「なんでも知っている人」の仮面が割れた日。読書で全能感に浸っていた凡人が「わかったフリ」をやめるまで
職場で、「あの人に聞けばなんでも知っている」「よく勉強している優秀な人だ」と評価されること。
それは、一見するとビジネスパーソンとして非常に名誉なことに思えます。
しかし、その評価が「薄っぺらい表面的な知識」の上に成り立っていたとしたら、どうでしょうか。
私たちは日々、職場で「仕事ができる人」として振る舞うために必死で背伸びをしています。
かつての私も、職場で「なんでも知っている人」という重たい仮面を被り、自分自身を苦しめ続けていた人間でした。
当時の私は、毎日ビジネス書を読み漁り、休日はセミナーの動画を見て勉強をしていました。
新しい横文字のビジネス用語や、最新の業界動向をいち早くインプットすることに快感を覚えていたのです。
会議の場でその知識を披露すると、周囲からは「よく知っているね」と感心されました。
その小さな成功体験が、私の中に恐ろしい「全能感」を生み出してしまいました。
「私は他の人よりも勉強している。優秀な人間なんだ」と。
しかし、現実は残酷です。私が知っていたのは、物事のほんの「入り口」の表面的な知識だけでした。
本質を理解していないのに、少し本で読んだだけで「わかった気」になっていたのです。
自分がただの「不器用な凡人」であるという一番大切な事実を、すっかり忘れてしまっていました。
そして、その肥大化したプライドと「わかったフリ」が、ある日とんでもない大惨事を引き起こすことになります。
限界を超えた「わかったフリ」と、エクセルマクロの悲劇
ある日、部署内で業務効率化のためのデータ集計プロジェクトが立ち上がりました。
そこで「パソコン周りの知識が豊富」と思われていた私に、白羽の矢が立ちました。
「この複雑なデータ処理、エクセルのマクロを組んで自動化してくれないか?」
その時の私のエクセルの実力は、「関数を使って綺麗な表が作れる」程度のレベルでした。
マクロなど、本で言葉を見たことがあるだけで、実際にコードを書いて動かしたことなど一度もありません。
本来であれば、ここで「すみません、マクロは組めません」と正直に言うべきでした。
しかし、「なんでも知っている優秀な人」という仮面が、私の口を塞ぎました。
「はい、大丈夫です。やっておきます」
余裕のあるふりをして、私はその仕事を引き受けてしまったのです。
地獄の始まりでした。
日中の業務時間内では当然終わらず、私は仕事のデータをこっそり家に持ち帰りました。
夜中、ネットで「エクセル マクロ 組み方」と検索しながら、見よう見まねで作業を続けたのです。
数日間の寝不足と引き換えに、なんとか形らしきものは出来上がりました。
しかし、本質を理解していない素人がツギハギで作ったプログラムが、実務の複雑なデータに耐えられるはずがありません。
いざ実務で動かした瞬間、エラーが頻発し、大切なデータがめちゃくちゃになってしまったのです。
凡人であることを忘れた罪と、周囲への多大な迷惑
「おい、これ全然動かないぞ。どうなってるんだ?」
上司からの怒りの声で、私の薄っぺらい仮面は粉々に砕け散りました。
結局、システムに詳しい別の部署の先輩が急遽駆り出され、徹夜で修正作業をする羽目になったのです。
私は申し訳なさで消え入りそうになりながら、ひたすら謝罪することしかできませんでした。
時間を大きく無駄にし、周囲に多大な迷惑をかけ、プロジェクトの進行を致命的に遅らせてしまった。
「自分は勉強しているからできるはずだ」という傲慢さが招いた、最悪の結末でした。
一番自分が許せなかったのは、失敗したことそのものではありません。
「表面を知っただけで、なんでもわかった気になっていた自分自身の浅はかさ」です。
本を読んだだけで、現場の泥臭い実務をこなせる天才にでもなったと錯覚していたのです。
私のような凡人は、手を動かし、失敗し、恥をかきながらでしか本当の知識を身につけることはできません。
「わかったフリ」は、その一番大切な成長の機会を自らドブに捨てる行為でした。
私はこの日、自分が紛れもない「凡人」であることを、痛いほど思い知らされたのです。
プライドを捨てた日、人間関係が劇的に変わった
この大失敗を境に、私は職場で「なんでも知っている人」を演じるのを一切やめました。
会議で知らない用語が出れば、知ったかぶりをせず「すみません、不勉強で申し訳ないのですが、その言葉の意味を教えてもらえませんか?」と聞くようにしました。
仕事を振られた時も、「表作成までならできますが、マクロは組めません。やり方を教えていただければ挑戦します」と、自分の現在地を正確に伝えるようにしたのです。
最初は、無能だと思われるのが怖くて冷や汗をかきました。
今まで築き上げてきた「優秀なキャラ」が崩れることに、強烈な恐怖があったからです。
しかし、実際に「わかりません」と白旗を揚げてみると、周囲の反応は予想とは全く違っていました。
呆れられるどころか、「あ、これはこういう意味だよ」「マクロなら俺が基本を教えるよ」と、みんなが驚くほど親切に教えてくれたのです。
そして何より、質問や相談を素直にするようになったことで、職場でのコミュニケーションが爆発的に増えました。
隙のない「なんでも知っている人」を演じていた頃より、弱さを晒した今のほうが、はるかに人間関係が円滑になり、仕事もスムーズに進むようになったのです。
まとめ:凡人の最強の防具は「わかりません」という素直さ
本を読み、知識をインプットすることは、決して悪いことではありません。
しかし、知識の入り口に立っただけで「自分はすごい」と錯覚し、凡人であることを忘れてしまうのは非常に危険です。
現場の実務において、わかったフリをして時間を無駄にし、周囲に迷惑をかけることほど罪深いことはありません。
天才のようにすべてを完璧にこなすことはできなくても、自分の現在地を正確に把握し、素直に教えを請うことは誰にでもできます。
これこそが、私たち凡人が職場で生き残るための、最も確実で強力な武器なのです。
もし今、あなたが職場で「わかったフリ」をして冷や汗をかいているなら。
明日、たった一言でいいので「すみません、ここをもう少し詳しく教えてもらえませんか?」と口に出してみてください。
重たいプライドの鎧を脱ぎ捨てた瞬間から、あなたの仕事の風景は、驚くほど風通しの良いものに変わるはずです。
私たちは一人で完璧である必要はありません。
「凡人」であることを誇りに思い、周りの力を借りながら、明日も泥臭く前に進んでいきましょう。
あなたがあなたらしく、肩の力を抜いて働けることを、心から応援しています。
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