【裁判傍聴記】江別大学生集団暴行死事件|第四章 同じ事件、それぞれの責任
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午前11時45分。
30分間の休廷を終え、審理が再開された。
ここから、法廷の景色が少し変わる。
それまで事件の全体像を語っていたのは検察官だった。
今度は、被告人それぞれの弁護人が立ち上がる。
起きた事件は一つ。
公訴事実についても、大きな争いはない。
しかし、
その事件をどう見るのか。
誰が流れを作り、
誰がそれに加わったのか。
それぞれが、どこまで責任を負うべきなのか。
同じ事実を前にしても、検察側と弁護側では見える景色が違っていた。
川村被告の弁護人――「計画された犯行ではない」
最初に示されたのは、川村葉音被告側の主張だった。
弁護側がまず強調したのは、
この事件は、当初から金品を奪うことを目的として計画されたものではない
という点だった。
始まりは、八木原被告とVさんとの交際トラブル。
川村被告は友人である八木原被告から相談を受け、その問題に関わるようになった。
そして公園で話し合いをしている最中、川口による第1暴行が突然始まった。
その後、
「血付いたべや。弁償しろ」
という言葉から金銭の要求が始まり、
さらにキャッシュカードの暗証番号を聞き出すための暴行へと発展していった。
弁護側は、この流れを「場当たり的にエスカレートしていった事件」として捉えていた。
川村被告自身も、
「川口に金品を取らせれば終わると思っていた」
という趣旨の説明をしているという。
最初から、あの結末を想定していたわけではない。
それが弁護側の主張だった。
「川村が加えた暴行は5回程度」
次に弁護側が示したのは、川村被告自身が行った暴行についてだった。
川村被告がVさんに加えたとされる暴行は、蹴る、踏むなど、回数にして5回程度。
弁護側は、
川村被告自身が加えた暴行は、直接死につながるようなものではなかった
と主張した。
もちろん、共犯事件では、
「自分が致命傷を与えていない」
というだけで責任がなくなるわけではない。
しかし、刑の重さを決める上では、
誰が、
どの程度、
どのような暴行を加えたのか。
その違いも重要になる。
検察側が一連の暴行を大きな流れとして示したのに対し、弁護側は、その中での川村被告個人の行動を切り出していった。
川口との力関係
さらに弁護側は、川村被告と川口との関係についても説明した。
川村被告は車を所有していた。
そのため川口から車を出すよう求められるなど、日頃から使われるような関係だったという。
弁護側が示したのは、
川村被告がグループの中で川口より上の立場にいたのではなく、
むしろ、
川口に対して断りにくい関係にあった
という構図だった。
事件の中心人物は誰だったのか。
誰の言葉によって、その場の流れが変わっていったのか。
ここでも弁護側は、それぞれの立場の違いを強調していた。
1万円を受け取った
川村被告は、八木原被告とともに、Vさんから奪ったクレジットカードを使ってたばこを購入しに行っている。
川村被告が車を運転できたことから、二人でコンビニへ向かったという。
その後、奪った現金の一部として、川村被告も1万円を受け取った。
しかし弁護側は、
川村被告自身は、当初から金を受け取るつもりで事件に加わっていたわけではない
と説明した。
ここでも弁護側が強調するのは、
「最初から強盗を計画していた事件ではない」
という点だった。
瀧澤被告――「流れを作ったのは誰か」
続いて、瀧澤海裕被告の弁護人が立ち上がった。
眼鏡をかけた長身の男性だった。
そして、少し驚いたのが、
弁護人は自席から話すのではなく、法廷中央、証言台の前まで歩み出た。
スライドを使いながら、裁判員へ直接語り掛ける。
普段傍聴している裁判では、あまり見たことのない光景だった。
少し不謹慎かもしれないが、
「本当にドラマみたいなこともするんだ」
と思ったのを覚えている。
そして弁護人は、この裁判を見る上で重要だとして、次のような視点を示した。
流れを作ったのは誰か。
その流れを継続させたのは誰か。
そして、
その流れに乗ってしまったのは誰なのか。
この言葉は、私の中に強く残った。
「やばいな」と思いながら、同調した
瀧澤被告は当初、
話し合いで終わると思っていた
という。
しかし、実際に川口がVさんへ暴行を始める。
瀧澤被告はそれを見て、
「やばいな」
と思った。
それでも、その場を離れることも、暴行を止めることもできず、周囲に同調していった。
そして瀧澤被告自身も、Vさんに暴行を加える。
その一つが、
「ライダーキック」
と称した飛び蹴りだった。
弁護側によれば、瀧澤被告は「ふざけた雰囲気を作ろうとした」という趣旨の説明をしていた。
もちろん、だからといって暴行そのものが軽くなるわけではない。
ただ、この説明から見えてくるのは、
強い目的を持って事件を主導した人間と、
その場の雰囲気に流され、次第に行動をエスカレートさせていった人間。
その違いだった。
事件発覚後、瀧澤被告は怖くなり、父親に事件のことを話したという。
弁護側は、こうした事件後の行動についても説明した。
最年少、少年B
午後1時30分。
昼休憩を挟み、審理が再開された。
私は今度は前方の席に座った。
そこからは、被告人席に設置されたパーテーションの隙間越しに、川村被告の姿を見ることができた。
もともと染めていたのであろう明るい髪。
しかし根元からは黒い髪が長く伸び、途中から色が分かれていた。
その髪が、身柄を拘束されてから長い月日が経っていることを感じさせた。
そして、少年Bの弁護人が立ち上がった。
少年Bは事件当時16歳。
中学校を卒業して、まだ半年ほどしか経っていなかった。
この事件に関わった者たちは、おおむね16歳から20歳。
数字だけを見れば数歳の違いでしかない。
しかし弁護人は、
子どもにとって、この年齢差は決して小さなものではない
と訴えた。
少年Bは川口とは以前から親しく、一緒に遊ぶ関係だったが、
過去には川口から暴行を受けたこともあったという。
弁護人は、事件当日について、
少年Bは、たまたまその場に一緒にいただけだった
というところから説明を始めた。
そして事件の中で、
八木原被告が、
「もっとやって」
という趣旨の発言をしているのを少年Bが聞いていたことにも触れた。
弁護人は最後に、
誰が、どの程度の暴行を加えたのか。
そして少年B自身がどのような資質を持ち、どのような環境で育ってきたのか。
それらについて、この後の公判で明らかにしていきたいと述べた。
六人を「一つ」にしない
ここまで弁護側の話を聞いて、私は一つのことに気付いた。
検察官が描いたのは、
一つの事件が、どのように強盗致死へ発展していったのか
という大きな流れだった。
対して弁護側が見せようとしていたのは、
その流れの中にいた一人ひとりの違い
だった。
誰が始めたのか。
誰が煽ったのか。
誰が積極的に暴行したのか。
誰が同調したのか。
誰が止めなかったのか。
誰がどこまで結果を予想していたのか。
同じ場所にいた。
同じ事件に関わった。
だからといって、
全員の責任がまったく同じとは限らない。
一方で、
「流されただけ」
「自分が加えた暴行では死んでいない」
という理由だけで、重大な結果への責任がなくなるわけでもない。
その境界をどこに引くのか。
それこそが、この裁判で裁判員たちが向き合うことになる難しい問題なのだと思った。
弁護側の冒頭陳述が終わると、裁判長から改めて争点について説明があった。
そして、今後の審理日程が示された。
6月19日まで、全12回。
判決は6月25日。
長い裁判が、ここから本格的に始まる。
そして次に法廷へ出てきたのは、
検察官でも、弁護人でもなかった。
証拠だった。
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そして――
Vさん自身が、事件の直前から残していた録音。
午後の805号法廷
あの夜の「声」が流れ始める。
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