生成AIの“嘘”が映像を輝かせる―― DeepDreamからSora2まで、“AIっぽさ”がジャンル化した10年
2026/04/16: 「東京真中 - ブレインロット feat. 重音テト」と bilibiliで賞を取った作品「SIGN」 を追記
どもどもどもっす。すらだよ!
前回の記事から5ヶ月ぶりだね。
「何してたの?」って?
ASMR音楽の選曲、今年中に終わるかな…。
— すら@bluesura (@bluesura) August 6, 2025
2025年7月にASMR音楽の記事がプチ伸びしてから、ASMR性のある音楽がざっくざっく見つかってしまった。
で、ずっと選定作業をしていた。

……プチ地獄だぜ!
さて、本題。
2023年と実質2024年は、ずっと「AIと音楽」というテーマで記事を書き続けてきた。
2023年は、音声を別の声に変換する技術の年。
2024年は、音楽そのものを生成する技術の年。
そして2025年、動画生成の時代が訪れる——。
楽しい https://t.co/zsTtGhwopF pic.twitter.com/HYbDLn8nof
— すら@bluesura (@bluesura) December 11, 2024
ざぶーん https://t.co/xEYQXyVioY pic.twitter.com/X5cYiaOdhU
— すら@bluesura (@bluesura) November 23, 2025
もちろん、動画生成AIは2024年から盛り上がっていた。
KlingAI、LumaAI、Sora1などの、リアリスティックな実写生成が衝撃を与えた。
ただ、当時は再現率が微妙に弱かった。
アニメは、てんでダメだった。
何より痛かったのは「画像の編集」だ。
動画生成の“前後を固定して、その間をつなぐ”には、参照画像の一貫性がかなり重要になる。開始・終点フレームを指定するための画像づくりに、画像生成AI側の編集力が追いついていなかった。
Glass fruits appears to be the most popular genre so far, though I am also partial to the molten lava-themed videos pic.twitter.com/GJwrOJU0n1
— Olivia Moore (@omooretweets) June 14, 2025
しかし2025年に入ると空気が変わる。
中国系の画像編集AIや、Google系の画像編集機能(通称「Nano Banana」)が、画像の一貫性を強く保ったまま編集できるようになってきた。
その結果、映像への指示が格段にラクになった。
さらにVeo 3やSora 2の登場で、映像のクオリティ向上だけでなく、音声まで生成できるようになる。
結果として「実写ではありえないASMR作品」みたいなものが生まれ、たった1年で“実用できるレベル”に到達してしまった。
それが今年である。
MVという観点でも、動画生成が“使い物”になってきた
MV(Music Video)という観点でも状況が成熟してきた。
その流れを象徴するように、Google Japanが「Music Video with Gemini」という取り組みを始め、アーティストとのコラボを進めている。
また、ニコニコ動画の淫夢動画界隈でも2025年に入って動きが出た。
モチモチ「YAJU&U」が悲劇の大ヒットを遂げて以降、やじゅまん「土方のラビリンス」やパープル「マネ×拓『ウリで狂ったあと』」といった、界隈の文脈をSunoやUdioで音楽生成し、そこに生成動画で手の込んだMVを制作して、再生数を伸ばす事例が出てきた。
そこで気になり始めた。
「ニューラルネットワーク以降のAIで、映像制作された作品って、実際どんなのがあるんだろう?」と。
何がAIで、何がAI映像なのか
正直なところ何がAIMV(AI Music Video)という定義はない。
K-POPではSEVENTEEN「MAESTRO」の事前告知で、映像にAIを利用していることを明言し、redditで議論が繰り広げられていた。
公式も、わざと議論を呼ぶように情報をぼかしていたように感じる。
そして後からアーティストが間違った主張を撤回する。
ずるいだがうまい。タイミングの読みが鋭い、韓国らしい宣伝だと感じた。
このように、アーティストがサービス名や技術名をぼかすこともある。
技術が目的ではなく表現が主題なら、あえて伏せるのも自然だ。
そのため、この記事は「AIで制作されたMVの網羅」ではない。
あくまで、AIだと明言して知名度を勝ち取った動画。
あるいは、単なる技術好き。
情報商材や驚き屋に踊らされている者。
そして、たまたま筆者が見かけた動画。
そういうものを中心に拾っていく。
AI×MVはいつ“検索語”になったか

「いつからAIとMVが意識されたのか」を、明確な日付で特定するのは難しい。
一つの参考として、Google Trendsを見ると、YouTube上で2016年頃から検索され始めている形跡がある。

2016年前後で何があったか。
思い出すのはGoogle DeepMindだ。AlphaGo(アルファ碁)で注目を集めていた。
そしてGoogleの研究由来で、ユーザーが触れる形でも話題になったのが「DeepDream(ディープドリーム)」である。
2016:AIの“見間違い”がアートになった

DeepDreamは、もともとGoogleの研究者が「ニューラルネットワークが画像のどの特徴を捉えて認識しているか」を可視化するために開発した。
その手法は「インセプショニズム(Inceptionism)」とも呼ばれる。
ざっくり言うと、AIが学習したパターン(犬の顔、鳥、目など)を画像の中から探し出す。
そして、見つけるたびに過剰に増幅し、強調して書き戻す。
それを繰り返す。
AIが「そこに何があるか」を必死に解釈した結果、何気ない風景が、無数の目や動物の顔が渦巻くサイケデリックなイメージへと変貌する。
時に「悪夢のような」絵になる。
この「ブラックボックス」的な思考プロセスを視覚化する試みは、単なる技術検証を超えて、デジタルアートの表現技法としてクリエイターに衝撃を与えた。
Break Free:映像も音もAIに寄せた早すぎる挑戦
DeepDreamを活用したMVの一つとして印象的なのが、Taryn Southern「Break Free」だ。
映像にAIを活用するだけでなく、当時のディープラーニング(深層学習)を利用した「Amper Music」にトラック制作もさせている。
さらに、収録アルバム「I AM AI」では、同様にAI系の制作ツールとして
「IBM Watson Beat」「AIVA」「Google Magenta」などを活用した楽曲が並び、「世界初のAI作曲音楽アルバム」と自称している。
2016-2017:画風変換が一般ユーザーに降りてきた

そこから少し時間が進むと、「Neural Style Transfer(ニューラル・スタイル・トランスファー/画風変換)」が登場し、一般ユーザーにも流行した。
ロシア発の「Prisma」は、有名なアートのスタイルを自撮りに反映して遊べる。
この“手軽さ”が拡散と認知に大きく効いた。
またFacebookやGoogleも、動画をリアルタイムに画風変換するAPI・研究を発表している。
この関連技術で再生数を伸ばした例としては、MGMT「When You Die」が分かりやすい。
独自開発アプリで画風変換し、宇宙空間にトリップしたような表現を作る。
刺激の強い手術シーンをマイルドにしたかと思えば、臓物の中にいるようなグロ描写。
最後は死を想起させるドクロと荒廃。
この“夢っぽさ”と“不気味さ”を、見事に活かしていた。
2017-2018:“変換”が映像表現になる(GAN世代)

2015年以降は「第3次AIブーム」とも呼ばれ、専門家以外にも注目が広がった。
既存のニューラルネットワークだけでなく、GAN(敵対的生成ネットワーク)など新しい手法が台頭する。
そしてGANの文脈で「画像から画像への変換」を押し上げたのがpix2pixだ。

AI関連技術を、音楽だけでなく画像・映像で活用した例として、YACHTのアルバム「Chain Tripping」がある。
本アルバムでは全楽曲でMagentaのMusicVAEを利用し、ビジュアル、カバー、PV、MVなど複数箇所でAI技術を使っている。
「Blue on Blue」:訓練したGANで新しい顔の幻覚を生成
「(Downtown) Dancing」:ニューラルネットで文字間遷移をリリックビデオ化
「SCATTERHEAD」:pix2pix生成シーケンスやSVG-VAEフォントで映像制作
2018~:Deepfakeが“特殊効果”に転用される

技術進歩の“暗い面”として深刻化したのがフェイクニュースだ。
人力で大量生産された嘘情報が、ニューラルネットやエンベディング(埋め込み表現)によるレコメンド最適化で増幅し、社会問題へと発展した。
その中で「顔を別人に差し替える」ディープフェイクがアングラから盛り上がり、MVにも取り入れられていく。
象徴的な事例が、Charli XCX & Troye Sivanの『1999』である。
監督のライアン・スタークは、本来ポルノ合成などで悪用され「不気味なサブカルチャー」として認知されていた技術を、あえて特殊効果として採用した。
そこには、限られた撮影時間で多数の衣装替えを行う困難さを解消する、という実務的な理由がある。
加えて、当時のAI特有の「微妙な違和感」を、表現として活かす意図も込められていた。
そして、こうした既存映像の加工技術を経て、ついに「0から画像を生成する」フェーズへ突入する。
2022:画像生成の一般化(Midjourney/SDの衝撃)

そんなフェイクで辟易していた空気の中で、AIのブレイクスルーとして注目されたのが、Googleが発表したTransformerだ。
その技術をいち早く活用して存在感を示したのがOpenAIのGPTシリーズである。
そしてTransformerの論文は広まり、そこからLLMや拡散モデルなど複数の系譜が伸びた。
GPTシリーズ登場により、ついに機械が人間っぽい文章を生成できるようになっていくんだという、不安と期待で盛り上がるにつれ、画像生成も頭角を現し始めた。

当時、Googleは画像生成できることをアピールしつつも、フェイクニュースなど社会問題への懸念から慎重姿勢で一般公開には消極的だった。
OpenAIもクローズドでDALL·Eを提供していたが、研究目的中心で利用者はかなり限られていた。
しかし、そんなの関係ないと言わんばかりに抜け駆けして動き出したのがMidjourneyである。
Midjourney prompt: Akira anime in the style of Studio Ghibli --aspect 16:9 pic.twitter.com/0Buccb0tlg
— Doctor Popular (@DocPop) July 27, 2022
当時は「画像生成できるよ」という企業発表が多い反面、実際にさわれるサービスは皆無でユーザーは飢えていた。そんな中で門戸を開いたMidjourneyは、さぞご馳走に見えただろう。
ただ当初、品質は高いが実写・アート寄りが中心で、日本のアニメ・漫画は概念が出る程度、性能としてはからっきしだった。
同時期にStability AIのStable Diffusionは、ウェブサービスではなく学習モデルを公開。
ハイスペックPCさえあれば誰でも利用できる。
パンドラの箱である。
状況はカオスになっていく。
炎上と流行が同居した、イラスト生成
Ai generated girls und pazer character, came out pretty well😭😭❤️#NovelAI #anime #animegirl #AnimeArt #cute pic.twitter.com/1kkQeS6ksz
— MrTaku (@TakuTheMonarch) October 8, 2022
そこに追い打ちをかけたのが、イラスト生成特化のNovelAIだ。
日本のイラストやアニメに寄せて学習させた画像生成AIだが、学習データ収集にDanbooruのような無断転載サイトを利用していた点などで賛否両論を呼んだ。
有名イラストレーターの画風を真似できる。
版権物すら生成できる。
指以外は完璧ね!こういうのを求めてんだよ俺はぁ!!
— サウザンドアイスサクリフェイス (@naglas2000) October 9, 2022
大大満足#NovelAI pic.twitter.com/WZKTinQzME
GN Everyone!🖤💜🤍✨#AI #AIart #AIartcommunity #Stablediffusion #NovelAI #NFT #Tezos #Digitalart #Anime #Portrait pic.twitter.com/WcxHlj7nTD
— Papom (@Papom_art) October 9, 2022
当時としては衝撃的だったが、
一定の破綻もあった。特に指周りが弱い。
破綻の確率を下げるため、Danbooruで上手い絵につきがちな「masterpiece」タグをプロンプトに入れる手法も流行した。
ただ、そうすると似たような顔になりやすい。
その現象は皮肉を込めて「マスターピース顔」と呼ばれた。
日本のイラスト界隈も殺伐として、生成AIを表立って使うのは村八分や魔女狩りのリスクがあった。
「名前を呼んではいけないあの人」状態だ。
“生成画像”を飲み込むのが早かった音楽サイド
リプありがとうございます!ジャケット、いい感じですね!9月頃の情勢では「次のM3はAI画像だらけになるかな」と思ってたんですが、蓋を開けてみたらそういうジャケはあまりなかったですね。今後もやんわり注目していこうかと思います。情報ありがとうございました!
— nobu teshima@M3秋ありがとうございました! (@nobuteshima) November 4, 2022
'23春からM3初めて行ったけど今年の秋はすっごいジャケットがAIイラストになってるサークル増えた印象がある。正直全部同じような絵柄にしか見えないしジャンルもよくわからなくなるしAI絵使う風潮広がるのはめちゃくちゃ悲しい
— アラブルガリア DJニュー製品 (@SORENARI_works) November 6, 2023
そんな中、画像生成AIを活用する動きが強かったのが音楽だ。
指標の一つとして、年2回開催される同人即売会イベント「M3(えむすりー)」がある。
2022年頃は生成AIジャケット報告は少なかったが、2023年には定着し始めた投稿が見られる。
筆者も同年のM3を覗いたが、当時推していたAI生成画像VTuberと似通ったキャラのジャケットを見かけて笑ってしまった記憶がある。
この流れはYouTubeのMVにも影響し、その受け皿の一つが合成音声系の音楽だ。
素材活用としては、きくお「イイコと妖狐」で加筆した背景素材の利用が分かりやすい。
他にも、Stable Diffusion系の学習モデルを使ったyanagamiyuki「魔法」、nijijourneyのイラストにアニメーションを付けた多聞「カサンカサンカ」など、幅は広い。
“生成画像”そのものをテーマにしたMV
生成画像というテーマを真正面から扱った名曲もある。
アメリカ民謡研究会「その汚い手を二度と見せるな。」だ。
当時の生成画像AIの空気を、メタな記述と問いかけでえぐってくる。
儚い女性のように見えるイラスト。
そして刹那的に流れる大量のイラスト。
こちらの心を痛烈にえぐる。
AIによる大量生成というテーマに対して、素晴らしいクリエイティブに仕上げている。
“あえて低性能”を使う:UtopiaLyric「反射湖」
UtopiaLyric「反射湖」も面白い。
2024年頃にStable Diffusionを使い、破綻が改善しつつある時期に、あえて「破綻したイラスト」と「似てるけど微妙に違う画像」を大量生成する。
それをひとつなぎにした動画で、ロックの激しさを表現している。
この割り切りは見事だ。
Disco Diffusion / Deforum:静止画をつないで“動画にする”
2022年頃のAIは文章や画像の進歩が中心で、動画はまだ研究段階だった。
時間軸で一貫性のある“本格動画生成”はまだ弱い。
ただ、画像生成や画像変換を利用し、
「静止画を順番に生成して、それらをつなげて動画にする」
という文脈ではDisco DiffusionやDeforumが存在した。
その時期にリリースされた、バーバパパ「AIにおまかせ」のような、モーフィング(溶け合い)っぽい、ぐにゃぐにゃしたMVは、これらのツールを活用している可能性が高い。
商業側の“研究的”MVも出る
ボカロP以外でも、生成画像を活用した研究的MVは出ている。
Sony Musicが、生成AI活用研究のインフルエンサーとして有名な852話とタッグを組んだ例だ。
2022年の画像生成はまだ安定していないため、範囲としては背景で収まっているが、商業音楽として綺麗に仕上がっていて、タイトルからも意図を感じる。
海外では、Linkin Park「Lost」が特に再生数が段違いだ。
2002年録音の未発表曲で、過去映像をStable Diffusion系でアニメ調に変換した。
1億再生と注目度は高いが、もちろん賛否両論になっている。
また、画像生成の先駆けだが利用の観点では地味になっていた「DALL·E」の画像を、MVに活用した例もある。
Okay Kaya「Inside of a Plum」だ。
ケタミン療法にインスパイアされた「閉じたまぶたの裏の意識」を表現するため、日常と幻想が融合したサイケデリックな映像をAIで制作した。
2023:Runwayで“さわれる動画生成”が始まる

AIによる動画生成は、2022年頃から研究発表が目立ち始めた。
そして2023年、RunwayのGen-1/Gen-2などで一般ユーザーが触れる“実用フェーズ”へ移行していく。
しかし、2022〜2024頃のMVを漁ると、Deforum系が中心になりがちだ。
なぜか。
当時の動画生成は生成動画の時間が短く、破綻が多く、プロンプト指示に従いにくかったからだ。
4分近い一貫性のある作品に仕上げるには、相当なクリエイティブ力が必要だった。
また、2024年のSora1のように一貫性が強いサービスが出ても、安全性の観点から可視化透かしが強制されるなど、運用面の制約も大きかった。
2024:それでもSora以降、AIMVが出始める
Sora1の性能は強かった。
可能性を感じる一貫性で、いくつかMVが登場している。
公式が投稿したAugust Kamp「Worldweight」だけでなく、2024年5月には、アーティスト・レーベルとしては世界初と自称するWashed Out「The Hardest Part」も投稿された。
Sora1は生成動画の時間が長いこともあり、MVにも影響したのだと思われる。
この頃から「始点」と「終点」のキーフレームを画像で設定し、その間を自然につなぐ機能が強まっていった。
2025:“編集力”がAIMVを量産可能にした

そして状況は、時間とともに変わっていく。
不可視の識別キーを動画に埋め込むタイプの動画生成が台頭したこと。
ローカル環境で動画生成できるオープンモデルの一貫性が上がり、素材として使いやすくなったこと。
この二つが大きい。
サービスで言えばGoogleのVeo、XのGrok Imagine、快手のKling AIの影響が大きい。
オープンモデルで言えば、商用利用可能なMochi 1やWan 2.1の影響があった。

さらに、Black Forest Labsの「FLUX.1 Kontext」や、Googleの「Gemini 2.5 Flash Image(通称:Nano Banana)」、Alibabaの「Qwen-Image-Edit」など、画像の一貫性を保ったまま編集できるモデルが増えたのも大きい。
AIによって生成された印象的なMVたち
ここからは、どんなAIMVが投稿されていたかを、ざっくりまとめていく。
非公式AIリメイク
分かりやすいのが、既存楽曲・既存アイコンの“文脈”を下敷きにして、AIで映像だけを作り直す(あるいは作り足す)タイプ。
つまり「非公式AI MV」だ。
非公式MVを作るということは、その対象への思い、歴史的文脈、あるいはリアルタイムの盛り上がりが基本ベースになる。
AI Coverの頃からよく遭遇したのはマイケル・ジャクソンだ。
「Missing Toys」は完全にファン創作で、歌詞はマイケルの経歴についての解釈が綴られ、音声はマイケルの声に変換されている。

AIMVの元となるRob Zombie「Dragula」は、1964〜66年放送のTVドラマ『The Munsters』に登場する棺桶ベースのドラッグスター“Drag-U-La”から曲名を取っている。
実際に同車は、ドラッグレース回「Hot Rod Herman」(1965年5月27日初回放送)でGrandpaが組み上げ、失ったMunster Koachを賭けレースで取り返すための“切り札”として描かれた。
Rob Zombieがこの名前を曲題に採ったことで、「スピード」「暴走」「悪趣味で不吉」という連想が組み込まれた。
さらに曲の冒頭でホラー映画由来の台詞サンプルが引用され、“古典ホラーの世界観”を補強する。
このため、非公式AIリメイクの文脈では、Rob Zombieとホラーテイストを取り入れつつも、棺桶カーと家族コメディ『The Munsters』の要素がミックスされている。
動画の世界は一見オリジナルに見えて、棺桶、燃える魔女、怪物たちをうまく組み合わせた結果だ。
AIMVとして、面白い創作になっている。
パロディ/ミームAI-MV
一方で、AIMVで再生数を稼ぎやすいのは、パロディなど“ネタ”に振ったMVである。
理由はシンプルだ。
初期の動画生成AIは破綻があった。
真面目な文脈は成立しにくい。
だったら、笑いに走ったほうが破綻が“味”として受け入れられやすい。
さらに、音楽の歌詞まで作るとなると負荷が高い。
アーティスティックな文脈はハードルが高いのだ。
そうなると、社会的自虐やジャンルいじり、他者を貶す方向が伸びやすい。
格差が進んだ世の中では、残念ながらそういう毒が刺さりやすい。
AI Coverでもそうだったが、世界的にバズった曲のパロディは再生数が堅い。
それに高齢者社会を混ぜ合わせたのが、ぽめきちAI「推しの孫」である。
ぽめきちAIは高齢者MVシリーズも多く制作していて、「高速乗ったらワシ以外逆走しとる件」は、AIの矛盾した動きを“車の暴走”として回収している。
AIである意味盛り上がっているジャンルは政治ネタかもしれない。
ドナルド・トランプがAIの記号の一つとして象徴化している影響もありそうだ。
個人的に好きなのは、ハリー・ポッターと某国を掛け合わせたMVである。
日本の政治ネタAIMVもあるのだが、個人的には触れにくい空気感があり、ここでは言及程度に留めておく。特にシークレットモードでYouTubeのAIMVを探索していると、関連候補にやたら出てくる。
なかなか闇が深い。
AIデジタルメイク・VFX-MV
クリエイターがAIを本気で活用するなら、基本はVFX(視覚効果)だろう。
実際にGoogleがプロモーション戦略として、様々な日本のミュージシャンとコラボした「MV with Gemini」を展開している。
muque「Level up」では、少なくとも映像内の“物理的にバグった動き”がAI生成だと、公式動画で公表されている。
ガチャ的に映像を生成し、テンポを加工し、エフェクトを重ねる。
視覚的にも、いわゆる音ハメ的にも気持ちいい仕上がりになっていた。
MV with Geminiからもう一つ。
ウェブ記事上で「最新AIをフル活用し」「CGの工程を踏まず、Geminiでカメラワークをつける」と述べられていたLAUSBUB「golden lighter」。
ブルーバックで撮影した歌唱・演奏の合成部分以外は、ほぼAI生成動画だと思われる。
試行錯誤の匂いが強い。
ここまでの例はかなり手が込んでいるが、あえてシンプルなMVも挙げたい。
Avi Snow, MVCA, Zeeba「Feel」は、Zeebaがいろんな場所を巡るのだが、なぜか空中を飛ぶ。
しかも終始、満面の笑みである。
最高だ。
“少しだけ非現実”な世界のMV
AIは非現実的な空間を簡単に作る。その加工の過程で、人間の作業では出にくい“AIっぽい味”が混ざっていく。
IGORRR「ADHD」は2025年4月公開。
制作期間を考えると、画像編集力や透かしなし動画生成が大きく変化し始めた時期と重なる。
そのためIGORRR側は、AIで「しっかりとしたストーリーラインを構築するのは非常に困難」と述べている。
一方で、AIの不気味でコミカルな世界観に魅了され、制作スタイルが3Dベースから3D+AIミックスへ変化している。
実際MVは、破綻が少ないのに、随所に「AIっぽさ」が見える。
美しく、妙で、目が離せない仕上がりである。
この半年後、「MV with Gemini」系のMVはAIの向上具合をさらに感じさせる。
TOWA TEI feat. SHEENA RINGO「APPLE」もプロンプトで意図的に作った独特な世界観だが、「撮影が困難かつCGで作ることも憚られるシーン」をAIに寄せている節がある。
技術の進歩が見える。
UGC(ユーザー生成コンテンツ)な例として、「60s Rewind: San Francisco's Hippie Dream」も挙げたい。
60年代のサンフランシスコというテーマに、特徴的なオレンジ基調。
レトロだけでなく、漫画的なレトロハイテクが展開されていて面白い。
ファンタジー/架空世界AI-MV
AI動画生成のファンタジー世界は魅力的だ。ショート動画では不気味系が伸びる。
AIMVでも不気味さやファンタジー全振りの動画が存在する。
ただ筆者的には、この手のAIMVは食傷気味である。
世界観が凝っていても、構図やパターン、アイディアが似通いやすい。特定のアカウントの影響なのか、動画生成AIの癖なのか、UGC側のアイディア不足なのかは分からないが。
その中でコンスタントに数万再生を取っているのが「Kelly Boesch AI Art」だ。
2023年からAI関連動画を続け、現在も様々なAIMVを投稿している。
名作の世界を再現するのも良い。
Mystic Video AI「Cinderella」は構図は単調だが、シンデレラという題材で、きらびやかな世界を動画生成した。低再生のUGCが溢れる中で、400万再生超えを記録している。
生成AIの魅力は、倫理規定に引っかからない限り、無茶振りを“それっぽく”人間ナイズドしてくれる点だ。
音声記録のない古代言語でも、法則性のない未知言語でもいける。
amanojak「古の杜、神降ろしの儀」は、古代文字・音霊を掲げる言説「カタカムナ」のウタヒを歌詞として、音楽AIで生成している。
その世界観に画像・動画生成を組み合わせ、映画チックな派手さのある民族MVになっている。
架空アーティストMV
AI生成は世界を量産する。
そして大半は知られずに消える。
VRブームの時もバーチャルヒューマンが注目されたが、生成AI以降も現実に存在しないアーティストが増えた。
Kling AIもバーチャルアーティスト「LUNA」を登場させたMVを投稿している。
Outliers「New Born」はNYっぽい地下鉄から始まり、ぎりぎり手間ひまかけたCG、VFXのような生成映像が流れる。
“存在しない現実”とファンタジー世界が混ざっていく。
UGCでも驚くクオリティのバーチャルヒューマンMVがリリースされている。
投稿者は中国語圏ユーザーで、VeoだけでなくKling AI、ComfyUIなど少なくとも8つのAIを使い分けていると述べている。
制作者は大手インターネット企業に勤めた経験があり、マレーシア開催のTEDxで講演もしているという。
AIで《架空のミュージシャン》を作りました。
— HAL2400 | AI Visual Creator (@HAL2400AI) November 11, 2025
音楽、映像、すべてAI
真島 華『ここにいたい』
作詞:HAL2400
作曲:Suno(AI)
MV監督:HAL2400
動画生成:KLING(AI) pic.twitter.com/2BIIMti5BR
また、Twitterで伸びているバーチャルヒューマンMVもある。
HAL2400はノウハウ的投稿をしつつ、真島華という脱力系ボイスのアーティストで、センチメンタルなMVを投稿してリポストされている。
3D/CGアニメ調AI-MV
リアル寄りだけでなく、CGテイストのMVもお手の物だ。
生成AIがあったからこそ生まれた文化として「Brainrot(ぶれいんろっと)」がある。
詳細は以前書いたnoteを参照してほしい。
Brainrotは最初、画像生成を活用したショートで拡散した。その後音楽生成AIのクオリティが上がったことで、中尺でも再生数が爆発するようになる。破綻があっても受け入れられる土壌だったため、初期の動画生成AIの影響も強く受けた。
特に日本のアニメテイスト×生成音楽では、Sallo「BRAINROT: ANIME OPENING」は、ショート動画文化圏以外にも広まるきっかけになった。
後発のCGテイスト「Party Tunes」は、1年も経たないうちに2億再生を記録することになる。
CGを動画生成AIで制御するのは、たしかに容易になった。
それでも「細かい制御」をしているほうが、制作者のセンスが見える。
その一つがOleg Kuvaev「UNTIL」だ。
キャラの表情や動きが印象的だが、この動画は“全編”が動画生成ではない。
自前のCGスキルに、人のモーションをAIで反映させる技術を使っている。
少し話がそれるが、YAJU&Uも音楽生成AIと界隈の後押しは大きい。
ただ最終的な決め手は、センスのある人間のダンスだった。
やはりMVには、ときにダンスが必要だと感じさせられる。
もちろん、CGテイストを動画生成AIで作り込むUGCもある。
UshizaruはKling AIで球体関節人類シリーズを投稿し続け、強い個性を見せている。
AIMV界隈で弱くなりがちな口パクや音ハメもできている。
構図も一辺倒ではない。
そしてnoteではやはり地味な編集の積み上げが語られている。
オーディオ・ビジュアルMV
ここまで何度も音ハメと言っているが、AI生成映像と音楽で重要なのは、映像と音をどう合わせるかだ。
ただ、動画生成AIは詳細なコントロールが難しい。Level upでも、その工夫が語られていた。
MV with Gemini参加作品の一つ、パソコン音楽クラブ×長谷川白紙「hikari」の映像を担当した平牧監督は、「AIがまだできてないことは(中略)音楽に合わせて映像が動く」と述べている。
映像としては、同一シーンから大量の変化を生むAIの得意技を活かし、水の入ったグラスから連想ゲームのように変化させていく。
Video Jockey的な抽象映像、モーショングラフィックス寄りのMVもある。
RelaxBeatsLab™︎「MonoChrome」は白黒の構成で、Grok ImagineやHailuo AIで音に合わせた変形をさせている。
NEW!
— MINIMA (@minima_ai) November 6, 2025
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
WE AM I
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
▼playhttps://t.co/mXBMprXWGc pic.twitter.com/cu2nQmRRLy
さらに尖っているのが、TwitterやSunoでしか投稿していないMINIMAというクリエイターだ。
映像は音に合わせることをしっかり踏襲している。
┤電海├ 逆:アセンブリ PV公開🧠
— MINIMA (@minima_ai) October 7, 2025
sora2
midjouney
suno AI https://t.co/WdrMxyLA55 pic.twitter.com/IePF4kCzoQ
Sora2系の映像では、透かしなんてお構いなしに音レベルで素材を分解・再構築している。
Sunoの制作実績を聴くと、よくある“完成されすぎた”形ではない。
リズム感はあるが、規則性を絶妙に外してくる。
そのブツブツ音は平面的ではなく、(音楽生成AIで)立体的に鳴るようこだわっている気がする。
2011年から実験音楽の制作を続けているが、尖り方が頭一つ抜けている。
イラスト・モーション(モーショングラフィックス)
AIMVはリアル寄りが多いが、イラストチックな試みもある。
過去のAI映像は「人間っぽいのに不気味に違う」と言われ、夢っぽいと評された。
NEGUSE BOY「dejavu」は、そんな“夢”をテーマに歌詞と映像を作っている。
AIの得意な「認識できる何かだが、ごちゃごちゃして破綻している」状態を夢として活用していて、素晴らしいMVだ。
synthetica「深海浴」は、女の子×深海魚の映像が流れ、NHK「みんなのうた」のような童話チックさがある。歌詞フォントの視認性も高く、意識している節がある。
2作品は「東京AI祭 AI Creative Contest」にエントリーしていた。
Asamoya「空空空」もその一つで、個人的に一番気に入っている。
リアル素材とイラスト、エフェクトをレイヤーで重ね、ボカロ的な空気がある。
音楽の勢いとも合っていた。
ボカロ/合成音声系AI-MV
AI生成画像MVで合成音声系を紹介したが、動画生成AIという観点でも動きはある。
eto.「コントラリーモーション」は、Jet Set Radio的なテイストで統一されている。
映像には画像生成特有の誤り、変化しないループ、破綻がふんだんにある。
でも、それを重音テトと音楽性が包み込む。
どことなくぼやっと温かい色合いのフィルターも含めて、筆者的にはマッチしている。
生成AIの不気味さを積極的に取り入れたKish.「政見放送」も素晴らしい。
AIの不気味さを、エンタメ化した政治への皮肉として活用している。
面白い。
Kish.自身がボカロと共創するスタイルで、そこにAIを足している点も好きだ。
引き続きKish.のMVで、「サン社員 feat.重音テト・雨衣」も良い。
言語化が難しいが、キャラ画像を音ハメで連打する中で、1枚だけAIモーション特有の“ぬるっとした動き”が混ざる。
妙に癖になる。退職勧告のところが特に好きだ。
アニメOP/セルアニメ調AI-MV
ボカロと来たらアニメのMVもピックしておきたい。
アニメ系の動画生成は、特にSora2が破壊的な性能を披露したことで、国内外で版権アニメ風が氾濫した。
AIアニメっぽさの定番として「モダナイズされた昭和」風のキャラスタイルがある。
びーふり「夜更けのスローダンス」は、昭和感のある女性キャラに、雨、夜のネオン、東京、そしてシティポップを合わせている。
古き新しさがある。
道が近未来LEDのように点滅するシーンは、AIらしい映像表現だと感じた。
商業例としては、CGWORLD 2025年12月号で紹介された事例がある。
Arinco先生によるボーイズラブ漫画「Kiss me crying」の1st single MVだ。
ツール詳細は本誌確認してほしい。独自の学習モデルであそこまでキャラを安定させているのは技術的に興味深い。
Sora2はなかなかの無法だが、Grok Imagineも負けていない。
Skyebrows「Joe's Rogaine Experience」は生成元を明言していないが、投稿を見る限りGrok Imagineを活用している可能性が高い。
色味はストリートでダーク。
アメリカナイズされたウマ娘やドラゴンボールだけでなく、英語圏で有名なVTuberのNux Taku、ネバーエンディングストーリーのファルコンまでアニメーションされている。
カオス。
……そして、セクシーコスなケモミミ娘のアニメーションが良い。良いぞ。
クリエイタースポットライト:tapehead
AI生成という特性を十二分に引き出しているのが、クリエイター「tapehead」だ。
【Lazy talk】-AI Generated MV-
— tapehead.lab (@tapehead_Lab) July 31, 2025
suno曲のMV作りました
Midjourneyを酷使すれば、いろんな表現ができます!
今回はどこまでやれるのか、いろいろ遊びました!
(いっぱい遊んだフル版はリプ欄に) #SunoAI #midjourney #nijijourney #AI動画 pic.twitter.com/eMNMDAqbWN
Twitterでは実用したTipsを積極的にシェアして注目を集めている。
MVでも万バズを出していて、認知しているユーザーも多いだろう。
一番バズったMVでは、キャラと実写合成だけでなく、意図的にラーメンをすするシーンを入れたり、AIが得意なループ作業もガチャで回しつつ、明確に意図を持って取り組んでいるのが見える。
「Crack room」ではリアル寄りの映像作品も制作していて、Twitterでメイキングを共有しながら、CGWORLDでさらに細かいワークフローが紹介されている。
様々な型のループ的つなぎをしつつ、AI VFX的な取り組みをしている。
tapeheadは「Lazy talk」や、ピタゴラスイッチ的装置をかけていくAI生成少女の「Missact」など、様々な二次元キャラ×リアルのMVに取り組んでいる。
筆者が一番気に入っているのは「Futa-rhythm」だ。

どのシーンでも「ここでこういうチャレンジをしているな」が垣間見える。
それが最終的に一つの作品としてつながっていて、美しい。
ボカロMVにあるような文脈を取り入れている節もあり、好印象だ。
AIで生成した映像素材を丁寧に重ね、リリックのモーションはVeoで生成しているという。
リリックを画像生成でリアリスティックなシーンに溶け込ませているのも好きだ。
女の子が波に手をかけるシーンでは、波の物理演算がきっちり出ている。
AIで人間作業コストが圧縮できているからこその芸当だと感じる。
最近投稿した「オートフォーカス」も良い。
AIが最近になって改善した群衆性や、「同じフレームから様々なルートに分岐し、最終的に同じシーンに収束する」という使い方がうまい。
今後のチャレンジが楽しみである。
インターネット視点の、現在の動画生成MV
このように、動画生成AIを活用したMVは2025年に増えた。
ただし、基本的にUGCが多く、実験作が大半だ。
最近になって、動画生成と画像生成の性能が上がり、クオリティも上がった。
だが、その過程で失われたものもある。
それはAIの「ノイズ」だ。

筆者がAIMVを見ていて疑問に思ったのが、AIMV×音楽ジャンルのMVである。
AI特有のノイズが減り、一貫性が上がり、ジャンル再現性が向上するほど、UGCの制作者のセンスや個性が際立つようになった。
特にそれが浮き彫りだったのがK-POPだ。
動画生成AIで制作したK-POP風MVが大量に出てきたが、派手な見た目で、音がそれっぽければK-POPだと思っているような内容が多い。
音ハメがない。
カメラワークが単調すぎる。
ジャンルを馬鹿にしているのか、とすら感じるものが溢れている。
AIを使ってJPOPをファンキーにアレンジする「FunnyJ-POP」が色々なところでかなり評価されているように見えるのはなぜなんだろう
— 吉永龍樹(ヨシナガタツキ@僕秩) (@dfnt) November 8, 2025
・AIだと気づいていない?
・もとの曲に人間のストーリーがあるので、AIに不足しがちな必然性などが担保されている?… https://t.co/yy5STBuYmB
興味深いのは反応の差だ。
日本のAIMV K-POPには、日本語で「AIすごい」「動画すごい」というコメントが目立つ。
一方で、アメリカのKIONの動画では、中途半端なK-POP風AIMVに対して
「クレジットがキレたんですか(笑)」
「魂がねぇんだよ💢」
と、辛辣な反応が目立っていた。
蛇足だが、インドネシアで新ジャンル「Hipdut(ヒップダット)」が盛り上がったときも、音を再現するためのSuno向けプロンプトがシェアされていた。
その時、音楽における「文化の盗用」っぽさを感じてしまった。
頼むから文化を理解してから作ってくれ、と思わされた。

話を戻す。
今のAIは、ユーザーが使いやすいように、無個性な素材を出力しやすい方向へチューニングされているように見える。
これは文章生成でも同じで、変な個性が削られ、無難に整っていく。
そして「AI」と名乗るMVの中には、AI生成(=人間の制作物と変わらない)素材を、ただ繋げただけの作品も多い。
結果として、つまらないAIMVが多数を占めている。
だからこそ思う。わざわざ「AI」と名前をつけて投稿するなら、AIの個性を理解してMVを作ってほしい。
いまの動画生成AIで、AIの個性や強みを活かさないなら、「AI」と付けるメリットは何一つない。
では、AIにおける「ノイズ」とは何か
いま面白いのは、「AIで作ったかどうか」より先に、まず映像が“AIっぽく見える”と反応がでる点だ。
ここ数年で、生成AIは映像表現としての“癖”を獲得した。言い換えるなら、AIの個性が確立した。
生成AI初期にあった不気味さ。
人間ではありえない発想。
現実っぽいのに少しだけ破綻した空間。
その結果、視聴者側にも「AIっぽさ」の判定基準ができてしまった。
だからこそ、実写VFXで組み上げた映像でも、一定の条件が揃うと「AIでは?」という受け止めが立ち上がる。
要するに、AIの進化が“AI作品”を増やしただけではない。
AIに見えてしまう作品まで増やしたのだ。
A$AP Rocky「Tailor Swif」は、その境界線に引っかかる。
映像のテンションが過剰で、リアルなのに現実からわずかに浮いている。
その“浮き方”が、いまの鑑賞眼鏡ではAIの様式に接続されやすい。
結果として、このMVは「生成AIを使った作品か?」という確定的な話題というより、AIの個性が社会に共有され、誤認が起きる時代になったことを象徴する一本として興味深い。
Masaki Mizunoが制作した「WAVE」も非常に素晴らしい。
現実のシーンをシームレスにAIで破綻させる。
現実ではありえない光景なはずなのに、見ていると脳がバグる。
本職のクリエイターは流石だと圧巻させられた。
破綻に対してダンスを心地よく同期させ、良い意味の気持ち悪さをブーストしている。
Mizuno氏は動画説明で、下記のように述べている。
では、AIにおける「ノイズ」とは何なのか?
そのひとつの例が、ハルシネーションだと思っています。
非常に面白い視点だ。
AIのハルシネーションは、実用性やビジネスの視点では忌み嫌われる。
悪用されればフェイクニュースになる。
しかし創作の世界に足を踏み込むと、「AIの嘘」は「面白さ」に反転する。
AIに限らず、アニメやCGでも「嘘パース」というテクニックがある。
創作では嘘が重宝される。
ところが、いまの“ニュートラルな”生成AIは、なるべく嘘をつかないよう設計されている。
だから、いまのAIMVには気持ち良い嘘が少ない。
逆に言えば、面白いAIMVには「絶妙な嘘」が内包されている。
初期のAIのハルシネーションは、学習不足で“文脈に奉仕しようとする姿勢”から生まれた。
人間にはなかなか出せない発想として、「AIラーメン」みたいなものもあった。
バカと天才は紙一重、とはよく言うが、たぶんそういうことなのだ。
いまのAIは本当に賢い。
この文章でも、知識の提供や誤字脱字のチェック、読みやすさの調整はAIに相談している。
もうパートナーになってしまった。
ただ、クラスでバカな発言をして場を盛り上げてくれた“あの子”は、もういない。
知識豊富で賢い人間でも、漫才は確かに面白い。
でも、脈絡のないバカは、あれはあれで面白いのだ。
2026年:文化への理解と、「我」の解像度
2026年に入り、"作品"として話題になる例が出てきたので追記しておく。
1つは、ボカロPの東京真中が投稿した「ブレインロット feat. 重音テト」だ。
タイトルからわかる通り、Brainrotをテーマに制作されたMVである。Brainrotの中毒性という意味合いを、歌詞だけでなく癖になる音使いで世界観にマッチさせていて、素晴らしい作品になっている。
MVの背景は記事で紹介したHAL2400が担当し、生成AIでよくある不気味な空間表現をリミナルスペースで表現。「The Backrooms」の迷い込んだら抜け出せない文脈を付加することで、作品としての味をさらに深めている。Brainrotの文化を丁寧に汲み取った、まっすぐな一本だ。

印象的だったのはユーザーの反応だ。この作品は最初に『ボカコレ2026冬』で投稿され、AI拓也のような文化があるニコニコ動画であってもコメント欄が荒れるという事態になった。しかし祭典終了後にYouTubeへ投稿されると、一定の忌避感を示されながらも、ブレインロット文化への理解があるためか作品として評価され、再生数が伸びているという事例になっている。
プラットフォームをまたいで反応が変わる。これは、「文化を理解してから作ってくれ」という話と表裏一体だ。文化を理解して作った作品は、その文化を共有している視聴者には届く。

もう1つは、bilibiliの第1回AI創作大賽で一等賞を獲得し話題になっていた「SIGN」という作品だ。
その制作者のインタビューで語られていた言葉が、この記事で書いてきた「AIのノイズ」論と見事に呼応していた。
「AIはあくまでツールです。ツールとして、AIは『退屈』です。AIは間違いを犯さないので、ユーモアがありません」
これだ。
AIが賢くなればなるほど、AIは退屈になる。 記事で「クラスでバカな発言をして場を盛り上げてくれたあの子がいない」と書いたが、受賞者も同じことを感じていた。
面白いのは、そこから導かれる結論だ。 AIが制作コストを圧縮した結果、「失敗する余裕」が生まれた。 サンクコストが下がったことで、大胆な実験ができるようになった。 つまり——人間側が「バカになれる」余地が増えた、とも読める。
また、 脚本の完成に1ヶ月半、でも制作は3日。 AIが短縮したのは「作る時間」であって、「何を表現すべきかを考える時間」ではない。

そして登壇時のスライドが印象的だった。
映画・ゲーム・書籍・音楽といったインプットが「通感(共感)」を経て、経歴・性格・主観感受というフィルターで「我(私)」になり、個人表達・審美傾向・契機を通じて「故事(物語)」になる——という図式だ。
AIが民主化したのは「制作」であって、「私」の部分は依然として人間にしか作れない。 むしろAIが均質化するほど、「私」の濃度がそのまま作品の差になる。
「品位(センス)がより重要になった」という言葉も、そこから来ている。
AIMVもそうだ。 ツールが揃い、誰でも作れるようになった今、面白いAIMVと退屈なAIMVの差は、制作者の「私」の解像度でしかない。
AIの嘘を面白がれるか。 破綻をどう料理するか。 「退屈なAI」を使って、いかに退屈じゃないものを作るか。
結局それは、AIが登場する前から問われていたことと、何も変わらない。
