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【光り物】機械式腕時計の世界 ②「持ち歩ける夜景」夜光時計

 しまったここはblueさん空間だ!今回の光り物は「夜光時計」について。君は光り物オタクの 本気 マジ語りにどこまで耐えられるか!?

■前回記事


1.腕時計のロマン

 腕時計に魅了される男性は多い。女性もいるかもしれない。それはリセールバリューだったり、ステータスだったりという金銭的な価値もあるのだが、もっと単純に「時計」というアイテム自体が好きな人もいるだろう。

────かくいう筆者もその一人だ。


腕時計の妙は計算されたデザインや、精緻な加工仕上げにある。ダイヤルを覗き込んだ時の視覚的な美しさ、フォントデザインの視認性、丁寧な金属加工や表面仕上げ、腕に巻いた時の収まりの良さ‥‥etc

複数の要素を、限られた予算と技術で可能な限りで両立し、最適解を示す時計は良い時計と言えるだろう。腕時計は男性に許された唯一のアクセサリであり、なおかつ長時間身に着けるものなので、光り物オタクとしてはそこはこだわりたくなる。


2.夜光時計というもうひとつの「顔」

 腕時計で面白い点は、時刻によってフェイスデザインが変わる点だ。10時10分を指している時計と、8時20分を差している時計とは、別の顔になるだろう。基本的に時計雑誌やカタログでは前者の写真で載っているはずだ。後者では泣き顔に見えてしまうからだ。

腕時計にはもうひとつデザインが変わるギミックがある。それは夜光である。周囲環境の明るさによって、腕時計は別の表情を見せるのである。


SAN MARTIN SN0005G

たとえばこのようなアンティークな雰囲気の時計であるが‥‥。



SAN MARTIN SN0005G

─────なんと光るのだ。

このように昼と夜とでは全く別の表情を見せる。これこそ腕時計の醍醐味だろう。この時計は見た目こそアンティーク調であるが、中身は最新なので、見た目に反してバチバチに光ってくれるのが面白い。

面白いのは、この時計はムーブメント・夜光ともに電池を一切使っていないという点だろうか。このレトロな外観でバチバチに光るという。赤青のチューブガラスが透けて薄っすら照らされているのがとても美しい。


PROXIMA px1719 & SAN MARTIN SN0005G & SAN MARTIN SN0005G2

夜光時計は「夜光塗料をどこに使うか」というのがデザイナーの腕の見せ所になる。塗りゆえに質感に劣るためだ。そのためドレス系の時計ではあえて使わないことも多い。

逆に使っていて違和感なくハマっていればそのデザインは優れているということになる。さながら持ち歩ける夜景といったところだ。


3.スーパールミノバ

①蓄光顔料(ルミノバ)の原理

SAN MARTIN  SN021G & SN0107
SAN MARTIN  SN0107 (36mm)& SN0107 (39mm)

 夜光時計には2025年現在二種類の技術が使われており、スーパールミノバはその主流となる技術である。アルミン酸ストロンチウムを主原料とした蓄光顔料で、根本特殊化学が1993年に開発に成功した。

どの辺が「スーパー」なのかというと、従来の硫化亜鉛系の蓄光顔料に比べて10倍の輝度を持ち、残光性も大きく向上した。人体に無害で環境への影響も小さくなったため、現在の蓄光技術のスタンダードになっている。


仕組みとしては「励起」(物理励起)の作用が使われる。ルミノバ(蓄光顔料)は光を受けると励起状態になるのだが、この状態は余分なエネルギー(電子)を持っている状態で不安定なため、蓄光顔料は余分なエネルギーを外に放出して基底状態(元の状態)に戻ろうとする。

この時のエネルギー放出形態が「光」であり、その様子が発光現象(蛍光)として捉えられる。原理は異なるがホタルが光を放つのも励起による光化学反応だ(こちらはルシフェリン酵素による化学励起となる)

ルミノバを励起させるには短波長光が良く、たとえばブラックライト(紫外線)が適している。また蓄光顔料が放出するのは可視光であるため、明るい上にをある程度変えられる。蓄光顔料自体が蛍光灯の役割を果たすといえばわかりやすいか。

②クロマライト

 スーパールミノバの亜種として、クロマライトというものがある。これは独特の青色の光を放つ蓄光顔料で、ロレックスが独自に開発した‥‥とされている。

CRONOS WATCH L6016 & PAGANI DESIGN PD-1692 
CRONOS WATCH L6016 & PAGANI DESIGN PD-1692

「されている」というのは、別にロレックス以外でも普通に使われていたりする。上記は中国製のオマージュウォッチになるが普通に使われている。あくまで「スーパーブルーのルミノバ」であって「クロマライト」ではないのだが、もしかしたらOEMの可能性もあるかもしれない。


SAN MARTIN SN0107 & SEIKO SARG009 & PAGANI DESIGN PD-1692

イエロー、グリーン、スーパーブルーの比較。こうしてみると色味は明確に違ってくる。イエローの外側にはオレンジが、スーパーブルーの外側にはパープルもある。この辺までがスーパールミノバの実用的な色だろうか。

苦手な色にはレッドがある。これは輝度こそ出るが残光性がイマイチですぐ暗くなってしまう。スーパールミノバは短波長の光を蓄光するところ、赤色は長波長なので技術的に難しいのかもしれない。


4.夜光時計の歴史

 夜光の歴史は長く実に1900年代初頭までさかのぼる。そう、ラジウムを発見したことで有名なキュリー夫人の時代だ。光り物マニア界隈のみならず科学界における大変な偉人である。

①ラジウム塗料

 最初期の夜光時計にはラジウム塗料が使われていた。これは蓄光はなく自発光物質で、スーパールミノバと違って光に当てなくても光るタイプとなる。(ただしスーパールミノバよりずっと暗い)

ラジウムは放射性物質である。半減期が1600年ととてつもなく長い上、ガンマ線を放出するため紛れもなく危険な代物である。このため時計針にラジウム塗料を塗る時計職人(ラジウムガールズ)の健康被害が相次いだ。当然ながら現在では使用禁止となっている。

②トリチウム塗料

 時代が進むとラジウム塗料の代替として、トリチウム塗料が使われるようになった。三重水素、すなわち放射性同位体である。ガンマ線を出さないため健康への影響はないが取り扱いに注意が必要で、光量が少なく、しかも半減期(12.3年)があるため、あまり使い勝手が良くなかった。

ただし使われている年代が長く、アンティーク時代のロレックスなどはトリチウム塗料が使われていた。エクスプローラー1などは1999年以前の4thモデルまでトリチウム塗料だった。

③オマージュウォッチ(レプリカウォッチ)

SAN MARTIN SN021G & CRONOS WATCH L6016

 上記の写真の時計はR社 Explorer1のオマージュ(レプリカ)で、左はアンティーク(3rdモデル)、右は現行品(6thモデル)をモチーフにしている。本家3rdでは本来使われていないはずのスーパールミノバが使われており、技術革新の恩恵を受けている。

ついでに風防(ガラス)もアクリルプラスチックから合成サファイアにグレードアップしている。サファイアはモース硬度9の物質なのでダイアモンドの次に硬く、そう簡単には傷がつかない。無反射コーティングも施されて視認性も向上している。

こういう時代を飛び越える点も腕時計の面白いギミックで、筆者は見た目アンティーク調だが最新技術をガンガンぶっこんで来る系のアイテムは大好物である。

④全面夜光時計

BERNY WATCH AM158M & AMT258M

 現在使われているスーパールミノバは無害であるため使用量に制限はない。ということは、いっそのこと全部ルミノバを塗ってしまえばそれが最強なのでは?‥‥そんな発想で生まれたのが全面夜光時計だ。

これは文字盤全体をルミノバで塗った時計で、デザインもヘッタクレもないのだが、夜光だけで見ればコレが最強である。そしてギミックとしては然程高いものでもないので、安い時計でもギャンギャンに光ってくれる。マジで暗所で本が読めるくらい明るい。

しかも最近は一見ルミノバとはわからない時計も出ており、光り物オタクとしてはとても楽しみだ。


5.トリチウムカプセル(マイクロガスライト)

BALL WATCH Engineermaster II diver
BALL WATCH Engineermaster II diver

 さて、先ほど夜光時計には二種類の技術が使われているといった。スーパールミノバと二分するもう一つの技術というのがトリチウムカプセル(マイクロガスライト)である。

これは先に紹介したトリチウム塗料の発展形である。否、正常進化といえる。放射性同位体であるトリチウムをガラス管に封入すると、より安定した物質であるヘリウム3に戻ろうとする。その際にβ線を放出するのだが、

このβ線(放射線、つまり電子)がカプセルの内壁に塗布された蛍光塗料にぶつかり、蛍光塗料が励起して光を発するという仕組みである。ちなみに「蛍光」なのでブラックライトを当てて強制的に光らせることもできる。


BALL WATCH Trainmaster Canonball II
BALL WATCH Trainmaster Canonball II

 トリチウムカプセルの輝度はスーパールミノバに比べると明るくない。写真は明るく見えるが、感度と絞りを調整してかなり露出を上げて撮っているためで、実際はここまで光らない。

しかしトリチウムカプセルは自発光型というメリットがある。スーパールミノバと違って光を当てなくても光るのだ。ということは何時間暗いところにいようが一向に光量が落ちないのである。これは感動する。人類の英知が生み出した化学の光だ。


BALL WATCH Engineer Hydrocarbon Spacemaster & Engineer II Small second

ただし弱点もある。先のトリチウム塗料と同じく半減期(12.3年)があるので、年単位で見ると輝度が段々と落ちてくる。

ただし12.3年が経過するといきなり光らなくなるということはない。この右側の時計は今から20年前に入手した時計だが、ご覧の通りまだ光を放っている。しかし8年前に入手した左側の時計と比べてみると確かに輝度が落ちていることがわかる。


その他としてはT25規制というものがある。これはトリチウムの放射線量が25ミリキュリー以下に規制してますよというという意味だ。海外モデルではT100とか制限なしというモデルもあるところ、日本はこの規制が厳しい。さすが被爆国である。

ただ筆者のようにいくつも集めてしまう物好きはいると思うので、あまり意味ない気がする。放射線にビビッて光り物オタクやっていられるか。

6.ボールウォッチ(BALL WATCH)

BALL WATCH Engineer Hydrocarbon Spacemaster & Engineer Hydrocarbon
BALL WATCH Engineer Hydrocarbon Spacemaster & Engineermaster II diver

 トリチウムカプセルを使用している時計ブランドはいくつかあるが、ボールウォッチはその代表的なブランドだ。トリ管使っているブランドでは作りが一番いい。というかトリ管云々抜きにして普通に高品質なので、デカ厚が気にならなければコストパフォーマンスが良い時計だろう。

このボールウォッチ建前スイス製なのだが、実態は香港資本と言われている。また過去にイメージ戦略でやらかしたため、イデオロギーを気にする人からは敬遠されやすい。トリ管ゆえに耐用年数がある点もネックか。


しかしただでさえコスパがいい時計の上、上記要因からリセール(中古価格)がさらに安いので、気にしない人には物凄くお買い得な時計でもある。筆者はその辺一切こだわらないのはいいのだが、いささか集めすぎてしまった‥‥。

トリチウムカプセルはその性質上、形状が限定されるという弱点もある。ボールウォッチではそれを逆手にとってデジタル数字を模したデザインに仕上げている。この見た目でもしっかり機械式時計であり、動力も夜光も電池を使っていないので面白い。


BALL WATCH Trainmaster Canonball & Trainmaster Roman

 ボールウォッチはゴツイ時計が多いが、鉄道時計ルーツということで、クラシカルなモデルもある。左側の時計はトレインマスター キャノンボール2というモデルで、コールドエナメルの文字盤が非常に美しい。筆者的にボールウォッチの看板モデルだと思っている。

たしか「相棒」のカンベソンがこの時計を装備していた気がする。さすがエリート警察官。なかなかいい時計を付けているではないか。

右側の時計はトレインマスター ローマンというモデルで、日本未発売モデルなので少し珍しい。たまたまオクで見かけたのだが、これどうして日本で売らないんだろうか。王道ど真ん中だし絶対売れると思うのだが。


Engineer Hydrocarbon Spacemaster & Engineermaster II diver & Engineer II small second
Trainmaster Canonball & Engineer II small second & Trainmaster Roman
Engineer Hydrocarbon Spacemaster & Trainmaster Canonball & Engineer II small second

中華時計は物凄く奥の深いジャンルで、自ブログで扱っている。

ヒトバシラー根性と凝り性がたたってアホみたいな本数が集まってしまったのだが、おかげで一定の知見を深めることができた。このネタはいずれ別の時計記事を書くときに触れてみたいと思う。

ボールウォッチはその中華時計に手を出す前に好んでいたブランドである。自ブログでは腕時計を扱っているので掲載したいのだが、いかんせん中華時計の層が厚すぎるため、まだこれらの時計を紹介できるところまで至っていない。一体何年かかるのか(白目)


まとめ

 今回は夜光時計について語ってみた。blueさん空間シリーズは本編そっちのけで熱く語りがちなのだが、今回はいつにもまして気合が入っている気がする。語るに落ちるとはまさにこのことだ。

筆者は物心ついた頃から光り物オタクという業を背負っており、結構な散財と収集をしてきたのだが、ある程度お金を使わないと見えてこないものもあるようだ。人の好さもモノの良さも、実際に会ってみないとわからないし、最終的にはやはり数だろう。

筆者は本編記事でMBTIに関する話をよく書いているのだが、洞察成分はこういった部分からも摂取していたりする。そしてこういった体験が意外なところで繋がったりするので面白い。

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