ナイジェリア発Mooveは、なぜ世界の“金融インフラ”になったのか!?〜アフリカ・モビリティファイナンス戦国時代 Vol.1〜
アフリカでは今、フィンテック市場が急速に拡大しています。
モバイルマネーを起点とした決済、送金、融資、保険といった分野は、すでに生活インフラの一部となり、スタートアップと資本が集まり続けています。
その中で、確実に競争が激化しているのが、Drive to Own型のモビリティ・ファイナンス(Mobility Finance)の領域です。
単なる「ローン」でも、「リース」でもありません。
配車・配送ドライバーが働きながら車を所有できる(Drive to Own)という仕組みを、いかに実装し、回収し、スケールさせるか。
この分野にはすでに、アフリカ発ネクストユニコーン、欧州拠点の新興プレイヤー、日本発スタートアップなどが出揃い、「どのモデルが生き残るのか」を競う戦国時代に突入しています。

今回の連載シリーズ"アフリカ・モビリティファイナンス戦国時代"では、アフリカで車両ファイナンス(Auto Finance / Car Finance)を提供するMoove、HAKKI AFRICA、GoCabという3社を軸に、モビリティ・ファイナンスの最前線で何が起きているのかを整理していきます。

1 「車を買えない」というアフリカの課題から始まったグローバル企業、Moove
アフリカは世界で最も自動車保有率が低い地域です。
しかしその理由は、需要の不足ではありません。最大のボトルネックは、車を購入するための金融アクセスが極端に限られていることにあります。
銀行ローンには担保や信用履歴が求められ、ギグワーカーや個人事業主の多くは制度の外に置かれてきました。
その結果、働く意欲も需要もあるにもかかわらず、「車を持てない」状態が長年続いてきたのです。
この構造的課題に真正面から向き合ったのが、2020年にナイジェリアで創業されたモビリティ・フィンテック領域のスタートアップ"Moove"です。

当初はアフリカのドライバー向け車両金融という限定的なテーマから始まった同社は、現在では29都市・5大陸で約4万台のフリートを運用し、自動運転時代の都市インフラを担う存在へと進化しています。
シリーズ連載第1回では、Mooveがどのようにして、金融アクセスの課題解決から出発し、グローバルでスケールし、自動運転インフラ企業へ到達し、ユニコーン目前とされる現在地に至ったのかを、ビジネスモデルの視点から整理します。

1.1 創業の原点|「信用がない」のではなく「信用の測り方が間違っていた」
Mooveの創業者であるLadi Delano氏とJide Odunsi氏は、いずれも金融・コンサル・都市開発といったバックグラウンドを持つシリアルアントレプレナーです。

彼らがアフリカのモビリティ市場を見たとき、問題はドライバーの能力や勤労意欲ではなく、「信用を評価する仕組みが存在しないこと」だと捉えました。
多くのドライバーは日々安定した収益を上げています。しかし、その事実は銀行の信用審査には一切反映されません。
結果として、働いているにもかかわらず、金融サービスにアクセスできない状態が常態化していました。
Mooveはこの歪みに対し、「走行実績と収益データを信用に変換する」というアプローチを取ります。
つまり、過去の資産や書類上の信用ではなく、「実際にどれだけ走り、どれだけ稼いでいるか」を信用の基準に据えたのです。

1.2 中核モデル|Drive to Ownが成立させた新しい金融のかたち
Mooveの事業の核にあるのが、収益連動型のDrive to Own(DTO)と呼ばれるモデルです。
従来の信用スコアや担保を用いず、Uberなど配車プラットフォーム上の走行回数、収益、稼働率データをもとに与信判断を行います。
この構造により、Mooveはドライバーの収益変動リスクを織り込みながら、稼働率そのものを担保とした回収モデルを成立させています。
ドライバーはアプリから申し込みを行い、走行実績や収益データをもとに審査されます。承認されると車両が割り当てられ、30・36・48か月といった期間で、週次返済を行います。
返済を完了すれば、車両の所有権はドライバーに移転します。

最大の特徴は、返済がドライバーの収益に連動している点です。固定返済ではないため、収益変動の大きいギグワーカーでも無理なく返済でき、貸し手側にとってもデフォルトリスクを抑えられます。
Mooveは、「資産」や「過去の信用履歴」ではなく、「働いた結果」を信用として評価する金融モデルを、実運用レベルで成立させた企業だと言えるでしょう。

1.3 「最初からグローバル」な設計|シリアルアントレプレナーが描く未来
Mooveが他のスタートアップと大きく異なるのは、創業当初から一国完結を前提にしていなかった点です。
ナイジェリア一国に依存すれば、通貨や政策、マクロ経済の変動リスクを強く受けます。
また、車両金融は一定規模に達しなければ、調達コストや車両調達条件が改善しません。さらに、配車プラットフォームとの交渉力も、複数市場を束ねて初めて生まれます。

こうした前提から、Mooveにとってグローバル展開は「成長の結果」ではなく、「事業成立の前提条件」でした。
そのため同社は、創業初期から複数通貨・複数規制を前提とした契約設計と、国ごとに調整可能なオペレーションを組み込んでいます。
この設計思想があったからこそ、Mooveは急速な市場拡大にも耐えられる基盤を持つことができました。

1.4 Uberとの関係|依存を戦略的優位に変えたパートナーシップ
Mooveの成長を語るうえで欠かせないのが、配車プラットフォームとの関係、とりわけUberとのパートナーシップです。
一見すると、MooveはUberに依存する車両供給会社のように見えます。しかし実態は逆でした。
Mooveは意図的に、「MooveのフリートがなければUberのドライバー供給が回らない市場」を作り出しました。

この相互依存関係が深化した結果、Uberは単なる取引先ではなく、戦略的パートナーかつ株主となります。
2024年の資金調達では、Uber主導で1億ドルを調達し、Mooveの評価額は約7.5億ドルに到達しました。
依存を避けるのではなく、依存される側になる設計を選んだ点に、Mooveの戦略性が表れています。

1.5 MUFGとの関係|資本ではなく“橋渡し”が効いた協業(追記)
Mooveのパートナーシップは、プラットフォーム企業との連携にとどまりません。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、2022年にMooveへの投資を決断しています。
MUFGは、アフリカ市場にはアンバンクト/アンダーバンクトが多く、金融アクセスという社会課題が大きいという問題意識を背景に、Mooveとの協業に踏み込んだと説明しています。
ここで重要なのは、資本提供だけではなく、MUFGが持つグローバルネットワークを活かして、日本企業との橋渡し機能を発揮しようとしている点です。
実際、Mooveはスズキやトヨタなど自動車メーカーとの関係構築にも言及しており、共同創業者Ladi Delano氏は、MUFGとの出会いが日本企業とのパートナーシップ形成のきっかけになったと述べています。
車両ファイナンスのスケールには、与信モデルだけでなく、車両供給の安定性や調達条件が決定的になります。MUFGの関与は、Mooveがグローバル展開を現実に落とし込むうえでの“供給側のレバー”として位置付けられます。

1.6 インド展開|新興国でスケール可能なモデルであることの実証
Mooveにとってインド展開は、極めて重要な意味を持っていました。
インドはアフリカと似ているようで、実態は大きく異なります。ドライバー人口は桁違いに多く、規制は州ごとに複雑で、競争環境も激しい市場です。
Mooveはこの市場において、DTOモデルをそのまま輸出するのではなく、返済条件や車両タイプ、オペレーション設計を現地仕様に最適化しました。
その結果、高稼働、低デフォルト、安定したキャッシュフローを同時に実現することに成功します。
この成功により、Mooveは自社モデルが「アフリカ特有の成功例ではない」ことを確信しました。

1.7 ロンドン展開|先進国でEVインフラとして機能するMoove
ロンドン市場は、Mooveにとって大きな転換点でした。ここでは単なる車両金融ではなく、EVフリートを動かし続ける高度な運用力が問われます。
ロンドンはUberの電動化の取り組みにおいて世界をリードしており、2022年時点でプラットフォーム上には7,000台以上のEVが登録されています。これは、Uberが展開する都市の中でも最多の水準です。
Mooveのロンドン事業は、Uberが掲げる「2025年までにロンドンで完全EVプラットフォームを実現する」という目標の達成を、実行面から支えています。
Mooveは、2025年までにロンドンで10,000台のEVを導入する計画を掲げており、これにより年間約63,000トン規模の二酸化炭素排出量削減に貢献すると見積もっています。

また、ロンドンにおけるEVへの移行を促進するため、Mooveは配車ドライバー専用の包括的なEV充電ネットワークアプリ「Moove Charge」を提供しています。これは、EV移行における最大の障壁の一つである、充電拠点の可視性と確実性を解消する仕組みです。
Mooveは、EV車両の調達・管理から、充電インフラとの連携、規制・保険・メンテナンス対応までを一体で担い、EVを「所有するもの」ではなく、「都市の中で稼働し続けるインフラ」として成立させました。

1.8 Waymo提携|自動運転時代の“現場”を担う企業へ
Mooveは現在、自動運転技術を持つWaymoと提携し、ロンドンをはじめとする都市で自動運転ライドヘイリングの実装を進めています。
Waymoが担うのは、自動運転技術そのものです。一方でMooveが担うのは、フリート運用、制度対応、保守・保険、稼働管理といった「技術の外側」の領域です。
ここで重要なのは、Mooveが事業の方向性を大きく転換(ピボット)したのではなく、これまでDrive to Own型モビリティ・ファイナンスを通じて積み上げてきた運用能力が、そのまま自動運転時代に接続されたという点です。

アフリカで磨いたモデルを前提に、Mooveはインド、英国、米国、ラテンアメリカへと展開し、ブラジルではKoviを買収しました。さらに米国でも、Waymo向けのEVフリート運営にも関与しています。
こうした動きは、「アフリカ発だから世界に出られた」というよりも、最初から世界展開を前提に、その実験場としてアフリカを選んだ結果と捉える方が自然でしょう。
1.9 ネクストユニコーンの現在地|積み上げた実績
Mooveは現在、ユニコーン到達を現実的に視野に入れています。
累計調達額は5億ドルを超え、年間ARRは約4億ドル規模、2024年にはEBITDA黒字化を達成しました。
運用車両は約39,000台、展開都市は29都市・5大陸に及びます。
今後予定されているSeries Cが実現すれば、評価額10億ドル超に到達する可能性は高いと見られています。
重要なのは、Mooveが期待値ではなく、実績を積み上げて現在地に立っている点です。

1.10 おわりに|Mooveが示した進化の本質
Mooveは、「アフリカで車を買えない人を支える社会課題を解決する企業」から、「世界の都市に次世代モビリティを実装するインフラ企業」へと進化しました。
一貫して変わらなかった問いは、「車にどうアクセスさせるか」という一点です。
その問いに対する答えを、金融、運用、EV、AI、自動運転というレイヤーで積み上げてきた結果が、現在のMooveです。
ユニコーンは通過点にすぎません。Mooveの本当の物語は、これから都市の標準インフラになれるかどうかという次のフェーズにあります。

Mooveの事例から見えてきたのは、Drive to Own型のモビリティ・ファイナンスが、もはや単一の「正解」を持たない領域に入っているという現実です。
同じ仕組みを採用していても、どこに軸足を置くかによって、事業の形は大きく変わります。
次回取り上げるHAKKIグループ(旧:HAKKI AFRICA)は、Mooveとは対照的に、グローバルスケールよりも現地オペレーションの積み上げを重視してきた企業です。
同じモビリティ・ファイナンスでありながら、なぜ設計思想が真逆になるのか。その違いを掘り下げていきます。
情報参照元
❚ アクセルアフリカについて

『日本とアフリカ諸国を繋ぎ、社会課題解決型ビジネスを共創することで、アフリカの持続的成長に貢献する』をビジョンに日本企業のアフリカへのビジネス進出や現地での事業開発をサポートする日系コンサルティング会社です。
ケニアに事務所及びコミュニティハウスを持ち、アフリカの主要国をカバーしています。アフリカでの事業展開についてお悩みの方はぜひお気軽にご連絡ください。
❚ Africa Quest.comでも連載中!

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