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尿がん検査「マイシグナル」は有望株か?【003】その健康・医学情報、信じていいの?

目次:

  1. 3つの尿がんリスク検査を比べてみた

  2. 尿がん検査「マイシグナル」とは?

  3. 「マイシグナル」の臨床的有用性は実証されているのか?

  4. 薬事申請と保険適用を目指して


前回の「【002】線虫検査で『がんのリスクあり』と判定されたら病院に行くべきか?」において、某会社のがんリスク検査サービスの名称を伏せて、「線虫がんリスク検査サービスX」と呼称しました。

前回の記事はこちらから ↓↓


なにしろ、「こんなもんは人の役に立たん!」とクソミソにこき下ろした訳で、さすがの私も実名で書くのは、はばかられたのでした。
ですが、今さらサービス名を伏せたところで、何のことか察しのつく人は多いし(何しろCMとかして、有名ですから)、知らない人でも調べれば簡単に分かることです。

この線虫がんリスク検査サービス、ぶっちゃけ言いますと、HIROTSUバイオサイエンス社の「N-NOSE」です。
このサービスについては、多くの医師や医学研究者らによって「臨床上の有用性を示す根拠があまりに乏しい」と指摘され、複数の関連学会においても問題視されている始末です。
このことは歴然とした事実であり、私は事実を述べたに過ぎません。

今話題の尿がん検査サービスはN-NOSEだけではありません。
他にもいくつか競合品があるのですが、現在のところ、それらすべてが厚生労働省による体外診断用医薬品の認可を受けてはいませんし、当然ながら公的ながん検診の検査法として採用もされていません。
私企業が事業(営利目的のビジネス)として提供する検査サービスであり、判定精度(陽性的中率/陰性的中率、感度/特異度、再現性等)について企業は何の保証もしていませんし、判定結果が間違っていても(偽陽性や偽陰性が出ても)、これらの企業は何の補償もしてはくれないのだということを覚えておいてください。

では、詳しくお話していくことにいたしましょう。どうぞお読みください。

 お断り:
本記事は、「マイシグナル」のサービスの利用を推奨するものではありません。本記事の意図としては、事実に基づいて情報を提供することのみです。読者の皆さまには、当該サービスを利用するかどうかの判断は、ご自身の責任において行ってください。
職場や市区町村が行うがん検診は必ず受けましょう。

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1. 3つの尿がんリスク検査を比べてみた


現在よく知られた代表的な尿がんリスク検査は、下表に挙げた3つだろう。
この3つは、ネットで積極的に広告を打っているし、互いに他社のサービスをかなり意識しているところも伺える。
いずれもビジネスでサービス提供しているのだから、競合を強く意識し、広告で差別化を図ろうとするのは当然であろう。

表.主な尿がんリスク検査サービスの比較


N-NOSEについては、前回の記事で詳しく述べた。
その診断性能の実証データはまったくもって不十分であって、臨床の役に立つとの証明がなされていない。
加えて、「陽性判定でも、どこにがんがあるのかサッパリ分からない」のでは、ますます役に立たないのだということだ。
あなたには、このことを十分に理解した上で、このサービスを利用するかどうかを判断して欲しいと願う。

では、他の2つのサービスはどうだろうか?
結論を言うと、比較的、基礎研究のエビデンスがあって、今後の臨床研究の進展が期待できそうなのは「マイシグナル」だろう。

2.尿がん検査「マイシグナル」とは?


詳しくは述べないが、マイシグナルでは、尿中の「マイクロRNA」という物質(RNAとは、遺伝子の本体物質であるDNAに似た物質)の種類と量を調べることで、早期発見の難しい、すい臓がんを含めた複数のがんのうち、どの種類のがんのリスクが高いかをAIで予測するというのである。

以前の生物学の常識では、RNAというと、とても長い物質であった。
だが実は、我われの体のなかには、それまで知られていなかった短いRNA(マイクロRNA)がたくさん存在しており、とても重要な働きをしていることが分かったのだ。
このマイクロRNAを発見した2人の研究者は、2024年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
それくらいマイクロRNAの発見は、生物学と医学において重要な意味をもつものだったのだ。
そして、血液中や尿中のマイクロRNAを調べてがんを診断するというコンセプトは、2000年代の前半の頃からあった。
以来20年以上にわたって、マイクロRNAを対象としたがん診断法の研究が世界中で行われてきたという、比較的長い研究の歴史があるのだ。

このようにマイシグナルは、長年にわたる豊富な基礎研究の成果の積み重ねに基づいて構築された検査プラットフォーム技術であり、マイシグナルを運営する企業による研究結果の発表も比較的多い。
ウェブサイトによると、国内の共同研究機関も多く、50以上の医療機関に及ぶという。
がん診療を専門とする国内屈指の医療機関「がん研有明病院」や「九州がんセンター」、「北海道大学」や「名古屋大学」などハイクラスの国立大学、「慶應義塾大学」や「東京慈恵会医科大学」などの有名私立大学・医科大学と提携しているというのだから、それだけでも結構なインパクトがある(下図)。

図.マイシグナルに関する共同研究機関の一部(「マイシグナル」のHPより転載)


3.「マイシグナル」の臨床的有用性は実証されているのか?


では、これら50以上もの医療機関との共同研究によって、その臨床的有用性は実証されているのだろうか?
結論を言うと「NO」である。

マイシグナルのウェブサイトには、同社がこれまでに行ってきた50以上の論文・学会発表のリストがある。↓↓

このリストから、臨床的有用性の実証に寄与しそうな研究報告だけを拾い上げることにした。
方法は消去法だ。
基礎研究の報告や、臨床研究であっても臨床的有用性を証明するには不十分と思われる報告を除いていくのだ。

まず第一に、リストから科学的妥当性を支持する根拠にならない「学会発表」は除かなければならない。
なぜ学会発表が科学的根拠にならないのか?については、以下のnote記事に詳しい。
学会発表がどういうものかご存じない方には、「えっ、学会発表って、そういうものなの!?」って、けっこう唖然とする意外な話で、面白く読めると思う。
是非、ご一読いただきたい。↓↓


とにかく、科学的根拠と認められるためには、論文でなければならないのだ。
このリストから学会発表を除いて残った論文発表の数はというと、かなり少ない。
リストの大半が、論文発表ではなく、科学的根拠とはならない学会発表だったのだ。
うーむむむッ、3つの尿がんリスク検査サービスのなかでは、マイシグナルが、根拠となる論文が最も豊富にあるのではないかと思ったが、こうなると、決して「豊富」とは言えなくなってきたな・・・・。

そして第二に、リストから学会発表を除いたあとに残ったわずかな論文発表であるが、臨床での有用性を証明する研究としては、実際に医療機関を訪れた人を対象にした「前向き臨床研究」であることが求められる。
具体的に言うと、たとえばであるが、がんの疑いで医療機関を受診した人たち(受診した時点では、この人たちにがんがあるのかどうかは分かっていない←ここ重要)を対象にしてマイシグナルの検査を実施し、もちろん、がんであるのかを確定するための検査も実施して、その判定結果が正しいのかどうか、つまり、どの程度の確率で的中するのか、あるいは外れるのかを検証するのだ。
すでに、がんであると診断された人、つまり、がん患者を対象とした「後ろ向き研究」については、臨床的な有用性を支持するエビデンスとしては不十分であるので、リストから除去しなければならないのである。

なぜ「後ろ向き研究」では十分な根拠にならないのか?
「前向き研究」と「後ろ向き研究」については、以下の記事をお読みいただくと、よく分かる。↓↓


結局のところ、リストから後ろ向き臨床研究の論文を除くと、何も残らなかった
つまり、マイシグナルに関して、がんかどうか分からない人たちに対して、がんの有無を高い確率で的中させられるのかを検証した前向き臨床研究は、今のところは一つもないのだ!
(私が見逃している可能性もあります。マイシグナルに関する前向き臨床研究の論文を見つけられた方は、ご一報いただけますと、まことに幸甚です)

マイシグナルの臨床的有用性についての実証は、まだまだ不十分である。
「このサービスを利用すれば安心」と言える根拠は示されていない。
職場や市区町村などのがん検診は必ず受けるべきなのである。

4.薬事申請と保険適用を目指して


Craif社のウェブサイトによると、同社は「すい臓がん診断補助医療機器プログラム」薬事申請を目指しているとのことだ。
つまり、がんの診断補助検査として臨床現場で使われることを想定して、保険適用されることを目指すようである。
Craif社は、現状のように臨床的有用性が不明確なままで自由診療の検査サービスを提供し続けるのではなく、将来的には広く臨床現場で使われるようにし、多くの人々の役に立てようとしているのだ。
尿の検査で、すい臓がんを含めた複数のがんのリスクを高精度で判定できるとなると、これはもう、がん医療を変える画期的なことである!
まことにチャレンジングで、志の高いことであると思う。

もちろん、臨床研究の結果がどう出るかは分からない。
臨床で使えるほどの判定精度を証明できず、夢のような検査法は、結局は「夢」で終わってしまうということも十分にあり得る。
だが、医療技術の革新には長い年月と莫大な費用がかかるのだ。
失敗のリスクを恐れず、果敢に困難に挑戦する者がいなければ、明日の命は救えない。
険しく長い道程だと思うが、是非、頑張っていただきたい!(なんだか上から目線の言いようだなぁ 苦笑)

なお、も一つの尿がんリスク検査「尿がん検査くん」については、ウェブサイトで実績や根拠となるデータの開示がまったくない。
どれほど役に立つのかがまったく不明なので、語れるものは何もない。
同サービスの概要は先の表に示しているので、参照願いたい。



今回の振り返り:

・わが国で代表的な3つの尿がん検査サービスを比較した。なかでも、もっとも科学的根拠が豊富だと思われるのは「マイシグナル」であった。
・マイシグナルは基礎研究に関するデータが豊富にあり、そのコンセプトについての妥当性は、ある程度示されていると思われる。
・マイシグナルの臨床における有用性を示す科学的根拠は、現状ではまったく不十分であるが、今後の臨床研究の進展が期待される。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。次回もどうぞお楽しみに。

次の記事はこちらから↓↓


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是非、お読みになったご意見やご感想、ご批判・お叱りをコメントでお寄せ下さい。勉強させていただきます。

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