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刑務所の中|日々の生活

noteのダッシュボードを確認していたところ、最もビューを集めていたのが「刑務所の中」シリーズの記事でした。読んでくださった皆さんの関心に応えるべく、今回は刑務所における日々の暮らしにフォーカスを当ててみます。
5分ほどの暇つぶしに、ぜひお楽しみください。

以前の記事はこちら▼
https://note.com/bugneon/n/nf12388e9057f

私は2010年頃、約2年間にわたって関東圏にある刑務所に服役していました。
そこには明確な規律と、絶対的な不自由がありました。24時間体制の監視のもと、発言も行動も厳しく制限された世界です。
刑務所の中での時間は、大きく分けて「工場での懲役作業」と「自室での滞在」の二つで占められます。私は独居房(一人部屋)での生活だったので、今回は独居パターンをお伝えします。なお、配属される工場によっては雑居房(集団部屋)になる場合もあります。

■7:00 起床

刑務所の朝は早い。
午前7時、部屋の天井に備え付けられたスピーカーから音楽が鳴り響きます。これが起床の合図です。
およそ3分間。音楽が鳴り終わる頃には完全に目を覚まし、寝具を畳みます。
この畳み方にも細かい指示があります。角をきっちり合わせ、平らになるように。重ねる順番も決まっていて、下から敷布団・掛け布団・毛布・枕の順です。
寝具を畳み終えたら、ドアに向かって正座で待機。

刑務官が順番に見回ってきてドアを開錠し、「番号」と呼びかけてきます。そこで「1234番!おはようございます!」と大きな声で応答する。これが朝の点呼です。

ドアが閉められる前に箒とちり取りを渡されます。毎日の掃除を怠ると部屋の隅にほこりが溜まり、定期的に行われる房点検で注意を受けます。掃除が不十分だからといって懲役期間が延びるという話は聞いたことがありませんが、自分が毎日生活する空間です。皆、黙々と掃除をして清潔さを保っていました。

■7:20 朝食

房には各部屋に小窓が備え付けられています。出入りのドアの横についていることが多く、配食や手紙の受け渡しはすべてこの小窓越しに行います。
朝食のメニューは主食・副食・汁物。端的に言えば、麦飯と魚と味噌汁です。たまに納豆が出ることもありますが、基本は栄養管理に基づいた質素な食事と言えます。
刑務所の食器はすべてプラスチック製です。陶器を使えば、それを割って自分や他人を傷つける可能性があるためです。

食事の姿勢はあぐらでも正座でも構いません。ただし、寝転がったり壁にもたれたりすれば即座に指導が入ります。立膝くらいならスルーされることもあるかもしれませんが……まあ、行儀は悪いですけどね。

■8:00 工場へ出房

朝食と洗顔を終えると、いよいよ工場へ向かいます。
「第●●工場~出房準備!」
刑務官の声が独居房に鳴り響き、一斉に鍵が開けられます。受刑者たちは扉の手前で「気を付け」の体勢で待機です。

たまに勝手に出てしまう新人がいますが、「まだ出るな!」と語調荒く指導されます。一度やらかすと、その恥ずかしさで「次は絶対に指示があるまで動かない」と心に刻みます。
「出房!」の掛け声と同時に「1234番!出ます!」と声を上げ、廊下へ出ます。
一度に出房するのは同じ工場の30〜40人ほど。整列後、行進して工場へ向かいます。移動中も前後左右に刑務官が帯同しており、よそ見や会話に目を光らせています。

3〜5分ほど歩いたところに工場があります。中に入るとまず着替えです。ロッカーのようなものはなく、4メートルほどの物干し竿に無数のハンガーがかけられており、自分の作業着を探して着替えます。

作業着は緑色を基調としたジャケットと長ズボン。ボタンはプラスチック製で金具はなく、ウェストは紐で調整する仕様です。浅めの帽子を被ったら準備完了です。

■8:15 作業開始

工場内では、各自の適性に合った作業が割り振られます。
ざっくり言うと 普通に作業ができる人か、そうでないか。
前者は自分のやるべきことを理解して頭を使いながら作業に取り組みます。後者は言うまでもなく、単純作業の繰り返しです。
私がいた工場では、作業がきれいに二分されていました。入口から入って左側の二列では神社に卸す破魔矢を製作しており、右側の二列では高島屋の紙袋に折り目をつける作業をしていました。
新人はまず高島屋班に配属されますが、1ヶ月もすれば適性が見えてきます。問題がなければ破魔矢班へ異動です。

作業中はもちろん私語厳禁。トイレに行きたい場合も勝手に席を立つことはできず、手を上げて刑務官に許可をもらってから「用便願います!」と申し出なければなりません。許可が下りたら速やかに移動し、終わったら即座に席に戻る。それ以外の時間は、ただひたすらに無言で作業を続けます。

破魔矢の製作には、班ごとの役割分担があります。
最初の工程は、軸となる円筒型の棒を磨く作業です。目の細かい紙やすりを使って表面を滑らかにし、指先で引っかかりがないかを確認します。慣れてくると、目で見るよりも指先の感触の方がよくわかる。気分はすっかり下町の職人です。

次の工程では、やすりで角を取った棒にボンドで羽を接着します。対になる羽を選別し、ボンドは決してはみ出さないように、きれいな直線を引く必要があります。
ミリ単位の調整が求められるシビアな作業で、出来が悪ければ納品できません。最初は一本仕上げるのに5分ほどかかりますが、慣れると1分程度で完了します。
急いで作ったところで何かが変わるわけでもないので、ほとんどの人は同じリズムで淡々と作り続けます。

最後の工程は仕上げです。羽がついた破魔矢に紅白の紙を巻いたり、鈴や札を紐で括りつけたりして完成させます。製品が揃ったら保管箱に収め、最終的に検品を行います。

■ 12:00 昼食

昼食は工場内の食堂でとります。班ごとに席が決められており、全員が揃ったところで食事開始です。
食事中の私語は禁止ですが、「調味料を取ってください」程度の一言は許されます。
メニューは麦飯・副食・汁物が基本ですが、カレーや麺類が出ることも稀にあります。献立は1ヶ月単位で事前公開されているため、受刑者たちは「〇日の食事が楽しみだ」などと話しながらカレンダーを眺めています。

食後は午後の作業が始まるまで余暇時間となります。
テーブルで談笑したり、食堂の本棚から本を手に取ったりできます。気に入った本は借りて自室に持ち帰ることも可能です。刑務所内で人気の書籍は「鬼平犯科帳」や「剣客商売」のような時代小説が定番でした。
余暇時間は、気の合うグループ同士で集まって話に花を咲かせることが多いです。2〜3人の小さなグループから10人規模のものまで、実に多様です。話題は食事のこと、自分が犯した罪のこと、出所後の生活、あるいは工場内の誰かへの不満まで、内容はさまざまです。

■ 13:00 午後の作業開始

昼食後は再び指定の席につき、午前と同様に作業を再開します。
運動のある日は、工場の全員で隣接する中庭へ出ることができます。器具があるわけではないので、各自で筋トレや屈伸をして気分転換に充てます。この時間は会話が許されているため、昼休み同様にグループが固まって談笑する姿があちこちで見られます。

作業終了の10分ほど前になると刑務官から指示が入り、工場内の清掃を行います。班ごとに作業台を磨き、床を掃いて、整列して帰房となります。

■ 16:30 帰房

整列・行進をして自分の部屋へ戻ります。出房時と同様、部屋の前に着いても勝手には入らず、合図があるまで待機です。
刑務官の指示が出たら「1234番!入ります!」と宣言し、サンダルを揃えて入室します。
季節によって入浴の頻度は変わります。夏は週5回、冬は週3回ほど、帰房後に入浴時間が設けられます。タオルと石鹸・着替えを持ち、工場内の全員で浴場へ。もちろんここでも整列・行進は必須です。

浴場には長さ15メートルほどの浴槽が2つあり、それを囲う形で蛇口とシャワーが40個ほど並んでいます。まず指定された番号の蛇口へ向かい、持参した石鹸とタオルで丁寧に身体を洗います。夏場は特に念入りに洗っている受刑者が多かった印象です。
身体を洗い終えたら浴槽へ入れますが、お湯は他工場の受刑者と共有です。垢や毛が浮いていることも珍しくなく、衛生的とは言えません。一番風呂という幸運でも掴まない限り、ゆっくり浸かっている人はほとんどいませんでした。

入浴から戻ると、そこからは自由な時間です。手紙を書いたり、本を読んだり、日記をつけたり。それぞれの方法で、束の間の自分時間を過ごします。
ちなみに独居房は三畳ほどの空間で、トイレも同じ居室内にあります。ドアを開けて左側に机、その奥に洗面所。右側には畳んだ寝具類があり、その奥に衣服を入れる小さな木箱、その上にテレビ。そして部屋の一番奥にトイレ、という構造です。

■ 18:00 夕食

受刑者にとって、一日最後の楽しみと言っても過言ではない時間です。
質素な食事であることに変わりはありませんが、「食」を心待ちにしている人は多いでしょう。メニューは麦飯・汁物に主菜・副菜というラインナップです。
稀にハンバーグやチキンステーキといった、わりとしっかりした肉料理が出ることもあります。これが刑務所ディナーの、ささやかな楽しみの一つです。
独居の場合、朝と夕の食事は一人です。話し相手もなく、白い壁に向かって黙々と箸を動かす。刑務官側から見ると、もしかすると奇妙な光景に映っているかもしれません。
食事が終わったら小窓に食器を収め、回収を待ちます。この片付けも受刑者が担いますが、担当するのは日頃の態度が良好な「優良受刑者」に限られます。

■19:00 就寝準備

19時になると布団を敷くことが許されます。
そのまま眠ってもいいのですが、19時から21時はテレビを見ることができます。ほとんどの人は布団の上に座るか寝転がりながら画面を眺めています。

放映されるのは事前に録画されたもので、リアルタイムから1〜2週間ほどのタイムラグがあります。私がいた刑務所では2チャンネルから選べて、大体一方が連続ドラマ、もう一方がバラエティや教養系の番組でした。
週に一度は音楽番組も放映されていました。私がいた頃は、少女時代の「Gee」が流行っていました。あのルックスで、美脚で、統率されたダンス。多くの受刑者を魅了していたと記憶しています。
数ヶ月・数年にわたって異性との交流が断絶されている受刑者にとって、スクリーンの中で踊る少女時代は、まさに異国からやってきた偶像のような存在でした。

■ 21:00 消灯

長くて短い、刑務所の一日が終わります。
21時になると自動的にテレビが消え、これまで微かに音があった独居の空間が、急にしんと静まり返ります。

そして天井のスピーカーから、一日を締めくくる音楽が流れ出します。
私がいた刑務所では、坂本龍一さんの「energy flow」が使われていました。
原曲をご存知の方も多いと思います。ただ、灯りの落ちた刑務所で天井を見上げながら聞くあの曲は、言葉では伝えきれない何かがある。落ち着いたピアノの単音から始まり、静かな寂寥感が全身を包み込む。こんな場所に来てしまった人生への後悔と、被害者の方への反省が、自然と胸に込み上げてくるのです。
この曲を生み出した作曲家と、一日の終わりにこれを選んだ法務省の選曲センスに、ただ脱帽するばかりです。

■ まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は刑務所生活の一日を切り取ってお届けしました。
この繰り返しが積み重なってひと月のカレンダーを埋め、やがて釈放の日へと近づいていく。それが刑務所における時間の流れです。
一日を通してみると、時間の半分ほどは工場での懲役作業に費やされ、残りの時間で自らの犯した罪と静かに向き合います。
懲役に行っていたのは、もう15年ほど前のことです。それでも当時のことを思い起こすと、まるで昨日の出来事のように、記憶が鮮明に蘇ってきます。
今の自分があるのも、この刑務所時代に体験した「孤独の極致」を味わった経験があるからのように思えてなりません。


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