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脳卒中予防と降圧薬|主要5系統とARNI・MR拮抗薬【ガイドライン2025】

こんにちは。「脳と脊椎のまなびノート」です。

前回は、脳卒中予防のための血圧目標や、家庭血圧の測り方についてまとめました。

前回の記事:脳卒中予防と血圧|高血圧の診断基準と目標値【ガイドライン2025】

今回は、その続きとして「降圧薬」について、従来から使われている主要5系統に加え、ARNIやMR拮抗薬といった新しい選択肢まで勉強していきます。

参考にしたのは、『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』です。

降圧薬には多くの名前がありますが、まずは薬の一般名を覚えるよりも、どのような仕組みで血圧を下げる薬なのかを整理すると理解しやすくなります。

先に結論

JSH2025で主要な降圧薬とされているのは、次の5系統です。

  • 長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬

  • ARB

  • ACE阻害薬

  • 少量のサイアザイド系利尿薬

  • β遮断薬

大切なのは、「どの薬が一番強いか」だけで選ぶのではないということです。

心血管病を防ぐ効果は、薬の種類そのものよりも、適切な血圧まで下げられたかに大きく左右されます。そのうえで、年齢、腎機能、脈拍、持病、副作用などを考えて薬を選びます。

また、1剤で目標血圧に届かない場合は、作用の異なる薬を早めに組み合わせることが勧められています。

さらにJSH2025では、主要5系統とは別に、ARNIとMR拮抗薬を追加・切り替えで検討する薬として位置づけています。

ただし、「新しい薬だから最初から全員に使う」という意味ではありません。

1.Ca拮抗薬

血管の筋肉にカルシウムが入るのを抑え、血管を広げる薬です。

高血圧治療では、長時間作用型のジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が主要降圧薬に位置づけられています。幅広い患者さんに使いやすく、高齢者でもよく選択されます。

主な注意点は、足のむくみ、ほてり、頭痛、動悸などです。薬によっては、グレープフルーツとの相互作用にも注意が必要です。

2.ARB

血管を収縮させるアンジオテンシンⅡが、受容体に作用するのを抑える薬です。

蛋白尿やアルブミン尿を伴う慢性腎臓病などでは、腎臓を保護する目的も考えて選択されます。

一方で、血清カリウム値の上昇や腎機能の変化に注意が必要です。開始後や増量後には血液検査を行うことがあります。

妊娠中には使用できません。妊娠を予定している場合や妊娠の可能性がある場合も、あらかじめ主治医へ相談が必要です。

3.ACE阻害薬

アンジオテンシンⅡが作られる過程を抑える薬です。

ARBと同じく、心臓や腎臓の病態を考慮して選択されます。

代表的な副作用は空咳です。まれですが、顔や喉が腫れる血管性浮腫にも注意が必要です。ARBと同様に、高カリウム血症や腎機能の変化を確認します。

ACE阻害薬も妊娠中には使用できません。

また、ACE阻害薬とARBの併用は、腎機能悪化や高カリウム血症などの不利益が増えるため推奨されません。

4.サイアザイド系利尿薬

腎臓からナトリウムと水分を排泄しやすくして、体液量を調整する薬です。

JSH2025では、少量のサイアザイド系利尿薬が主要降圧薬に含まれています。塩分摂取量が多い場合や、塩分の影響を受けやすい高血圧で検討されます。

低ナトリウム血症、低カリウム血症、尿酸値の上昇などに注意し、必要に応じて血液検査で確認します。

5.β遮断薬

交感神経の働きを抑え、心拍数や心臓の収縮力を下げることで血圧を調整する薬です。

JSH2025では、β遮断薬も主要な5系統の一つに位置づけられています。

特に、頻脈傾向、交感神経活動の亢進、虚血性心疾患、心不全などを考慮して選択されます。

徐脈、だるさ、めまいなどに注意が必要です。喘息などの呼吸器疾患がある場合は、薬剤ごとの特性を踏まえて慎重に判断します。

また、自己判断で急に中止すると、脈拍や血圧が急に上がることがあります。

JSH2025で位置づけが明確になった新しい選択肢

ここまで紹介した5系統は、JSH2025で「主要降圧薬」に位置づけられています。

一方、ARNIとMR拮抗薬は主要5系統とは別のグループです。

基本的には第一選択薬として一律に開始するのではなく、主要降圧薬だけでは目標血圧に届かない場合や、体液貯留、塩分感受性、心不全などの病態を考慮して、治療の第2段階以降で検討します。

ARNI:サクビトリル/バルサルタン

ARNIは「アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬」の略です。

国内では、サクビトリル/バルサルタンが使用されており、商品名は「エンレスト」です。

ARBであるバルサルタンがアンジオテンシンⅡの作用を抑え、サクビトリルがネプリライシンを阻害することで、体内のナトリウム利尿ペプチドの働きを高めます。

つまり、

  • 血管を広げる

  • ナトリウムと水分の排泄を促す

  • レニン・アンジオテンシン系を抑える

という複数の作用で血圧を下げます。

JSH2025では、ARBやCa拮抗薬の単剤からARNIへ切り替えることや、ARNIとCa拮抗薬を組み合わせることが、治療の第2段階の選択肢として示されています。

ただし、添付文書では、過度な血圧低下のおそれがあるため、高血圧治療の第一選択薬にはしないことと明記されています。

ARNIにはバルサルタンが含まれるため、通常のARBへ単純に追加する薬ではなく、ARBなどからの切り替えとして考えます。

また、ACE阻害薬との併用はできません。ACE阻害薬を中止してから36時間以内も投与できず、血管性浮腫に注意が必要です。

そのほか、

  • 過度の血圧低下

  • 高カリウム血症

  • 腎機能悪化

  • 血管性浮腫

などに注意します。

妊娠中や妊娠している可能性がある場合には使用できません。

心不全では予後改善を目的に使用されますが、高血圧患者における心血管イベントや脳卒中の予防効果については、主要5系統と同じように確立しているわけではありません。

強い降圧効果と、脳卒中予防効果のエビデンスは分けて考える必要があります。

参考:PMDA「エンレスト」電子添文

MR拮抗薬:ミネブロなど

MR拮抗薬は、アルドステロンがミネラルコルチコイド受容体に作用するのを抑える薬です。

アルドステロンの作用を抑えることで、ナトリウムと水分の貯留を減らし、血圧を下げます。

このグループには、

  • スピロノラクトン

  • エプレレノン

  • エサキセレノン

などがあります。

「ミネブロ」は商品名で、一般名はエサキセレノンです。

エサキセレノンは、比較的新しい非ステロイド型の選択的MR拮抗薬です。

JSH2025では、MR拮抗薬もARNIと同じく、病態に応じて第2段階以降で使用できる薬に位置づけられています。

特に、

  • 体液貯留がある

  • 塩分摂取量が多い

  • 塩分感受性高血圧

  • 複数の薬でも血圧が下がらない治療抵抗性高血圧

  • 原発性アルドステロン症

などで検討されます。

最も重要な注意点は、高カリウム血症です。

ミネブロの添付文書では、

  • 投与前

  • 開始または用量調整後2週間以内

  • 約1か月後

  • その後も定期的

に血清カリウム値を測定することが求められています。

また、投与開始時の血清カリウム値が5.0 mEq/Lを超えている場合や、eGFR 30 mL/min/1.73m²未満の重度腎機能障害では使用できません。

ほかのカリウム保持性利尿薬、MR拮抗薬、カリウム製剤とも併用できません。

ARNIと同様に、MR拮抗薬も「新しいから優れている」という薬ではありません。

体液量、腎機能、血清カリウム値、併用薬などを確認し、適した患者さんに追加する薬と考えるのがよさそうです。

参考:PMDA「ミネブロ」電子添文

降圧薬はどのように使い分ける?

降圧薬には、それぞれ得意な場面と注意が必要な場面があります。

たとえば、蛋白尿を伴う慢性腎臓病ではARBやACE阻害薬が検討され、塩分の影響が強い高血圧では少量のサイアザイド系利尿薬が選択肢になります。

脳卒中の既往がある高血圧患者では、JSH2025はCa拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬を推奨しています。

ただし、脳主幹動脈の高度狭窄・閉塞などがある場合は、降圧の目標や速度を個別に考える必要があります。

虚血性心疾患や心不全では、血圧を下げる目的だけでなく、病気の予後を改善する治療として薬を選びます。

単純に「この病気ならこの1剤」とは決まらず、病態ごとのガイドラインも踏まえて組み合わせます。

1剤で足りないときは、作用の違う薬を組み合わせる

血圧は、血管の収縮、体内の水分量、交感神経、ホルモンなど、複数の仕組みによって調節されています。

そのため、1種類の薬を増量するよりも、異なる仕組みの薬を少量ずつ組み合わせた方が、降圧効果を得やすく、副作用を抑えられることがあります。

JSH2025では、主要降圧薬の単剤で目標血圧に届かなければ、2剤、必要に応じて3剤へと速やかに治療を進めることが示されています。

初診時から160/100 mmHg以上の場合や、140~159/90~99 mmHgでも心血管病のリスクが高い場合には、最初から2剤で開始することも検討されます。

代表的な組み合わせは、次のとおりです。

  • ARBまたはACE阻害薬+Ca拮抗薬

  • ARBまたはACE阻害薬+サイアザイド系利尿薬

  • Ca拮抗薬+サイアザイド系利尿薬

病態によっては、ARBやCa拮抗薬からARNIへ切り替えたり、MR拮抗薬を追加したりすることもあります。

3剤を使用する場合は、原則としてサイアザイド系利尿薬を含めます。

一方、ACE阻害薬とARBの併用は、腎機能悪化、高カリウム血症、低血圧などの不利益が増えるため推奨されません。

配合剤を使って服用する錠数を減らすことは、飲み忘れを減らし、血圧管理を続けやすくする方法の一つです。

薬を始めた後に確認すること

降圧薬を始めた後は、血圧の数字だけでなく、次の点も確認します。

  • 家庭血圧が目標に近づいているか

  • ふらつきや立ちくらみがないか

  • 脈拍が遅くなりすぎていないか

  • 足のむくみや空咳などがないか

  • 腎機能や電解質に変化がないか

  • 飲み忘れなく続けられているか

血圧が下がったからといって、自己判断で減量や中止をするのは勧められません。

JSH2025では、血圧が安定していても、降圧薬を中止すると4人に3人で再び血圧が上がると説明しています。

副作用が疑われる場合も、急に中止するのではなく、家庭血圧と症状を記録して主治医へ相談します。

薬の量を調整したり、別の種類へ変更したりすることで対応できる場合があります。

脳卒中予防で大切なのは「薬の名前」だけではない

脳卒中を防ぐうえでは、特定の薬を飲めば安心というわけではありません。

自分の病態に合った薬を選び、適切な血圧まで下げ、その状態を長く保つことが大切です。

減塩、運動、体重管理、節酒などの生活習慣改善も、薬を始めた後に終わるものではありません。

家庭血圧を確認しながら、生活習慣と薬物治療を一緒に続けていきます。

まとめ

今回のポイントです。

  • JSH2025の主要降圧薬は5系統

  • どの薬を選ぶかは、持病、腎機能、脈拍、副作用などで変わる

  • 心血管病予防では、薬の種類だけでなく適切な降圧を達成することが重要

  • 1剤で不十分なら、作用の異なる薬を早めに併用する

  • ARNIとMR拮抗薬は、病態に応じて第2段階以降で検討する

  • ARNIは高血圧治療の第一選択薬ではなく、ACE阻害薬とは併用できない

  • ARNIは通常のARBへ追加するのではなく、ARBなどからの切り替えとして考える

  • MR拮抗薬では高カリウム血症と腎機能に注意する

  • 3剤併用では、原則としてサイアザイド系利尿薬を含める

  • ACE阻害薬とARBの併用は推奨されない

  • 自己判断で薬を中止・変更しない

降圧薬は、「強い薬か、弱い薬か」ではなく、「その人に合っているか」「無理なく続けられるか」という視点で考えると理解しやすくなります。

※この記事は、ガイドラインをもとにした個人的な学習内容の整理です。個別の診断や治療、薬の開始・変更・中止については、医療機関でご相談ください。

参考文献

1.日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会 編.『高血圧管理・治療ガイドライン2025』.ライフサイエンス出版,2025.
日本高血圧学会公式ページ

2.Ohya Y, Arakawa K, Arata N, et al. The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025(JSH2025). Hypertension Research. 2026;49:9–235.
JSH2025公式英語全文

3.日本高血圧学会.『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊についてのお知らせ.
日本高血圧学会公式ページ

4.日本脳卒中学会.『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕』.
日本脳卒中学会公式PDF

5.独立行政法人医薬品医療機器総合機構.エンレスト電子化された添付文書.
PMDA公式PDF

6.独立行政法人医薬品医療機器総合機構.ミネブロ電子化された添付文書.
PMDA公式PDF

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