のところに行くぞ。逸れた連中とどうやって合流するか、予言にうまく出てくれりゃあいいが……」
ぶつぶつ言いながらボインゴと木々の間を歩き、木が途切れて、葉の絨毯とその先に聳える岩が目の前に現れた。
岩の上に人影があった。
登り始めた月が人影をあらわにしていく。
真っ黒なマントの上になびく金髪。
白い顔。
そして、蒼い目。
「久しぶりね、ホル・ホース」
「……ローラ」
ホル・ホースは立ち尽くして見上げた。
岩の上に立つ女は、ホル・ホースの見知った10年前と、全く変わらなかった。
また10年前の亡霊か、いや……
女は首に巻いていた黄色いマフラーをゆっくりと取った。
首にはぐるりと一周する傷があり、傷から下の皮膚は褐色だった。
(ああ……)
「あの時は助けてくれてありがとう。ずっとお礼を言いたかったの」
(……探したんだ。退院してから。でも、見つからなかった……)
「元気そうでよかったぜ。……相変わらず綺麗だな」
ホル・ホースが笑顔を浮かべて返すと、女──ローラも笑みを浮かべた。
「あんたは歳とったわね。10年分」
「貫禄がついたって言ってくれよォ。男盛りってやつさァ」
「フフッ、口の軽さはあいかわらずね。まだ、女の子をくどき回ってるの?」
「そりゃあ、オレは、世界一女に優しい男、だからな」
ホル・ホースは軽口を続ける。痛みを隠して。
ローラはDIOの女の1人だった。
エンヤ婆が奴をエジプトに迎える時、一緒に連れてきた娘だった。なんでも身の回りの世話をさせていたらしい。
エジプトに来たDIOは、夜な夜な街を歩きまわっては、新しい女を手に入れ次々に手元に置くようになった。
そして、DIOと付き合いが長く、エジプトでは珍しい金髪碧眼のローラは、他の女たちにいじめられていた。
ある日、館の隅でうずくまって泣いていたところに、ホル・ホースは声をかけたのだ。
振り返った涙に濡れた大きな目──美しいalbastru。
それから館に行った時に、何くれとなく話をするようになった。
──生まれてすぐお父様とお母様が流行病で亡くなって、育ててくれたお祖父様も……私にはDIO様しかいないの。
──今度DIO様の連れてきた人、すごい綺麗なのよ。最近はその人ばっかりで……。
──お前の目は変だって言われるの……。魔眼だって……。
──ありがとう、ホル・ホース。……あんたいいやつね。
娘は女になっていった。
──DIO様が、DIO様が、私のことを愛してるって、お前だけだって、言ってくださったのよ!
──幸せだわ。ずっとDIO様と一緒にいたい。
そして、女から──
──できたみたいなの。DIO様の子供。嬉しいけどちょっと怖いわ。
──妊娠した人たち、みんな産む前にいなくなってしまうのよ。どうしてかしら。どうしよう……
DIOに血を吸われ虫の息だったローラを、ホル・ホースは慌てて裏の医者に連れて行き、有り金を置いてきた。
その後ボインゴとジョースター一行のところへ向かい、負けて病院へ入院してしまったのだ。
怪我が治って、SPW財団から解放されて、医者のところに行ったが、ローラはもういなかった。あちこち探したのだが、その子供も含めて見つからなかった。
「……再会を祝して一杯やりてえなあ。美味い酒を教えてもらったんだ、これからどうだい?」
「嬉しいお誘いだけど、ホル・ホース。私今夜は忙しいの」
「へーえ?何で?」
「それはもちろん……」
岩の手前に絨毯のように広がった葉がザワザワと音を立てて動き始めた。
「なんだ……?」
「儀式を邪魔する侵入者たちを始末しないといけないからよぉおおおおッ!!」
ローラが牙の生えた口を大きく開けて叫ぶと、葉が次々と持ち上がった。
落ち葉だと思ったのは、
無数の蛇だった。
次々と鎌首を持ち上げ、ホル・ホースたちを見る。
「蛇?!!」
「わあああーーー!!」
「アポピス神のスタンド能力よッ!味わいながらあの世へ行って、ホル・ホースッ!」
次の話(3-5-② 1人の女、2人の男②)
目次 前の話(3-4-② 日本の山、エジプトの呼吸②)
