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【裁判傍聴記】江別大学生集団暴行死事件|第五章 あの夜に残された「声」

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第五章 あの夜に残された「声」


弁護側の冒頭陳述が終わると、裁判長から、この裁判で判断すべき争点について改めて説明があった。

そして、検察官による証拠調べが始まった。

ここまで法廷で語られてきたのは、それぞれの立場から見た事件の姿だった。

検察官は、事件がどのように強盗致死へと発展していったのか。

弁護人は、その中でそれぞれの被告人がどのような立場にあり、どの程度関与したのか。

ここからは、それらを判断するための証拠が、一つずつ法廷に示されていく。

LINE

検索履歴

加害者側が撮影していた動画

そして――

Vさん自身が残していた録音

この録音には、事件が起きる直前から、暴行を受けるまでの音声が残されていた。

亡くなったVさんは、もう法廷で証言することはできない。

しかし、そのスマートフォンには、

あの夜に何が起きたのかを伝える「声」が残されていた。


午後11時9分 録音開始



法廷内で、Vさんのスマートフォンに残されていた音声が再生された。

午後11時9分

最初に聞こえてきたのは、

ガサガサ――

という音だった。

おそらく、ポケットの中でスマートフォンと衣服が擦れる音だったのだろう。

私はノートを開き、ペンを握っていた。

しかし、録音が進むにつれて、次第に手が止まっていった。

聞き逃したくない。

そう思った。

それまで私は、この事件について報道で何度も目にしていた。

起訴状も聞いた。

検察官から事件の経緯も聞いた。

しかし、

文字として知っている事件と、その場に残された声を聞くことは、まったく違った。

そこにはニュース記事では伝わらない、声の強弱、間、笑い声、その場の空気まで残されていた。


午後11時14分 合流


午後11時14分頃

Vさんは八木原被告らと合流した。

最初に合流したのは、後にVさんが発見されることになる事件現場とは別の公園だった。

ここでは、すぐに暴行が始まったわけではない。

川村被告の後の供述によれば、八木原被告とVさん、川村被告らはこの公園で合流し、その後、別の公園へ移動している。

そして一行は、事件現場となる公園へ向かった。

そこでも当初は、Vさんと八木原被告との交際をめぐる話が続いていた。

Vさんは八木原被告へ謝罪する。

しかし、八木原被告は納得しなかった。

やがて一行は、公園の階段を下りていく。

ここからだった。

それまで「話し合い」だったものが、

暴行へ変わった。


突然始まった第1暴行


それまで続いていた会話の途中だった。

突然、川口がVさんへ暴行を加え始める。

腹部、そして顔面。

法廷に流れる録音からも、その瞬間が分かった。

ドスッ。

バンッ。

鈍い衝撃音が、会話の合間に響く。

何を殴った音なのか、録音だけですべてを判別することはできない。

それでも、先ほどまで人が話していた音声の中に、明らかに異質な衝撃音が入り始めた。

Vさんは「やめて」という趣旨の言葉を口にする。

しかし、暴行は止まらない。

そして私が強く覚えているのは、暴行の音だけではなかった。

周囲から笑い声が聞こえていた。

一人が暴行を始め、やがて周囲の者たちもそれに加わっていく。

川村被告もVさんの胸付近を蹴るなどした。

さらに、その場にいた者は暴行の様子をスマートフォンで撮影していた。

動画には、口元から血を流すVさんの姿が残されていたという。

それでも、この時点ではVさんの受け答えはまだ明瞭だった。

後に検察官が「第1暴行」と整理して説明した、約6分間の暴行である。

録音を聞いていて感じたのは、

「暴行が始まった」という明確な境目が、音として残っていたことだった。

ついさっきまで話をしていた。

その同じ場所で、同じ人間たちが、

次の瞬間には、一人の人間を殴り始めている。

この事件が「話し合い」から「集団暴行」へ変わった瞬間を、私は法廷で音として聞くことになった。


「血付いたべや、弁償しろ」


そして、事件の性質を変える言葉が出る。

暴行によって、川口の衣服にVさんの血が付いた。

「血付いたべや。弁償しろ」

金を出すよう要求する。

川村被告も、

「うちも付いたかも」

という趣旨の言葉を発する。

Vさんから現金2000円が奪われる。

しかし、それだけでは終わらなかった。

財布

クレジットカード

キャッシュカード

さらに金品を出すよう迫っていく。

検察側は、この段階から、

制裁目的だった暴行が、金品を奪うための暴行へ変わった

と捉えていた。



午後11時37分 奪ったカードを使う


午後11時37分頃

八木原被告と川村被告は、Vさんから奪ったクレジットカードを持って公園を離れた。

向かったのは、近くのコンビニだった。

そこでVさん名義のクレジットカードを使い、たばこなどを購入する。

タッチ決済だった。

そして二人は再び公園へ戻った。

ここで事件が終わっていれば――。

そう思わずにはいられない。

しかし、終わらなかった。



午前0時 「ここからショッキングな内容になります」


検察官から、裁判員に向けて注意があった。

これから示される証拠には、ショッキングな内容が含まれている。

心を落ち着かせて見てほしい。

そのような趣旨の説明だった。

法廷の空気が変わった。

検察官が示したのは、Vさんの録音だけではない。

加害者側が自ら撮影していた動画もあった。

傍聴席側のモニターは消されていたため、私たちに映像は見えない。

しかし、

音声は聞こえた。


第3暴行


「もっとやって」

そんな声が聞こえる。

瀧澤被告は、

「ライダーキック」

などと言いながら、Vさんへ飛び蹴りをしたとされる。

暴行は続いた。

Vさんの衣服に自分たちの指紋やDNAが残ることを恐れ、衣服を脱がせる。

髪の毛に火を付ける。

たばこの火を身体に押し付ける。

「いい感じで燃えてきたぞ」

そんな声まで残されていた。

そして、

「すいません」

と謝るVさんの声。

続いて聞こえる、うめき声。

この頃には、Vさんの両目は大きく腫れ、呂律も回らなくなっていたという。

それでも、暴行は止まらない。

キャッシュカードの暗証番号を聞き出すためだった。

私はこのあたりから、ほとんどメモを取れていない。

ペンを持ったまま、

ただ、聞いていた。


午前1時42分 置き去り


午前1時42分頃

一行はVさんを公園に残し、その場を立ち去った。

Vさんは衣服を脱がされた状態だった。

さらに、証拠を消そうとする行動も始まる。

VさんのスマートフォンからSIMカードを抜き取る。

SIMカードを捨てる。

スマートフォンを壊す。

衣服を持ち去る。

その後、暴行罪などについてインターネットで検索していたことも、証拠として示された。

そして、Vさんから奪ったキャッシュカードを使い、

12万7000円

をATMから引き出す。

その金は、関係者の間で分けられた。


午前2時30分 ラーメン店へ


その後、一行はラーメン店へ向かった。

午前2時30分頃

食事をする。

一方その頃。

Vさんは、一人で公園に残されていた。

私は、この時間の対比が強く印象に残った。

ほんの少し前まで同じ場所にいた人間たちが、

一方ではラーメンを食べ、

もう一方では、激しい暴行を受けたまま公園に取り残されている。

午前3時10分頃

一行は店を出て、それぞれ帰宅していった。


午前6時1分 発見


夜が明ける。

午前6時1分

公園に倒れていたVさんが発見された。

通報を受け、救急隊などが駆け付ける。

その後、Vさんは心肺停止となり、死亡が確認された

一方、その頃。

Vさんを公園に残して帰宅した者たちは、それぞれ朝を迎えていた。

しかし、彼らのスマートフォンには、事件後の行動を示す記録が残されていた。

LINEのやり取り。

インターネットの検索履歴。

そこから見えてきたのは、

Vさんを置き去りにした後、彼らが何を考え、どのように事件を隠そうとしていたのか――。



「絶対名前出すなよ」


Vさんが発見された後。

川村被告は八木原被告へLINEを送っていた。

「とりま絶対名前出すなよ」

「会ったけど、一人でどこかに行ったって言おう」

「うちらで作戦考えてるから」

事件について口裏を合わせようとするやり取りだった。

さらに、

「江別 殺人」

「暴行 時効」

など、事件を意識した検索も行われていた。

一方、八木原被告は、

「弁護士」

「交番」

「江別市 警察」

などと検索していく。

そして、警察へ連絡する方向へ動き始める。

それを知った者たちのLINEには、

「絶対に行かせないで」

などの言葉も残されていた。

やがて八木原被告は警察へ連絡する。

そしてその後、他の者たちも次々と警察へ出頭していくことになる。


Vさんが残したもの


この日の証拠調べで、私が最も強く感じたことがある。

Vさんは、自分の身に危険が及ぶかもしれないと考え、スマートフォンの録音機能を使っていた。

その判断によって、

事件直前の会話。

暴行が始まった瞬間。

金銭を要求するようになった経緯。

暴行がエスカレートしていく過程。

そして、その場にいた者たちが何を言っていたのか。

多くの事実が記録として残された。

もし、この録音がなかったら。

誰が何を言ったのか。

誰が暴行を始めたのか。

なぜ「制裁」だった暴行が金品を奪う行為へ変わったのか。

なぜ誰も止めることができなかったのか。

その全容を、ここまで詳細に明らかにすることは難しかったのではないだろうか。

Vさん自身は、もう法廷で証言することができない。

それでも805号法廷には、

Vさんが最後に残した「声」が流れていた。

私はこの録音を聞きながら、

証拠とは単に、被告人を処罰するためだけに存在するものではないのだと思った。

何が起きたのか。

なぜ起きたのか。

そして、なぜ止まらなかったのか。

それを後から検証するための記録でもある。

この事件が、どこにでもあり得る若者同士の交際トラブルから始まり、

なぜ一人の人間の命を奪うところまでエスカレートしてしまったのか。

その答えを考えるための材料が、

Vさんのスマートフォンには残されていた。


初日の公判は、ここで終わった。

裁判長から、翌日はVさんの死因などについての審理と、川口の証人尋問が予定されていることが告げられた。

私は805号法廷を出た。

朝、約300人の列に並び、傍聴券が当たったことを喜んでいた自分が、ずいぶん前のことのように感じた。

この日、何時間にもわたって聞いた説明。

何ページにも及ぶメモ。

それでも、法廷を出た後も頭から離れなかったのは、

文字でも、

映像でもなかった。

Vさんの「声」だった。


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