私だけのヒーロー ショートショート
目を覚ますと、時計のアラームはまだ鳴っていない。
せっかくの休みだから、もう少し寝ていようかとまどろんでいると、いきなり寝室のふすまが開いた。彼が立ったまま、こちらを見ている。
そう言えば、昨日は帰ってこなかったな。今戻ってきたんだろうかとぼんやり考えていると、そばに寄ってきていきなり抱きしめられた。
「…どうしたの?」
聞いても返事がない。しばらくそのままでいたが、やがてキスをされる。
深く貪るようなそれに翻弄されながら、いやに積極的だなと感じていた。
***
「子どもが1人死んだんだ」
終始2人とも無言だったが、疑問を投げかけるような私の視線に耐えきれなくなったらしい。彼はぼそりとつぶやいた。
やっぱりね。
胸の内で、そっとため息をつく。
「小さい女の子だ。ほとんど犯人は確定していた。俺らは居場所を追っていた。
──あと一歩の所で間に合わなかった」
「それで、責任を感じてるの?」
「もう少し早く捕まえていれば……」
そう言って顔を伏せる。
私は手を伸ばして、彼の頭をなでる。いつもはそうすると嫌がるのに、今日は抵抗しない。よっぽど落ちこんでいるか、もしくはそうしてほしいんだろう。そう思い、その髪をなで続けた。
そうしていると、やがてすり寄ってくる。そっとその肩を抱きしめた。
「……君はやれるだけの事をすべてやったんでしょう? 1人でできる事なんて、限られてるんだから。
だから、それでも助けられなかったのなら……もうどうしようもないよ。
それでも助けたいなら──他の誰かに託すしか」
「他の誰か?」
彼は顔を上げる。
「『人事を尽くして天命を待つ』とも言うじゃない」
「………」
それを聞いて、彼はじっと黙っていた。
ああ、それでも。
君はきっと、手を伸ばすんだろう。
でも、君なら。
今は助けられない誰かも、いつかは助けられるかもしれない。
だって、君は私のヒーローなんだから。
了(820字)
砂浜←前の話 次の話→Epilogue、またはPrologue
ショートショート集『いつか君と遠く離れても』 1話から↓
