第23話『クローゼットの中の光』(2025年4月17日~4月30日のこと)
絵を預けてからちょうど3日後、「ご用意できました」と連絡が入り、僕はすぐにお店に向かった。
手渡されたパステル画はなんの違和感もなく静かに額に収まっていた。
まるでここが居場所だったとでも言うように。
額装された絵を大切に自宅へ持ち帰り、寝室のクローゼットの奥にしまった。
ここでちょっと待っててくれ。
ニット帽の時のようなことがないか少し不安もあったが、まあ、でも、とりあえず僕自身が満足してる。それだけでも価値があるぞ、きみには。
クローゼットの扉をそっと閉め、その日を待った。
休日でもある記念日前日の29日に妻はお祝いを考えていたらしい。
ただ、その日は僕に用事があり、30日の夜は妻の都合が悪く、お祝いの予定はなんとなくウヤムヤになってしまった。
もはや積極的にお祝いをする理由もない。
結局、その後、記念日の話しは妻からも僕からも出ることはなく、当日を迎えた。
*
4月30日。
食事をすませ、お風呂に入り、妻は就寝の準備をしていた。
起伏のない日常の光景。
「あのさ、渡すものがあるんだよね。ちょっと待ってて」
僕がそう告げると、妻は少し怪訝そうな顔でこちらを見た。
気にすることなく僕はクローゼットのある部屋へ絵を取りに向かった。
暗いクローゼットの中でひっそりと息をひそめていた絵を引っ張り出し、胸に抱え、リビングへと戻る。
「いやあ、こないだすごくいい絵を見つけてさあ。これなんだけど」
額装されたパステル画を箱から取り出し、妻に手渡した。

妻の表情が一瞬で変わる。
「えーっ!!すごおーい!これ私だよね?!うれしいー!描いてくれたのおー?!」
僕が描いたものだとすぐに分かった。とても喜び、絵を気に入ってくれた。
「どこに飾ろうかな。あっ、あそこの時計のとなりがいいかなー」
早速妻は、絵を持ちながらリビングの壁をぐるりと見渡し始めた。
<喜んでくれた。よかった>
すると、声を聞いた長男が自室から顔を出した。
「すげえー!お父さんが描いたの??」
興奮しながら僕の顔を見る。
“お母さんが喜んでくれたということがなにより嬉しい”
彼のそんな思いが溢れていた。
「そう、お父さんが描いたんだよ。ちょっとがんばっちゃった」
僕は長男に笑顔で答えた。
<何かが変わってくれるかもしれない。そのくらいの期待はさせてくれ>
僕もあらためて自分の描いた絵を眺めた。
これから勉強したりたくさん描くようになれば、もっともっと上手く描けるようになるだろう。
だけど、どんな技術を以てしても僕の描いたこの絵を描くことは誰にもできない。
あの日あの瞬間にたった1枚、生まれた。
妻の告白と僕の衝動によって。
20年前の今日、僕と妻が感じていた幸福のエネルギーは、
もう使い果たしてしまったのだろうか。
想像もしなかった20年後が訪れたように、
また20年後、想像もしない日が訪れるのだろうか。
この部屋へ飾られることになるであろう僕の絵が、
まだ見ぬ場所へ連れて行ってくれる気がしていた。
