チロンヌㇷ゚と、空飛ぶ知恵比べ
イランカラㇷ゚テ。
ワシはこの森のチロンヌㇷ゚(キタキツネ)や。
ワシのしっぽがピコピコ動くのは「嘘の合図」やなんて言われとるけど、そんなん、ワシの術中にはまったもんの負け惜しみやな。
あるタント(朝)のことや。
ワシはカント(空)高くを悠々と飛ぶ、カパッチリ(オジロワシ)を見つけたんや。
その爪にはな、ピチピチと跳ねる立派なチェㇷ゚(魚)が握られとった。

「……ありゃあ、美味そうや。でもな、崖を登って奪いに行くのはしんどいわ。ワシの知恵で、向こうから届けてもらおやないか」
ワシは一つ、おもろい知恵を思いついたんや。カパッチリの目の届く岩場へ行って、わざとらしくひっくり返って、お腹を出して寝たふりをしたんよ。
「カパッチリが降りてきた瞬間に、チェㇷ゚を横取りして逃げるんや。ワシって、ほんまにエカシ(知恵者)やなぁ」
狙い通り、カパッチリが空から降りてきた。
ワシは心の中でニヤニヤしながら待っとった。

ところがや。
カパッチリはワシを掴むどころか、
その耳元で「カッ、カッ、カッ!」と大声で鳴き始めたんよ。
「おい、チロンヌㇷ゚! しっぽがピコピコ動いとるで! 死んでるんやなくて、踊ってるようにしか見えへんわ!」
「……あちゃー!」
ワシは慌てて飛び起きたけど、時すでに遅し。
気づいたら、木陰からポン・イセポ(小さなウサギ)やポン・ペレ(カエル)まで顔を出して、こっちを見とるやないか。
「見てみぃ、チロンヌㇷ゚が一人でお腹出して踊っとるで!」
「ワシらへの『笑いのおすそ分け』か? イカシパ(大笑い)やなぁ!」
森中に「ワッハッハ!」というイカシパが響き渡ったんよ。カパッチリは笑いながら、悠々とチェㇷ゚を抱えてカントへ帰っていったわ。
「……ワシとしたことが。知恵を絞りすぎて、大事なしっぽの動きを忘れるとは。エカシの名が泣くわ!」
ワシはフレ(真っ赤)になって、自分のしっぽを追いかけてぐるぐる回ってしもた。

でもな、みんなのイカシパを聞いとったら、なんだかワシまで可笑しゅうなってきてな。
「まぁええわ! 今日のおすそ分けは、チェㇷ゚やなくて『笑い』や。ワシって、ほんまにエカシやなぁ」
ワシはケマ(足)をピンと踏み出して、スタスタと逃げ出したんや。
カントには、今日もピリカ(美しい)な太陽が笑っとったわ。

物語に込めた言葉
エカシ (Ekasi)
「おじいさん」や「長老」を指す言葉ですが、転じて「経験豊富な知恵者」への敬意を込めて使われます。この物語では、キツネが自惚れて自分をそう呼んでいます。
イカシパ (Ikasipa)
「みんなで大笑いすること」。アイヌ文化では、笑いは悪い気を払い、コミュニティの絆を強める聖なるものと考えられてきました。
エニヌン (Eninun)
「自慢すること」。キツネが自分の知恵を鼻にかける様子を象徴しています。
カパッチリ (Kapatcir)
オジロワシ。空の神としての鋭い目で見抜く役割です。
ポン・イセポ(Pon-isepo)
「小さな・ウサギ」。第1話の主人公が、今回はキツネの失敗を笑う「観客」として再登場しました。
