時空を超えて‥‥小説(黒いワンピース2/4)
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時刻は11時を回っていた。周囲の部員に気づかれないようにバンガローから出た慶介は、薄明りの中、微かに人の声のする港を離れ、海沿いの一本道を東へと向かった。その先に女性を見かけた砂浜がある。雲が邪魔をしない限り、月明かりで進むことができた。途中半分を過ぎた頃、足元に草むらから抜け出た生温い風を感じた──その時だった。
(そっちに行かないで)
懇願するか細い声が、いきなり慶介の体を縛る。と同時に、二匹の蛇が両肩から手のひらへ這い下りるような感触を覚えた。
辺りには誰もいなかったはず──。
いつの間にか雲が月を覆っていた。慶介は何かあれば直ぐにでも逃げる構えをしながら、ゆっくりと振り返った。震える目で闇夜を凝視する。
……誰もいない。そんな筈は……? でも確かに聞こえた……。
その時どうにか確認できたのは、草むらに隠れる一匹の猫だけで、人の姿は何処にも無かった。慶介は滲み寄る恐怖に支配される前に逃げるように砂浜へと急いだ。
潮の香りが強くなったが、波の音は先程よりやさしい。
急に目の前が開けた。波打ち際にぼんやりと黒い人影が見える。昼間の女性? まさか? 胸騒ぎが現実となった瞬間だった。それが高宮浅葱との初めての出会いだった。
慶介は胸の高鳴りを抑え、緊張しながら近づき声をかけた。
「海、綺麗だねぇ」
頑張って耳触りのよい少し高めの声を出す。本当は、こんな夜中に何故一人でいるの? と訊きたかったが。
黙ったまま海を見つめている浅葱は、Tシャツにジーンズ姿だった。
「この島の人?」
慶介は続けた。
「いえ」
彼女の声は、波の音に掻き消されるほどか細く、透き通っていた。よく見ると足元に小さいリュックサックが置かれていた。
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