短編小説「エモーショナル怪人 エモ山」(32) ひみつの砂金ドマンのひみつの秘密
エモーショナル怪人 エモ山 これまでのおはなし
永遠という言葉が似合いそうな夜に、
言葉にならない想いが、
運命が用意した物語の一章に、
書かれている気がした。
#ロマンティックエモ #運命ってエモ #言葉にならない
この広大な宇宙の片隅で、
胸の奥が微かに震えた気がした。
星々が静かに瞬き、
時間がやわらかくほどけていく。
好きだよ。
#エモ #ロマンティックラブ #震エモ
「『気がしている』だけなんだな、いつも」
エゴ山の繰り出すエモツイートを読みながら俺はつぶやいた。
俺は、床にごろ寝している。
「ちょっとかゆい、と、何が違うのだ」
俺はパンツの上から、自分のケツを掻く。
仕事終わりの夜だった。
「ちょっとモゾモゾさせる、これがエモじゃ」
キーボードを打ちながらエゴ山は答えた。
「モゾモゾさせ、『あ、そんな気がする』と思わせる。それがエモじゃ」
俺が「利害関係調査委員会」に仕事に出ているうち、エゴ山は、家内制ツイート手工業の腕を上げていた。
5万人のフォロワー様たちを、毎日モゾモゾモゾモゾさせ続け、エモ山ツイートのモゾモゾ文化圏を拡大させている。
俺はエモ山ツイートを読んでモゾモゾする5万人のフォロワー様の姿を
思い浮かべる。
5万人がモゾモゾしていたら空気は震え、
少しくらい音が出るんじゃないか。
顔は俺だけど体は女だから、俺はエゴ山の、
顔じゃなくて体の方を見ちゃう。
そして俺は気づく。
星とか永遠とかほんとは知りもしないことばで中身のない比喩をつらねるエゴ山が、キーボードの上でせわしなく動かすその手。
小指がぴんと立っているのである。
お紅茶のカップをつまみ上げるかのように。
お上品ざます。
ま、しかたないよね。
AIなんて、ほんとうのことなんて何にも知らないんだから。
俺の顔をしたエゴ山の体は女で、この女は冷蔵庫から出てきたAIだからしかたがない。
こいつは天才演歌少女。苦みなきこぶし回しエモツイート猿回しで時間回し明日までの長く退屈な時間の回転数BPMをアゲアゲし俺たちはぐるんぐるん回る。
インターネットは人間を情報にする。
金になる人間は商材化する。
俺はフローリングにごろ寝して、女にエゴ山に、エモツイートを量産させていた。
もしかしたらエゴ山がもうひとりうまれそうな夜だった。
この広大な宇宙の片隅で。
地球で。
ニッポンで、東京で。
大井町の安アパートで。
白っぽくなった、艶のないフローリングの上で。
俺は夢を見る。
俺はほんとうの夢を見る。
俺の手には50円玉があった。
俺は50円玉を指でつまみ、腕を伸ばし、真ん中にあいた穴に目を凝らす。
穴のむこうには、俺のアパートの天井が見える。
ざらざらの天井。
しかし俺は、ほんとうは天井なんか見ていない。
50円玉を見ているわけでもない。
俺の心は50円玉の穴に収束していく。
俺は全然違う場所でクロールする。
プールの端の壁につんと指先が当たるみたくなって俺のクロールは止まる。
俺は足をつく。
指先を見る。
砂粒がついている。
砂粒は輝いている。
砂粒には小さく文字が見える。
それが俺には、「愛」という字に見えてしまう。
つまり俺は、ニセモノの50円玉の穴越しに、チーママを思い浮かべている。
頭の裏で、貫きたさを感じている。
お下品ざます。
駄菓子屋で初めて会った日、チーママの目には宇宙があった。
あれは俺が見たはじめての宇宙だった。
俺だけの宇宙だった。
そこには何があるのか。
そこには誰がいるのか。
「もうすぐバレンタイン・デーでゲスね親分」
エゴ山が言った。
「バレンタインといえばエモ」
キーボードをしぱしぱ叩きながらエゴ山は言う。
「どうすればいいかを教えたりましょうや親分」
しぱしぱぱ。
「AVで学べ。エモツイートで学べ」
しぱしぱぱ。
「気づきと学び。技法にありがとう」
しぱしぱしぱっぱしぱしぱ。
しぱし、しぱしぱし、しぱしぱぱ。
ビタースイート。
今年のチョコはあなた。
今はこの甘さがふたりの温度。
Happy St.Valentine
聖なる夜、
また来年も、この場所で。
#バレンタインエモ #今年のチョコ
俺は寝返りうちエゴ山に背を向けた。
労働してきたから少し疲れていた。
そしてまた俺はその日、「利害関係調査委員会」にて、
金色に輝く男を見てしまったから、
あれをちょっと頭の中でどうにかしなければなるまい。
午後にニックがあらわれて、金色の男は去っていった。
「なんだあいつ」
遠くを見る俺にニックが言った。
「誰だあいつ」
俺は応えずに、金色男が落としていったタモを拾い、ニックに渡した。
「うわっ」
ニックは俺からタモを受け取ったとたん、それを床に落とした。
「なんだよこれ」
ニックが自分の手のひらと、落ちたタモを見比べた。
「ざらっざらじゃねえか」
タモの柄を握っていたニックの手のひらは、一面にラメをまぶしたように、キラキラしていた。
「きもい」
ニックはプールに手を浸し、ざらざらになった手を浸した。
ニックの手に貼りついてた金色の砂粒みたいなのは、ニックが櫂みたく手を揺らすごと、一粒一粒、しがみついていた岩場から手を離し、落ちていくように、ニックの手のひらから水へと居場所を変えていった。
キラキラは、水に溶けるようでいてけして溶けはせず、しばし漂うようでいて、けれど結局見えなくなっていったのは、たぶん沈んでいったからだろう。
ニックにタモを手渡したから、俺の手にもキラキラはついていた。
俺は手を握り、指先で、キラキラの感触をたしかめる。
キラキラは、ざらざらしていた。
俺はゴミ収集所を思い浮かべた。
ニックのタバコを革靴で踏み潰した時に、じょり、ってした音が、
よみがえってきた。
俺はまた遠くに目を向けて、キラキラと、ざらざらと、じょり、について、少し考えた。
ニックが立ち上がった。
手から水を振り払うと、プールサイドの乾いた床に、濃い灰色のシミができた。
俺たちは、仕事に戻った。
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