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熱狂と不眠(暇と退屈を埋める文学的⑩)

昔は徹夜してテスト勉強したり、ゲーム攻略をしたり、小説創作をしたりしていた。
熱狂による一気呵成。
でも、年を取ると、睡眠不足が怖くなってきた。

日付を回ると、不安になってくる。
眠れるだろうか。
若い頃は徹夜してもぜんぜん平気だったので、眠れないことにぜんぜん不安はなかった。
今では、眠れないと、次の日に確実にツケが回ってくる。
私の場合、不眠は、吐き気をもよおす鋭い頭痛が襲ってくる原因になる。
この頭痛が襲ってくると、仕事も、移動も、食事も、睡眠も困難となり、地獄の時間を過ごすことになる。
なので、私は徹夜だけはしないように仕事をマネジメントし、娯楽も切り上げるようにしている。

24時を回る。
Mrs. GREEN APPLEの『ビターバカンス』にこんな歌詞がある。

嫌われたくないし
なんなら皆んなに好かれたいし
ちょっとだけ
無理してる自分が気持ち悪くて
涙も出ない0時

『ビターバカンス』

村上春樹氏の短編に、『眠り』というものがある。
不眠症になった主人公の、不思議な話。

明け方に近くなってようやくうとうとできるかなという感じにはなる。でもそれは眠りと呼べるほどの眠りではない。私は眠りの縁のようなものを指の先に僅かに感じる。そして私の意識は覚醒している。私は仄かにまどろむ。でも薄い壁に隔てられた隣の部屋で、その意識はありありと覚醒し、じっと私を見守っている。

村上春樹『TVピープル』「眠り」p146

眠りに落ちる、とはよく言うが、落ちる、というその瞬間についてはよくわからない。
気がついたら眠りの中にいるものだ。
だから、落ちるというのか。
ゆるゆると眠りのふちにおりていく、その過程を感じようとしていたら、目がさえて、おちおち眠っていられない。

この頃、「ロングスリーパー」の人が増加している。
イチロー選手やタイガーウッズ選手、大谷翔平選手やステフィン・カリー選手などがロングスリーパーと言われている。
十二分に睡眠をとって、最高のパフォーマンスを行う。

読書の巨人、松岡正剛氏は、それとは生活を異にしていたようだ。

いちばん心がけたことは、寝ないようにするということでしたね(笑)。(…)午前3時以前には寝ません。何かを読んでいるか、スポーツチャンネルを見るか、ドキュメンタリーを見ているか、何かを書いている。

松岡正剛『多読術』P46

まあ、人それぞれである。
人は電灯を手に入れ、夜を自由にするようになった。
現代の日本では、YOASOBI、ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに、など、「夜」を含む名前のアーティストが大活躍だ。

『深夜食堂』という漫画がある。
映像化もされている。
映像化第一話は、麺抜きタンメンの話。
ラジオDJの、昔好きだった戦隊物のハナシ。
ほっこりする深夜のドラマである。
深夜に働く人々も多い現代。

私に関して言えば、午前2時を過ぎると、ほんとうに眠れなくなってしまうので、どんなに遅くても、その前に布団をかぶって眠ってしまうことにしている。
丑三つ時(うしみつどき)の恐怖。
残業したり、ゲームのレベル上げに躍起になったり(海外も相手にできる現代、さらに厄介だ)、やめられなくなった幸せな読書に熱中したり、というふうにならないようにしている。(体力もなくなってきたので、そのはるか前に寝落ちしていることも多くなってきたが。)
それはあるいは「本気にならないようにしよう」という意識を生んでいるかも知れない。
ここも、冷静と情熱のあいだ、である。

本気になれない人生は退屈であるか?
むしろ、制約があるほうが燃える、熱狂する、という向きもあろう。
それはその人の「楽しみ方(『暇と退屈の倫理学』文庫p407)」次第であろう。

眠りは昨日と今日を分断している。
私たちは、昨日と今日を地続きにして、熱狂・熱中をトカトントンせずに持続させることを、上手にやらなければならない。


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