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黄金のタクティクス|退職戦略の成否は退職後の2年間ですべてが決まる(通説をくつがえすNISA・年金戦略⑫)

 働きたくないでござる。

 老後の生活に不安を抱える人が多い中、それでも本音は悠々自適な老後を過ごしたい。

 70まで働くなんてまっぴらだ。

 そんな人のために、定年退職を考える上での戦略・戦術を整理してみました。

 なお筆者はまだ現役なので、自分の経験ではありません。別の創作で必要だったので制度を調べ、自分なりに出した結論です。もし間違っていたらご容赦を。


最初に結論

 定年戦略とは、単に「何歳まで働くか」ではない。

 60歳で年金を繰上げるか、65歳まで待つか。その判断は、数百万円の年金現在価値と、「障害基礎年金という保険オプション」との交換条件になる。

 この結論に至る過程を順に見ていきましょう。


退職時に考慮すべきキャッシュフロー

入ってくるお金

・退職金
・公的給付(年金、加給年金失業保険
・私的財産(iDeCo、個人年金、預貯金等)

出ていくお金

・所得税、住民税(退職翌年は注意)
・健康保険(任意継続か、国保)、介護保険
・国民年金(60歳まで納付義務)

繰上げ受給タイミングの決定要素

障害基礎年金オプションを、いつ放棄するか
・厚生年金の経過的加算の行使期間


判断不要! しておきたい3つの申請

加給年金

 厚生年金版「家族手当」で年に約40万円

 厚生年金加入20年以上の人が、年下の配偶者(原則65歳未満)を扶養してると受給できる。

 繰上げ受給しても加給開始は65歳から。配偶者が65歳になると終了するため、年の差が大きいほど総受給額は増える。

(例えば、妻が2歳年下の場合、夫が65歳と66歳の時にのみ給付あり)

失業保険

 64歳までの退職なら、失業手当を90〜150日分(条件次第でそれ以上)受給可能。

 65歳以降の退職は「高年齢求職者給付金」に変わり、30日または50日分の一時金

 定年タイミングで受給額が大きく変わる。

健康保険

 退職後は「会社の健康保険を任意継続する」か「国民健康保険に入る」かの選択。

 会社負担がなくなっても、会社員は任意継続の方が安いケースがあるので、しっかり調べてすぐに申請を。

 なお、国保の保険料は前年の所得に連動(10数%程度)するので、高所得者は退職1年目に国保に入ると上限の約100万円に張り付く場合があります。

 ((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル


ここが戦略ポイント

障害基礎年金

 65歳前に重い病気や障害状態になったときの保障。障害基礎年金1級(約104万円)は、老齢基礎年金満額(約83万円)を上回る。

 しかも非課税で、一生涯受給できる

 ただしこのオプションは65歳で消滅。繰上げ受給を選択する場合に限り、このオプションを自ら手放す判断をすることになります。

 いつまで保障を持ち続け、いつ繰上げ受給へ切り替えるか――これが退職戦略を考える上で重要なポイント。

 なお、障害厚生年金は厚生年金加入中初診などの要件を満たせば、繰上げ後でも請求可能。

経過的加算

 60歳以降も会社員として働くと、厚生年金の報酬比例部分が増えるだけでなく、20歳当時の国民年金未加入・未納期間を補う「経過的加算」が上乗せされることがあります。

 例えば大卒なら、62歳頃まで働くと20〜22歳の空白期間が埋まり、国民年金が実質的に満額に近づきます。


さあ、シミュレーションだ

 戦略ポイントのうち、障害基礎年金をどうするかが一番大きな判断。

 繰上げ受給によって得られる年金現在価値と、この強力な保険機能が持つオプション価値のどちらに価値があるかが、判定の鍵に。

年金の割引現在価値

 現在60歳の人が平均余命85歳まで生きたとして受給される年金の総額を、現在価値に引き直した金額。

 詳しくは以前の記事に書きましたが、物価上昇率を3.2%(2025年)、個人向け国債の利回り(リスクフリーレート)を1.5%、マクロ経済スライドを▲0.3%として、『①60歳繰上げ受給』と『②65歳受給』の割引現在価値を試算したのがこちら。

①60歳受給  3,209万円
②65歳受給  2,822万円
差額      387万円

年金の割引現在価値


障害基礎年金のオプション価値

 2026年現在、老齢基礎年金83万円に対し、障害基礎年金1級は104万円支給される。その差は+21万円/年

 非課税メリットもあり、平均的な年金生活者の場合5~15万円程度の税金(国保や介護保険料含む)を払ってるので、その差は+10万円/年

 この+31万円の差が平均余命の85歳まで続くとして、保守的に25年分見込むと+775万円

 割引現在価値に換算すると、もう少し金額は下がりますが、この補償をどう見るかが各人の判断ということになります。

 例えば、糖尿病、心疾患、脳梗塞既往、がん治療歴、精神疾患などの既往症持ちの人は65歳ギリギリまでオプションを保持しておいた方が安心ですし、元気な人は60歳でオプションを捨てる判断もあります。

 ちなみに、厚生労働省のサイトを巡回していたら年代階層別の受給者数は載ってました。ただし累計数で『60~64歳の間に新たに受給した数』ではないため、この期間に障害1級/2級になる確率までは計算できませんでした。

 疾病統計や年代別受給者数から見る限り体感的には1〜5%程度のレンジに思われるので、仮に発生確率3%と置くと、オプション価値は以下のように推計。

障害基礎年金のオプション価値(筆者の気分的評価)
 775万円 × 3%=23万円

※ 確率推定は不確実性が大きいため、最後は個人の主観的評価が入ります

 387万円は時価差額で、23万円は将来キャッシュフローの期待値であり、完全に同質の数字ではありませんが、一定の目安にはなります。

結論

 「387万円 > 23万円」となり、インフレ時代においては60歳受給の方が経済合理的という結果になりました。


取るべき戦略とは

 障害基礎年金オプションは人によって価値が大きく変わり、経済合理性だけでは判断できないと思います。そのため、実際には両極端な2つの戦略の間で、各個人の事情を踏まえたポジションを構えることになります。

アグレッシブ戦略(60歳退職)

 障害補償という保険を解約し、その返戻金代わりに「早期の年金キャッシュ」を受け取る。インフレ時代における「現金の時間価値」を最優先する戦略

ディフェンシブ戦略(64歳210日目退職)

 障害補償をギリギリまで保持し、64歳と210日目で退職。その後、64歳まで適用される失業保険150日分を受け取り、65歳で年金満額へ接続する戦略。


厚生年金の経過的加算

 学生時代に国民年金の空白期間のある会社員なら、経過的加算は意外とバカにできません

 国民年金40年間納付の満額が83万円として、1年空白があると▲2万円。60歳以降1年働くごとにこの2万円が加算され、満額相当になるまでそれが続きます。

 比例報酬部分の増額が5000円~1万円程度と比較すると、その2~4倍になり、経過的加算のあるうちは働いた方が得という判断もあるかもしれません。

 ちなみに年金受給額180万円、マクロ経済スライドを▲0.3%とすると、実質的な目減りは180万円×▲0.3% = 5,400円となり、比例報酬部分とほぼ相殺されます。

 つまり経過的加算は、年金ステルス減額に勝つ唯一の方法と言えます。



いよいよ、黄金のタクティクス

 経過的加算を踏まえて自分の戦略(退職年齢)が決まったら、それを実行に移す戦術が必要になります。それが黄金のタクティクス。

①失業保険

 64歳以前に退職して150日分受給するのがベストですが、この期間は年金が受給できない。

 つまり、ここには明確な順番が存在します。

退職 ⇒ 失業保険の受給150日 ⇒ 年金

②健康保険

 健康保険の任意継続の期間は最大2年。いずれは国保に加入しなければなりません。

 その保険料は前年の所得額で決まり、自治体にもよりますが、所得割を含めると10%台に達することも。

 つまり、国保に切り替える際は前年の所得をできるだけ小さくしておく必要があります。

 ここで鍵となるのが、退職一時金(iDeCo含む)と失業保険は国保料の計算対象外になるということ。退職1年目の所得は、5か月目以降(150日経過後)の年金のみとなります。

 この状態で2年目に国保に切り替えれば、保険料は安くなるはず。

退職 ⇒ 1年目:任意継続
   ⇒ 2年目:国民健康保険

 この時、民間の個人年金保険の扱いには注意が必要。iDeCoと同じように一時金で受け取ると、特別控除を引いた後の1/2が総所得金額に参入されてしまい、保険料を押し上げる要因になってしまいます。

 金額によっては、退職の前年に受け取っておくか、国保が安くなった後にずらして受け取るようにしましょう。

 年金生活者が真に気をつけるべきは、国保の保険料。その後も継続して安く抑えるためには所得を一定範囲内に抑えること。

③働かずにNISA

 せっかく1年目の所得を小さく見せかけても、油断するとすぐに保険料が跳ね上がってしまいます。

 いかに低所得を装い続けるかがこの戦術の肝要。その基本的な考え方を以下に示します。

所得を増やすもの
 ・年金(iDeCo含む)
 ・パート・アルバイトの賃金
 ・株の運用益(確定申告)

所得を増やさないもの
 ・NISAの運用益
 ・株の運用益(源泉徴収)

 非課税のNISAなら所得は捕捉されません。

 生活費が必要なら、働かずにNISA。

 むしろ、高齢者こそNISA。

 余った退職金はNISAと特定口座にぶち込み、その運用益を切り崩して生活する。

 それが働きたくない勢の基本タクティクス

 特定口座(源泉徴収あり)を前提に、不要な確定申告で所得を増やさないよう、注意して暮らせ!


まとめ

・障害基礎年金、経過的加算を勘案し、自分の戦略を決める。
・黄金のタクティクスを実行。給付は最大化、国保は最小化。

注 投資はあくまで自己責任で

 会社員時代と異なり、退職後はまさに戦場

 税制、年金、健康保険。複雑怪奇な国家の制度を正しく理解し、自分の人生の主導権を取り戻すための知的なゲーム

 思わぬ伏兵があなたに襲い掛かるでしょう。でも正しい戦略と強い戦術があれば、働きたくない勢のあなたも勝利が得られるはず

 さあ、老後というエキサイティングな戦場を自らの頭脳で制圧しましょう!


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