火のそばのイタク(言葉)と、最初のおすそ分け
イランカラㇷ゚テ。
ワシはこの森のチロンヌㇷ゚(キタキツネ)や。
最近な、森の端っこに、ワシらとはちょっと違う格好をした生き物が暮らしとるんよ。二本のケマ(足)で歩いて、厚いカパラ(衣)を纏って
……そう、アイヌの人たちや。
ある静かな夜のことや。
ワシとポン・ペレ(カエル)は、そのアイヌのコタン(村)をこっそり覗きに行ってみたんやな。そこでは、アペフチカムイ(火の老婆の神)が「パチパチ」と音を立てて踊っとった。
その薪はな、あのポロ・ニ(大木)の体の一部やったんよ。

「見てみぃ、ポロ・ニのカムイが、今度はアイヌを温めとるわ」
火のそばでは、一人の小さなアイヌの子供が、一生懸命に手を合わせとった。その子の前には、ワシらが山でいただいたのと同じチェㇷ゚(魚)が置いてあったんや。
「火のカムイ、お魚のカムイ。今日も美味しいお土産をありがとうございます」
子供の小さなイタク(言葉)が、夜のレラ(風)に乗ってワシらの耳に届いた。
すると、横にいたエカシ(おじいさん)が、木の枝で作った不思議な棒——イナウ(木幣)を火のそばに立てて、こう言うたんや。
「いただいた命はな、イワンケ(使い切る)んや。そして、感謝と一緒にカムイモシリ(神の国)へ送り返す。そしたらな、カムイたちはまた『人間界はええところやなぁ、また遊びに行こか』って、お土産を持って戻ってきてくれるんや」
しばらく、ワシは黙ってアペフチカムイを見つめとった。それからゆっくり言葉が出てきた。

「……なんや、あいつらもワシらと同じやんか」
森のラマッ(魂)が静かに輝いて、新しい命へと繋がっていくのが見えた気がしたんよ。
ポン・ペレが嬉しそうに鳴いた。アイヌのコタンから聞こえてくるウポポ(歌)は、ワシらが歌うものと、不思議なほど調和しとった。
ワシはしっぽを一度ピコッと振って、アイヌたちに心の中で挨拶したんや。
「これからもよろしくな、新しい仲間たち」
ワシらは、アペフチカムイの温もりを背中に感じながら、深い森へと帰っていった。
今日もピリカ・モシリは、人間とカムイの命で満たされとるわ。
スイ・ウヌカラ・アン・ロー(また会いましょう)

【物語に込めた言葉】
アイヌ (Ainu)
「人間」という意味。アイヌ文化では、人間もまた自然の一部であり、カムイ(神)から恵みを授かり、感謝を返す対等な「契約関係」にある存在として描かれます。
イナウ (Inau)
「木幣(もくへい)」。柳などの木を削って作られる、神様への供物であり、祈りを届けるための大切な道具です。
アペフチカムイ (Ape-huci-kamuy)
「火の老婆の神」。アイヌの家庭で最も身近で、神の世界と人間を繋ぐ窓口とされる重要な神様です。物語では火が「踊る」様子として表現しました。
カムイモシリ (Kamuy-mosir)
「神々が住む世界」。肉体という衣を脱いだ魂(ラマッ)が帰る場所であり、そこから再び新しい命が送られてくると信じられています。
イワンケ (Iwanke)
「役立てる、使い切る」。いただいた命を無駄にせず、すべてを役立てることが、アイヌの最大の倫理とされています。
