時代に逆行するが、正式に報告しないことも、また真なり。
「悪いニュースほど、社内には至急報告せよ」
これはビジネスの鉄則であり、私自身もかつて多くの
後輩にそう伝えてきました。前回の記事もそうでしたね。
しかし長年の会社生活を振り返ると、教科書通りの対応
だけではどうしても乗り越えられない「現実の壁」に
ぶつかることがあります。
会社としての正論が、必ずしも現場のお客様の心に
寄り添えているとは限らないからです。
今回は、私が管理職になりたての頃に体験した、
ある「事件」のお話をします。
現代のコンプライアンスや業務効率化の波とは完全に
逆行する、時代錯誤な話かもしれません。
また、社内にはあえて一切報告しなかった事例でも
あります。ですが、この経験には現代のビジネスでも
変わらない「人と人との本質」が詰まっています。
顧客の激怒と、社内の冷徹な正論
当時、私の所属していた会社では、大手のお客様ごとに
専任のエンジニアを配置していました。
私の部下だったKRさんも、ある重要なお客様を
10年以上も担当し、抜群の信頼を得ていた一人です。
しかし、KRさんのご家庭の事情と年齢的な理由から、
体制変更(担当交代)が決まりました。現代の観点から
言えば、属人化を防ぐための適切な人事ローテーションです。
ところが、この変更を知ったお客様側のキーマンが非常に
激怒されたのです。
「これから大規模プロジェクトが控えているのに、なぜ今KRさんを外すのか!」
このキーマンは大変影響力のある方で、過去には対応に
納得がいかず大手ベンダーを取引から外した実績もあるほど、
恐れられている存在でした。
営業部門は慌てて社内の役員に相談しましたが、役員は現場の
状況や関係性を見ようともせず、
「いくら重要顧客でも、当社の人事にまで口出しする権利はない」
と一蹴。杓子定規な正論を振りかざし、体制を変える気は全く
ありませんでした。
現場の危機に何も調整しようとしない上層部への悔しさを
抱えつつ、板挟みになった営業部門から頼まれ、私は
KRさんの上司としてお客様のもとへ向かうことになりました。
床にひれ伏したあの日。教科書を超えた「泥臭い覚悟」
応接室に入り、営業担当がお詫びの言葉を言い切る前に、
キーマンは静かに、そして笑顔で言いました。
「残念だな。あなたの会社は、もううちの領域から外すよ」
その一言で現場の空気が凍りつきました。会社にとっては
致命的な取引停止の宣告です。
社内役員の無理解に対する猛烈な悔しさと、
「生半可なお詫びでは絶対に済まされない」
という現場での直感。何としてでもこの領域を死守したいと
強く願った瞬間、私は自然と床に土下座をし、涙を流して
お詫びしていました。
今の令和の時代から見れば、まったく時代錯誤でドラマの
ような出来事かもしれません。
しかし、形だけの謝罪ではなく心を込めた土下座によって、
その場はなんとか落ち着き、その後は私が社内でKRさんと
継続調整して、会社の危機回避が実現できたのです。
その後、その客先キーマンとは
「何でも本音で話せる深い信頼関係」
が生まれました。後日少人数で開催した懇親会で
「あのとき、あなたがお詫びに来ていなかったら確実に取引を打ち切っていたね」
と言われたとき、一気に血の気が引いたのを覚えています。
なお、この土下座の件も、その後のキーマンとの深い関係も、
私は社内に一切報告していません。
現場の泥臭いドラマもお客様の心情も理解せず、ただ
正論を振りかざすだけの当社役員には
「到底実行できないし、理解もできない行動だろう」
と内心思ったからです。
AI時代だからこそ試される、誠心誠意の覚悟
AIやデジタルツールが飛躍的に発達し、ビジネスの効率化が
進む令和の今。データやロジック、正論だけで仕事が進むと
思われがちです。
しかし、どれほど時代が変わろうとも、最終的にビジネスを
動かしているのは「感情を持った人間」です。
むやみにペコペコ頭を下げろと言いたいわけではありません。
ただ、時に管理職やリーダーには、教科書通りのスマートな
対応では解決できない、泥臭く辛い局面が訪れます。
そんな時、建前ではなく「人として誠心誠意向き合う覚悟」を
持てるかどうか。そして、現場と会社を守るために、時には
上層部に理解されずともすべてを背負い込む決断ができるかどうか。
時代に逆行するようですが、「社内に報告しない選択」も
含めて現場を守り抜く姿勢こそが、揺るぎない信頼を生むのだと
私は思っています。やっぱり昭和の人間ですね(笑
そんなトコですw
