【尿道狭窄症の教科書 第90回】膀胱がんの手術と尿道狭窄症
こんにちは。防衛医科大学校病院の堀口明男です。
「尿道狭窄症の教科書」シリーズ、前回の第89回では、少し趣向を変えて、「尿道形成術の修行に終わりはない」というコラムをお届けしました。
今回からは、新しいシリーズとして「膀胱がんの手術と尿道狭窄症」を取り上げます。膀胱がんの治療が、尿道狭窄症のリスクと隣り合わせであるというテーマについて、これから数回にわたって解説していきます。
膀胱がんとは?
膀胱がんは、尿の通り道(尿路)に発生するがんの中で、頻度の高い悪性腫瘍です。
発見されるきっかけとして最も多い症状は、痛みを伴わない血尿(無痛性肉眼的血尿)です。膀胱がんと診断された患者さんの約60%が、血尿をきっかけに医療機関を受診しています。このほか、頻尿や排尿時の痛み、残尿感といった、一見すると頑固な膀胱炎のような症状で見つかることもあります。
膀胱がんのうち、約75%は筋層非浸潤性膀胱がん(がんが膀胱の筋肉の層まで達していないタイプ)です。日本国内での罹患率は、男性が女性の約4倍高いことが知られています。最大の危険因子は喫煙で、日本人を対象とした研究では、喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクが2倍以上高くなるとされています。
診断には、超音波検査や尿の検査に加えて、最終的には膀胱鏡による直接観察と組織を採取しての病理検査が必要になります。
筋層非浸潤性膀胱がんの治療 TURBTとはどんな手術か
筋層非浸潤性膀胱がんに対する標準的な治療は、経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of the bladder tumor, TURBT)です。
尿道から内視鏡を挿入し、膀胱の中を直接見ながら、内視鏡の先端に装着された電気メスでがんを切除します。
TURBTは、単にがんを取り除く治療というだけではなく、「がんがどこまで深く根を張っているか」を正確に診断するための重要な検査でもあります。
TURBTと前立腺肥大症手術との共通点
TURBTには第23回の記事で解説した前立腺肥大症に対する手術と共通点があります。
TURBTと前立腺肥大症の手術は、同じ内視鏡の器械を使って行われます。生理食塩水を流しながら視野を確保しながら、先端に装着された電気メスに通電して組織を切除するという基本的な仕組みは全く同じです。違うのは、削り取る対象となる組織だけです。
前立腺肥大症の手術では、手術に使用する内視鏡器具が尿道を通過する際の機械的な摩擦によって損傷し、尿道狭窄症が続発します(詳細は第23回記事をご参照ください)。つまり、TURBTも同様の理由で、尿道狭窄症を続発するリスクを抱えているのです。
TURBT後に尿道狭窄症が起きると何が困るのか?
実際にTURBTを受けた患者さんのうち、どのくらいの方に尿道狭窄症が起こるのでしょうか。
古い報告では、TURBTを受けた男性患者さんの15%に尿道狭窄症が発生したとされています。近年の報告でも、12.3%という高い頻度で発症することが示されています。
狭窄が見つかった患者さんのうち、排尿困難などの自覚症状を訴えた方は3分の1にとどまり、残りの3分の2は、術後の定期的な膀胱鏡検査の際に内視鏡が入らないことで初めて発見されています。
手術そのもの以外にも、狭窄のリスクを高める要因が知られています。最も大きな要因は、がんの再発予防のために行われるBCG膀胱内注入療法です。このほか、膀胱鏡検査の回数、前立腺肥大症の手術の既往、腫瘍のサイズが3cmを超えることも、尿道狭窄症の発症リスクを高めると言われています。
膀胱がんの患者さんに尿道狭窄症が起こってしまうと、排尿困難などの自覚症状以外にも、膀胱がんの治療を継続していく上で深刻な問題が生じます。
筋層非浸潤性膀胱がんは再発しやすいがんであり、術後1年以内に15〜61%、5年以内には31〜78%もの方に再発が見られます。そのため、定期的な膀胱鏡検査による経過観察が欠かせません。しかし、尿道が狭くなってしまうと、内視鏡検査そのものができなくなってしまいます。
再発が確認された場合も、狭窄によって内視鏡が入らなければ、TURBTによる切除ができなくなってしまいます。また、再発予防のためのBCGなどの膀胱内注入療法も、カテーテルが通らなければ行うことができません。
まとめ
今回は、膀胱がんという病気の基礎知識と、その標準的な治療であるTURBTについて、そして、TURBTが前立腺肥大症の手術と同じ器械を使うがゆえに、尿道狭窄症を続発するリスクを抱えていることについて解説しました。
尿道狭窄症は、単に排尿困難を引き起こすだけでなく、膀胱がんの経過観察や再治療そのものを困難にしてしまう見過ごすことのできない合併症です。
次回は、こうした尿道狭窄症が実際に起きた場合にどのような対応をするべきか、という専門家の間でもコンセンサスが定まっていない難しい問題について、掘り下げていきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
防衛医科大学校病院 外傷・熱傷・事態対処医療センター 再建部門 教授
堀口 明男
▼尿道狭窄症に関するより詳細な情報はこちらをご参照ください
https://plaza.umin.ac.jp/strictureurethra/
▼尿道狭窄症の治療はこちらをご参照ください
https://plaza.umin.ac.jp/strictureurethra/about/treatment/
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