“言語を得る”ということは「世界に自分の席ができる」こと
先日、難民映画祭の上映会で「ぼくの名前はラワン」を鑑賞してきました。
2026年1月に劇場公開予定のこの作品。
難民映画祭では、この日のみの特別先行上映でした。
あらすじはこちら↓
ラワンは生まれつき耳が聞こえない、幼いクルドの少年。
危険な旅を経てダンケルクの難民キャンプで1年過ごしたのち、ある支援者の尽力で彼の一家はイギリスのダービーに移り、ラワンは王立聴覚障碍者学校に入学する。
本作は彼が英国手話を習得してゆく劇的な成長を追い、明るく人気者で好奇心旺盛な少年が友情をはぐくみ、自己表現の新しい道を見出すさまを描きだす。
“音のない世界”に入っていく体験
物語は全体的に“静か”に進みます。
ラワン君の世界を“聴こえない音”ごと疑似体験できるような構成になっているからです。
オープニングの映像を見ながら、私は思いました。
「音がない世界って、こんな感じなんだ……」
そこから、私の心はこの少年の世界にゆっくり入り込んでいきました。
難民=健常者とは限らない
考えてみれば当然のことなのに、私はこれまで「難民=健常者」という前提で物事を考えていました。
生まれつき聴こえないラワン君にとって、避難の道のりは “二重の困難” だったはずです。
理解できない状況の中で、
言葉が通じず、
何が起きているのかもわからないまま逃げる・・・
彼自身も大変ですが、家族はもっと大変だったのでは?
そんな思いが胸に残りました。
言語を“当たり前に得られる”とは限らない
私たちは、生まれた瞬間から周囲の呼びかけや会話を通じて自然に母語を習得します。でも、生まれつき聴こえない子どもたちは違う。
まず「言語とは何か?」から始まり
“自分に合った表現方法”を探し
それを“理解してくれる人”の存在が必要で
それでようやく"コミュニケーションが成立する世界"に立てるのです。
映画を観ながら、子どもの頃に読んだヘレン・ケラーの伝記を思い出しました。彼女が「ものには名前がある」と気づいたあの瞬間の感動・・・
ラワン君もきっと同じような驚きと喜びを味わったのでしょう。
言語を得る=自分の“居場所”が生まれること
物語の冒頭で、ラワン君はこう語ります。
「地球は僕の居場所ではない。」
“国”ではなく、“地球”。
その言葉は、ただの比喩ではなく、彼が抱えていた圧倒的な孤独そのものを表現しています。
誰にも伝わらず、誰の言葉も理解できない世界。
そこに居ても、まるで透明人間のような感覚。
でも、イギリスの王立聴覚障碍者学校に入学してから、彼の世界はゆっくりと変わっていきます。
手話という言語を手に入れ、
理解してくれる仲間ができ、
友達ができ、
そして・・・
“ここが僕の居場所だ”と感じられるようになる。
これは単なる成長物語ではなく、1人の少年が “世界に席を得るまでのプロセス” を描いた作品なのです。
言語が「権利」になる瞬間-BSL法
物語の途中に登場する「British Sign Language Act 2022」。
2022年にイギリスが手話を英語と同じ第一言語として正式に認めた法律です。
健常者にとっては「へぇ、そうなんだ」くらいの変化かもしれません。
しかし手話を母語とする人たちにとっては、世界から立場を認められる瞬間だったはずです。
“できない人”ではなくなる
“配慮”ではなく“権利”として求められる
公共サービスに手話通訳を要求できる根拠になる
手話が社会に認められるというのは、彼らにとって「尊厳の回復」にほかならないのです。
クルド人/クルディスタン- “帰る場所”の言葉
ラワン君自身はクルド人ですが、映画の中では「クルド」と「クルディスタン」が使い分けられていました。
民族として語るとき → クルド
帰る場所として語るとき → クルディスタン
クルディスタンは、国家ではなく“地域”として存在する場所。
これに気づいた瞬間、「居場所」というテーマがラワン君個人だけでなくクルド難民全体のテーマでもあるのだと感じました。
「帰りたい場所」はあっても、そこが国として存在しない。
この複雑さにも、あらためて胸を締めつけられました。
おわりに
「ぼくの名前はラワン」は、言語を手に入れた少年が、自分の席を世界に見つけていく物語です。
音のない世界で生きてきた彼が、手話という言語を通じて世界に触れ、世界が彼を受け入れる。
その姿を見て、“言語とは、単なるコミュニケーション手段ではなく『居場所そのもの』なんだ”ということを強く感じました。
2026年1月9日から公開です。
ラワン君の目に映る世界を、ぜひ劇場で感じてみてください。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
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