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蛇の托卵(たくらん) ショートショート

 朝起きると、なんだか体が重かった。何だろうと思いながらリビングへ行くと、彼が朝食の用意をしている。

「どうした? なんか浮かない顔」
 僕の様子を見て、そんな言葉をかけてくれた。
「よく分からないけど、気分が晴れなくて」

 彼はふうん、という表情をし
「ちょっと舌を出してみな」と言う。

 え、何でだろう? 僕は少しとまどいながら、口を開けて舌を見せた。
 と、彼は手を伸ばしてぐいっとそれをつかむ。

「…!! いひゃい! ひっははひゃいへ!(引っぱらないで)」
 悲鳴をあげる僕にかまわず、まじまじと観察しているようだ。

「君、舌が長いな」
 そんな感想はどうでもいいと思うが、がっちりつかまれているのでうまく話せない。
 騒ぎ立てる僕に気づかいゼロで検分した後、ふっと指の感触が離れてようやく解放される。

「問題なさそうだ」
 そう言って手を洗い、またグリーンサラダを作りはじめた。

「びっくりしひゃ…」
 僕は涙目でつぶやく。

「舌先が少し赤いようだけど、心配ないだろう。わりと健康的な色だし。あまりストレスを溜ためないように」
 君の態度がストレスになりそうだよ、と心の中で文句を言う。

「それにしても舌が伸びるな。変わってる」
「君は長くないの?」
 普通だと思っていたけど、と思いながら聞いた。

「俺はこのくらい」とぺろっと出す。
 まるで猫が毛づくろいをした後、しまい忘れたような顔だった。

「そんなに長い人、初めて見た。ヘビみたいだ」

「まあね。それは…」
「?」
「ううん、何でもない」

 君を堪能たんのうするためだよ、と胸の内でつぶやくが、それは言わずに笑顔で隠した。

                 了


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ショートショート集『いつか君と遠く離れても』 1話から↓


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