カパッチリとレプンカムイの「おもろい競争」
昔々、このピリカ・モシリ(美しい大地)がまだ若かった頃の話。
空には、大きな羽を広げたカパッチリ(オジロワシ)が悠々と舞うとった。

カパッチリは、高い空から下のアトゥイ(海)を見下ろして、こう独り言を言うたんや。
「ワシは空のカムイ(神)。この広い世界で、ワシより速いもんはおらへんわ。なぁ、そう思わへん?」
そしたらな、青い波の中から真っ黒い背びれがスパーン!と飛び出してきたんよ。
海の覇者、レプンカムイ(シャチ)や。

「おいおい、カパッチリ。えらい威勢がええなぁ。でもな、この広いアトゥイ(海)では、ワシが一番速いんやで。そんなヒョロヒョロの羽で、ワシに勝てると思てんの?」
カパッチリ(オジロワシ)はムカッときてな。
「なんやて? ほな、どっちが先にあのキムン(山)の影に沈むチュㇷ゚(太陽)を追い越せるか競争や!」
「おもろいやんけ、やったろやないか!」
イユタ(よーい)……ホイ(どん)!
カパッチリ(オジロワシ)は力いっぱい羽ばたいて、レラ(風)に乗った。
「めっちゃ速いわ、ワシ! 雲を突き抜けてまうで!」
一方、レプンカムイ(シャチ)も負けてへん。
波を蹴立てて、ラウス(潮)を吹いて爆走や。
「アトゥイ(海)の波は、ワシの味方や! 誰にも止められへんぞ!」
二匹は一生懸命、西の空へ向かって走ったんや。
でもな、走っても走っても、チュㇷ゚(太陽)は遠いまま。
そのうち、チュㇷ゚(太陽)が海に沈み始めて、辺りが真っ赤に染まったんよ。
その景色があまりにもピリカ(綺麗)で、二匹はつい足を止めてしもたんやな。

「……なぁ、レプンカムイ(シャチ)。見てみぃ。空も海も、同じ色になってるわ」
「……ほんまやなぁ。どっちが速いかなんて、どうでもようなるくらい綺麗やわ」
二匹は競争をやめて、並んでその景色を眺めとった。
空のカパッチリ(オジロワシ)と、海のレプンカムイ(シャチ)。
住む場所はちゃうけど、同じカムイ(神)として、この世界を愛してるんやなって気づいたんや。
「今日は引き分けやな、チロンヌㇷ゚(キツネ)が笑うとるわ」
「せやな。次は、どっちが美味いチェㇷ゚(魚)を見つけるか競争や!」
二匹は笑い合って、それぞれの場所へ帰っていったんよ。
イヤイライケレ(ありがとう)、今日もええ一日やったわ。

物語に込めたアイヌ語。
・カパッチリ (Kapacciri)「オジロワシ」「空を司る大きな鳥」
カパ(kapar): 「薄い」「平らな」といった意味があります。
チリ(cir): 「鳥」を意味します。
アイヌ文化では「カパッチリカムイ(鷲の神)」として、非常に尊い存在(パセカムイ)と考えられています。
・レプンカムイ (Repun-kamuy):沖にいる神。シャチのこと。
シャチは「海の神」の代表であり、海の神々の中で最も高い格式を持つとされています。
・アトゥイ (Atuy):海。
・ピリカ (Pirka):美しい、綺麗。
北海道産の人気米「ゆめぴりか」の名前の由来です。
イランカラㇷ゚テ、ピリカ?: 「こんにちは、お元気(良い状態)ですか?」という挨拶の一部として使われることもあります。
・レラ (Rera):風。
・チュㇷ゚ (Cup):太陽(月を含む天体の総称)。
・チェㇷ゚ (Cep):魚。
・キムン (Kimun):山。
