【裁判傍聴記】江別大学生集団暴行死事件|第三章 検察官が描いた「あの日」
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第三章 検察官が描いた「あの日」
起訴状の朗読が終わると、いよいよ検察官による冒頭陳述が始まった。
最初に立ち上がったのは、オオハマ検察官だった。
長めの髪が印象的な、物腰の柔らかそうな男性である。
重大事件を担当する検察官というと、どこか厳しい表情の人物を想像していたが、その第一印象は意外にも穏やかだった。
しかし、これからその口から語られるのは、一人の大学生が命を奪われるまでの経緯である。
「検察官が証拠によって証明しようとする事実は、以下のとおりです」
そう述べると、
「皆さん、お手元のA3の資料をご覧になりながらお聞きください」
と裁判員へ呼び掛けた。
裁判員たちは一斉に、机の上の資料へ目を落とす。
この「冒頭陳述」は、証拠そのものではない。
これからどのような証拠を示し、何を立証しようとしているのか。
いわば、これから始まる審理の「地図」を裁判員に示すための説明である。
この裁判で何が問われるのか
被告人3名は、起訴された事実そのものについては争っていない。
つまり、
「事件があったのか」
「被告人らが事件に関与したのか」
そこを一から争う裁判ではなかった。
この裁判で重要になるのは、
誰が、どのような役割を果たしたのか。
Vさんの死亡という結果に、それぞれがどのように関わったのか。
そして、その責任に応じて、
どのような刑を科すべきなのか。
という点だった。
交際トラブルから始まった
事件の発端は、どこにでも起こり得るような男女間の交際トラブルだった。
令和6年9月頃。
大学生だったVさんと、八木原亜麻被告との交際が始まった。
その約1か月後、Vさんは将来東京で就職することを考えていることなどから、八木原被告に「一年後には別れたい」という趣旨の話をする。
八木原被告は、そのことを中学生の頃からの友人だった川村葉音被告へ相談した。
ここから、本来なら二人の間で終わるはずだった問題に、別の人間たちが関わり始める。
川村被告と交際していた少年A。
少年Aと高校の同級生だった瀧澤海裕被告。
そして、アルバイト先を通じて瀧澤被告とつながっていた少年B、川口侑斗。
全員がもともと一つの仲良しグループだったわけではない。
いくつかの人間関係が交差し、やがて事件当日、7人が同じ場所に集まることになる。
10月25日
10月25日
Vさんは、八木原被告の荷物を返すため、千歳から江別へ向かった。
一方その頃、川村被告は川口ら4人と新千歳空港にいた。
八木原被告とVさんとの話し合いに、川村被告が電話を通じて加わる。
さらに、それまでVさんと直接の関係がなかった川口も、その電話に割って入った。
そして川村被告ら5人は、新千歳空港から江別へ向かう。
江別に到着した一行は八木原被告、Vさんと合流し、その後、事件現場となる公園へ移動した。
当初は、八木原被告とVさんとの交際をめぐる話し合いだった。
しかし、その最中。
川口がVさんに暴行を加えた。
ここから事件は、まったく別のものへと変わっていく。
三つに分けられた暴行
検察官は、この夜に行われた一連の暴行を、
第1暴行
第2暴行
第3暴行
という三つの段階に分けて説明した。
最初の第1暴行は、交際トラブルを背景とした、いわば「制裁」のための暴行だった。
時間にして、およそ6分。
この時点では、まだ金品を奪うことが目的ではなかったという。
ところが、暴行によってVさんの血が川口の衣服に付着した。
「血付いたべや。弁償しろ」
この言葉をきっかけに、金品を奪う目的が生じた。
ここから第2暴行へと移っていく。
Vさんにさらに暴行や脅迫を加え、現金、クレジットカード、キャッシュカードなどを奪う。
そして、奪ったクレジットカードを使い、コンビニエンスストアでたばこなどを購入した。
しかし、それでも終わらなかった。
日付が変わった頃。
今度は、キャッシュカードの暗証番号を聞き出すための第3暴行が始まる。
第2暴行から第3暴行まで、二時間以上。
殴る、蹴るなどの暴行が断続的に繰り返され、最終的にVさんから暗証番号を聞き出した。
一行はVさんをその場に残して立ち去り、その後、奪ったキャッシュカードを使って現金12万7000円を引き出した。
なぜ「強盗致死」なのか
ここで検察官は、この事件を理解するうえで重要な点を説明した。
それは、
Vさんが、どの段階の暴行によって死亡したのか。
ということだった。
第1暴行が始まった時点では、まだ金品を奪う目的はなかった。
一方で検察側は、第1暴行だけでVさんが死亡したのではなく、金品を奪う意思が生じた後の第2、第3暴行によって死亡したと主張した。
つまり、検察側が描いた事件の構図はこうだった。
交際トラブルを理由とした制裁が始まる。
そこから、
「血が付いた。弁償しろ」と金品を要求する。
そして、
金品を奪うための暴行へ変わり、さらに暗証番号を聞き出すため暴行を続ける。
その結果、Vさんは死亡した。
だからこそ、
強盗致死罪が成立する。
検察官は今後、LINEの履歴、Vさんが残した録音、加害者側が撮影した動画、医学的な証拠などによって、この経過を立証していくと説明した。
事件だけを見れば、一続きの暴行にも見える。
しかし法廷では、
「いつ」
「何の目的で」
「誰が何をしたのか」
そして、
「その行為が、どの結果につながったのか」
を一つずつ切り分けて考えていく。
私は、それがとても印象に残った。
裁判とは、単に、
「これほどひどいことをしたのだから、重く罰すればいい」
という場所ではない。
起きた事実を一つずつ積み上げ、それぞれが法律上どのような意味を持つのかを検討し、一人ひとりの責任を判断していく場所なのだ。
午前11時15分頃。
裁判長が30分間の休廷を告げた。
ここまで裁判員の前に示されたのは、
検察官が描いた「あの日」だった。
しかし、同じ事件でも、立つ場所が変われば見え方は変わる。
休廷後、今度は被告人それぞれの弁護人が立ち上がった。
誰が事件の流れを作ったのか。
誰がそれを継続させたのか。
そして、誰がその流れに乗ってしまったのか。
同じ事件が、今度は別の景色を見せ始める。
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