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AI音楽を本当に楽しんでいるのは誰なのか?――ニコニコの最底辺から生まれた『YAJU&U』と、世界を蝕む『BRAINROT』の謎

2017年に画期的なAI技術「Transformer(トランスフォーマー)」が発表されてからというもの、私たちの世界はまるでSF映画のように、めまぐるしく変わり始めました。2018年には「GPT-1」が産声をあげ、2020年の「GPT-3」、そして2021年の「Midjourney(ミッドジャーニー)」など、次々と現れる新星たちが、私たちの常識をあっという間に塗り替えていったのです。

その進化のスピードは留まることを知らず、今やAIが生成する画像は本物の写真と見分けがつかないほど。言語の壁はどんどん低くなり、プログラミングは信じられないほどの速さで進み、動画生成もこの1年で実用レベルになりつつあります。そんな目まぐるしい変化の真っ只中にいる人々と、その変化をほとんど知らずに日々の生活を送る人々との間には、認識の溝が少しずつ広がっているような気もします。

さて、そんな仕事や経済といった、肩がこる話は一旦脇に置いておきましょう。
今回この記事でお話しするのは、AIの登場と進化の狭間で生まれた、ちょっぴり不思議で奇妙な「AI音楽」たちの物語。いわば、AI音楽の忘備録です。

※2025/08/01に1億再生を達成した事例を追記
※2025/11/10に動画生成AIを駆使して製作された国内のMV事例を追記


この記事で語る「AI音楽」ってなんだろう?

Google TrendsのAI音楽に関する推移 source: https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&q=%22Ai%20song%22,%22ai%20music%22,%22ai%20audio%22,%22ai%20songs%22

物語を始める前に、一つだけはっきりさせておかなければならないことがあります。

それは、「AI音楽って、一体何なの?」ということです。

そもそも「AI」という言葉自体が、とても広い意味を持っています。一口にAIと言っても、その中身は「アルゴリズム」や「ニューラルネットワーク」、「ディープラーニング」、そして「Transformer登場以降のAI」といったように様々です。使われている技術も似ているようで、実は結構違うことが多く、明確な線引きはとても難しいのが現状です。


そうなると当然、「AI音楽」にも色々な種類が出てきます。ネットの巨大ミームデータベースサイト「Know Your Meme」のAI Musicのページを覗いてみると、

  • AIが関わった素材を、人間のクリエイターが組み合わせて作った音楽

  • ニューラルネットワークやディープラーニングで生成された音楽

  • AIが変換した音声と曲を組み合わせた音楽(AI Coverなど)

  • Transformer登場以降のAIで生成された音楽

といった、多種多様なAI音楽たちが紹介されています。


もっと話を広げれば、ノイズ除去や音源分離、音響分析といった制作サポートの分野では、音楽の世界はかなり前からAIに囲まれていました。音楽クリエイターの創作活動を支える「Qosmo(コズモ)」のように、筆者のような素人では紹介しきれないほどのAIツールやサービスが、実はたくさん存在しているのです。

この記事では主に「Transformer登場以降のAIで生成された音楽」を取り扱っていきます。

ちょっと前置きが長くなりますが、この後のお話をより深く楽しんでいただくために、まずは音楽とITが歩んできた歴史を一緒に振り返ってみましょう。

俺は音楽の専門家じゃい!という方はSunoとUdioの衝撃:誰でも音楽を生成できる時代へ無法地帯が生んだAI創作の実験場「ニコニコ動画」脳が腐るコンテンツ文化:「BRAINROT」まで読み飛ばしてください。

自動で生まれる音楽 :音楽とITの古くて新しい関係

筆者は音楽の専門家ではありませんが、音楽とITは、昔から深い関係にあったことは方々で聞きます。音楽を自動で作り出す試みも、驚くほど古くから行われてきていました。考えてみれば、ボーカルや楽器の演奏といった人間的な要素を一旦除けば、音楽の多くは法則でできています。

その証拠に、18世紀頃には「Musikalisches Würfelspiel(ムジカーリッシェス・ヴュルフェルシュピール)」、日本語で「音楽のサイコロ遊び」なんてものがありました。これは、サイコロを振って出た目に従ってメロディーを組み立てるだけで、なんと音楽ができてしまうという遊びです。面白い。

このように、法則や数式でルール化できるということは、コンピューターの得意分野であるプログラミングで音楽を生成するアルゴリズムを組める、というわけです。

そして1956年、ついに世界初のコンピューター作曲音楽が誕生します。その名は「イリアック組曲 (Illiac Suite)」。ILLIAC I(イリアック・ワン)というコンピューターが、マルコフ連鎖という確率統計モデルなどを使って生み出した、歴史的な一曲でした。

コンピューターやシンセサイザーの登場は、こうした機械やアルゴリズムを使って「音楽を生成する」という考え方をさらに後押ししました。そこに拍車をかけたのが、ご存知「ニューラルネットワーク」や「ディープラーニング」といったAI技術の登場です。

そして、2017年の「Transformer」がもたらした衝撃。これを機に、世界中の企業や開発者がAI音楽サービスを公開し始め、Googleトレンドの検索数も急上昇。それに伴って、「無料で音楽を作りたい」という需要が高まっているのも、非常に興味深い点です。


レコードからスマホへ:音楽が「BGM」になるまで

音楽が媒体によって消費者の消費コストがどのように推移したかのインフォグラフィック source: https://infoingraph.com/infographic/cost-of-music-infographic/ 

今度は、私たち聴き手、つまり大衆の視点から音楽の歴史を眺めてみましょう。

技術の進歩は、音楽を聴くことのハードルをどんどん下げていきました。レコードやラジオが人々の生活に音楽を届け、パーソナルコンピューターやCDの登場によって、音楽はデータとなり、一人ひとりの日常に寄り添う「BGM」へと姿を変えていきました。

そんな中、MP3という音声圧縮技術や、Napster(ナップスター)、Torrent(トレント)といったP2P技術が登場します。これにより、残念ながら「音楽は無料で手に入るもの」という、海賊版の考え方が広まってしまったのです。

しかし、その逆風の中で新しい流れも生まれました。お金を払って合法的に音楽を楽しめる「iTunes」や、「違法にアップロードされるくらいなら、公式がアップして宣伝や収益につなげよう」という考え方が「YouTube」で生まれています。

そして、誰もがインターネットにアクセスできるデバイス、スマートフォンの登場。これにより、音楽を作る側も聴く側も、音楽に対するハードルは格段に下がることになったのです。

一方で、「消費者が1曲の音楽を聴くために支払う実質的なコスト」は下がっていきました。CDからデジタル配信への移行で制作コストが下がったことも一因ですが、YouTubeのように広告で収益を得るモデルが主流になったことも、価格低下に影響していると考えられます。


YouTubeが生んだ「作業用BGM」という文化

YouTubeでタイトルにPlaylistもしくは作業用BGMと入っている動画を可能な限り最古まで検索結果を見た時のスクリーンショット

音楽単体の価値が下がり、誰もが多様な音楽を楽しめるようになった環境で、個人が思い思いのプレイリストを共有しやすくなっていきました。ところが、当時のYouTubeのプレイリスト機能は少し使いにくかったため、「Playlist」という言葉は、少し変わった方向に変化し始めます。

それは、権利を持たないユーザーが独自にキュレーションして、長時間の動画を「〇〇のプレイリスト」としてアップロードし始めたのです。Gemini AIの一説では、日本の「ニコニコ動画」にあった「作業用BGM」文化が影響しているのではないか、とも言われています。

この流れはプレイリストという名前だけでなく、「Study Music」や「Relaxing Music」のように、作業や目的に合わせた名前が付けられるようにもなりました。

さらに、YouTubeでASMR(エーエスエムアール)文化が花開くと、その内容はより集中やリラックスを目的とした、作業や睡眠を邪魔しないシンプルな音楽が増加していきます。また視聴時間が長いほど広告収入が増えるため、このスタイルはビジネス的にも非常に相性が良い側面もありました。


「耳をすませば」から「LoFi Girl」へ:巨大ムーブメントの誕生

YouTube Liveのようなリアルタイムのストリーミング配信が普及すると、新しいスタイルの作業用BGM文化が誕生します。それが、「24/7」と呼ばれる配信です。これは「24 hours / 7 days a week」、つまり「年中無休で配信し続けますよ」という意味を表しています。


この配信スタイルで世界に大きな影響を与えたのが、今や世界的アイコンとなった「Lofi Girl」の前身、「ChilledCow」というチャンネルでした。初期の頃は、スタジオジブリの名作『耳をすませば』に登場する月島雫が勉強しているシーンをループアニメとして使い、世界中の人々が同じ「Lofi-Hip Hop」など落ち着いたBGMを流し、チャット欄で交流しながら作業を続けていました。

そんな中、ChilledCowは著作権の問題で配信停止に追い込まれますが、これを機にチャンネル名を「Lofi Girl」へと改名。アニメーションもオリジナルのものに変更し、見た目の権利問題をクリアしました。この出来事やLofi-Hip Hopへの貢献もあって、こうした勉強やリラックスできるBGM全般が、いつしか「Lofi(ローファイ)」という大きな括りで認識されるようになっていったのです。


ストリーミングの巨人Spotifyと、その光と影


Spotifyのユーザーとサブスクライバーの推移 sorce: https://www.statista.com/chart/15697/spotify-user-growth/

少し時間を戻しましょう。

そんな音楽環境の変化の中で、ストリーミングサービスとして頭角を現したのが「Spotify(スポティファイ)」でした。Spotifyは、iTunesのような買い切り型ではなく、月額料金を支払えばいくらでも音楽が聴き放題になるサブスクリプションモデルで、音楽ファンを中心に広がっていきました。

また、広告を聴くことで無料でサービスを利用できる点も、YouTubeやラジオのように「作業用BGM」として音楽を流し聴きしたい層の心を掴み、成長を後押ししたのでしょう。

会員数だけでなく、登録されるアーティストや楽曲の数も爆発的に増え、2021年の時点では1秒にほぼ1曲のペースで新曲がアップロードされ、2024年には、1989年の1年間にリリースされた全楽曲数を上回るという、とんでもない数字になっています。

しかし、ビジネスの領域が広がれば、そこには音楽性だけでなく、ビジネスとしての成功を求める人々も集まってきます。そして、それがアーティストや純粋な音楽ファンとの間で、新たな火種を生み始めることになるのです。


プレイリストに潜む「Ghost Artists」とは何者か?

Google TrendsでのGhost Artistsの推移 2017年からデータが動き始めている source: https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&q=spotify%20ghost%20artists,spotify%20ghost%20artist 

その問題は「Ghost Artists(ゴースト・アーティスト)」もしくは「Fake Artists」と呼ばれました。

彼らは、まるで幽霊(ゴースト)のように、実在するのかも不明で、プロフィールもほとんどなく、それでいて特定のジャンルの楽曲を大量にリリースしている謎のアーティストたちでした。一説には、企業が組織的に楽曲を供給しているとも言われています。

ゴーストが主に作っていたのは、アンビエントやチル、Lofi-Hip Hop、ジャズ、ピアノといった、ボーカルのないインストゥルメンタル音楽。つまり、先ほどお話しした「作業用BGM」や「Lofi」「ASMR」といった、音楽をBGMとして聴きたいユーザーをターゲットにしていたのです。

Spotifyの公式プレイリスト「Deep Focus」 source: https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DWZeKCadgRdKQ 

この問題がなぜ明らかになったのか。それは、Ghost Artistsの数が増えたことに加え、Spotifyのアルゴリズムによるランダム再生や、おすすめ機能「Discover Weekly」、そして何より、Spotify自身が作る「公式プレイリスト」にゴーストの楽曲が採用されたことで、多くの音楽ファンの目に触れてしまったからでしょう。

Spotifyの公式プレイリストは、新しい音楽と出会うための強力なツールです。その中でも「Deep Focus」というプレイリストを辿っていくと、そこに並ぶアーティストたちの関連アーティスト欄が、どこか不自然なほどに統一されていることに気づくかもしれません。まるで、誰かが意図的に作り上げたかのような、少し不気味な光景です。


Ghost Artistsはなぜ問題になるほど増加したのか?

理由は単純です。音楽を制作するハードルが、限りなく低くなったからでしょう。

この問題が顕在化する頃には、誰でもパソコン一台で音楽を作れる環境が整い、「Splice Sounds(スプライス サウンズ)」のような高品質な音楽素材をサブスクリプションで提供するサービスも登場していました。そしてもちろん、冒頭で触れたように、音楽を自動生成するアルゴリズムが大きく進化したことも、大きな要因の一つです。

特にインパクトが大きかったのは、やはりAIの進化でした。

Ghost Artistsが話題になる少し前の2015年末、Googleがディープラーニングを基にした音楽生成AIプロジェクト「Magenta(マジェンタ)」を発表します。2016年に入ると、聴き手の気分に合わせて音楽を変化させたり、特定のキーワードから作曲・生成したりするサービスが次々と登場しました。「AIVA」や「Mubert」、「Endel」などがその代表例です。


SunoとUdioの衝撃:誰でも音楽を生成できる時代へ

source: https://suno.com/

そして、この音楽大量生産の流れに決定的な一撃を与えたのが、OpenAIのChatGPTが登場した後に現れた「Suno(スーノ)」と「Udio(ユーディオ)」であることは間違いありません。

これまで一部の音楽制作者しかできなかった「ボーカル入りの楽曲制作」が、プロンプト(指示文)を入力してボタンを押すだけで、誰でも簡単にできてしまうようになったのです。これに一般のユーザーが飛びついた結果、生成される音楽の数は爆発的に膨れ上がり、2024年時点でUdioは1秒あたり10曲というとてつもないペースで音楽を生み出し続けています。

Sunoに影響を受けたYouTubeの「Ghost Artists」 source: https://www.youtube.com/@ChillTunesRadio/videos https://www.youtube.com/@LoFi_TOKYOCITY/videos https://www.youtube.com/@Ino-KHK/videos https://www.youtube.com/@ghiblimusic377/videos 

このSunoやUdioの登場は、すぐに「Ghost Artists」という形でYouTubeなどにも影響を及ぼし、多くの記事SNS投稿によって、その存在が広く知られることになりました。人々がここまで驚いたのは、これらのAIが様々な音楽ジャンルを見事に再現し、近年のポップミュージックで多用される加工されたデジタルっぽいボーカルと比べても遜色のないレベルの歌声を披露したからでしょう。

この驚きと共に、生成AI音楽はビジネスとして、非常に強い注目を集めることになったのです。


「AI Slop」の氾濫とプラットフォームの苦悩:低品質な生成音楽の量産

YouTubeで「AI LoFi」と検索した時の検索結果のスクリーンショット

YouTubeで「AI LoFi」と検索すれば、AI音楽でどうやって儲けるか、という趣旨の動画で溢れかえっており、正直少しげんなりしてしまいます。海外の掲示板サイトReddit(レディット)を覗けば、音楽生成の互助会成功自慢、そして嘆きの声など、とても人間らしい光景が。さらに尖ったところでは、まるで情報商材のような、宗教的な匂いすらするAI音楽グループ「Music For Computers」なんてものまで見つかる始末です。

またディストリビューターという、TuneCore(チューンコア)やDistroKid(ディストロキッド)などのアーティストに代わって、SpotifyやApple Musicといった音楽配信サービスへの楽曲登録や、収益の分配などを行ってくれる仲介サービスが当たり前になってきています。

こうしたディストリビューターのサービスが一般化したことで、誰でも簡単に自分の音楽を世界中に配信できるようになり、AIによって生成された音楽の存在は、もはや避けて通れないものになりました。

もし、全ての生成音楽が、作り手の思想や価値観を持って丁寧に作られていれば、もう少し平和だったかもしれません。しかし、Sunoの台頭からもわかるように、音楽の知識や経験が全くない人々もこの流れに乗り込んできたため、残念ながら品質の低い音楽作品が大量に生み出されることになりました。

音楽に限らず、こうした低品質なAI生成物は、軽蔑を込めて「AI slop(AIのゴミ)」と呼ばれています。


Spotifyの対策とストリーミング詐欺の実態

YouTubeの「Masters Of Prophecy」というチャンネルのスクリーンショット

大量のAI slopが再生収益を目当てに音楽配信サイトへ押し寄せた結果、Spotifyはある対策を打ち出します。それは、「年間の再生数が1,000回未満の曲には、収益を支払わない」という新ルールです。

その後、Spotifyの幹部は「AI音楽によるロイヤリティプールの希薄化はない」と述べており、Ghost Artists問題の時もビジネスと音楽の間で揺れていましたが、AI slopの登場によって、ついに対策に踏み切らざるを得なくなったように見えます。

この問題はSpotifyだけでなく、様々な音楽サービスで起きています。日本のLINE MUSICでも、不自然な再生数の動きが報告されています。

YouTubeでは、「Masters Of Prophecy」というチャンネルが、わずか9ヶ月で3000万人以上の登録者と1億回に迫る再生数を叩き出しているにもかかわらず、ほとんど話題になっていないことから、ボットで数字が操作されているのではないかという疑惑が浮上しています。

しかしこれらは、たまたま見つかった氷山の一角にすぎません。


アメリカ合衆国司法省のスクリーンショット source: https://www.justice.gov/usao-sdny/pr/north-carolina-musician-charged-music-streaming-fraud-aided-artificial-intelligence 

アメリカでは2024年、再生数を不正に水増しして広告収益をだまし取ったとして、逮捕者が出ました。アメリカ合衆国司法省の記録によると、数千のアカウントを開設し、数十万曲ものAI生成楽曲を1日あたり約66万回も水増し再生することで、1,000万ドルを超える著作権使用料を不正に得ていたと言われています。


コミュニティの分断:排除と共存の動き

AI音楽専門のチャート source: https://aitop40.com/ 

こうした様々な事情に加え、「他人の権利物を許可なく大量に学習したデータで作られたものが、既存のクリエイティブ作品に大きくネガティブな影響を与えるのはフェアユース(公正な利用)なのか?」という疑問も相まって、ポン出し※1されたAI生成データは、嫌われる傾向にあります。

※1 ここでは、AIサービスに簡単な指示(プロンプト)を与えるだけで生成し、そのデータをほとんど無加工のままアップロードする行為を指しています。

そのため、生成AIイラストの世界で見られるように、AI作品を分離したり除外したりする動きが、一部の音楽サービスでも見られます。例えば、ボーカロイドなどの音楽作品を登録するデータベースサイト「VocaDB(ボーカディービー)」は、AI音楽作品の登録を許可しない方針を打ち出しました。

一方で、排除されるということは、その集団で新たなグループが形成されるということでもあります。
生成AI音楽専用のチャート「AI Top 40」や「AI Hits」、「Australian AI Music Alliance」といった動きは、その一例と言えるでしょう。


リスナーはどこでAI音楽と判断しているのか?

筆者がSpotifyのDiscover Weeklyを垂れ流しててたまたま気づいた生成AI音楽のスクリーンショット

さて、一部の音楽好きからは煙たがられている生成音楽ですが、リスナーは一体どこで「これはAIが作った音楽だ」と判断しているのでしょうか?

登場したばかりの頃の生成AI画像であれば、指の形がおかしいといった細部の破綻や、「マスターピース顔」と呼ばれる特定の顔つきなど、分かりやすい判断基準が存在しました。しかし、生成音楽の場合、そこまで明確な基準はありません。ボーカルに混じる奇妙なノイズやかすれ、妙な発音があった時に、かろうじて「AIっぽいな」と感じる程度です。

ですが、この前提だとボーカルのないインストゥルメンタル音楽は判断できません
そうなってくると、私たちの目は別の判断基準を探し始めます。

  • 音楽の展開が、あまりにも単調すぎないか?

  • ジャケット画像に、生成AIが使われていないか?

  • アーティストのアカウントから、その人らしい思想やこだわりが感じられるか?

  • アカウントの投稿ペースが、人間離れしていないか?

こうした点に、自然と注目が向かうことになるのです。


研究で明らかになったAI音楽の音響的特徴

YAJU&Uで日にちを開けて判定した時のスクリーンショット source: https://spot-if-ai.qosmo.jp/ 

SunoやUdioといったAIが作る音楽の「AIらしさ」については、Rahman氏らによる研究が進められています。その論文によると、AIが生成した音楽には、

  • 機械的、あるいはロボットのようなボーカルの質感

  • 不明瞭なボーカルの発音

  • 予測しやすい単調なリズム構造

  • 音の高さ(ピッチ)の変動が乏しい

といった、特有の人工的な特徴が見られると述べられています。

この研究を元に、先ほども登場したクリエイティブ集団Qosmoは、「Spotifake」という興味深いサービスを公開しています。これは、Spotify上にどれだけ「AI生成」の音楽が紛れているのかを気づき、アーティストにとって現在の環境がどれだけアンフェアなのかを知ってもらうためのサービスです。

しかし、これらの基準も、時間が経つにつれて通用しなくなっていくでしょう。

Rahman氏らが挙げた基準は、人間の音楽にも当てはまる可能性がありますし、何よりSunoやUdio自身がアップデートを重ね、単調さは日々改善されています。すでに歌詞とメロディーの関連付けして生成する論文も発表されており、今後も進化していくのは間違いありません。

『狼と香辛料』や『怪獣8号』の公式楽曲のジャケット画像 source: https://smar.lnk.to/eTHpayWN https://umj.lnk.to/ORNBK8 

ジャケット画像の観点も、判断を難しくしています。

音楽クリエイターは他のジャンルのクリエイターと比較して、生成AIへの抵抗が低い傾向にあるようで、同人音楽の即売会などでは、生成AIによるイラストをジャケットに使ったCDも数多く見られます。この点は非常に厄介で、人気作品である『狼と香辛料』や『怪獣8号』の公式楽曲が、「ジャケット画像がAIっぽい」という理由だけで疑いの声を向けられる事件も起きました。筆者が見た限りでは、疑う側の言い分にも理解できる部分があり、この判断基準の難しさを改めて感じさせられます。


AIっぽさを隠す新たなトレンドと「No AI」の対抗ムーブメント

YouTubeの「what is ?」と「ggg.」のスクリーンショット

最近では、AI生成音楽を投稿していると思われるアカウントがジャケット画像やサムネイルに、あえて人間が作ったようなオシャレな編集を加える、という新しいムーブメントが生まれています。

この流れを作り出したのは、「what is ?」や「ggg.」といったアカウントだと思われ、YouTubeの登録上の所在地はどちらも韓国になっています。情報の信憑性は定かではありませんが、運営者を特定したと断定する動画が作られるほど、注目度が高まっています。

「what is ?」や「ggg.」に影響を受けたと思われるアカウントたちのスクリーンショット

筆者がざっと集めただけでも、これらのアカウントに影響を受けたと思われるチャンネルを40個ほど見つけることができました。「アカウント名の末尾に『.』や『?』がついている」「ポラロイド写真のような余白のあるサムネイル」「食べ物の切り抜き画像とオシャレな配色」といった共通点が、まばらに見られ、この条件に限らなければおしゃれなサムネイルを採用したアカウントはもっと見つけることができます。

Google TrendsのAI LoFiと No AI lofiの推移のスクショ source: https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all_2008&gprop=youtube&q=no%20ai%20lofi https://www.youtube.com/watch?v=yi3r9e6acnU 

こうしたAI生成音楽かどうか分かりにくくなった状況に、ストレスを感じ始めたのかもしれません。最近になって、サムネイルやタイトルに「No AI LoFi」と掲げる動きも出てきています。筆者の調べでは、「Yellow Cherry Jam」というチャンネルが、このムーブメントに影響を与えたようです。


人間とAIの境界線が溶け合うハイブリッド作品


生成音楽は、「生成か、人間の手仕事か」という二元論では語れない、その割合もまた判断を難しくする要因です。その代表例が、有名プロデューサーであるMetro Boomin(メトロ・ブーミン)が手掛けた「BBL DRIZZY」です。この曲は、King WilloniusというアーティストがUdioで生成した「BBL Drizzy」という曲を、Metro Boominが素材としてサンプリングして制作したものです。

音楽共有サービスSoundCloudに投稿されたこの曲は再生数を伸ばし、「New and Hot」チャートの首位を獲得。権利をどう扱うべきかという議論のきっかけにもなり、生成AI音楽を象徴する事件としてニュースになりました。


AI特有の無機質さに価値を見出すリスナー


そして、リスナー側の生成AI音楽に対する感じ方も、徐々に変化しているように思います。例えば、初期の生成音楽が持つ特有の機械的な無機質さに、新しい価値を見出す声も現れ始めました。

筆者個人としても、SunoやUdioのクオリティがあっという間に向上してしまった今だからこそ、黎明期の生成AI画像が持っていた「意味がありそうで、どこか破綻している」あの独特のイラストに感じるような、ノスタルジーと希少性が、初期の生成AI音楽にもあるのではないかと考えています。


拡散され始める生成AI音楽

 生成AI音楽を使っているMVの例 source: https://www.youtube.com/watch?v=_Vv21pKqxUs https://www.youtube.com/watch?v=MKly54Ya_Wo https://www.youtube.com/watch?v=HXWxHc6qVbU https://www.youtube.com/watch?v=QOq0n5dDxIE 

SunoやUdioなどで生成された音楽は、これまで、(数字工作疑惑付きの)ボーカルのないBGM的な楽曲のプレイリストや、人間がある程度の加工を施したものが注目される傾向にありました。あるいは、有名な作品のトレンドに乗っかったり、仲間内だけで通じるネタに全振りしたMVだったり、世間一般では少し敬遠されがちなジャンルだったりと、何らかの「文脈」が必要でした。

なぜなら、SunoやUdioからポンと出てきたばかりの音楽は、歌詞やアーティスト名以外にバックグラウンドとなる情報が何もなく、そのままでは基本的に「無」の状態だからです。何らかの物語が乗っからない限り、人々の心には響きにくいのです。

そのため、ポン出しのAI音楽が、いきなり音楽チャートを賑わすような事件は起きていませんでした。


ショート動画が火付け役:ドイツでチャートインした初のポン出しAI音楽

しかし、そんな状況に変化が訪れます。ショート動画プラットフォームで、生成音楽がバズり始めたのです。筆者の知る限り、ポン出し(だと思われる)生成音楽が、初めてメジャーな音楽チャートに入ったのは、音楽の国「ドイツ」でのことでした。

その曲の名は「Verknallt in einen Talahon」。Butterbroというアーティストによって、2024年7月にリリースされました。

この曲は、1960年代の甘い「シュラーガー・ポップ」(ドイツの伝統的な歌謡曲)を彷彿とさせる、どこか懐かしいサウンドで生成されています。しかし、そのタイトルや歌詞には、移民の若者に対する人種的なステレオタイプをベースにしたフレーズが散りばめられていました。その差別的ともとれるパロディ性が大きな話題を呼び、一気に拡散したと考えられています。

TikTokのショート動画から火がつき、Spotifyでも8月時点で350万再生を達成。Apple MusicやSpotifyのランキングを駆け上がり、ついにドイツの公式音楽チャート「Offizielle Deutsche Charts」で48位にランクイン。それどころか、Spotifyの世界的なバイラルチャート「Daily Viral Songs Global」では、2024年8月12日から7日連続で3位を成し遂げました。


ついにBillboardへ:世界に拡散するショート動画発のAI音楽

「A Million Colors」のTikTokでの推移グラフ source: https://ads.tiktok.com/business/creativecenter/song/A%20Million%20Colors-7400178745854789649/pad/en 

このショート動画を中心としたAI音楽のバズは、一過性の現象ではありませんでした。「Ananasik」や「بابيشا」、YouTubeショートでは「HOW THE HELL YOU SPELL CHAUFFEUR?」といった楽曲が、チャートインとまではいかなくとも、それなりの再生数を記録しています。

そして、ついにアメリカの権威ある音楽チャート、BillboardのTikTokチャートにランクインする生成音楽まで現れました。

制作者は、プロフィールでリオデジャネイロ在住を自称するVinih Pray氏。韓国語、英語、日本語、ポルトガル語など、到底一人の人間で制作できるとは思えない言語幅で、次々と楽曲を投稿しています。その中で、2024年8月に投稿した「A Million Colors」がTikTokでバズり。Billboardによると、これが米国で初めてBillboardにチャートインしたAI生成ソングとなりました。

この楽曲は、AIが生成したコンテンツだと分かった上で歌詞を読むと、何か深い意味があるようにも、皮肉を言っているようにも、あるいは全く何も考えていないようにも捉えられる、不思議な読後感を残すのが印象的です。


チャート外で生まれた多彩な作品たち

ここまで紹介してきたのは、ディストリビューターを通して音楽サービスに配信され、チャートインしたことで発見された作品たちです。しかし、チャートの外に目を向ければ、配信されずに、純粋なミームや音遊びの動画として、記録的な再生数を叩き出した生成AI音楽もたくさん存在します。

『メイプルストーリー』から生まれた風刺ソング

「바로 리부트 정상화(すぐにリブート正常化)」は、オンラインゲーム『メイプルストーリー』を題材にしたAI生成音楽(通称:창팝)の一つです。ゲームディレクターを主人公に据え、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiなどを活用して書かれた歌詞は、運営方針や一部ユーザーの矛盾した行動を、過激で攻撃的な言葉で痛烈に風刺しています。しかし、その辛辣な内容とは裏腹に、Sunoが生み出した中毒性の高いメロディーと、面白な映像編集が高く評価され、YouTubeで1000万再生を超えるヒットとなりました。

チェスと音楽の見事な融合

YouTubeチャンネルChessMaktaによる「Halloween Night」は、チェスの奇抜な戦法「ハロウィンギャンビット」をテーマにした生成AI音楽です。
歌詞にはチェス用語だけでなく、「Knight」「Tonight」「Night」や「Harder」「Stronger」といった、韻を踏むことを意識した単語が散りばめられており、それが音楽的な心地よさに繋がっています。映像では、実際にハロウィンギャンビット戦法が盤上で展開され、音と歌詞と映像が見事にシンクロ。一つの映像作品として、レベルの高いショート動画に仕上がっています。

中国のハイクオリティAIミュージックビデオ

ここまで、意外なことに中国発のポン出し生成AI音楽が一つも登場していません。筆者も調べてみましたが、中国でポン出し生成音楽が爆発的にバズっている事例は見つけられませんでした。AI Coverの分野では中国発の技術や学習データが目立っていただけに、これは少し意外でした。(Bilibili動画のAI音楽コンテストで代表例として挙げられている「丢手绢」でも、再生数は75万回ほどです。)

そんな中、AIで作られたミュージックビデオとしてひときわ異彩を放っているのが、汗青HQというクリエイターが制作した、AI Singer YURIによる「SURREAL Completely AI-Generated Music Video」です。

声や音にどのようなツールが使われているかは不明ですが、音声にはどことなくAIらしさが感じられ、映像には様々な動画生成AIが活用されており、そのクオリティは頭一つ抜けています。あくまで筆者の雑な推測ですが、中国ではこうした複数のAI技術を組み合わせた複合的な活用が進んでおり、単純なポン出しのAI音楽はあまり注目されていないのかもしれません。

ここから人によって不快になるコンテンツを取り扱います。スキップしたい場合は「脳が腐るコンテンツ文化:「BRAINROT」」をクリックして読み飛ばしてください。

無法地帯が生んだAI創作の実験場「ニコニコ動画」

ニコニコ動画のトップページ

正直なところ、「ニコニコ動画」と聞いて、「年々ユーザーが減って、あげくの果てにサイバー攻撃で世界でも例を見ない長期間ダウンしたサービスに、そんなコミュニティがあるの?」と思われるかもしれません。

ですが、実のところ、あるんです。

生成AIというテーマは、様々な背景から、AIをひじょーーーに嫌う層と、異常なまでに好む層へと、人々を二分させています。そんな状況でSNSにAIが生成した画像や音楽を投稿しようものなら、時に批判の嵐に見舞われます。ここまで紹介した動画でも、賛否両論が起きていました。

しかし、そんなインターネットの中でも、過激すぎて反AI層すら近寄らない、日本の特殊なコミュニティが存在します。それが「真夏の夜の淫夢」※2です。

※2 特定の成人向けビデオ作品を元ネタにした、極めて閉鎖的で独特なインターネット・ミーム文化。登場人物を面白おかしくいじるコンテンツが大量に作られていて、内容は非常に下品で人を選ぶため、安易に触れることはお勧めしません。


普通の倫理観を持っていれば、まず近づかないコミュニティです。しかし、裏を返せば、そこは倫理観が普通ではない人間同士が、他人の目を一切気にすることなく、様々な実験的な作品を共有できる「無法地帯」でもあるのです。

また、ユーザー規模やビジネスの観点ではYouTubeが圧倒的ですが、巨大になりすぎたがゆえに、ニッチな動画を探すのが難しくなってきています。アップロード日順で検索しても再生数の少ない動画は検索結果から間引き処理され閲覧性や網羅性という点では、不便になりつつあるのです。


AI創作の最前線にして最底辺「AI拓也」の誕生

そんな、全体的に衰退しつつも、かろうじて生き残っていた「淫夢」コミュニティにAIが合流したことで、「AI淫夢」や「AI拓也」といった、AIを使い倒す特異な文化が生まれてしまいました。

初期の生成AIは、それっぽい文章や画像を生成する凄さはあったものの、必ずどこかに破綻があり、一般的な創作物には使いにくい代物でした。しかし、元々が低品質なコンテンツを許容するドジョウがあった淫夢コミュニティでは、その「破綻」すらも味として受け入れられていったのです。

source: https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all_2008&gprop=youtube&q=AI%20%E6%B7%AB%E5%A4%A2,AI%20%E6%8B%93%E4%B9%9F 

その中でも特に強く結びつき、独自の成長を遂げたのが、文章生成サービス「AIのべりすと」と、サーフ系ボディビルダー拓也のブログに掲載されていた通称「怪文書」でした。

脳が理解を拒むのに、なぜか癖になる怪文書の独特な読み味が、「AIのべりすと」が生み出すアホカワイイ文章と奇跡の化学反応を起こし、「AI拓也」というニコニコ動画内で一大ジャンルが誕生。様々な文章読み上げコンテンツが投稿され、異様な盛り上がりを見せることになりました。


最新AI技術のテストベッドと化した淫夢コミュニティ

「AI拓也」は、一部で「AI創作の最前線にして最底辺」と呼ばれています。

これに疑問を持つ方もいるかもしれませんが、生成AI音楽の活用法という点においては、今YouTubeでバズっているような生成音楽の使われ方が、このコミュニティではすでにあらかた試されていた、という印象です。

source: https://www.nicovideo.jp/watch/sm40556279 

2022年5月には「AIを使って拓也さんを放送作家にする」という動画で、AIのべりすとが作詞した「パラオナボーイ」を作曲AIの「CREEVO」に歌唱させています。チ◯ポの初撃から始まる頭を空っぽにした中身スカスカの歌詞で、癖になるリズム感が受け、様々な派生アレンジができ、AI拓哉の代表曲として根づきました。

source: https://www.nicovideo.jp/watch/sm42065795 

AI音声変換技術である「so-vits-svc」や「RVC-beta」を使った実験動画「AIを使って拓也さんのボイスチェンジャ ーを大量生産してみた.RVC-beta」では、AI Coverが世界的に広まり始めたのと同じタイミングで公開されました。その後も、投稿者は2週間に1本のペースで何らかの技術論文を漁りながら改善を重ね、最終的には完璧なAI Coverを投稿するという、狂気じみたエピソードまであります。

source: https://www.nicovideo.jp/watch/sm42220527 

2023年5月14日に「SongR」という新しい作曲サービスがニュースになれば、なんとその日のうちに、それを使った動画が公開されるという驚異的なスピード感。スペック的に試せて、面白くできるなら、何でも試す。そんな勢いが、当時は間違いなくありました。

source: https://www.nicovideo.jp/watch/sm44179519 

AIが生成した音声を、素材として引用する試みも行われています。

2023年1月にサービスを開始したAI自動音声翻訳サービス「ElevenLabs」は、時々音声をうまく聞き取れず誤訳したり、読み上げ音声が日本語を覚えたての外国人のような可愛らしさがあったりしたため、かつての「エキサイト翻訳」を使った再翻訳シリーズのように楽しまれていました。

そうして「再翻訳はさ、ご褒美なんだよ!.AI」で生まれた迷言や、なぜか翻訳されるはずのない箇所で発生したセリフを歌詞として利用し、音楽にした作品「何を言ってるの?」も登場。文脈から目をそらせば、どことなくVaporwave(ヴェイパーウェイヴ)のようなオシャレな仕上がりに。この投稿者の謎センスは後のバズの悲劇を生む動画で発揮されることになります。


「YAJU&U」の誕生とニコニコ動画内での熱狂

source: https://www.nicovideo.jp/watch/sm43138635 

そんなAI遊びの土壌に、満を持して登場したのが「Suno」です。

これもまた、登場してすぐに使い倒され、拓也さんの怪文書を歌詞にした音楽が次々と生成されました。
その中でも、ぱぶりちぇんこがアップした楽曲集「AIに頼んで拓也さんの曲を作ってもらった.sunoAI」は、怪文書を使い回しつつも、アニソン、米津玄師、ボカロ、Ado、K-POP、ジャニーズ風といった、日本人なら誰もが「わかる」と感じるジャンルを巧みに横断。ニコニコ動画の生成音楽としては、屈指の再生数とコメント数を誇っています。

特に「ウル◯◯マン拉致」「Uri-De-Kuru」「かしこまリーヨ」の3曲は、絶妙な歌詞とサウンドが噛み合い大人気に。「Uri-De-Kuru」はマイケル・ジャクソン風のAIカバーが、「ウル◯◯マン拉致」は歌声合成エンジンによるカバー曲まで作られるほどでした。

source: https://www.youtube.com/watch?v=EbdTyMASuyo 

このように、「AI拓也」という土壌で育まれた生成AI音楽の文化は、徐々にコミュニティのもう一つの顔である「野獣先輩」へと流れていきます。

その中で生まれたのが、「ヤジュセンパイイキスギンイクイクアッアッアッアーヤリマスネ」という、もはや意味不明なフレーズを様々な音楽スタイルで実験していくというムーブメントでした。この動きを2024年4月頃から始めたのが「Joseph Woosley」というアカウントです。ニコニコ動画での再生数はそこそこでしたが、同時投稿していたYouTubeの動画がじわじわと再生数を伸ばし、100万再生を記録することになります。

source: https://www.nicovideo.jp/watch/sm43799358 

そして、他のユーザーもこの流れに乗り始めます。この頃にはSunoもV3にバージョンアップしており、音楽のクオリティは格段に向上していました。そんな中、「モチモチ」というユーザーが、真夏の夜の淫夢のセリフを歌詞にし、まるでディズニーミュージカルのような壮大な曲調で生成させた動画を投稿。そのAIのメロディラインやアレンジの絶妙さが、ニコニコ動画内で大きな反響を呼びました。

source: https://www.nicovideo.jp/watch/sm43830669  

そして、その1ヶ月後の2024年5月25日モチモチにより、後に「YAJU&U」と呼ばれることになる悲劇の動画、【淫ミュ】ヤジュセンパイイキスギンイクイクアッアッアッアーヤリマスネ 【Cartoon】」が投稿されます。この動画も投稿されるやいなや、楽しすぎるメロディー、キャッチーな歌唱、そして「YAJU&U」というフレーズの絶妙なリズム感が話題となり、瞬く間に再生数を伸ばしました。

しかし、2024年6月8日。KADOKAWAグループ全体が壊滅的なサイバー攻撃を受け、ニコニコ動画もしばらくの間、沈黙することになります。


TikTokへの“輸出”とインフルエンサーによる拡散

ニコニコ動画のコメントのスクリーンショット

ニコニコ動画がサービスを再開した日、ユーザーたちは「この動画が見たかったんだよ!」というコメントを残しながら、それぞれの「お気に入り」の動画を再生しにいきました。その中には、もちろん「YAJU&U」も含まれていました。

2ヶ月ぶりに見ることができた、という特殊な体験は、この動画に対する思い入れを少しだけ強めていたのかもしれません。この頃から、「YAJU&Uが何かの手違いでバズらないかな」という、冗談めいたコメントもされるようになってきました。

source: https://www.nicovideo.jp/watch/sm43948152 

そんな謎の思い入れという魔力は、徐々に「YAJU&U」を世に押し出していきます。

まず、なぜか異常に洗練されたダンス動画が投稿されました。投稿者は、先ほども登場した「何を言ってるの?」など、他の雑な淫夢動画とは一線を画すクオリティの動画を作ってきた、明らかに「野生のプロの犯行」と思えるユーザーでした。

その投稿者が、Viggle AI」という、人の動きをAIでトレースして切り抜き画像を動かすという、淫夢民にとって最高のおもちゃを悪用。投稿者本人が制作したと思われるダンスを、野獣先輩に踊らせるという動画を投稿したのです。

source: https://www.tiktok.com/@midnight____xxx/video/7439356530471881991 

このダンス動画がニコニコ動画内で話題になるものの、しばらくは平穏な時間が流れていました。しかし、ある日突如として、SNSがざわつくことになります。TikTokに、水商売をしていそうなギャル風の女性2人※3が、胸を揺らしながらYAJU&Uを踊る動画が投稿されたのです。
※3 可能性として、淫夢民が女装したという線も捨てきれませんが、実際に風俗嬢の中に淫夢民がいることを示す動画も存在するため、これは起こるべくして起きた事件だったのかもしれません。

source: https://www.youtube.com/watch?v=BkH8_XCzhXo 

当初は界隈がざわついたものの、動画を投稿するのは、淫夢民と思われる雑なコンテンツか、「溌剌ぱや子」のようなYAJU&Uに強いリスペクトを持つごく少数の狂信的なユーザーくらいで、まだ笑って済ませられる範囲に収まっていました。

いまは削除された拡散されるきっかけとなったTikTokerのスクリーンショット

しかし、2025年1月、事態は最悪の方向へ奇跡を起こします。

なぜか、TikTokの認証バッジがついた有名インフルエンサーが、このダンスを踊り始めたのです。そのユーザーが単にトレンドに乗りたかっただけなのか、はたまた隠れ淫夢厨だったのかは定かではありませんが、奇妙なことに、この動画だけはコメント欄が閉じられ、その後削除されています。

しかし、コメント欄がなくても淫夢民たちはこの訳の分からない状況に悪ノリし、動画の再生数は急上昇。これをきっかけに、様々なTikTokerがこのダンスの存在を認知していくことになります。

極度天然パーマのYAJU&Uダンスのアレンジ

そのトレンドは、「極度天然パーマ」という激しいダンスアレンジで人気のTikTokerの元にも届き、YAJU&Uダンスのアレンジ版(通称:偽野獣先輩ダンス)が投稿されました。しかし、そのダンスは元のゆったりしたスタイルとは全く異なり、極度天然パーマ氏の激しいDNAが色濃く反映されていたためか、一部のYAJU&U原理主義者から「俺たちのYAJU&UがNTRされた!」と激しい抗議を受け、動画は削除される事態に。

一方で、そのダンスのキレは若い層にウケたようで、YAJU&U関連の動画は、これを機にTikTokで倍増することになりました。


炎上と熱狂の果てに、バイラルチャート1位へ

source: https://www.tiktok.com/@anovamos/video/7483445380202515719 

こうなってくると、ブームがひとり歩きするのを止めることはできません。

ついには、インターネットで無敵そうなタイプのアーティストVTuberまでが踊り始める惨状。ここまで奇跡的に一線を越えてはいけない層は踊っていませんでしたが、フジテレビ系列の公式アカウントで芸人が踊ってしまい削除する事件も起き、果ては広瀬香美が(おそらく)文脈を理解した上で臭わせ投稿をして界隈を震撼させました。

その勢いは動画の再生数にも反映され、ついに1000万再生を突破。さらに加速していきます。挙句の果てに、音楽歌詞の閲覧数をランキング形式で投稿しているSNSアカウント「Genius Japan」が、「YAJU&U が1位になったことについてどう思いますか?」と、煽りとも取れる投稿をする始末です。

トラブルの元になったSpotifyのアカウントとライララのSpotifyアカウントのスクリーンショット

事態はさらに悪い方向へと転がります。

実はこの「YAJU&U」、動画サイトに投稿されているだけで、音楽配信サイトへの配信は一切されていませんでした。しかし、バズると必ず現れるのが、「Spotifyで配信してくれ」という圧力です。

作者のモチモチ氏がどう考えていたかは分かりませんが、コンテンツがコンテンツなだけに、わずかな良識があったのか、収益化が避けられないサービスでの配信を避けていたように思えます。しかし、そんな状況に業を煮やしたのか、Spotifyに楽曲を無断※4で登録するユーザーが現れてしまいます。

※4 あくまでアメリカの話だが、BBL Drizzyの権利関係の議論ではポン出しの生成AI音楽には権利がなくパブリックな扱いで、歌詞に対しては一定の権利があるという結論になっています。YAJU&Uはビデオのセリフの引用が多いです。しかし歌として面白くなるように歌詞を再構成したり、「YAJU&U」「One-on-one for high-five, onе for all, all」というフレーズを使っていて、一定の独創性はあります。

この事態にYAJU&Uファンの間で混乱が起き、モチモチ氏もさすがに対処せざるを得なくなり、自らSpotifyへ配信するためにディストリビューター登録をする、という流れになりました。その際、YouTubeのサムネイルが内容的にまずいと判断したのか、後付けでモザイクがかけられ、Spotifyでは生成AIによるジャケット画像のみになっています。

しかし、この丁寧な対応が、さらに事態を悪い方向へと導き、Spotifyでの再生数が急激に伸びることになります。その結果、当時世界的にバズっていた「愛♡スクリ~ム!」や、急逝したことで多くの人に惜しまれながら聴かれていたJJJ氏の楽曲を抑え、Spotify Japanの週間バイラルチャートで1位という、あまりにも不名誉な記録を打ち立ててしまったのです。

その影響はSpotifyだけでなく、Billboard JAPANの「Top Download Songs」で50位にランクインするという汚点も残しています。


海外メディアも注目した“日本発の奇妙なメガヒット”

ここまで大きな騒ぎになると、英語圏で日本の音楽に精通しているライターや、ネット音楽文化に強いウェブメディアも、この現象を取り上げざるを得なくなります。特に、音楽メディア「Pitchfork」では、「YAJU&U」の背景にある文化に対して、非常に強い言葉で否定的なレビューを掲載しました。

この熱狂は、「YAJU&U」がYouTubeでコメント数の日本一、そして世界トップ100にランクインするまで続きました。YouTubeでは3000万再生を超え、当時としてはポン出しの生成AI音楽として世界一の再生数を記録していましたが、その王座は、後から登場する新たな生成音楽によって、あっさりと明け渡されることになります。


脳が腐るコンテンツ文化:「BRAINROT」

さて、そんな「YAJU&U」の再生数をいとも簡単に追い抜いていったのは、Sallo.iaというクリエイターが制作した「BRAINROT: ANIME OPENING」というミュージックビデオでした。

筆者の確認では、公開からわずか2ヶ月で6000万再生を超え、1億再生も見えてきています。しかし、その中身を見てみると、動物と物体を生成AIで掛け合わせただけの奇妙なキャラクターが、動画生成AIによって動き、『ドラゴンボール』風のメロディーに合わせて意味不明な単語を連呼しているだけ。一見しただけでは、何が面白いのかさっぱり分かりません。

ですが、その軽いバカバカしさからは、どことなく抗いがたい中毒性が漂っています。


「Brain rot(脳腐敗)」とは何か?

source: https://books.google.com/ngrams/graph?content=brainrot&year_start=1800&year_end=2022&corpus=en&smoothing=3 

この動画がここまでの再生数を記録した背景には、「BRAINROT(ブレインロット)」、そしてその源流である「AI Italian Animals」というミームの大流行が大きく関わっています。

まず、この現象を理解するために、「Brain rot(脳腐敗)」という言葉を知っておく必要があります。

これは、質や価値が低いと見なされるインターネットコンテンツや、それらを過剰に摂取することで引き起こされる、知的な機能低下や無気力感などを指す言葉です。

その起源は意外と古く、1854年に思想家のHenry David Thoreau(ヘンリー・デイヴィッド・ソロー)が、世の中が複雑な思考を評価しなくなった知的水準の低下を、「potato rot(ジャガイモの腐敗)」に例えたことに遡るとされています。

時を経て、この言葉はインターネット文化の中で「Brainrot」として使われるようになり、「無関係で質の低い情報を大量に摂取することは、脳の機能や知能の低下、つまり脳の衰えに繋がる」という意味で認知が広がりました。

そして2024年、この言葉はオックスフォード英語辞典の「Word of the Year」に選出され、「ソーシャルメディア、特にTikTokの挑戦的ではないコンテンツの過剰消費による知的状態の悪化」と、現代的な意味合いで定義されることになったのです。


TikTokでミーム化した「AI Italian Animals」

source: https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=2024-01-01%202025-05-18&q=Tung%20Tung%20Tung%20Sahur,Tralalero%20Tralala,%2Fg%2F11y55sf53l,Italian%20Animals,%2Fg%2F11x6ndyjhj 

そんな言葉が注目される一方で、TikTokでは日々、様々な生成AIコンテンツが入り混じり、消費されていました。

明確な起源は分かっていませんが、TikTokerのamoamimandy.1aが2025年1月に投稿した、「Tralalero Tralala」というフレーズにのせた「青いナイキの靴を履いたサメ」のAI画像が、「AI Italian Animals」と呼ばれるミームの始まりの一つとされています。

画像生成AIは、複数の言葉や画像を組み合わせて、新しいイメージを作り出すのが得意です。ChatGPTや画像生成サービスを使えば、誰でもほぼ無料で、奇妙なキャラクターを生成できます。

その、まるでゲームのモンスター配合システムのような手軽な楽しさがウケたのか、「ワニ爆撃機(Bombardiro Crocodilo)」や「タイヤカエル(Boneca Ambalabu)」、「カプチーノの女体化(Ballerina Cappuccina)」、「ゴリラバナナ(Chimpanzini Bananini)」など、多種多様なキャラクターが次々と生み出されていきました。

元々のBGMだった「Tralalero Tralala」は不謹慎な内容だったため、次第に音楽生成AIに名前を連呼させたり、生態系を解説したり、怪文書や都市伝説を語ったりする、よりクリーンなコンテンツへと変化していったと言われています。


また、同時期にインドネシアで、野球のバットを持った木の人形のAI画像「Tung Tung Tung Sahur」が、軽快なインドネシア語の喋りに乗ってバズったことも、Brainrotキャラクターの仲間入りを後押ししました。

こうした経緯なのかわかりませんが、様々な国の要素を混ぜ合わせたキャラクター群を総称して「〇〇Brainrot」と呼び、その情報をまとめるWikiまで作られています。

元々の「Brainrot」は「脳が腐るような低俗コンテンツ」というネガティブな意味でしたが、こうした使われ方が続いたことで、今では「記号と記号を無意味に混ぜ合わせたキャラクター」というような、新しいニュアンスも加わっているように筆者は感じました。


Brainrotコンテンツが世界的に拡散した理由

この「Brainrot」は、先ほど紹介した「YAJU&U」と比べて、過去の複雑な文脈や、見た目の汚さ、人権侵害といった要素がありません。見た目はクリーンでコンテンツの情報量も生まれたばかりで軽い、純粋なコンテンツ遊びであるため、大人だけでなく子どもたち、そして世界中に浸透していきました。

そうしてコミュニティ内で拡散を続け、巨大なブームとなったタイミングでリリースされたのが、あの「BRAINROT: ANIME OPENING」だったのです。

実はこの動画より前から、「Trallallà: The Brainrot Anthem」といったBrainrot関連のMVは存在していましたが、

  • 投稿者がTikTokやディストリビューターでも楽曲を配信していたこと

  • 世界的に人気な『ドラゴンボール』風の軽快なオープニング曲調

  • ChatGPTのようなAIテイストのアニメーション

これらの要素がガッチリとハマり、爆発的なバズに繋がったのだと考えられます。

※2025年7月24日前後に「Party Tunes – Brainrot Rap」が1億再生を達成

結局、生成AIによる音楽とは何だったのか?

さて、作品紹介であちこちに話が飛んでしまいましたが、忘れてはいけません。本記事の目的は、「生成AI音楽を楽しんでいるのは、一体誰なのか?」を考察することでした。

音楽生成AIは、悪くも良くも、私たちユーザーに対して「音楽」というメディアを平等に分け与えようとしています。

これまでは、音楽を作れるのは音楽クリエイターに限られていたため、生み出される音楽は、必然的にクリエイターの思想や美学の範囲内のものでした。

しかし、今回のAIによる「民主化」によって、ふとした思いつきのネタや、低俗なコンテンツ、ビジネス、政治利用といった、これまで音楽とは無縁だった様々なジャンルのコミュニティから、次々と音楽が生まれるようになったのです。

そして、生成された音楽そのものには、何の文脈もありません。

だからこそ、音楽をアップロードするという行為は、どこか「原始的な民族音楽のノリ(Vibe)」へと回帰しているように見えます。生成された音楽は、まるでお祭りの音楽のように、その文化やコミュニティに属していることを示す「狼煙」として機能しているのではないでしょうか。

「YAJU&U」や「BRAINROT」のMVは、その象徴的な結果です。

つまり、生成音楽を心から楽しんでいるのは、もしかしたら「今まで自分たちの文化に、音楽がなかったコミュニティのユーザーたち」なのかもしれません。









どうでもいいオチ

ソースがいっさい謎のマンガに、AI音声変換という悪用が味を出し、AI翻訳が瞬間的に本家を超えた都市伝説みたいなAI作品。

https://www.nicovideo.jp/watch/sm42943707


生成AIと音楽、映像編

2025年11月に入るとSora、Veoなどの動画生成AIのクオリティが急成長し、生成音楽に生成動画がMVとして合流し、それなりの作品になっています。

🤙😎ズコズコズルズルビクビック〜♪👉👩 https://www.nicovideo.jp/watch/sm45599121
ヤニねこ作者も視聴済み ニコニコ動画 AI音楽 No.1に2軍からのぼりつめたNKTIDKSG https://www.nicovideo.jp/watch/sm46377747 https://yanmaga.jp/comics/%E3%83%A4%E3%83%8B%E3%81%AD%E3%81%93/c9a072b50121e2640aed46de6985f603
https://www.nicovideo.jp/watch/sm46647529

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