海を越えたウポポ(歌)
イランカラㇷ゚テ。
私はな、森のポン・ペレ(小さなカエル)や。
ポロ・ニのカムイが新しいカパラに着替えてから、この森はもっと賑やかになったんよ。
あるタント(朝)のことや。森の入り口にあるペッ(川)のほとりに、見たこともない色鮮やかな鳥が舞い降りたんや。
くちばしは燃えるようなオレンジ色で、目の周りには白い飾り羽。
「……なんや、あの綺麗な鳥は。この森の者やないなぁ」
チロンヌㇷ゚(キツネ)までもが、目を丸くしてそれを見とった。
その鳥——ハカッピリカ(エトピリカ)は、くちばしに小さな、赤い模様のついたシントコ(行器)をぶら下げとった。
「イランカラㇷ゚テ!」

ポン・イセポ(小さなうさぎ)が元気に挨拶したけど、ハカッピリカは首を傾げるばかり。
「ピポッ、パポッ!」
ハカッピリカが口を開いたけど、そのイタク(言葉)は、私たちの知っとるものとは全然違っとったんよ。
「あちゃー、こりゃあお手上げや。何言うてるかさっぱりわからへんわ」
みんなが困り果てとったから、私が声を上げた。
「言葉がわからへんのなら、心で話せばええんよ」
近くにある乾いた倒木を、自分のケマ(足)で「トントン、トントン」と叩き始めた。それに合わせて、私は小さな声で歌い出した。
「ヘイ、ヘイ、ホ……ヘイ、ヘイ、ホ……」

すると、ポン・イセポ(小さなうさぎ)が手拍子を重ねて、チロンヌㇷ゚も喉を鳴らしてリズムを刻み出した。森の木々がレラ(風)に揺れて、「ハパパ、ハパパ」と伴奏をつける。
ハカッピリカはしばらく驚いとったけど、やがてそのオレンジ色のくちばしを大きく開いて、自分の国のメロディを重ねたんや。
「ヘイ、ヘイ、ホ……」
「ピポッ、パポッ、ピィー!」
不思議なもんやわ。
イタクはわからへんのに、一緒に歌っとるうちに、ハカッピリカがどんなに遠いところから、どんな思いでこのシントコを運んできたんか、全部伝わってくるような気がしたんや。
歌が終わる頃、ハカッピリカはそっとシントコを地面に置いた。
中には、遠い国の綺麗な貝殻や石が詰まっとった。

「これは、森のみんなへのお土産やね」
ハカッピリカは嬉しそうに羽を広げて、森に向かって高らかに鳴いた。
「ホイ!」
ハカッピリカは再びカント(空)へと舞い上がり、青いアトゥイ(海)の向こうへ帰っていったわ。
シントコに残った海の匂いを嗅ぎながら、私はまた、自分たちのヤイサマ(即興歌)を口ずさんだんよ。
言葉が違っても、ラマッ(魂)は繋がっとる。
それだけで、もう十分やった。

今日もピリカ・モシリは、世界中の命と響き合っとるわ。
物語に込めた言葉
ハカッピリカ (Hakappirika)
エトピリカのこと。「ハカッ(くちばし)」「ピリカ(美しい)」という意味を持ちます。海を越えて旅をする渡り鳥であり、異世界からの来訪者として描きました。
シントコ (Sintoko)
「行器(ほかい)」と呼ばれる、大切なものを入れる漆塗りの器です。古くから交易によってアイヌの元へ届けられ、宝物として大切にされてきました。異文化交流と「贈与」の象徴です。
ウポポ (Upopo)
「座り歌」。輪唱やリフレイン(繰り返し)が特徴で、大勢でリズムを合わせることで一体感を生む、アイヌ文化に欠かせない音楽です。
アトゥイ (Atuy)
「海」。森(キムン)に対して、外の世界へと広がる未知の象徴として登場させました。
イカリマ (Ikarima)
「混ざり合う、交流する」。言葉を超えて心が混ざり合う、この物語の裏テーマです。
