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元・県庁土木職員が考えた、CLI系AIで楽になる5業務


公務員時代、私の机にあった仕事は

おもにこの5種類。

受注者から出る書類のチェック(仕様書適合・法令違反確認)
仕様書づくり(Word)
数量計算(Excel)
図面確認(CAD:SXF)
積算(自治体ごとの専用システム)

1日の大半は、この5つの間を行き来していました。


CLI系AIで作業が大幅に減り、品質も大幅に向上する

まず間違いないと思います。

私のいまの仕事はほとんどAIベースでやってますが、もし公務員の仕事に「CLI系AI」── Claude Code・Codex CLI・Aider・Cline などの、ファイルを直接いじれるタイプの AI ── が、業務 PC で使えるとしたら、すごいことが起こります。


この記事を読み終わったら、あなたが手に入れるもの

  • 非エンジニア(今回は公務員)にとってのAIの使い方がわかる

  • 1人あたりの導入コスト感と、100人規模パイロットの年予算試算

  • AI を業務に入れる時に「職員側で必要になる責任分担」と「現実的なスコープ制御」の考え方

  • 「自治体での生成AI 導入は今どこまで来ているか」の2026年5月時点のざっくり地図


こんな方に読んでほしい

  • 現役の自治体土木職員で、書類の山を前に「これ AI でなんとかならないか」と思っている方

  • 自治体の DX 推進部門で、生成AI 導入の検討を始めている方

  • 中小建設会社の経営者・営業担当で、「発注者側がもし AI を使い始めたら何が変わるのか」を知っておきたい方

  • 業界外の方で、行政の中の仕事に少し興味のある方


CLI系AI とは、「ファイルを直接いじれる」AI のこと

ChatGPT のように「ブラウザのチャット画面に質問を打ち込む」タイプとは、見た目も使い方も少し違います。

CLI は "Command Line Interface" の略で、要するに 「ターミナル(黒い画面)から動かすタイプ」の AI。代表的なものに、

  • Claude Code(Anthropic 社)

  • Codex CLI(OpenAI 社)

  • Aider(オープンソース)

  • Cline(VSCode 拡張、無料 + API課金)

  • Gemini CLI(Google)

  • GitHub Copilot CLI

などがあります。

CLI系の最大の特徴は、PC の中の ファイルやフォルダを直接、読み書きできる こと。「このフォルダの中のマニュアル全ファイルから、法律改訂が影響する部分をピックアップして改定して」「この100ページの施工計画書 が特記仕様書・標準仕様書・契約書・数量計算書と齟齬がないか確認して」と、まとめて頼める。


公務員の業務に劇的に刺さる

その理由は、公務員の仕事のほとんどが「ファイルの山 × 根拠文書」だからです。

会議資料、稟議書、議事録、メール、Excel、PDF ── 1日の大半が「ファイルとフォルダの中で起きる作業」です。

公務員の仕事は、99%、バックに法律・規約・仕様書・契約書・マニュアルがあります。これは当然のことで、行政の正当性は「文書で根拠を示せること」で担保されています。根拠のない判断は、原則として動かせない世界です。

つまり、公務員の業務は ──

  1. ファイルの山 を相手にする

  2. かつ、その判断の正解(または許される範囲)が、法律・仕様書・マニュアルのどこかに必ず書いてある

という構造です。これは、CLI系AI が 最も得意とする領域 と、ほぼ完全に重なります。

チャット型 AI(ChatGPT 等)は 会話による1問1答 が得意ですが、「フォルダごとまとめて処理 + 根拠文書を参照しながらチェック」は苦手です。1ファイルずつコピペで渡す必要があり、100ファイルを処理しようとすると、結局1日仕事になってしまう。

CLI系 AI は、ここが違います。たとえば、

  • 受注者から届いた PDF 30本を、仕様書と全部突き合わせてチェックして」

  • 過去5年分の議事録 200本から、ある人の発言だけ時系列で並べて」

  • 100個の Excel ファイルの全シートを統合して、フォーマットを揃えて」

  • フォルダの中の文書 50本を、案件別に自動で振り分けて」

  • この書類テンプレの書式に適合してるかチェックして

こういう「ファイルの山 × 根拠文書との照合」の仕事に、CLI系 AI は 劇的に 刺さります。

公務員時代、私の机にあった5つの仕事は、全部この「ファイルの山 × 根拠文書」でした。


5業務を順に点検すると、丸ごと変わるのが2つ、周辺自動化が3つです。

① 受注者書類チェック(◎ 一番楽になる)

公務員時代、たぶん私の労働時間で 一番分量が多かった のがここです。受注者から提出される書類が、

  • 仕様書に書かれた要件を満たしているか

  • 関連法令に違反していないか

  • 過去の提出書類と整合しているか

を、目視で1枚ずつ確認していきます。書類の山と、傍らに開いた特記仕様書と、付箋。

ここは、CLI系AI を使ったら 一番楽になる業務だと思います。

提出された PDF・Word 一式と、対応する仕様書を一緒に渡して、「仕様書のここに対応する記述があるか、法令のここに抵触していないか、過去の同種案件と比べて違和感はないか」を 一次チェック に通せる。最終判断は職員がしますが、目視の負荷は劇的に下がります。

※受注者書類から法令違反候補を1件見つけて差し戻した時、もう深夜2時近かった。

もし、工事のチェックシステム導入に携われるならやってみたい。(いまは副業レベルのものしかやれません)

② 仕様書づくり(◎ ほぼ全置換え可)

仕様書は、共通仕様書と特記仕様書の組み合わせで作ります。過去案件からの転用も多い世界です。

CLI系AI にやらせたいのは、

  • 過去案件の文面をベースに、今回向けの特記事項を起こす

  • 共通仕様書と特記仕様書の矛盾チェック(同じ項目で違うことを書いていないか)

  • 用語の統一(「コンクリート構造物」と「コンクリ構造物」が混在していないか)

紙とハイライトでやっていた整合確認が、数分で終わる世界です。

※図面と数量計算書の矛盾を見落として、入札後に受注者から問い合わせが来た時、胃が痛くなった。

③ 数量計算(○ 楽になる部分は限定的)

数量計算は「Excel の計算式や検算関数の自動生成」までは AI でできます。これは助かります。

ただし ── 図面と数量は厳密に一致していなければならず、図面と Excel を自動でリンクさせるのは、現状でも難しい。さらに「この寸法は計上する、この寸法は計上しない」という判断は、構造物や特記仕様書の解釈が要る業務知識の塊で、ここは AI に渡すまでが大変です。

なので評価は、

  • 単純計算・検算 → ◯ 楽になる

  • 図面との整合・計上判定 → △ 業務知識を AI に伝えるところがハードル

実体としては、半分は楽になる、半分は人が握り続ける。そんな感覚です。

※先輩から引き継いだ Excel の意味不明なセルの数式に何度泣いたか分からない。あの「なぜこの計算をしているか」のコメントを、AI に自動付与させて後任に渡せたら、業界の引き継ぎ事故が結構減る。

④ 図面(SXF)(△ 本体は無理、周辺は別)

ここから先は、率直に「CLI系AI だけでは難しい」業務です。

このへんは私はあまり詳しくないですが、専用ソフトの進化を待つことになりそうです。

⑤ 積算(△ ファイル入出力経由で部分的に)

積算は、自治体ごとに専用システムを使います。このシステム自体を CLI系AI が動かすのは、現実的ではありません。

ただし、専用システムは最終的に CSV や XML として入出力できる ものがほとんどです。

  • 単価マスタの整合チェック(市単価と県単価の混在を検出)

  • 歩掛の異常値検出(過去案件と桁が違う行を抽出)

  • 数量計算 Excel と積算入力データの突合

  • 出力された積算書のフォーマット整形・要約

本体は人と既存システム、周辺で AI。という構図です。

整理すると、◎が2つ、○が1つ、△が2つです。

| 業務 | CLI系AI の関わり方 | 評価 |
|---|---|---|
| ① 書類チェック | 一次チェックを丸ごと | ◎ |
| ② 仕様書 | ほぼ全置換え可 | ◎ |
| ③ 数量計算 | 単純計算は◯、計上判定は△ | ○ |
| ④ 図面(SXF) | 本体不可、周辺自動化は得意 | △ |
| ⑤ 積算 | ファイル入出力経由なら有効 | △ |

5業務のうち、丸ごと変わるのは2つ。残り3つも、周辺の手作業がごっそり減る。

⑥ ほかにも:過去資料(図面、設計書など)のスキャン

自治体は山ほど過去の書類もってます。文字通り山ほどもってます。専用の倉庫作った(工事に携わった)こともあります。AIはスキャン → テキスト変換も得意です。


けど、なかなか厳しい現実

自治体の業務 PC には、「県が認めたソフト」しかインストールできません。これは情報セキュリティ上、ごく当然のルールです。

そして、2026年5月時点で、CLI系AI ── Claude Code、Codex CLI、Aider、Cline、GitHub Copilot CLI など ── を 業務 PC に正式に入れている自治体は、公開ベースで確認できません

ただし、生成AI の業務利用そのものは、確実に進んでいます。

  • 横須賀市:全職員が GPT-4o を API 経由で利用、文書作成や Excel 関数生成に活用

  • 香川県:職員開発システム「CatBot Powered by GPT」を内製

  • 千代田区:自治体専用 AI「OfficeBot」を導入

  • 兵庫県:生成AI 利活用ガイドラインを策定し、PT を設置

  • 北海道:全職員が ChatGPT・Microsoft Copilot を利用可能(既存 M365 ライセンス内)

総務省の集計(令和6年7月)では、市区町村の生成AI 導入率は 9.4%、検討中を含めると 39.5%。デジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」は、2026年4月1日に全面適用 されました。

つまり、「ChatGPT 系(チャット型)」は導入が始まっている。「CLI系AI(ファイル操作型)」はまだほぼ未着手 ── これが今の地図です。

私の想像実験は、この地図に「もう一段」を足したらどうなるか、という話です。


ただ、職員が責任を取る前提

CLI系AI は、ファイル操作を伴う AI です。指示を間違えると、フォルダごと消えることが、現実にあり得ます。「このフォルダを整理して」が、意図しない削除になることが、あります。

人間でもやりかねないことではある。むしろAIにあらかじめ指示(ClaudeCodeでいうところのスキル)したり、細かくバックアップすることでルールを明文化しておくとかなり事故はすくない。

なので、業務利用の前提は、

  • AI に判断を委ねない。下書き・一次チェックまで。最終判断と実行は職員

  • 生成 → 確認 → 適用 の3段階を必ず踏む(民間でも「全自動より半自動」が成功原則)

  • 責任を取るのは、AI ではなく、職員

ここを履き違えないなら、CLI系AI は使えます。


スコープを切れば、運用が現実的に

CLI系AI は、動ける範囲(ディレクトリスコープ)を最初に絞れる 仕組みがあります。「今この案件のフォルダだけ触っていい」と宣言すれば、それ以外のシステム・住民データ・他部署フォルダには 触れません

これなら、

  • 機密性の高い住民データに触らせない

  • 全省庁システムに踏み込ませない

  • 担当案件のフォルダだけを「AI の作業場」にする

という運用が可能です。LGWAN 環境の制約と組み合わせれば、現実的なラインが見えてきます。

※ただ肝心のナレッジと連携しないとCLI導入の意味が。


費用も問題ですが

2026年5月時点、CLI系AI 系の月額目安(1人あたり、ざっくり):

| プラン | 月額(おおよそ) | 内容 |
| Claude Code Pro(個人) | 約3,000円 | 個人開発向け |
| GitHub Copilot Business | 約2,850円 | 法人向け基本 |
| Microsoft Copilot for M365 | 約3,778円 | 既存 M365 ライセンス連携 |
| Claude Code Team Premium | 約18,750〜22,500円 | 開発者向け本格 Team |
| Claude Code Enterprise | カスタム | SSO・請求書・HIPAA 対応 |

業務で本格運用するなら、1人あたり月15,000円前後は見ておく感覚です。Pro 個人版+API なら 3,000〜5,000円から、トライアルは始められます。

100人パイロットで試算すると:

  • 100人 × 15,000円 × 12ヶ月 = 年 1,800万円

  • 1,000人全庁展開なら = 年 1.8億円

※私の感覚では余裕でお釣りが来るので、減員とセットで少しずつ導入できそう。減員といってももともと人手不足でしょうからうまく馴染んでくれるでしょう。


費用問題は減員とセットで考えると

景色が変わります。

書類チェック・仕様書・数量計算で職員1人あたり月10〜20時間が削れるなら、5〜10人の部署で 年1人分の労働時間 に相当します。各部署から少しずつ自然減(退職不補充)で人員を調整しつつ、その分の予算を CLI系AI に回す ── というセット設計なら、純増は想像よりずっと小さく収まります。

そして、こういう導入の旗振り役になる 「CLI系AI を扱える職員(または担当部署)」は、自治体の中で引っ張りだこになる と思います。書類チェックが早くなる、稟議書の整合確認が一発で済む、過去の議事録から必要な情報が30秒で出てくる ── 全部署が頼りたい人材です。

「コストとして見るとつらい予算」が、「業務改革と人材育成のセットで見ると現実的な予算」に変わります。


導入が進まないのは

理由はまず、セキュリティのことが一番大きいと思います。「公務員が減員削減いやだから話が進まないのでは」と思った方がいたら、それは少し違います。

私の現役時代の経験で言うと、自分の保身のために AI 導入を拒む公務員、というのは、ほぼいません。中の人は、便利なものは便利だと、ちゃんと分かっています。

ただ、自治体は 法律・議会・上位ルール で動く組織です。一人の職員が「これ便利だから明日から使います」と決められる範囲は、ごく限られます。情報セキュリティポリシー、契約・予算、議会承認、上部省庁のガイドライン ── 小さな変化でも、通すべきハードルが想像以上に多い

これは悪意ではなく、構造です。

「公務員は遅い」と外から見える光景の多くは、個人の意志ではなく、そうとしか動けない仕組み がそこにあるからです。


※「CLI系AI を職員1人1人の机に届ける」と公約に書いて、年予算をちゃんと計上する人が出てきたら、応援したい。


みなさんの妄想は、現実化する、と私は思ってます。

自治体が動く原動力は、目に見えない世間様の圧力、と思ってます。

公務員だって導入するべきだよね、とつぶやいたら何かが動くかもしれません。

こういうのが使えたら、書類チェックが半分になる」って、コピー機の前で言ってみる。それだけで、誰かの頭の中に種が落ちる可能性があります。

みなさんの妄想は、現実化する、と思ってます。


プロフィール

井上浩太郎|土木×AI研究家

神奈川県在住。元・土木系県庁職員。
いまは AI(Claude Code)を使って、ホームページ制作・アプリ・Webプロダクトを制作中。業界をほんの少しだけ変えるような小さな道具を、ひとつずつ作っていくのがいまのテーマ。その挑戦の過程を、公開中。


前回までのシリーズ


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