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事件簿ファイル#89[特別編]:誰も責任を取れないシステム/見えない倒産シリーズ②

分かっているのに、動けない。
それが一番危ない。


◼️ 分かっているのに、なぜ誰も動けないのか



プロローグ

分かっている。
やらなければいけない。
このままでは危ない。

社内の誰もが、それを理解している。
それでも――
進まない。

会議は開かれている。
資料もある。
見積もりも出ている。
外部の専門家にも相談している。
それでも決まらない。

誰かが怠けているわけではない。
むしろ全員が、かなり真面目に考えている。
それでも、何も動かない。

なぜか。
理由は単純ではない。
そして、技術の問題でもない。
決めなければならないのに、決める人間だけが損をする構造になっている。
この時点で、すでに会社は詰んでいる。



第1章 正しいことしか言っていない

東陽精機では、問題はとっくに共有されていた。

基幹システム。
SAP ECC。

保守終了。
移行の必要性。

ここまでは、誰も否定しない。
IT担当は資料を揃え、経理は制度の限界を感じ、現場も違和感を抱えている。
つまり、問題は見えている。
だが、そこから先に進まない。
会議室のホワイトボードには、複数の案が並んでいた。

全面移行。
一部切り出し。
延長保守。

どれも一理ある。
どれにも欠点がある。

そして、誰も間違ったことを言わない。
だから決まらない。
正しい意見が揃うほど、決断だけが消えていく。

第2章 会議は終わる。何も決まらないまま

同じテーマの会議が繰り返される。
情報は増え、数字も揃う。
だが結論だけが出ない。

最後に出てくるのは同じ言葉。
「もう少し検討しよう」

誰も反対しない。
それが一番安全だからだ。

決めなければ、責任は生まれない。
だが同時に、何も変わらない。
高瀬は資料を閉じた。
ここでは決まらないと分かっていた。

第3章 責任はある。だが、決める人間がいない

責任者はいる。
だが、決断する人間はいない。

IT、経理、現場、それぞれが責任を持っている。

しかし――
決断の責任だけが宙に浮いている。
決めた人間がすべてを背負う。
その構造では、誰も前に出ない。
結果として、組織は何も決めない。

第4章 見えているリスクと、見えていないリスク

失敗の損失は見える。
だが、先送りの損失は見えない。
だから人は、見えるリスクを避ける。

その結果
何もしないことが最も安全に見える。

しかし現実は逆だ。
先送りは、静かに選択肢を奪っていく。

第5章 すでに分かれている

外では、すでに動いている会社がある。
完璧ではなくても決めている。

一方で、動けない会社もある。
まだ動いている。
だから決めない。

この差は広がる。
会社は突然止まらない。
止まる前に、未来が止まる。


誰も間違っていない。
だが、誰も“正しい決断”をしていない。


【次回予告】

では、どうするか。
選択肢はある。
だが、どれも簡単ではない。
👉 次回
「間に合う会社、間に合わない会社」


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提唱:先観経営論(PreVision Management Theory)
by 新井和弘

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