レイナアブソルータ〜フローレス・デ・イベリア#4第四章ブルゴスの城
ブルゴスの王宮
城に戻ったクラウディアは、父とサンチョからの叱責を受けた。
そして、サンチョから、やはりアル=アンダルスの動向がわかるまで、城にいない方がいいと言われて、エマヌエルの母の修道院、サンティリャーナのサンタ・フリアナ修道院へ行くことが決まる。
ヒメノも姫から目を離したと言うことで、しばらく騎士団預かりとなる。同じ理由からエマヌエルも、自領に蟄居になった。
クラウディアは自分のした事で、側近達が罰を受けたことの方が心が痛んだ。
クラウディアの兄、サンチョは、クラウディアのことをよく知っていた。だから修道院への護衛は騎士団に任せた。その上、
「クラウディア、君の性格はわかっている。とごかへ逃げたそうとしたら、荘園を取り上げるからね。それだけは言っておく」
そう言い、大きな釘を刺しながら、優しく微笑むのだった。
クラウディアは、この兄サンチョには、歯向かえない。柔和で温厚なのだけど、どうしてどうして、剛腕だった。力ではない、頭でだった。
サンチョには祖父似の兄フェルナンドがいた。その兄に、サンチョはどうしても越えられなかった。腕も頭も敵わなかった。それは、歳の差だったのかもしれないが。
そんな兄も己自身の無謀さで、命を落としているのだった。
運命の理不尽さもサンチョは知っているのだ。だから運命に贖うのだった。
エマヌエルの母がカスティーリャに戻ってこさせたのも、彼の手腕だった。
ナバラ王国で寡婦となったウラカ伯母をナバラ王家が利用しようとした時だった。その時、父王の容体が悪いことにして、郷に帰らせたのだった。そしてそのまま自領にいる。
その時、ナバラから連れ出すことができた子は、まだ成人前のエマヌエルだけだった。だからカスティーリャの王宮では、陰で、彼のことをエマヌエル・ペルムデニスとナバラ風に呼んでいたりする。そんなことを気にせずエマヌエルは、サンチョに忠誠を誓っているのだった。自分と母の命を助けてくれたからと。
そんな他領の情報を、サンチョがどう得ているのか、それはクラウディアには知るよしもないことだった。
そして、サンチョは、ただ一つ弱みがある。それは、妹のクラウディアのことだ。
彼女は幼い頃に母を亡くし、カスティーリャには兄妹二人しかいない。姉たちは他領に嫁いでいる。宮廷内も出生の疑惑もありクラウディアには居心地がいいとは言えない。不憫だと思っている。だから、あの無謀と見える妹を無条件に可愛がるのだった。
クラウディアの興している事業は成功していた。たくさんの富をカスティーリャにもたらし始めている。
それにより、カスティーリャの地位を、他のキリスト教2ヵ国よりも頭ひとつ二つ引き上げている。その点でも甘くなるのだった。
ふと、サンチョは、先ほど馬車で、揺られて行ったクラウディアの姿を思い出す。
エマヌエルの蟄居先は、自領のサンティリャーナ。クラウディアのいく先は、エマヌエルの母が修道院長を勤めているサンタ・フリアナ修道院。
他でも良かった、ただ、アル=アンダルスから遠い方がいいと思ったのだ。そこでサンタ・フリアナ修道院となったのだ。
どうせ、修道院に行けば、近くだからとサンタンデールの港に向かうのだと、分かっていたのに送り出してしまったのだ。
クラウディアがいく先で、何も起きないはずはない。
ただ、それをサンチョは予想はできるが、防げる術がないことを知っていた。
そして、今は運悪いことにサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼のシーズンだ。
冬は寒く雨が多く道はぬかるむ。
春秋は南の遠征がくる。
なので人々はこの春の終わり、初夏から秋までの短い期間に巡礼を行うのだ。
それでも、ブルゴスの城にいるより、安全だと思えたのだった。
宝石を隠すには石の中という感じだった。
南の使者
それから一週間後。
案の定、城にも南の使者が来た。
アヴドゥルからのクラウディア宛の手紙を持って来たのだ。そして、執拗に返信を求めてきた。
今は城にいないと言っても、
「荘園にもいらっしゃらないですし、どちらへ」
と、クラウディアのことを調べ尽くしているような質問をする。
サンチョは、
「手紙はこちらでお預かりして、返事は次回までに書かせておきましょう」
そう柔和な笑みで返した。
そしてあの羊の件を確認もした。使者は、
「うちの主人の暴走をお止めできずに、かえってご心配をあおかけいたしました。まあ、幼い子の戯れとおとりいただいてもよろしいかと」
と曖昧に、そちらが、カスティーリャ側が、どうとるかで決まるというニュアンスで返された。
その頃だった、ベアトリスに、懐妊の兆しが見えたのは。
後編
