カモシカvsシカ PART3カモシカとシカが出会ったとき
さて、PART1・2とカモシカとシカの違いや、カモシカはシカが増えて困っているという話をお聞きしました。
では、実際に両者が出会ったとき、そこにはどんな状況が生まれるのでしょう? 直接対決はあるのでしょうか?
フィールドで長い時間を過ごす髙田先生は、この場面にも遭遇しています。ということで、最終回となる今回はカモシカとシカが出会った話です。
須藤「髙田先生は行動観察を続ける中で、カモシカが実際にシカと出会ったときにどんな反応をするのかも調べていますね」
髙田「はい。この研究も浅間山の高山域(カモシカ平)が舞台で、8年間で合計64例のカモシカとシカが出会った状況を観察しています。ほとんどの場合、カモシカが気にしてシカのほうを見る一方で、シカは基本的にカモシカを無視します。どちらかが攻撃して追い出すようなことはほぼ起きないで、カモシカもただただ警戒している感じです」
ケース1 ベジータvs シカ
須藤「カモシカとシカが出会った場面はいろいろ観察されてきたと思いますけど、印象的だった事例はありますか? 研究のプレスリリースでも紹介されていたこの写真、カモシカとシカが相対してますが、これもまさにその場面ですね」

髙田「そうですね。このときは個体識別しているベジータというメスのカモシカがオスジカと対峙しているんですが、写真のようにシカがカモシカを眺めてるのはほんの一瞬で、この後はスタスタ普通に歩いていきました。その間、ベジータはずっと警戒しながら見送っていました」
須藤「某漫画の名シーンみたいだなとか思って見ていましたけど、ベジータのほうが熱い視線を送ってるけど、カカロッ…じゃなかった、シカは相手にしていないのですね」
髙田「ベジータには興味なさそうでしたね。ちなみにカモシカのベジータは、カモシカ同士の喧嘩でも弱いです(笑)」
須藤「弱いんだ、ベジータ。このときは、「お前がナンバーワンだ」とか思ってたりするんでしょうかね」
髙田「どうでしょう(笑)」

ケース2 やってやるぞ!と意気込むオオクボ
須藤「ほかに印象に残っている場面はありますか?」
髙田「稀ではありますが、やっぱりカモシカがシカに突っ込んでいくときが面白いですね。行く前もカモシカは自分のことを奮い立たせてるように見えるんですよね。やってやるぞ!と言わんばかりというか……。
カモシカ平にオオクボという名前をつけたカモシカがいるのですが、ある日、オオクボがメスのシカが2頭いるところに出くわしたことがありました。そのときにオオクボは、ちょっと小走りでシカのほうに向かったのですが、シカはオオクボに気づきながらも、そんなに気にしないで採食していました」
須藤「そのあとはどうなったのでしょうか? 激しくぶつかり合ったりとか…?」
髙田「それが、それからオオクボはちょっと小走りで接近したものの、シカは1メートルだけ横に避けて終わり。そのまま何事もなかったように採食し始めました。シカはまったく動じない。オオクボもオオクボで、イキり立って行った割には、ちょっと小走りでシカの横を通り過ぎるだけなんですよね。見ている側からすると、もうちょっと攻撃しろよ!と思うんですけど、やらないんですよね〜(笑)」
須藤「実際に、体当たりとかはしないのですね」
髙田「まったくしません。体の接触は一度も観察してないですね。カモシカが走ってと言っても、本気じゃない感じで、毎回、結末は結構地味。カモシカはせいぜい小走りで接近するだけで、シカが避けてそのまま立ち去るみたいなことしか起きないですね」
須藤「イキってるけど小物なヤンキーみたいな感じなんですね」
髙田「そうかもしれない(笑)」

須藤「カモシカに比べて、シカのほうが体はちょっと大きいと思いますが、それでもカモシカは突っ込んでいくものなのですね。それも面白いです」
髙田「カモシカは、オスもメスも大きくても大体50キログラムにしかならない。平均的には40〜45キログラムで、一方のシカは浅間山だとメスでも60〜70キログラム、オスなら100キログラム以上あるので、倍くらいの体格差があります。研究的な観点から言うと、体サイズが大きい動物のほうが強くて、小さいほうが逃げることが基本と言われていますが、今回のカモシカとシカのケースは例外的なパターンと言えますね」
髙田「研究の結論としては、結局シカが強いけど、単独で体の小さいカモシカが攻撃する頻度が高いというちょっと変というか、今まであまりわかってなかったところがわかったという感じです」
カモシカ平の異変とカモシカの未来
須藤「前回のお話では、カモシカはシカがいる環境でストレスを感じているということでしたが、確かに、実際に出会ったときの行動を見てもカモシカのほうがソワソワしていてストレスを感じていそうですね。今後の浅間山ではどんな調査を行うのでしょう?」
髙田「最近はこのカモシカの反応も変化してきています。というのも、論文を書いた頃と比べてかなりシカの個体数が多くなっていて、カモシカもシカに慣れてきているんです」
須藤「そうなんですね」
髙田「以前に比べたら、カモシカはまったく警戒しなくなっていますね。ほぼ毎日シカに会うので、いちいち警戒しないんです。完全に慣れてる。今後は、その影響を昔と今のデータで比較してみたいと考えています」
須藤「かなりシカが増えてきてるんですね」(ニュースでもシカ増加が取り上げられている、というようなテキストにしては?)
髙田「超増えてます。昔と違ってカモシカよりもシカのほうが多いくらいです」
須藤「シカが増えた影響でカモシカが減ってるようなことが起きてるんでしょうか?」
髙田「おそらくはそうだと思います。景色もかなり変わってきています。昔はなかったのに今はシカ道だらけで土が露出しているところがいっぱいあり、いろいろな花が咲いていたお花畑もなくなって、岩場の崖のところにだけちょぼちょぼ咲いているだけ。カモシカからしたら餌の条件がガラッと変わってしまい、繁殖成功率や出産率が下がって個体数密度も下がっていくのだと思います」
須藤「今後、長期的に見ていけば、シカが増加して環境が変わっていく中で、カモシカにどのような影響が出るのか? カモシカとシカの種間関係が見られそうではありますね」
髙田「まだわかりませんが、データを見ている限り、シカが増えた影響でカモシカが減ってという傾向が出そうではあります。そのうち、南アルプスのようにお花畑がなくなり、山全体が裸地化していくようなことが起きているように感じます」
須藤「結構深刻ですね」
髙田「状況は厳しいです。でも、浅間山からカモシカが完全にいなくなることはないと思います。最近、カモシカは崖にへばりつくように行動が変わっていて、シカたちが入ってこれない急峻な場所も結構あるので、彼らはそういうところで生き残っていくようになるのではないかと思います」
カモシカとシカの直接対決は、案外味気ないものでしたが、なんとなく両者の種としての個性みたいなものも垣間見え、非常に面白いお話でした。また、シカの増加の凄まじさには驚かされます。今後の研究にも注目したいと思います。
髙田先生は、浅間山をはじめカモシカやシカの研究を続けています。
今後の発見を楽しみに待ちたいです。髙田先生とカモシカの冒険はこれからも続きます。
髙田隼人先生 プロフィール
東京農工大学 農学部附属野生動物管理教育研究センター 特任准教授。山梨県富士山科学研究所研究員を経て2022年より現職。専門は行動生態学。ニホンカモシカを中心に、ニホンジカやコウモリ類、食肉類など幅広く野生哺乳類を研究対象とする。研究手法としては、フィールドで対象動物を直接観察することにこだわりをもつ。
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