私にとっての仕事の魅力
治山事業に従事して、20年以上になりますが、治山の仕事をしていて良かったなと、常々思います。
そりゃ、嫌なこともあるし、しんどい時もあります。
それでも、職場で年に2回ある上司との面談で、今の仕事を続けたいか?との問いには、毎回「続けたい」と本音で答えています。
治山事業に従事するまで、治山とは何かよくわかっていませんでした。
さらに、コンクリートがどうやってできるかも知らなかったような私ですが、仕事をしていくうちに治山事業に魅力を感じたということです。
そこで今回は、改めて治山事業の魅力について考えた結果たどり着いた、
Eco-DRR
の考え方について書いていきます。
治山事業の目的
私の記事では、治山事業の目的について何度か触れていますが、林野庁HPでは次のように説明しています。
治山事業は、森林の維持造成を通じて、山地災害から国民の生命・財産を保全するとともに、水源の涵養、生活環境の保全・形成等を図る重要な国土保全政策の一つです。
治山事業をひとことで説明するなら「多面的機能を有する森林を、維持造成する事」と言えるでしょう。
しかし、木を伐って植えるという一般的な林業活動でも、森林を維持造成する事は可能です。
林野庁の説明を引用すれば、「国民の生命・財産を保全」や「水源の涵養、生活環境の保全・形成等を図る重要な国土保全政策」というのが、一般的な林業活動との違いと言えます。
具体的には、森林が有する多面的機能のうち、水源の涵養や、土砂災害の防止など、公益を目的とする森林を維持造成するのが治山事業です。
そして、これらの森林は「保安林」として、法的に伐採等を制限したり、保安施設事業として治山事業を行うことで、公益的な機能を保全しています。
Eco-DRRとは
ネイチャーポジティブ、30by30、NbS・・・いろんな言葉が生み出されていく現代ですから、ついていくのも大変です。
ただ、ICTという言葉も、出始めの時は理解が難しかったですが、今では一般的な言葉になっているので、あまり難しく考えすぎない方が良いのかも知れませんね。
では、Eco-DRRとは何なのか。
こちらも、まずは国のHPを確認してみましょう。
Eco-DRRとはEcosystem-based Disaster Risk Reductionという言葉の頭文字を取った言葉で、土地の生き物や環境を保護して、自然の持つ力によって災害による被害を防止又は軽減させる取り組み・考え方のことです。
ひとことで説明するなら「生物多様性によって、災害を防止する」といったところでしょうか。
生物多様性によって、我々は様々な生態系サービスの恩恵を受けています。
生態系サービスとは、「供給サービス」「調整サービス」「文化的サービス」「基盤サービス」でしたね。
Eco-DRRとは、生物多様性を生み出す(基盤サービス)ことによって、水源の涵養や土砂災害を防止する(調整サービス)ことであり、その結果生物多様性の保全に繋がるという取組のことを言います。
なぜEco-DRRの取組が注目されているのか
我が国では、これまでコンクリートなどによるグレーインフラの整備が進められ、災害リスクの軽減が図られてきました。
しかし、人口減少や過疎化の進行、そしてグレーインフラの老朽化による維持管理コストの増大など現代社会が抱える多くの問題を、これまでのグレーインフラ主体の整備を続けていては解決できません。
また、気候変動激化の原因の一つが、地球温暖化ですが、ネットゼロ実現し災害を抑える観点からも、これまでのグレーインフラ主体の整備では限界があります。
そこで、生態系のチカラで、災害を抑制する。
現地の荒廃状況や、保全対象との位置関係を踏まえて、従前のグレーインフラと森林などのグリーンインフラを適度に組み合わせて対策を進める。
そして、その結果、生態系が保全されることで、気候変動を緩和する。
現代の様々な課題を解決するために必要な取組が、Eco-DRRなのです。
・・・あれ?
グレーインフラとグリーンインフラを組み合わせるって、治山事業じゃん。
そうです。
林野庁も言っていますが、Eco-DRRとは治山事業そのものなのです。
魅力に感じる理由
いつからEco-DRRという概念があったのでしょう。
それでも治山事業は、森林を維持造成することで災害を防ぐという目的のもと、古くから事業が実施されてきました。
治山事業におけるグレーインフラは、森林維持の基礎です。
最終目標は、森林の機能を高度に発現し、災害などから公衆の安全を確保することです。
ここに、治山事業の魅力がありそうです。
私たちが社会を形成して、生存するためにグレーインフラが整備されてきました。
これは、脅威も含む「自然」というものに対して、抗うものです。
一方で、グレーとグリーンのハイブリット、まさに治山事業ですが、脅威ともなり得る自然と共生する考えです。
その点で、他の防災工事と治山工事に違いがあります。
私たちが生存するために、自然に対して「抵抗」するのか、それとも「共生」するのか。
どちらが正しいとか間違いとかではありません。
いずれも必要。
それでも、「共生」によって、私たちが生存することができるのであれば、それを選択しませんか?
自然と「共生」するために、必要な仕事。
それが治山事業であり、魅力なのだと思います。
自然と共生する方法
Eco-DRRを進めるには、生態系の保全・再生と防災・減災の関係性について理解することが重要です。
これは、今後の治山事業を進める上でも大切な視点になります。
具体的には、「ハザードの軽減」「暴露の回避」「脆弱性の低減」により災害リスクを低減していくという考えです。
「ハザードの軽減」は、危険な自然現象の発生を抑えることで、これは治山事業により森林を維持造成することです。
さらに、森林は温室効果ガスの吸収源になりますし、工事における排出量を削減することも、ハザードの軽減に貢献します。
このため、これからの治山事業は、施工省力化による二酸化炭素排出量の削減や、木材利用を進めることで、炭素を長期固定する観点も必要です。
「暴露の回避」は、土地の成り立ちを考慮した利用を行うことで、災害リスクを考慮して、居住を回避することなどがあたります。
治山事業とは直接関係なさそうにも見えますが、航空レーザ計測結果と、地形地質情報等を組み合わることで、山地における危険地情報の精度を向上することができます。
さらに、その情報をただHPなどで公表するのではなく、都市計画に反映できるよう、市町村とタッグを組んで、本気で取り組む必要があります。
「脆弱性の低減」は、危険な自然現象に対する緩衝帯として生態系を利用することで、海岸防災林などがそれにあたります。
南海トラフや、千島海溝地震の発生が予測されるなか、グレーインフラによる津波対策に加えて、巨大地震への備えとして、海岸防災林による津波の減勢対策を進めることが必要です。
治山事業はEco-DRRそのものと言いましたが、これまでの治山事業を繰り返すだけでは、真の意味で自然と共生するとは言えません。
時代の変化を踏まえて、これからの治山事業を本気で考える必要があります。
私にとっては、こういった新たな視点での取組を進めることも、今の仕事の魅力の一つであると感じています。
