短編ドラマ「名もなき主役たち」第6話「鯉とスマホと、3キロ分の俺」
減量しようと思ったんですよ、今朝。
ちゃんと早起きして、靴下を左右そろえて、ジャージ着て、公園までウォーキング。
「今日は痩せる気しかしない!」って、心の中で叫びながら歩いてた。
そしたら、ベンチに座ってた中国人の観光客の女性が、クロワッサンみたいな何かをモグモグ。
めちゃくちゃいい匂い。でも見ない。俺は減量モード。無の境地。
……の、はずだった。
「Oh no!!」という叫びとともに、スマホが観光客の手からスルッと飛んだ。
まるでスローモーション。美しい弧を描いて――池へダイブ。ポチャン。
なんでそんな飛ぶ?
俺、目撃者。一瞬、「見なかったことにしよう」と思ったけど、観光客の目が、もう希望フルスロットルでこっち見てる。
しゃーなしで、管理事務所へ。
「あの……網って、あります?」
係のおじさん、チラッと俺を見て「またか」って顔。
どうやらこの池、スマホ池ポチャの聖地らしい。年間で何人も沈めてる。で、回収率は――
「ゼロっすね。ゼ〜ロ〜。」
プレッシャーがすごい。
渡された網、サイズ感が金魚すくい。鯉しかすくえない。
ってことで。
俺、入った。池に。ザブンと。
冷たい。ぬるい。くさい。鯉、めっちゃ寄ってくる。なんか……仲間みたいな顔してる。
手探りで泥をかき分けて――
あった。スマホ!
……でも、真っ暗。裏に油性ペンで「よしお(母)」って書いてある。知らん。
2台目、カバーが柴犬。ロック画面見えないけど、なんとなく「たけし」って名前の犬がいそうなオーラ。たけし誰。
3台目、ガラケー。折りたたみ式。もう形が“アンモナイト”。沈んでたんじゃなくて、埋まってたまである。
4台目、画面バッキバキで水草生えてる。小さなエビが動いてた。盆栽っていうか、もうビオトープ。
そして……5台目。
手に取った瞬間、ブルッと震えた。
え? マジ?

泥をぬぐって電源ボタンを押す。ついた。光った。生きてる!!
画面には「Thank you for coming to Fukuoka!!」の文字。背景は、観光客の女性の自撮り。
YES! 奇跡の5台目!
その瞬間、池の向こうで、観光客の女性が泣きそうな顔で言った。
「アナタ……神!!」
いや、神とかより、まず風呂入りたい。
ずぶ濡れのまま管理事務所に戻ったら、さっきのおじさんがタオル渡しながらボソッと。
「…あんた今日、だいぶ“徳”積んだよ」
そこへ現れたのは、いつものラジオ体操おじいさん。
もう“人生3周目”って顔で、言った。
「それ、人生ポイント的に…たぶん次の人生、ミジンコからワンランク上がったっよ」
「カブトエビとか?」
「いや、もしかしたらカピバラくらいまで…」
そんなバカ話を、ちょっと本気にしながら、俺は帰った。
シャワー浴びて、ようやく落ち着いた頃。
「そういえば……」と思って、体重計に乗ってみた。
デジタルの表示が、容赦なく光った。
+3.0kg。
え? なんで?? 池の呪い? スマホの感謝の重み? 鯉の友情?
なにが俺の肉になったんだ???
でもまあ……
たぶん今日、人生で初めて“徳ポイント”貯まった気がする。しかも、スマホ5台ぶん。
次の人生は、もうミジンコじゃない。
せめて――
カブトエビとか、
観葉植物の中で一番人気のやつとか、
道端のすごく評判のいいアリとか、
知らん人にも話しかけられる自販機とか、
コンビニの外にある、やたら座り心地のいい段差とか……
なんかそういう、“そこそこ愛される存在”にはなれる気がする。
スマホを拾って、今日という物語も拾えたから。
それで、いいか。
※本作に掲載している写真は、記事のイメージに基づいて作成したものです。
※📢Xでも更新のお知らせや執筆裏話をつぶやいています。よければこちらもフォローしてね → @avi_aramis
▶︎ このシリーズの第1話から読むにはこちらから👉『名もなき主役たち』
▶︎ 更新通知が欲しい方は「フォロー」+「スキ」お願いします📩
▶︎ 感想やお気に入りの話は、ぜひ #名もなき主役たち でつぶやいてください
🕊📚私がこれまで書いてきた本たち 〜人の生き様を描き続ける理由とは〜 本と記事はここをクリック
