隠れオタクの本音と建前に少しの初恋をブレンドしました(5)【創作大賞応募作】

あらすじ&1話 ↓

第5話

 死なせないと啖呵を切ってしまった翌日。
 私は教室に入ってすぐに高杉の生存確認をした。

 生きてる……!

 しっかり登校していた事に安堵の息を吐いたその時、高杉が俯いていた顔を上げてこちらを見た。視線が重なり途端に心臓が跳ねる。そのまま目をそらせずにいると、未央に声をかけられ私は焦って自席に向かった。

 授業が始まってからは背中に視線を感じて、恐る恐る振り返るとまた高杉と目があった。

 確かに昨日の私はガンされても仕方のない事をやった。
 やったけれども……。こんなに見つめられては背中の辺りがゾワゾワする。結局私も高杉の事が気になり、斜め後ろを何度も振り返っていた。

「燈子どうしたの?」

 未央が不思議そうに私が振り返っていたのと同じ方向に目を向ける。

「うわ! 高杉こっち凝視してない? あいつ、燈子のこと見てるのかな?」
「さ、さぁ? たまたまでしょ」
「や、なんか視線ヤバくない?」
「そ、それより! 明日からテスト一週間前だよ。未央、ちゃんとノート書いてる?」

 私は何とか学期末試験で話題を逸らす。

「そうだ、もうテスト前だった! ノート書いてないよぉ〜」
「私も私も」
「誰に借りよっか?」

 今日は二学期末試験の時間割が発表になる試験一週間前で、それは同時に、授業中に携帯をいじったり眠ったりしている生徒が、お利口軍団にノートを借りるため、ちょっとだけヘコヘコする期間でもある。

蓮見はすみさんにお願いしよう」

 私は、今も熱心にノートを書いている蓮見さんを見る。
 彼女はいつも分かりやすくノートをまとめている学年成績三位の才女で、腰まである長い黒髪を一つにまとめ黒縁眼鏡を掛けている。
 私や未央のようにヘアセットやメイクはせず、オシャレに気を使っている様子はないけれど、私はいつも蓮見さんのことを綺麗だなと思っていた。

 手を加えていない。そのままの美しさみたいなものを蓮見さんに感じる。何より彼女の声は、りんとした響きをしていてとても心地良いのだ。

 不意に、高杉は蓮見さんみたいなタイプが好きそうだなと思った。きっと私みたいなタイプは好きじゃない。むしろ苦手だろう。

 そこまで考えて、なぜ私が高杉のタイプを気にしなければいけないのかと腹が立った。
 高杉に好かれたい訳じゃないし、高杉の事が好きな訳でもない。私はただ、高杉の声だけ大好きなのだ。

 きっと高杉の艶のある低音には、毒舌ちょいエロな台詞がよく似合う。
 ふと、蓮見さんの透明感のある凛とした声と非常に相性が良いのではないかと気付いた。

 そうだ。二人の『声』は、孤高系不良男子と、ひたむきな真面目委員長の設定がヤバいほどにマッチしている。私はすぐに二人の『声』で、エモい台詞を脳内再生し始めた。

『ちょっと高杉くん! また屋上で授業サボって!』
『ん?……なんだ委員長か』
『もう! どうして授業に出ないの?』
『蓮見さんこそ、なんでそんなに俺に構うんだよ?』
『それは……私は委員長だから、みんなの風紀が乱れないように』
『それだけ?』
『それだけよ。他に何があるって言うの?』
『例えば、蓮見さんが俺のこと好き……とか?』
『な、なな何言ってるの! 私はただ委員長の責務を!』
『ふふ、耳まで真っ赤だよ。きっと気付いてないだけで……。蓮見さんはもう、俺が好きだよ』
『た、高杉くんの馬鹿!』

 あぁああああああ!!
 ……尊ひ!!!!!

 場所は、王道な屋上。二次元設定では欠かせない萌えスポットだ。現実では立入禁止にされている事がほとんどだけど、そんな現実知ったこっちゃない。

 学園モノにおいて屋上を制する者は青春を制する。恋も友情も喧嘩も仲直りも、屋上に始まり屋上に終わると言っても過言ではない。いにしえから語り継がれる王道の設定は、どんなに時代が流れても変わらず最高なのだ。

 試験前にも関わらず、授業中にたっぷり声の妄想を楽しんだ私は、上機嫌で白いままのノートを閉じた。

 *

 休み時間になってすぐ未央と同時に席を立ち、蓮見さんの座席に向かう。蓮見さんのノートは競争率が高いので急がなければ借りる事が出来なくなってしまう。彼女に声を掛けようとしたその時、視界の端に教室から出ていく高杉の姿が見えた。

 あ。奴が、動いた!

「未央ごめんっ! 蓮見さんに頼んでおいてくれない? 私ちょっと、めちゃ急ぎな用事思い出したっ!」

 急いで廊下に出ると、ちょうど男子トイレに入る直前の高杉の後ろ姿が見え、私は全力で走って高杉にわざとぶつかり耳打ちした。

「昼休みに昨日の場所に来て!」

 それだけ言ってすぐに離れる。
 普通なら、突然胸倉を掴んでくる女に再び呼び出しを受けても来てくれるとは思えない。けれど高杉も、私の言動が気になっているからこそ、教室でチラ見していたはず。

 だから、きっと来る。
 そう信じて私は教室に戻ることにした。

「燈子さん! 大丈夫っスか? 今、高杉にぶつかったよね?」

 先程の行動を横山くんに見られていたらしく、横山くんがこちらに走り寄ってくる。

「肩がちょっと当たっただけで、大丈夫だよ」
「マジっスか?」
「うんうん、マジマジ」
「で、でも……」

 まだ何か言いたげな横山くんの言葉を遮るように、私は横山くんのツンツンヘアーに手を伸ばす。

「髪型、今日もいい感じだね」

 毛先に少しだけ触れると、横山くんが嬉しそうに目を細めた。人懐っこい大型犬みたいな笑顔だ。

「マジっスか? 燈子さんに褒められるとかヤバいんスけど! 今ので、今年一年分の運つかい果たしたかも」

 お尻にブンブンと揺れる尻尾が見えそうなほど、横山くんの声が弾んでいる。もう十二月なので普通に生活してるだけで一年分の運を使い果たす時期だよ。という突っ込みは心に留めておいた。

 とりあえず、高杉への接触についてはすでに頭に無いようだ。私はホッとして横山くんと一緒に教室に戻った。未央を探すと、スマホで必死にノートの写真を撮っている後ろ姿が見える。
 どうやらこちらも良い感じに、蓮見さんのノートをゲットできたらしい。あとで画像を送ってもらおう。

 よし。
 今の所とても順調だ。

 あとは昼休みに高杉に昨日の逆ギレを謝り、死ぬのを思い止まらせる。そして少し落ち着いた頃合いをみて、教室であんなに見つめないでと釘を刺しておこう。

 今度は逆ギレしたりしないように、私は高杉に話す順序を心の中で繰り返す。

 逆ギレごめん、死ぬな、そして見つめるな。
 うん。この順番でいい。
 私は大きく頷いてから、もう一度確かめるようにそれを呟いた。

「逆ギレ死ぬのを見つめるな」

 繋げて言うと凄い事になり、私はうつむいて笑いを咬み殺す。

 きっと、昼休みになればまたあの声が聞ける。
 早く聞きたい。
 そう思うとやっぱり、胸の奥がキュンとなった。  

6話


★第1話に各話のリンク貼ってます↓

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