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【小説】メンズエステのめぐみさん⑫

童貞社会人編は⑩からの続きです。

12話 童貞社会人(3/5)


そんなのは些細なことだよ(笑)
そう言って片づけられるかもしれない。
ただ、そう片づけられるのは、みんなが言う所の、陽キャと言われる人だけだ。
僕のような文科系のクラスの端っこで静かに過ごす人間には些細なことなんて言葉を発することも許されない。

僕の住んでいた町は、野球が盛んな地域だった。
中体連とは別に、3年生になると、クラス対抗の校内野球大会を行う。
そして、各中学校で、1位になったクラスだけが、学校対抗野球大会の代表として出場することが伝統だった。
僕のクラスには、14人の男子がいた。
幸いなことに、野球部が4人もいる上、サッカー部が2人、陸上部2人、バスケ部が1人とスポーツに精通している人が多いクラスでもあった。
3年生のクラス分けが発表された時には、陽キャたちは、
俺たち9人がいれば優勝は決まりだ!
と内輪でワイワイ騒いでいた。

そして、校内野球大会当日。
もちろん僕はベンチ。
こうやって試合にも出ず、ベンチで、同じ文化部のやつらでへらへらと応援をしていれば授業が終わる。
ある意味最高じゃないかと内心この状況を喜んでいた。
そこに、野球部の一人がやってくる。
「おい、渡辺。石井がお腹痛くてトイレ行っててさ遅れるからさ。スタメンで出てくれない?石井は足早いから打順が1番なんだ。だから一回だけは打席に立ってほしい。。。石井が帰ってきたらすぐ交代でいいから!頼むよ!」
「え、僕!?なんで!他の人は?」
ベンチメンバーを見渡したが、みんな知らぬ顔。
「お前文化部のくせに地味に足早かったよな?」
「8秒7とかだった。」
「全然いいじゃん!他のベンチの奴らよりは可能性あるから!な!頼むよ!」
いつも、クラスでワイワイやっている野球部のエースだぞ?
そんなやつが僕に頭を下げて僕に頼むなんて、、、
なんか悪い気はしないな。
まあ、どうせ最初だけ出ればいいんだ。
もしここでヒットでも打てば一躍ヒーローになっちゃったりして!
「うん、じゃあ出るよ。でも本当に打てないと思うよ?」
「全然大丈夫!じゃあ、このバットとヘルメット被って!」
「わかった!」
今思うとここで安請け合いしたのが全ての間違いだった。

バッターボックスに入ると、相手のピッチャーは野球部でショートを守っているやつだった。
普段と違うポジションだからと言って、素人が、ましてや体育以外で体を動かしていない文科系の僕が打てるはずない。
1球目、ボールはど真ん中に投げてくる。
「ストラーイク!」
野球部顧問の大きな声が耳にガンガンと響く。
バッターボックスで聞くとこんなに大きい声なのか。
ヘルメットをしているのにこんなに耳に響くなんて。
「タイム!」
ベンチからエースがやってくる。僕の所に来ると体育着の袖を引っ張り、そのままの流れで首をホールドする。
「お前よく聞け。どうせ打てないのはわかってるけど、無理でもいいからバットを振れ。次からバット振らなかったら、ぼこすからな。なめてんじゃねーぞ。」

最後に胸あたりに強烈なグーパンチをして、ベンチに戻っていった。
はい?約束と違くない?一気に怖くなった。
振らなきゃ殺される。振らなきゃ殺される。振らなきゃ殺される。
呪文のように頭の中を埋めつくす。
「ストラーイク!」
バットを振ってみたが、当たる気配は全くない。
どうしよう。ベンチの方を見る。
「おい渡辺!打てよ!」
「何こっち見てんだよ!ピッチャー見ろ!」
ベンチでヤジが飛ぶ。
はっとして前を見ると、相手のピッチャーが投球モーションに入っている。
え、もう投げてる!?
ああ、もうどうにでもなれ!!!
もちろんボールは空を切る。
あ、当たらない!終わった!!!
「走れ!!振り逃げだ!!」
フリニゲ?
脳の処理が追い付かない。
「おい渡辺!いいから一塁に走れ!!」
何が何だかわからないが、ベンチの指示通り1塁方向に走る。
「おいもうキャッチャーボール持ったぞ!渡辺スライディングだ!!」
「うおおおおお!!!!」
滑った後の記憶は全くない。
後から聞くと、僕はファーストを守っていた木村君とぶつかって怪我をさせてしまった。
木村君は全治1~2週間ほどの軽い捻挫を負ってしまった。
何があったかわからないまま呆然と立ち尽くした。
木村君の負傷の対応が終わって、一段落した後、トイレから戻った石井と交代した。

そして、次の日からいじめが始まった。

「うちの彼氏になにしてんの?」
次の日の放課後、同じクラスの吉川さんと、その仲間2人に囲まれた。
不良っぽい3人にいきなり囲まれたので少し恐怖を感じる
「え。」
なんのことやらさっぱりわからなかった。その態度も悪かったのかもしれない。
仲間の一人が言った。
「だから!よっしーの彼氏のこと怪我させといて、何のこのこ学校来てるの?って言ってんだよ!」
「木村君のこと?」
「そうだよ!よっしーどんだけ心配してるかわかってんの?」
もう一人の仲間が僕の肩あたりを押した。
文科系でいわゆる情報ってやつに疎い僕は、木村君と吉川さんが付き合っているなんて知る理由がなかった。
「しかもお前怪我させたくせに圭くんに謝んなかったよな?こっちは応援席から見てたんだよ!」
吉川は細い眉毛をハの字にさせてぐいぐいと僕の方に近づいてくる。
「ごめん。僕もなにが起こったかわからなくて。でも申し訳ないと思っているよ。だからさっき木村君にも謝ったんだ。そしたら、木村君もスポーツ中だからしょうがないって許してくれたし。」
「謝ればいいと思ってんの?お前が圭くんを怪我させたから3組は球技大会も負けてんだよ!そのことに謝罪はしたの?圭くんは4番なのに、、」
吉川はそう言うと泣き出した。
「お前最悪だな。地獄に落ちろよ。明日から覚えておけよ。」
仲間はそう言うと、「行こ。」と言って教室の方へ戻っていった。
吉川さんが汚物を見るような目で僕を見たのを、今でも忘れることができなかった。

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「そんなことがあったんだ。」
「うん、でも、ここからが今でも思い出しただけで苦しくなるんだ。」
渡辺は言い放った。足をマッサージをしているので、背中しか見えないめぐみにも、その苦しみ、悔しさ、憎悪の全てが言葉から汲み取ることができた。
「渡辺さん、思い出させちゃってごめんね。軽々しく聞きたいなんて言っちゃって。苦しいよね?もう言わなくてもいいんだよ?」
「めぐみさん、ありがとうございます。でも、なんかめぐみさんには言えそうなんです。それに、今日これを言わなきゃ先輩にも踏み出せない気がする、、、言葉に詰まっちゃうかもしれないけれど聞いてくれませんか?」
「うん。でも無理はしないでね。」

13話に続く(7月12日18:00に公開予定です。)


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